国内レースプレーバック第2回は、Jプロツアー全16戦。開幕から続いたマトリックスパワータグとチームブリヂストンサイクリングの争い、全日本選手権への布石となった愛三工業レーシングチームの連勝、全日本チャンプ入部正太朗が最終戦で見せた勝利までを振り返る。



10年ぶりの播磨中央公園、2年ぶりの有観客で開幕

Jプロツアー開幕戦の播磨中央公園 2年ぶりに観客が戻ってきたJプロツアー開幕戦の播磨中央公園 2年ぶりに観客が戻ってきた photo:Satoru Kato
2021年Jプロツアー開幕戦は、兵庫県の播磨中央公園でのクリテリウム。しかも、午前中に第1戦、午後に第2戦を行うダブルヘッダーだ。播磨中央公園でのJプロツアーは、2011年以来10年ぶり。コロナ禍は完全に収束していない状況ではあったが、2年ぶりに観客が見守る中でのレースが開催された。

開幕戦はフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)が優勝開幕戦はフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)が優勝 photo:Satoru Kato第2戦 終盤に独走して優勝した橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)第2戦 終盤に独走して優勝した橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato

開幕レースを制したのは、昨年のチャンピオンチーム・マトリックスパワータグのフランシスコ・マンセボ。その4時間後に行われた第2戦は、東京五輪代表の橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)が制した。マトリックスパワータグとチームブリヂストンサイクリングの争いはシーズン終盤まで続くことになり、2021年シーズンを暗示した結果となった。

大会名の通り、桜の咲く時季に開催された「広島さくらロードレース」大会名の通り、桜の咲く時季に開催された「広島さくらロードレース」 photo:Satoru Kato
第3戦 残り4km付近で勝負を決めたフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)第3戦 残り4km付近で勝負を決めたフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ) photo:Satoru Kato第4戦 大雨の中50kmを独走で逃げ切ったホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)が優勝第4戦 大雨の中50kmを独走で逃げ切ったホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)が優勝

第3戦、第4戦は、広島県中央森林公園での「広島さくらロードレース」。初日は桜の花が映える青空の下でのレース。フランシスコ・マンセボが終盤を独走し、今シーズン早くも2勝目を挙げた。翌日は一転して冷たい雨が激しく降り続く中でのレース。低体温症でリタイアする選手が出るほどの悪条件レースは、残り50kmを独走したホセ・ビセンテ・トリビオが制し、マトリックスパワータグが2連勝とした。

ランキング上位選手を前列にスタートラインに整列する選手たちランキング上位選手を前列にスタートラインに整列する選手たち photo:Nobumichi KOMORI
残り3km アタックする増田成幸(JCL強化指定選抜チーム)残り3km アタックする増田成幸(JCL強化指定選抜チーム) photo:Satoru Kato勝利を確信した窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)がチーム名をアピール勝利を確信した窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)がチーム名をアピール photo:Nobumichi KOMORI

4月下旬、群馬サイクルスポーツセンターでの「東日本ロードクラシック群馬大会」には、東京五輪ロードレース代表の増田成幸がナショナルチームからスポット参戦した。ほぼ単騎での参戦にもかかわらず、レースの流れを主導。終盤に自らアタックし、窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)との一騎打ちに持ち込んだ。優勝は窪木に譲ったものの、選手としての存在感を改めて実感させられた。

JプロツアーとE1クラスタの交流戦として開催された第6戦JプロツアーとE1クラスタの交流戦として開催された第6戦 photo:Satoru Kato昨年10月以来のレースだという石上優大がJCF強化指定選抜チームから出場昨年10月以来のレースだという石上優大がJCF強化指定選抜チームから出場 photo:Satoru Kato

スプリントを制した山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)が優勝スプリントを制した山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)が優勝 photo:Satoru Kato
ゴールデンウィーク明けの5月、第6戦「群馬CSCロードレース5月大会」は、今シーズン初のE1クラスタとの交流戦。およそ半年ぶりのレースと言う石上優大が、ナショナルチームからスポット参戦した。132kmのレースは、フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)が主導。最後は小集団のスプリント勝負となり、山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)が初優勝。6戦を終え、マトリックスパワータグとチームブリヂストンサイクリングが共に3勝ずつとした。



