2022/06/13(月) - 20:30
まさにヒルクライムエリミネーション。並みいる強豪クライマーを一人、また一人と篩にかけ、最後に残った加藤大貴をも置き去りにした真鍋晃が第18回Mt.富士ヒルクライム王者の座を掴みとった。
日本最大のヒルクライムイベント、Mt.富士ヒルクライム。8000名に迫るサイクリストたちが富士山五合目を目指し、富士北麓公園へと集まった。
8000人規模の大会であるが、昨年感染症対策のために採用された前日下山荷物預け&ウェーブスタート方式は健在で、会場には各々のスタート時間の少し前に訪れれば良いため、数年前のように会場が人で埋め尽くされるようなことは無い。スタート待機時間が減るので、参加者にとっても有益な施策で、運営としてもピーク人数を減らすことが出来るのは省力化につながり、まさに一挙両得といったところだろう。
今大会では、過去の富士ヒルクライムでの登坂タイムや他の大会での戦歴を考慮して選ばれる「主催者選抜」クラスと同時に、全日本王者の全日本王者の草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)を始めとした国内プロ選手らがエキシビジョンとして出走する。
プロ選手とホビーレーサーの対決にも注目が集まるが、やはり最注目は主催者選抜クラスで誰が勝利するのか。UCIグランフォンドイベントのニセコクラシックと日程が重なりつつも、全国から強豪クライマーが集結。
乗鞍と並ぶタイトルとなったこのクラスだが、コースレコードを持つ池田隆人(Team ZWC)を筆頭に、昨年2位かつ、あざみライン日本人最速記録を持つ加藤大貴(COW GUMMA)、昨年3位の板子佑士ら100名がスタートラインに並ぶ。
3週前に行われた榛名山ヒルクライムでは加藤が池田に対し35秒差をつけており、ついに加藤が2年連続の2位に終止符を打つか。今シーズンからリオモベルマーレレーシングチームで走り、総合力を高めてきた池田がディフェンディングチャンピオンとしての意地を見せるか。はたまた、新たなヒーローが誕生するのか。
6時半。スタートライン最前列に並んだエキシビジョンの選手らと男子主催者選抜が同時にスタート。北麓公園から胎内交差点までのパレード区間を進み、料金所手前の計測開始地点からリアルスタートが切られた。
今年もファーストアタックは例年通り大野拓也(天照CST)……ではなく豊田勝徳(トレックミニバスレーシング)。計測ラインを越えたゼロkm地点でアタックを仕掛け、そこに古川優(神奈川大学)と、一時帰国中の中村龍太郎(チームコバリン)が続く。
しかし、池田が牽引する集団がほどなく吸収。カウンター気味に大野が仕掛け、これに池田が乗る動きを見せるも、加藤が集団を率いすぐに吸収。序盤から池田と加藤が積極的にペースを作ったため、ハイペースで集団が進んでいく。
リアルスタートから10分も経たないうちに集団は20名ほどに。ローテーションを回しつつ進んでいく集団から加藤がアタックすると玉村喬が反応。この逃げは池田が牽いて吸収するが、そのままペースを落とさず集団は一列棒状に。ここで先頭に出た真鍋晃(EMU SPEED CLUB)がじんわりとペースを上げ、更に集団は縮小。注目が集まったトマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)もここで遅れた。
二合目を通過したところで再び加藤がペースアップ。池田、板子、真鍋、そして久保田翔太郎(EMU SPEED CLUB)だけがこの動きに追従し、早くも勝負は5名に絞られた。そして三合目過ぎで久保田を切り離し4名に。
4名の中でも加藤と真鍋が先頭を引く割合が多く、池田と板子は厳しい表情。それを察してか第2関門の大沢駐車場の手前で加藤と真鍋が抜けだし2人のランデブーに。前回大会では池田との2人逃げに持ち込みつつ敗れた加藤。ディフェンディングチャンピオンを突き放し、雪辱を果たすかと思われたが、伏兵真鍋がその未来を打ち砕いた。
「12kmあたりで真鍋君が前に出たところで、2人旅に。そのまま回していこうかとなったんですが、17、8kmあたりで真鍋君がじわっと踏んで、それについていけず」と加藤。そのままじりじりとタイム差を開いた真鍋が独走に持ち込んだ。
「風向きが切り替わるタイミングでアタックしました。仕掛けるならここしかないと。ただ、一人になってからが一番キツかったですね」と後に振り返った真鍋だが、そのペースを落とすことなく、ラストの平坦区間もクリア。57分7秒という歴代2位のタイムで第18回Mt.富士ヒルクライムを制した。
