2010/07/01(木) - 05:55
ツール・ド・フランス制覇を目標に掲げるチームスカイ。7月のフランスで、イギリス純正チームを率いるのは、昨年総合4位に入った“ウィッゴ”ことブラドレー・ウィギンズ(イギリス)だ。トラックレーサーからグランツールを闘えるオールラウンダーへと進化したウィギンズは、最後の調整を終え、開幕地ロッテルダムに向かった。
「落ち着かないといけないのは百も承知だが、なかなか興奮が抑えられない。英国チームを率いてワールドカップを闘うような心境だ。とにかく母国チームのリーダーとしてツールに挑むのは非常に誇らしい。この仕事をなんとか完遂したい」。
ウィギンズはベルギー生まれロンドン育ちの30歳。ガーミン・スリップストリームのメンバーとして出場した昨年のツールで、周囲を驚かす総合4位という好成績を残した。ガーミンとはまだ契約が残っていたが、今年新たに立ち上がったイギリスのチームスカイに電撃移籍。再び周囲を驚かせた。
今年ウィギンズが取り組んだのは、徹底的な山岳力の強化。ツールの表彰台に上ることを目標に、ウィギンズはトレーニングに打ち込んだ。
「昨年の11月の時点で綿密なトレーニング計画を組んでいた。その計画は完璧に遂行されたと思っている。先週の木曜日にいつもトレーニングで使用する30分ほどの登坂でデータを取ったんだ。明らかにウェイトパワーレシオが上がっている。それで良いデータが取れたからビッグレースで勝てるわけじゃないけど、ツールに向けて良い傾向であることは間違いない」。
「体重は予定通り73kgまで落としている。上りで勝てるクライマーと下りでリードを広げるダウンヒラーの境界線だ。僅か数キロの減量でも山岳での走りはガラッと変わる。これ以上体重を落とすためには、筋肉を削ぎ落としていくしかない」。
ウィギンズは、勝負どころになるであろう山岳の下見も済ませている。「事前に山岳をチェックするのは重要だ。今回はスティーブ・クミングスとマイケル・バリーを連れて山岳コースを走ったんだ」。
「特にマイク(バリー)の存在は大きかった。経験豊かな彼は洞察力に優れていて、自分が気付かないことを教えてくれる。『ここから勾配が緩む』とか『この先のコーナーは危険』とか。彼の存在はボーナスだ」。
「ピレネーの山岳は厳しい。でもツールは毎日何が起こるか分からない。特に今年は1週目が要注意だ。幾つかのステージで総合争いを左右するような集団分裂が起こるかも知れない」。
「プロローグではいつもステージ優勝を狙って走ってきた。でも今年は最終的な総合成績だけを狙っているので、プロローグでの勝利は最優先事項ではない。とにかく総合でのライバルからどれだけタイムを奪えるかが重要。初日からアームストロングやシュレク兄弟を出来るだけ引き離しておきたい」。
プロローグの翌日はベルギー・ブリュッセルにゴールする平坦ステージ。ウィギンズはエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー)、スティーブ・クミングス(イギリス)、フアンアントニオ・フレチャ(スペイン)、サイモン・ジェランス(オーストラリア)、トーマス・ロヴクヴィスト(スウェーデン)、ジェレイント・トーマス(イギリス)、セルジュ・パウエルス(ベルギー)、マイケル・バリー(カナダ)と3週間を闘う。
「チームには序盤の平坦ステージで役に立つアシストたちが揃っている。エドヴァルド、フレチャ、ジェレイントの3人は1週目で大きな助けになると思う」。
チームスカイは世界最高峰のハイテクチームだ。最新機材や高い理念を有し、サクソバンクやガーミン・トランジションズを上回る最先端チームとしてスタートした。伝統的なヨーロッパチームが過去の産物に見えるほどだ。
豪華なチームバスを投入し、選手たちの安眠や快適さを最優先。睡眠から食事まで徹底的に分析している。チームマネージャーのデーヴィッド・ブライスフォード氏が提唱する「差益を追求する」という精神によって、チームスカイは結成1年目にも関わらずトップチームと肩を並べる成績を残している。
「このプロジェクトは1週間で立ち上がったものではない。ブリティッシュサイクリングが長年に渡って継続的に目指して来たことの集大成だ。ここ数日は(チーム専属の精神科医)スティーブ・ピータースと話す機会を作って、心を落ち着けている。彼と1時間ほど話し込んで、不安や恐怖を解消するんだ。機材の面でもチームは最先端。ここ数ヶ月はスキンスーツの開発に時間を費やした」。
「活躍の裏には必ずチームの働きがある。彼らのサポートがまた良い走りに繋がる。彼らが支えてくれるからこそ、思う存分闘うことが出来る。小さなことの積み重ねが、最後には大きな差となって現れるはずだ」。
パリ表彰台に向けて更に進化したウィギンズ。しかしアームストロングやシュレク兄弟、イヴァン・バッソ、カデル・エヴァンス、そして連覇を狙うアルベルト・コンタドールらがその前に立ちはだかる。
「生きるか死ぬかのような話ではない。これはスポーツだ。出来ることは全てやった。よほどの悪運がない限り、望み通りの結果を得ることが出来ると信じている」。
第97回ツール・ド・フランスは、7月3日、オランダ・ロッテルダムをスタートする。
