2022/09/24(土) - 22:11
サプライズアタックで新世界女王に輝いたのは、3日前に肘骨折したばかりのアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)だった。自身2度目、個人TTも含めれば4度目の世界選手権制覇。與那嶺恵理は29位で過酷なサバイバルレースを終えた。
ウロンゴン市街地から35kmほど北にあるヘレンズバラを出発し、内陸のマウント・ケイラ(距離8.7km/平均5%/最大勾配15%)をクリアし、ウロンゴン市街地に設定された17.1kmコースを6周する総距離164.3kmの世界選手権女子エリート+U23レース。晴れと曇り、小雨が目まぐるしく入れ替わるコンディションのもと、與那嶺恵理や、3日前の落車で負った肘骨折をおして出場したアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)を含む38ヶ国/129名の選手たちがスタートを切った。
切り立ったタスマン海岸線沿いに南下する序盤区間で積極的にアタックを繰り返したのはフランスだった。アタックと吸収の末、来季FDJ入りが決まっているグラディス・フェルフルスト(フランス)が独走に持ち込み、バラバラと追走したグループは全て集団に飲み込まれる。一時1分半のリードを稼いだフェルフルストだったがしかし、40km地点で頂上を迎えるマウント・ケイラ(距離8.7km/平均5%/最大勾配15%)頂上通過後にメイン集団に揉み込まれた。
やはりフランスがコントロールを継続するメイン集団からは、やがて3名が飛び出しレースは沈静化する。最大1分半差で逃げたのは午前中に女子ジュニア世界王者に輝いたゾーイ・バックステッド(イギリス)の姉エリノアとジュリー・ファンデヴェルデ(ベルギー)、そしてカロリーネ・アンデルッソン(スウェーデン)という、全員が2000年代生まれの若い逃げだった。
しかし3名の逃げは、強豪国が目を光らせるメイン集団を引き離す、あるいは勝負を左右する展開には繋がらない。落ち着いて走るメイン集団内では登りで優勝候補の一人であるロッタ・コペッキー(ベルギー)が落車したものの、大事には至らずすぐ集団復帰している。
フランスがオード・ビアニックを単独追走に回したため、集団コントロールは最大人数8名を送り込んだイタリアに代わる。牽引役を担ったのはヴィットリア・グアジーニやエレーナ・チェッキーニ。昨年覇者エリーザ・バルサモとエリーザ・ロンゴボルギーニを抱える"アッズーリ(イタリア代表チーム)"がプロトン先頭を固めた一方、新型コロナウイルス陽性でデミ・フォレリングが未出走に、そして骨折したまま走るファンフルーテンなど、不安材料を抱えるオランダは集団内で息を潜めた。
フィニッシュまで45kmを残して逃げていたメンバーが全て捕まり、イタリアのコントロールを突き崩すべく開催国オーストラリアが動き始めた。2018年大会で2位に入ったアマンダ・スプラットのアタックをきっかけに波状攻撃を展開し、普段キャニオン・スラムに所属するサラ・ロイの独走に繋げる。約10km弱を逃げたロイはイタリアチームの脚を削り、吸収後にプロトンから遅れていった。
晴れと雨が入り混じり、ウロンゴンの周回コースにアルカンシエル(虹)がかかる。イタリアがメイン集団を縦に引き伸ばした状態で残り2周回の登坂区間に突入すると、距離1.1km/平均勾配7.7%(最大14%)を誇る「マウント・プレサント」でカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)が攻撃を仕掛けた。
いよいよ始まった優勝候補たちのアタック合戦。生粋のアタッカーとして知られるニエウィアドマをフォローしたのはロンゴボルギーニやセシリーウトラップ・ルドヴィグ(デンマーク)、アシュリー・モールマン(南アフリカ)、リアヌ・リッパート(ドイツ)、ニアム・フィッシャーブラック(ニュージーランド)といった登り系選手ばかり。段階的に登るマウント・プレサント最終区間で加速したリッパートがロンゴボルギーニ以外を引きちぎったが、追走グループを組んだモールマンやルドヴィグ、ニエウィアドマは5kmほどの追走によって前2人を捉えた。
5名が先を急ぐ一方、オランダ勢は痛みでダンシングできないファンフルーテンとTT2連覇のエレン・ファンダイク、そして登りで遅れたマリアンヌ・フォスを22名の追走グループに残し、同じくメンバーを先頭に乗せられなかったオーストラリアと共にコントロールを開始。2連覇を目指したバルサモや、中盤まで積極的に位置取りしていた與那嶺はさらに後方に取り残されてしまう。