真鍋は昨年大会で年代別4位に入った若手クライマー。EMU SPEED CLUBというズイフトチーム所属で出走したが、インドア専業というわけではなく、普段は実走とインドアトレーニングを50:50で行っているという。
「自分でも驚きました。本当に勝てると思っていなかったし、スタート前には想像もしていなかったんです。選抜クラスは初めてで、富士ヒルは全国の速い方々と一緒に走れる貴重な機会だと思っていました。5名に絞られて、加藤さんと2人になったあたりで、『もしかしていけるか?』と思ったぐらいです」と語る真鍋。
「今日は本当に調子が良く、最後の最後までアタックできました。ラストは向かい風で速度が乗らなかったのですが、タイムはほぼ予想通りです。今回は名前も知られていなかったので、ほぼノーマークで、それだけに動きやすかったのも大きかったと思います。でも、次のレースからはマーク覚悟で臨みます!」と新たなヒーローがレースを振り返った。
そして、2年連続で2位となった加藤。「また2位ですね。惜しいところまでいくのにあと一歩届かず。自分自身、前に出て集団を引っ張って走るのが自分のポリシーです。負けてもちろん悔しいのですが、自分の走りができたので仕方ない」とレースを振り返る。
昨年覇者である池田は板子とのスプリントを制して3位に。「今日は完全に出力負けでした。皆が強くて、また来年頑張りたいですね。今回は守りの走りをしてしまい、失敗した点も多かったので、自己採点は60~70点くらいですね。次は乗鞍ヒルクライム。もちろん今日参加した強豪選手もみんな出てくるのでそこでリベンジしたいです」と雪辱に燃える。
女子選抜は僅差のスプリントに テイヨウフウを0.007秒差で佐野歩が下す
男子選抜に続き、スタートを切った女子主催者選抜レース。昨年初開催され、2年目となる。昨年の主催者選抜優勝者である望月美和子(TEAM ORCA)を筆頭に、昨年の女子最速タイムを記録したテイヨウフウを含む8名が出走した。
男子選抜クラスから2分後にスタートした女子選抜クラス。例年はそれぞれがバラけて単独走になることが多いというが、今年は望月、テイ、佐野歩(Infinity Style)、宮下朋子(TWOCYCLE)の4名が抜け出し、集団のままレースを展開。
時折望月がペースを上げるも、最終的に集団は一つのままフィニッシュラインへ。先行したテイをフィニッシュライン直前で佐野が差し切り、女子主催者選抜の2代目女王に輝いた。
「6回目の富士ヒル。やっと勝てました」と自身最大、そして師匠と仰ぐ兼松大和と同じタイトルを手にした佐野。「いつもは望月さんがペースを上げるけれど、それだと自分がキツイので前に出て蓋をしたり。今日は一定ペースで上げ下げもなく4合目まではそんな感じで行きました。自分は脚が少し残っているけれど、周りの選手は息遣いとかでキツそうだなと思っていたんです。自分のローテが回ってきた時にわざとペースを上げたり、辛そうな息遣いでペースを落としてみたりとか、色々試しながら走りました」とレースを振り返る。
「ペースアップした時に後ろがしんどそうで。でも単独で逃げるだけの脚もなくキツかったのでスプリントに持ち込みたかった。私が抜け出したら望月さんがついてくると思ったので、ブラインドになる方からアタック。そこにテイさんがついてきたので、わざと先行させ、最後スプリントで差し込んだんです。
最後は本当にキツかったし、差し切れないかもしれないと思いましたが、諦めて負けた時はすごく後悔する。出し切って負けたなら仕方ない。そう思って、追いつかなくても追いついても最後は全力でもがいたことが勝ちに繋がったと思います。スプリント勝負なんてほとんど経験が無かったんですが、勝てて本当に嬉しいです」と、喜びを語った。
男女ともに新王者が誕生したMt.富士ヒルクライム2022。主催者選抜クラスが設立されて以降、年々その競技レベルと注目度は高まっている。今年は大きなヒルクライムレースも復活し、更にシーンは盛り上がっていくだろう。これからもストイックなクライマーたちの熱い戦いから目が離せなさそうだ。
text:Naoki Yasuoka
日本最大のヒルクライムイベント、Mt.富士ヒルクライム。8000名に迫るサイクリストたちが富士山五合目を目指し、富士北麓公園へと集まった。