text:Gregor Brown
translation:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Kei Tsuji
「落ち着かないといけないのは百も承知だが、なかなか興奮が抑えられない。英国チームを率いてワールドカップを闘うような心境だ。とにかく母国チームのリーダーとしてツールに挑むのは非常に誇らしい。この仕事をなんとか完遂したい」。
ウィギンズはベルギー生まれロンドン育ちの30歳。ガーミン・スリップストリームのメンバーとして出場した昨年のツールで、周囲を驚かす総合4位という好成績を残した。ガーミンとはまだ契約が残っていたが、今年新たに立ち上がったイギリスのチームスカイに電撃移籍。再び周囲を驚かせた。
今年ウィギンズが取り組んだのは、徹底的な山岳力の強化。ツールの表彰台に上ることを目標に、ウィギンズはトレーニングに打ち込んだ。
「昨年の11月の時点で綿密なトレーニング計画を組んでいた。その計画は完璧に遂行されたと思っている。先週の木曜日にいつもトレーニングで使用する30分ほどの登坂でデータを取ったんだ。明らかにウェイトパワーレシオが上がっている。それで良いデータが取れたからビッグレースで勝てるわけじゃないけど、ツールに向けて良い傾向であることは間違いない」。
「体重は予定通り73kgまで落としている。上りで勝てるクライマーと下りでリードを広げるダウンヒラーの境界線だ。僅か数キロの減量でも山岳での走りはガラッと変わる。これ以上体重を落とすためには、筋肉を削ぎ落としていくしかない」。
ウィギンズは、勝負どころになるであろう山岳の下見も済ませている。「事前に山岳をチェックするのは重要だ。今回はスティーブ・クミングスとマイケル・バリーを連れて山岳コースを走ったんだ」。
「特にマイク(バリー)の存在は大きかった。経験豊かな彼は洞察力に優れていて、自分が気付かないことを教えてくれる。『ここから勾配が緩む』とか『この先のコーナーは危険』とか。彼の存在はボーナスだ」。
「ピレネーの山岳は厳しい。でもツールは毎日何が起こるか分からない。特に今年は1週目が要注意だ。幾つかのステージで総合争いを左右するような集団分裂が起こるかも知れない」。
「プロローグではいつもステージ優勝を狙って走ってきた。でも今年は最終的な総合成績だけを狙っているので、プロローグでの勝利は最優先事項ではない。とにかく総合でのライバルからどれだけタイムを奪えるかが重要。初日からアームストロングやシュレク兄弟を出来るだけ引き離しておきたい」。
プロローグの翌日はベルギー・ブリュッセルにゴールする平坦ステージ。ウィギンズはエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー)、スティーブ・クミングス(イギリス)、フアンアントニオ・フレチャ(スペイン)、サイモン・ジェランス(オーストラリア)、トーマス・ロヴクヴィスト(スウェーデン)、ジェレイント・トーマス(イギリス)、セルジュ・パウエルス(ベルギー)、マイケル・バリー(カナダ)と3週間を闘う。
「チームには序盤の平坦ステージで役に立つアシストたちが揃っている。エドヴァルド、フレチャ、ジェレイントの3人は1週目で大きな助けになると思う」。
チームスカイは世界最高峰のハイテクチームだ。最新機材や高い理念を有し、サクソバンクやガーミン・トランジションズを上回る最先端チームとしてスタートした。伝統的なヨーロッパチームが過去の産物に見えるほどだ。
豪華なチームバスを投入し、選手たちの安眠や快適さを最優先。睡眠から食事まで徹底的に分析している。チームマネージャーのデーヴィッド・ブライスフォード氏が提唱する「差益を追求する」という精神によって、チームスカイは結成1年目にも関わらずトップチームと肩を並べる成績を残している。
「このプロジェクトは1週間で立ち上がったものではない。ブリティッシュサイクリングが長年に渡って継続的に目指して来たことの集大成だ。ここ数日は(チーム専属の精神科医)スティーブ・ピータースと話す機会を作って、心を落ち着けている。彼と1時間ほど話し込んで、不安や恐怖を解消するんだ。機材の面でもチームは最先端。ここ数ヶ月はスキンスーツの開発に時間を費やした」。
「活躍の裏には必ずチームの働きがある。彼らのサポートがまた良い走りに繋がる。彼らが支えてくれるからこそ、思う存分闘うことが出来る。小さなことの積み重ねが、最後には大きな差となって現れるはずだ」。
パリ表彰台に向けて更に進化したウィギンズ。しかしアームストロングやシュレク兄弟、イヴァン・バッソ、カデル・エヴァンス、そして連覇を狙うアルベルト・コンタドールらがその前に立ちはだかる。
「生きるか死ぬかのような話ではない。これはスポーツだ。出来ることは全てやった。よほどの悪運がない限り、望み通りの結果を得ることが出来ると信じている」。
第97回ツール・ド・フランスは、7月3日、オランダ・ロッテルダムをスタートする。
text:Gregor Brown
translation:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Kei Tsuji