群馬CSC初の逆周回レース開催

心臓破りの坂を下っていく集団心臓破りの坂を下っていく集団 photo:Satoru Kato
2周を逃げ切った小林海(マトリックスパワータグ)がJプロツアー初優勝2周を逃げ切った小林海(マトリックスパワータグ)がJプロツアー初優勝 photo:Satoru Kato
第7戦「群馬CSCロードレース6月大会」は、Jプロツアーでは始めて逆周回でレースが行われた。ほとんどの選手にとって初めてのレースは、前半に形成された16名の集団が逃げ切り、残り2周を単独で逃げ切った小林海(マトリックスパワータグ)が初優勝を決めた。マトリックスパワータグは、スペイン選手権出場のためフランシスコ・マンセボが帰国して不在の中での勝利となった。

第8戦 梅雨の晴れ間、気温も湿度も高めな中でJプロツアースタート第8戦 梅雨の晴れ間、気温も湿度も高めな中でJプロツアースタート photo:Satoru Kato第8戦 最終周回までに残った4名第8戦 最終周回までに残った4名 photo:Satoru Kato

小森亮平(マトリックスパワータグ)がJプロツアー初優勝小森亮平(マトリックスパワータグ)がJプロツアー初優勝 photo:Satoru Kato
7月、第8戦「西日本ロードクラシック」は、チームブリヂストンサイクリングが欠場するなどして55名の出走。今季最少人数でのロードレースとなったが、後半は目まぐるしく状況が変わるレースとなった。全日本チャンピオンジャージを着る入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)の猛攻をしのいで優勝したのは、小森亮平(マトリックスパワータグ)。会場近くの福山市が地元の小森にとって、U23全日本選手権以来となる優勝となった。

梅雨の合間に広がった青空の下で行われた第9戦石川クリテリウム 梅雨の合間に広がった青空の下で行われた第9戦石川クリテリウム 川沿いのコースは橋を2回渡る川沿いのコースは橋を2回渡る

吉田隼人(マトリックスパワータグ)が2017年以来の優勝吉田隼人(マトリックスパワータグ)が2017年以来の優勝
広島から1週間後、福島県石川町でクリテリウムとロードレースの2連戦が開催された。第9戦「石川クリテリウム」は、今年初開催のレース。梅雨の合間、晴れて30℃を超える暑さの中でスプリント勝負を制したのは吉田隼人(マトリックスパワータグ)。2017年以来のJプロツアー優勝となった。

コース沿いに咲く紫陽花が満開コース沿いに咲く紫陽花が満開 photo:Satoru Kato青々とした水田の中を進む集団青々とした水田の中を進む集団 photo:Satoru Kato

今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)が優勝今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)が優勝 photo:Satoru Kato
翌日の第10戦は、ハードコースでお馴染みの「石川サイクルロードレース」。コロナ禍による中止をはさみ、2019年以来2年ぶりの開催となった。梅雨空が戻って雨が断続的に降る中でのレースは、最終周回に逃げ集団が吸収されてスプリント勝負となり、今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)が優勝。前日の第9戦まで3連勝していたマトリックスパワータグを止めたのは、やはりチームブリヂストンサイクリングだった。



愛三工業レーシングチームの2連勝でシーズン再開

南魚沼市内を流れる魚野川を渡る集団南魚沼市内を流れる魚野川を渡る集団 photo:Satoru Kato商店街の通りをスタートしていく集団商店街の通りをスタートしていく集団 photo:Satoru Kato

岡本隼(愛三工業レーシングチーム)が優勝岡本隼(愛三工業レーシングチーム)が優勝 photo:Satoru Kato
東京五輪・パラリンピックが閉幕し、残暑がまだ厳しい9月半ば、新潟県南魚沼市での2連戦で後半戦がスタートした。

第11戦は「南魚沼クリテリウム」。南魚沼市の六日町市街に設定されたコースで初開催のクリテリウムが行われた。コロナ禍の再燃が懸念される中、県外からの観戦自粛をお願いしての開催となったが、コース周辺在住の方々がハイスピードレースを見守った。マトリックスパワータグからチームブリヂストンサイクリングへと主導権が移っていったレースは、最終コーナーで集団先頭を奪った愛三工業レーシングチームが岡本隼を放ち、勝利をもぎ取った。