先頭5名と22名の追走グループの差は、雨上がりのホームストレートに最終周回突入を意味する鐘が鳴り響いた時点(17.1km)で23秒。先頭5名の逃げ切りも十分考えられる展開だったが、随一のスピードを誇るファンダイクが牽引を開始したことで、次第にタイム差は減少。スプリント力のあるメンバーが残る追走グループはフィニッシュまで13kmを残して逃げた5名を飲み込んだ。
一瞬のお見合いを突いたのが個人TT3位銅メダルのマーレン・ローセル(スイス)だった。個人TTのリベンジに燃えるローセルは一気に15秒リードを稼ぎ、逃げ切りチャンスを得て最後の登坂区間に突入。強豪国がアシスト選手をほぼ使い果たす状況をうまく利用したかったローセルだが、やはりリッパートがアタックして絞り込む追走集団に捕まってしまう。登坂中腹で前の周回で逃げた5名が再び抜け出した。
2度目の正直で逃げ切りを目指す5名だったが、やはり平坦区間に入るとローテーションは回らない。ローセルやファンフルーテン、コペッキー、シルヴィア・ペルシコ(イタリア)を含む8名の追走グループは牽制を経ながらラスト1km地点で合流。このままゴール勝負になだれ込むかと思われたが、スプリンター勢がタイミングを待ち、クライマー勢が次の一手を思案する一瞬の牽制状態を突いて、ファンフルーテンがコース右側から強烈なアタックを仕掛けた。
停止状態に陥った12名を一気に引き離してファンフルーテンが独走。追走グループは牽制で出足が遅れ、ようやく残り300m地点から追走するも時すでに遅し。コペッキーがハンドルを叩く目前で、フォームの崩れたダンシングを続けたファンフルーテンが勝利した。
フォレリング不在で、フォスも登りで脱落。絶体絶命の窮地に陥ったオランダを、肘骨折でライバルからのマークが外れていたファンフルーテンが救った。39歳の大ベテランにとっては圧巻の105km独走を成功させた2019年大会に続く2勝目、個人タイムトライアル(2017、2018)も含めれば合計4度目の世界選手権制覇だ。
レース前インタビューで「逆境でモチベーションが上がるタイプだけど、ダンシングやスプリントができない状態なのでチームメイトを全力でサポートしたい」と答えていたが、蓋を開けてみればまさかの優勝。オランダにアルカンシエルを取り戻したファンフルーテンは「誰かに”これが嘘だよ”と言われたら信じてしまうくらい。最後はマリアンヌ(フォス)の姿を探していたのに、気づいたら先頭集団にいた。彼女の合流は無理だと判断したけれど、私も肘の影響でスプリントできない。だから後ろからアタックするタイミングを待っていた。(アタックした後も)後ろからスプリントで追い抜かれると思ったが、彼女たちが私を捉えることはなかった」と最終局面を振り返る。
ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、そしてブエルタ・ア・エスパーニャを全て総合優勝し、さらに世界選手権までも手中に収めた女子選手は史上初。39歳と351日での世界選制覇は女子ロード史上最高齢で、2019年に自身が打ち立てた36歳355日を大幅に更新している。
「肘を負傷する前まではマウント・ケイラ(残り131km地点)でアタックするつもりだった。でも怪我で作戦変更を強いられ、マリアンヌがエースで、私はアシストの1人にしかすぎなかった。それが今は世界王者。全く信じられない」。
来季の現役ラストイヤーをアルカンシエルで走ることとなったファンフルーテン。2位がコペッキーで、3位はペルシコと2人がロード世界選エリートカテゴリーで初のメダルを獲得。積極的なアタックでレースを動かしたリッパートは4位と表彰台を逃す結果に。21位のフィッシャーブラックがU23部門で優勝。與那嶺は4分50秒遅れでフィニッシュに辿り着き、全体の29位(自身最高位は2020年の21位)で過酷なレースを終えた。
選手コメントは別に紹介します。
ウロンゴン市街地から35kmほど北にあるヘレンズバラを出発し、内陸のマウント・ケイラ(距離8.7km/平均5%/最大勾配15%)をクリアし、ウロンゴン市街地に設定された17.1kmコースを6周する総距離164.3kmの世界選手権女子エリート+U23レース。晴れと曇り、小雨が目まぐるしく入れ替わるコンディションのもと、與那嶺恵理や、3日前の落車で負った肘骨折をおして出場したアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)を含む38ヶ国/129名の選手たちがスタートを切った。