8000人規模の大会であるが、昨年感染症対策のために採用された前日下山荷物預け&ウェーブスタート方式は健在で、会場には各々のスタート時間の少し前に訪れれば良いため、数年前のように会場が人で埋め尽くされるようなことは無い。スタート待機時間が減るので、参加者にとっても有益な施策で、運営としてもピーク人数を減らすことが出来るのは省力化につながり、まさに一挙両得といったところだろう。
今大会では、過去の富士ヒルクライムでの登坂タイムや他の大会での戦歴を考慮して選ばれる「主催者選抜」クラスと同時に、全日本王者の全日本王者の草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)を始めとした国内プロ選手らがエキシビジョンとして出走する。
プロ選手とホビーレーサーの対決にも注目が集まるが、やはり最注目は主催者選抜クラスで誰が勝利するのか。UCIグランフォンドイベントのニセコクラシックと日程が重なりつつも、全国から強豪クライマーが集結。
乗鞍と並ぶタイトルとなったこのクラスだが、コースレコードを持つ池田隆人(Team ZWC)を筆頭に、昨年2位かつ、あざみライン日本人最速記録を持つ加藤大貴(COW GUMMA)、昨年3位の板子佑士ら100名がスタートラインに並ぶ。
3週前に行われた榛名山ヒルクライムでは加藤が池田に対し35秒差をつけており、ついに加藤が2年連続の2位に終止符を打つか。今シーズンからリオモベルマーレレーシングチームで走り、総合力を高めてきた池田がディフェンディングチャンピオンとしての意地を見せるか。はたまた、新たなヒーローが誕生するのか。
6時半。スタートライン最前列に並んだエキシビジョンの選手らと男子主催者選抜が同時にスタート。北麓公園から胎内交差点までのパレード区間を進み、料金所手前の計測開始地点からリアルスタートが切られた。
今年もファーストアタックは例年通り大野拓也(天照CST)……ではなく豊田勝徳(トレックミニバスレーシング)。計測ラインを越えたゼロkm地点でアタックを仕掛け、そこに古川優(神奈川大学)と、一時帰国中の中村龍太郎(チームコバリン)が続く。
しかし、池田が牽引する集団がほどなく吸収。カウンター気味に大野が仕掛け、これに池田が乗る動きを見せるも、加藤が集団を率いすぐに吸収。序盤から池田と加藤が積極的にペースを作ったため、ハイペースで集団が進んでいく。
リアルスタートから10分も経たないうちに集団は20名ほどに。ローテーションを回しつつ進んでいく集団から加藤がアタックすると玉村喬が反応。この逃げは池田が牽いて吸収するが、そのままペースを落とさず集団は一列棒状に。ここで先頭に出た真鍋晃(EMU SPEED CLUB)がじんわりとペースを上げ、更に集団は縮小。注目が集まったトマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)もここで遅れた。
二合目を通過したところで再び加藤がペースアップ。池田、板子、真鍋、そして久保田翔太郎(EMU SPEED CLUB)だけがこの動きに追従し、早くも勝負は5名に絞られた。そして三合目過ぎで久保田を切り離し4名に。
4名の中でも加藤と真鍋が先頭を引く割合が多く、池田と板子は厳しい表情。それを察してか第2関門の大沢駐車場の手前で加藤と真鍋が抜けだし2人のランデブーに。前回大会では池田との2人逃げに持ち込みつつ敗れた加藤。ディフェンディングチャンピオンを突き放し、雪辱を果たすかと思われたが、伏兵真鍋がその未来を打ち砕いた。
「12kmあたりで真鍋君が前に出たところで、2人旅に。そのまま回していこうかとなったんですが、17、8kmあたりで真鍋君がじわっと踏んで、それについていけず」と加藤。そのままじりじりとタイム差を開いた真鍋が独走に持ち込んだ。
「風向きが切り替わるタイミングでアタックしました。仕掛けるならここしかないと。ただ、一人になってからが一番キツかったですね」と後に振り返った真鍋だが、そのペースを落とすことなく、ラストの平坦区間もクリア。57分7秒という歴代2位のタイムで第18回Mt.富士ヒルクライムを制した。
真鍋は昨年大会で年代別4位に入った若手クライマー。EMU SPEED CLUBというズイフトチーム所属で出走したが、インドア専業というわけではなく、普段は実走とインドアトレーニングを50:50で行っているという。
「自分でも驚きました。本当に勝てると思っていなかったし、スタート前には想像もしていなかったんです。選抜クラスは初めてで、富士ヒルは全国の速い方々と一緒に走れる貴重な機会だと思っていました。5名に絞られて、加藤さんと2人になったあたりで、『もしかしていけるか?』と思ったぐらいです」と語る真鍋。