第11戦は真紅の輪翔旗をかけた経済産業大臣旗チャンピオンシップ第11戦は真紅の輪翔旗をかけた経済産業大臣旗チャンピオンシップ photo:Satoru Katoレース終盤アタックを繰り返す沢田時(チームブリヂストンサイクリング)後方に追走する3名が迫るレース終盤アタックを繰り返す沢田時(チームブリヂストンサイクリング)後方に追走する3名が迫る photo:Satoru Kato
草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)が}Jプロツアー初優勝草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)が}Jプロツアー初優勝 photo:Satoru Kato
翌日の第12戦「南魚沼ロードレース」は、Jプロツアーで最もステータスの高いレース「経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップ」として開催された。

早々に決まった8名の逃げ集団とメイン集団との差は最大で7分まで広がり、逃げ切りが確定的になると逃げ集団の中での勝負が始まった。終盤、中間スプリントポイントを先頭通過したのをきっかけに草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)が先行。残り2周までに3名が追いつくものの、それをものともせずスプリント勝負を制して優勝。これが全日本選手権の布石となると予想出来た人は、この時点では少なかっただろう。

Day1とDay3で優勝した今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)Day1とDay3で優勝した今村駿介(チームブリヂストンサイクリング) photo:Nobumichi KOMORIDay2で人生初のロードレース優勝を挙げた兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)Day2で人生初のロードレース優勝を挙げた兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング) photo:Nobumichi KOMORI

9月24日から26日の3日間は「群馬CSCロードレース9月」の3連戦が行われた。本来であればUCIレース「ツール・ド・北海道」が開催される日程だったが、コロナ禍の再燃により中止が決定したため、急遽3日間開催が決まった。

逆回りの180kmで行われた初日は、スペインから戻ってきたフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)とのマッチレースを制した今村駿介が優勝。逆回り72kmで行われた2日目は、集団スプリントを制した兒島直樹が、Jプロツアーだけでなくロードレース初優勝。正周り120kmで行われた3日目は今村が再び優勝し、チームブリヂストンサイクリングが3連勝。マトリックスパワータグの6勝を上回って7勝を挙げた。

雨に煙る霞ヶ浦 晴れていれば対岸が見えるのだが・・・雨に煙る霞ヶ浦 晴れていれば対岸が見えるのだが・・・ photo:Satoru Kato
10月、茨城県かすみがうら市で初のJプロツアーが開催された。国内2番目の広さを誇る霞ヶ浦湖畔のコースで、初日はタイムトライアル、2日目はロードレースの2連戦。これが2021年シーズンのJプロツアー最終戦となった。

優勝 松田祥位(EQADS)9分50秒292優勝 松田祥位(EQADS)9分50秒292 photo:Satoru Kato
今シーズンJプロツアー唯一の個人タイムトライアル大会となった「かすみがうらタイムトライアル」でトップタイムを刻んだのは、松田祥位(エカーズ)。2位の香山飛龍(弱虫ペダルサイクリングチーム)との差はわずか1秒だった。松田はこの翌週に行われた全日本選手権のタイムトライアルで、U23のチャンピオンとなった。

遮蔽物がなく広大な霞ヶ浦周辺に設定されたコース遮蔽物がなく広大な霞ヶ浦周辺に設定されたコース photo:Satoru Kato残り2周、登り区間でアタックする入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)残り2周、登り区間でアタックする入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Satoru Kato

入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)が優勝入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)が優勝 photo:Satoru Kato
翌日の「かすみがうらロードレース」は、雨と風と寒さとの戦いとなった。序盤、入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)を含む4名の集団が先行。岡本隼の逆転総合優勝にかける愛三工業レーシングチームがレースをコントロールするも、逃げる4名を捕まえきれず、勝負は入部と山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)のマッチレースへ。最後は山本を振り切った入部が優勝し、会場に近いつくば市を拠点とするチームにJプロツアー初優勝をプレゼントした。