切り立ったタスマン海岸線沿いに南下する序盤区間で積極的にアタックを繰り返したのはフランスだった。アタックと吸収の末、来季FDJ入りが決まっているグラディス・フェルフルスト(フランス)が独走に持ち込み、バラバラと追走したグループは全て集団に飲み込まれる。一時1分半のリードを稼いだフェルフルストだったがしかし、40km地点で頂上を迎えるマウント・ケイラ(距離8.7km/平均5%/最大勾配15%)頂上通過後にメイン集団に揉み込まれた。
やはりフランスがコントロールを継続するメイン集団からは、やがて3名が飛び出しレースは沈静化する。最大1分半差で逃げたのは午前中に女子ジュニア世界王者に輝いたゾーイ・バックステッド(イギリス)の姉エリノアとジュリー・ファンデヴェルデ(ベルギー)、そしてカロリーネ・アンデルッソン(スウェーデン)という、全員が2000年代生まれの若い逃げだった。
しかし3名の逃げは、強豪国が目を光らせるメイン集団を引き離す、あるいは勝負を左右する展開には繋がらない。落ち着いて走るメイン集団内では登りで優勝候補の一人であるロッタ・コペッキー(ベルギー)が落車したものの、大事には至らずすぐ集団復帰している。
フランスがオード・ビアニックを単独追走に回したため、集団コントロールは最大人数8名を送り込んだイタリアに代わる。牽引役を担ったのはヴィットリア・グアジーニやエレーナ・チェッキーニ。昨年覇者エリーザ・バルサモとエリーザ・ロンゴボルギーニを抱える"アッズーリ(イタリア代表チーム)"がプロトン先頭を固めた一方、新型コロナウイルス陽性でデミ・フォレリングが未出走に、そして骨折したまま走るファンフルーテンなど、不安材料を抱えるオランダは集団内で息を潜めた。
フィニッシュまで45kmを残して逃げていたメンバーが全て捕まり、イタリアのコントロールを突き崩すべく開催国オーストラリアが動き始めた。2018年大会で2位に入ったアマンダ・スプラットのアタックをきっかけに波状攻撃を展開し、普段キャニオン・スラムに所属するサラ・ロイの独走に繋げる。約10km弱を逃げたロイはイタリアチームの脚を削り、吸収後にプロトンから遅れていった。
晴れと雨が入り混じり、ウロンゴンの周回コースにアルカンシエル(虹)がかかる。イタリアがメイン集団を縦に引き伸ばした状態で残り2周回の登坂区間に突入すると、距離1.1km/平均勾配7.7%(最大14%)を誇る「マウント・プレサント」でカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)が攻撃を仕掛けた。
いよいよ始まった優勝候補たちのアタック合戦。生粋のアタッカーとして知られるニエウィアドマをフォローしたのはロンゴボルギーニやセシリーウトラップ・ルドヴィグ(デンマーク)、アシュリー・モールマン(南アフリカ)、リアヌ・リッパート(ドイツ)、ニアム・フィッシャーブラック(ニュージーランド)といった登り系選手ばかり。段階的に登るマウント・プレサント最終区間で加速したリッパートがロンゴボルギーニ以外を引きちぎったが、追走グループを組んだモールマンやルドヴィグ、ニエウィアドマは5kmほどの追走によって前2人を捉えた。
5名が先を急ぐ一方、オランダ勢は痛みでダンシングできないファンフルーテンとTT2連覇のエレン・ファンダイク、そして登りで遅れたマリアンヌ・フォスを22名の追走グループに残し、同じくメンバーを先頭に乗せられなかったオーストラリアと共にコントロールを開始。2連覇を目指したバルサモや、中盤まで積極的に位置取りしていた與那嶺はさらに後方に取り残されてしまう。
先頭5名と22名の追走グループの差は、雨上がりのホームストレートに最終周回突入を意味する鐘が鳴り響いた時点(17.1km)で23秒。先頭5名の逃げ切りも十分考えられる展開だったが、随一のスピードを誇るファンダイクが牽引を開始したことで、次第にタイム差は減少。スプリント力のあるメンバーが残る追走グループはフィニッシュまで13kmを残して逃げた5名を飲み込んだ。