「今日は本当に調子が良く、最後の最後までアタックできました。ラストは向かい風で速度が乗らなかったのですが、タイムはほぼ予想通りです。今回は名前も知られていなかったので、ほぼノーマークで、それだけに動きやすかったのも大きかったと思います。でも、次のレースからはマーク覚悟で臨みます!」と新たなヒーローがレースを振り返った。
そして、2年連続で2位となった加藤。「また2位ですね。惜しいところまでいくのにあと一歩届かず。自分自身、前に出て集団を引っ張って走るのが自分のポリシーです。負けてもちろん悔しいのですが、自分の走りができたので仕方ない」とレースを振り返る。
昨年覇者である池田は板子とのスプリントを制して3位に。「今日は完全に出力負けでした。皆が強くて、また来年頑張りたいですね。今回は守りの走りをしてしまい、失敗した点も多かったので、自己採点は60~70点くらいですね。次は乗鞍ヒルクライム。もちろん今日参加した強豪選手もみんな出てくるのでそこでリベンジしたいです」と雪辱に燃える。
女子選抜は僅差のスプリントに テイヨウフウを0.007秒差で佐野歩が下す
男子選抜に続き、スタートを切った女子主催者選抜レース。昨年初開催され、2年目となる。昨年の主催者選抜優勝者である望月美和子(TEAM ORCA)を筆頭に、昨年の女子最速タイムを記録したテイヨウフウを含む8名が出走した。
男子選抜クラスから2分後にスタートした女子選抜クラス。例年はそれぞれがバラけて単独走になることが多いというが、今年は望月、テイ、佐野歩(Infinity Style)、宮下朋子(TWOCYCLE)の4名が抜け出し、集団のままレースを展開。
時折望月がペースを上げるも、最終的に集団は一つのままフィニッシュラインへ。先行したテイをフィニッシュライン直前で佐野が差し切り、女子主催者選抜の2代目女王に輝いた。
「6回目の富士ヒル。やっと勝てました」と自身最大、そして師匠と仰ぐ兼松大和と同じタイトルを手にした佐野。「いつもは望月さんがペースを上げるけれど、それだと自分がキツイので前に出て蓋をしたり。今日は一定ペースで上げ下げもなく4合目まではそんな感じで行きました。自分は脚が少し残っているけれど、周りの選手は息遣いとかでキツそうだなと思っていたんです。自分のローテが回ってきた時にわざとペースを上げたり、辛そうな息遣いでペースを落としてみたりとか、色々試しながら走りました」とレースを振り返る。
「ペースアップした時に後ろがしんどそうで。でも単独で逃げるだけの脚もなくキツかったのでスプリントに持ち込みたかった。私が抜け出したら望月さんがついてくると思ったので、ブラインドになる方からアタック。そこにテイさんがついてきたので、わざと先行させ、最後スプリントで差し込んだんです。
最後は本当にキツかったし、差し切れないかもしれないと思いましたが、諦めて負けた時はすごく後悔する。出し切って負けたなら仕方ない。そう思って、追いつかなくても追いついても最後は全力でもがいたことが勝ちに繋がったと思います。スプリント勝負なんてほとんど経験が無かったんですが、勝てて本当に嬉しいです」と、喜びを語った。
男女ともに新王者が誕生したMt.富士ヒルクライム2022。主催者選抜クラスが設立されて以降、年々その競技レベルと注目度は高まっている。今年は大きなヒルクライムレースも復活し、更にシーンは盛り上がっていくだろう。これからもストイックなクライマーたちの熱い戦いから目が離せなさそうだ。
text:Naoki Yasuoka
第18回Mt.富士ヒルクライム 主催者選抜男子 リザルト
1位 | 真鍋晃(EMU SPEED CLUB) | 0:57:07 |
2位 | 加藤大貴 | 0:57:39 |
3位 | 池田隆人(TEAM ZWC) | 0:58:26 |
4位 | 板子佑士 | 0:58:07 |
5位 | 大島浩明(グランペール山岳大隊) | 0:58:12 |
6位 | 玉村喬 | 0:58:49 |
7位 | 久保田翔太郎(EMU SPEED CLUB) | 0:59:12 |
8位 | 山口瑛志(SUCC) | 0:59:52 |
9位 | 林直志(天照/EMU) | 0:59:53 |
10位 | 布留川恒太朗(天照c.s.t) | 1:00:04 |
第18回Mt.富士ヒルクライム 主催者選抜女子 リザルト
Amazon.co.jp