2021年Jプロツアー個人総合優勝のホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ、右)と、U23個人総合優勝の山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)左はかすみがうら市の坪井市長2021年Jプロツアー個人総合優勝のホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ、右)と、U23個人総合優勝の山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)左はかすみがうら市の坪井市長 photo:Satoru Kato2019年以来3年連続で個人・チームのダブルタイトルを獲得したマトリックスパワータグ2019年以来3年連続で個人・チームのダブルタイトルを獲得したマトリックスパワータグ photo:Satoru Kato

2021年Jプロツアー個人総合優勝は、ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)。2017年以来、通算5度目の総合優勝となった。マトリックスパワータグがチーム総合優勝し、2019年以来3年連続で個人とチームのダブルタイトル獲得を達成した。



植竹海貴の強さが際立った Jフェミニンツアー

あらゆるコースで強さを見せた植竹海貴(Y's Road)あらゆるコースで強さを見せた植竹海貴(Y's Road) photo:Satoru Kato
女子の「Jフェミニンツアー」では、植竹海貴(Y's Road)が総合優勝した。昨年まで連覇してきた唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)に代わり、出場13レース中11勝を挙げる強さを見せて他を圧倒した。
群馬CSCロードレース9月 渡部春雅(明治大学)が植竹海貴(Y's Road)を置き去りにする場面が何度もあった群馬CSCロードレース9月 渡部春雅(明治大学)が植竹海貴(Y's Road)を置き去りにする場面が何度もあった photo:Satoru Kato東京五輪前には梶原悠未がJCF強化指定選抜チームから出場した東京五輪前には梶原悠未がJCF強化指定選抜チームから出場した photo:Satoru Kato

今年は東京五輪とコロナ禍が重なり、五輪代表の金子広美や梶原悠未、海外チームに所属する樫木祥子(株式会社オーエンス)、渡部春雅(明治大学)らが出場した。特に渡部は、ジュニアギアにも関わらず、シーズン終盤は植竹に勝てる可能性を見せるほどだった。ジュニアギアを卒業する来年が楽しみだ。



チーム数が減って見えた国内レースの課題

2021年のJプロツアー レース後半とは言え、集団が小さく感じる2021年のJプロツアー レース後半とは言え、集団が小さく感じる photo:Satoru Kato
2021年は近年のJプロツアーとしては最少の13チームの参加となった。昨年までJプロツアーに参加していた一部チームが、新たにスタートしたジャパンサイクルリーグ(JCL)に移ったためだが、およそ3分の2となった集団はやはり小さいと感じた。

コロナ禍により海外レース参戦が出来なかった選手・チームの参加がレースを活性化し、人数が減った分を補ってレベルの高いレースが展開された一方で、序盤に形成された逃げ集団が最後まで捕まらないというレース展開が目立ったのも、今年の特徴だった。

マトリックスパワータグ、チームブリヂストンサイクリング、シマノレーシング、愛三工業レーシングチームといった主要チームが加わった逃げが形成されてしまうと、メイン集団をコントロールするチームが不在となってしまう点は如何ともしがたい問題だろうか。

2020年のJプロツアー+E1の交流戦スタート時の集団2020年のJプロツアー+E1の交流戦スタート時の集団 photo:Satoru Kato
残念ながら、2022年もJプロツアーとJCLは別々のレースを開催することになるようだ。この状況が良いとは言えず、一日も早く元の一つの集団になって欲しいと願う。
2021年 Jプロツアー個人総合順位
1位 ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ) 3305p
2位 岡本 隼(愛三工業レーシングチーム) 2980p
3位 今村駿介(チームブリヂストンサイクリング) 2445p
4位 入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム) 2200p
5位 草場啓吾(愛三工業レーシングチーム) 2161p
6位 フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ) 1966p
Jプロツアー U23ランキング
1位 山本哲央(チームブリヂストンサイクリング) 1769p
2位 香山飛龍(弱虫ペダルサイクリングチーム) 1258p
3位 兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング) 1067p
Jプロツアー チームランキング
1位 マトリックスパワータグ 9385p
2位 チームブリヂストンサイクリング 8306p
3位 愛三工業レーシングチーム 6777p

text:Satoru Kato

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