一瞬のお見合いを突いたのが個人TT3位銅メダルのマーレン・ローセル(スイス)だった。個人TTのリベンジに燃えるローセルは一気に15秒リードを稼ぎ、逃げ切りチャンスを得て最後の登坂区間に突入。強豪国がアシスト選手をほぼ使い果たす状況をうまく利用したかったローセルだが、やはりリッパートがアタックして絞り込む追走集団に捕まってしまう。登坂中腹で前の周回で逃げた5名が再び抜け出した。
2度目の正直で逃げ切りを目指す5名だったが、やはり平坦区間に入るとローテーションは回らない。ローセルやファンフルーテン、コペッキー、シルヴィア・ペルシコ(イタリア)を含む8名の追走グループは牽制を経ながらラスト1km地点で合流。このままゴール勝負になだれ込むかと思われたが、スプリンター勢がタイミングを待ち、クライマー勢が次の一手を思案する一瞬の牽制状態を突いて、ファンフルーテンがコース右側から強烈なアタックを仕掛けた。
停止状態に陥った12名を一気に引き離してファンフルーテンが独走。追走グループは牽制で出足が遅れ、ようやく残り300m地点から追走するも時すでに遅し。コペッキーがハンドルを叩く目前で、フォームの崩れたダンシングを続けたファンフルーテンが勝利した。
フォレリング不在で、フォスも登りで脱落。絶体絶命の窮地に陥ったオランダを、肘骨折でライバルからのマークが外れていたファンフルーテンが救った。39歳の大ベテランにとっては圧巻の105km独走を成功させた2019年大会に続く2勝目、個人タイムトライアル(2017、2018)も含めれば合計4度目の世界選手権制覇だ。
レース前インタビューで「逆境でモチベーションが上がるタイプだけど、ダンシングやスプリントができない状態なのでチームメイトを全力でサポートしたい」と答えていたが、蓋を開けてみればまさかの優勝。オランダにアルカンシエルを取り戻したファンフルーテンは「誰かに”これが嘘だよ”と言われたら信じてしまうくらい。最後はマリアンヌ(フォス)の姿を探していたのに、気づいたら先頭集団にいた。彼女の合流は無理だと判断したけれど、私も肘の影響でスプリントできない。だから後ろからアタックするタイミングを待っていた。(アタックした後も)後ろからスプリントで追い抜かれると思ったが、彼女たちが私を捉えることはなかった」と最終局面を振り返る。
ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、そしてブエルタ・ア・エスパーニャを全て総合優勝し、さらに世界選手権までも手中に収めた女子選手は史上初。39歳と351日での世界選制覇は女子ロード史上最高齢で、2019年に自身が打ち立てた36歳355日を大幅に更新している。
「肘を負傷する前まではマウント・ケイラ(残り131km地点)でアタックするつもりだった。でも怪我で作戦変更を強いられ、マリアンヌがエースで、私はアシストの1人にしかすぎなかった。それが今は世界王者。全く信じられない」。
来季の現役ラストイヤーをアルカンシエルで走ることとなったファンフルーテン。2位がコペッキーで、3位はペルシコと2人がロード世界選エリートカテゴリーで初のメダルを獲得。積極的なアタックでレースを動かしたリッパートは4位と表彰台を逃す結果に。21位のフィッシャーブラックがU23部門で優勝。與那嶺は4分50秒遅れでフィニッシュに辿り着き、全体の29位(自身最高位は2020年の21位)で過酷なレースを終えた。
選手コメントは別に紹介します。
ロード世界選手権2022女子エリートロードレース結果
1位 | アネミエク・ファンフルーテン(オランダ) | 4:24:25 |
2位 | ロッタ・コペッキー(ベルギー) | +0:01 |
3位 | シルヴィア・ペルシコ(イタリア) | |
4位 | リアヌ・リッパート(ドイツ) | |
5位 | セシリーウトラップ・ルドヴィグ(デンマーク) | |
6位 | アルレニス・シエラ(キューバ) | |
7位 | ジュリエット・ラブー(フランス) | |
8位 | カタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド) | |
9位 | エリーズ・シャベイ(スイス) | |
10位 | エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア) | |
29位 | 與那嶺恵理(日本) | +4:50 |
text:So Isobe
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