長く日本チャンピオンに君臨した山本幸平が東京五輪を境に現役を退き、“ポスト山本幸平”の趣きも漂った今回のMTB全日本選手権XCO。誰が勝っても新王者となるレースを制したのは「自転車に乗り始めた頃からこのレースで勝つことを夢見ていた」という沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)だった。


スタートラインについた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)。表情に気合がこもるスタートラインについた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)。表情に気合がこもる photo:Syunsuke FUKUMITSU
愛媛県八幡浜市・八幡浜スポーツパークで開催された今大会。マウンテンバイク用の常設コースがあり、「やわたはま国際MTBレース」も知られるが、意外にもこれが初の全日本だ。新型コロナウイルス感染拡大を避けるため、選手・関係者問わず会場入りする人にはPCR検査の陰性証明が義務付けられるなど、制限がある中ではあったが、自転車競技に熱い街を舞台に今年の日本王座を決める戦いが繰り広げられた。

最終レースのスタート。ホールショットは佐藤誠示(SAGE'S STYLE)最終レースのスタート。ホールショットは佐藤誠示(SAGE'S STYLE) photo:Syunsuke FUKUMITSU
コース周辺を覆った熱い霧は競技開始までに消え、好天のもと各カテゴリーのレースが展開された。そして、満を持して男子エリートとU23による最終レースが行われた。

昨年まで合計12回にわたってこの大会を制してきた山本が退き、エリートに関しては新しいチャンピオンを決める戦いとなる。同カテゴリーには55選手が、U23には14選手がスタートラインにつき、午後2時ちょうどの号砲で一斉に出発した。

レース序盤から沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)と竹内遼(FUKAYA RACING)が先頭に立つレース序盤から沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)と竹内遼(FUKAYA RACING)が先頭に立つ photo:Syunsuke FUKUMITSU
3.91kmのコースを6周回。大人数でのレースゆえ、スタート直後こそ各所で混乱が起きたが、1周目の半ばには沢田と竹内遼(FUKAYA RACING)が抜け出し、後続とのタイム差を徐々に広げていく。国内トップの8選手がスタート順でシードされたこともあり、しばらくはこの選手たちが前線をキープしたが、レースが進むにつれて3位以下の並びはめまぐるしく変化。その中から、先頭2人を追う流れを作ったのが宮津旭(PAXPROJECT)だった。

4周目、桜坂で沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が猛プッシュ4周目、桜坂で沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が猛プッシュ photo:Syunsuke FUKUMITSU
ラップタイム11分20秒台で進行する前の3人。3周目に入って竹内が前へ出ると、それまで引いていた沢田はいったん付き位置へ。これで2人のペースに変化が生まれたか、追う宮津との差は縮小傾向に。そして4周目に入ったところで宮津が先頭に合流。3人のパックが形成された。

レース後半に2位に浮上した宮津旭(PAXPROJECT)レース後半に2位に浮上した宮津旭(PAXPROJECT) photo:Syunsuke FUKUMITSU
このまま進むかと思った矢先、“桜坂”と呼ばれる急坂区間でプッシュしたのが沢田だった。「気が付いたら2人との差が広がっていた」とレース後に振り返ったが、こうなったら逃げ切りへと狙いをシフト。この後には宮津が竹内を引き離して、単独2番手となった。

「独走になっても優勝を確信することはなかった。15秒程度のタイム差が続いていたので、集中を切らさないよう心掛けた」という沢田だが、後半も大きなミスを犯すことなく進行。逃げ切りが濃厚となり、最後の直線へやってきてようやく表彰には笑顔が。両手を高々と掲げてフィニッシュを決めると、チームスタッフと歓喜した。

独走態勢を築き上げた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が高らかにナンバーワンポーズ独走態勢を築き上げた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が高らかにナンバーワンポーズ photo:Syunsuke FUKUMITSU
レースを終えてマイクを渡された沢田は開口一番「小学生の頃からの夢が叶いました」と目を潤ませた。2016年と2020年にシクロクロスで全日本を制しているが、「最初に本格的に乗り始めた自転車がマウンテンバイクだった。だからこそどうしても欲しかったタイトルだった」と、何よりもこだわってきた種目だと強調。これで、2種目めの日本タイトルとなった。

フィニッシュ直後にマイクを渡された沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)。開口一番「小学生の頃からの夢がかなった」 フィニッシュ直後にマイクを渡された沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)。開口一番「小学生の頃からの夢がかなった」  photo:Syunsuke FUKUMITSU
オフロードのイメージが強い沢田だが、今季はロードレースにも本格参戦。まずまずの走りを見せて、自身も手ごたえを感じているよう。「シクロクロス、マウンテンバイクと全日本を獲ったので、来年はロードレースでのチャンピオンジャージ獲得にも挑戦してみたい」と野望を口にした。

2位の宮津旭(PAXPROJECT)はフィニッシュ直後に涙を流した2位の宮津旭(PAXPROJECT)はフィニッシュ直後に涙を流した photo:Syunsuke FUKUMITSU
男子エリート表彰式男子エリート表彰式 photo:Syunsuke FUKUMITSU

U23は北林力が圧勝

U23はレース編成上、後方からのスタートだったこともあり、上位陣はエリートライダーを次々パスしていく構図となった。とりわけその実力が目立ったのが北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)だった。

U23の北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)は後方スタートから追い上げて全体3番手へ浮上U23の北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)は後方スタートから追い上げて全体3番手へ浮上 photo:Syunsuke FUKUMITSU
「本当はエリートの選手たちを全員抜くつもりだったのですが…」とレース後に悔やんだ北林。11分台後半のラップタイムを刻み続け、結果的に全体の3番手まで浮上。後続に3分近いタイム差をつけ、このカテゴリーでは文句なしの優勝。昨年に続く2連覇を果たした。

桜坂を力走する北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)に“師匠”山本幸平が檄を飛ばす桜坂を力走する北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)に“師匠”山本幸平が檄を飛ばす photo:Syunsuke FUKUMITSU
北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)2連覇のフィニッシュ北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)2連覇のフィニッシュ photo:Syunsuke FUKUMITSU
今年は世界選手権へ男子で唯一の参戦を果たし、その後もヨーロッパでレースを転戦。山本幸平が後継者として育成しており、北林も「幸平さんからは常にヨーロッパをベースに走らないといけないと言われています」と語る。

男子U23 表彰式男子U23 表彰式 photo:Syunsuke FUKUMITSU
これでU23カテゴリーを卒業し、来季からは晴れてエリートへと参戦。3年後のパリ五輪も見据える若武者の参戦で、日本のマウンテンバイク界がどう化学反応を起こすかに注目が集まる。
MTB全日本選手権2021 XCO男子エリート 結果
1位 沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling) 1:11:13.97
2位 宮津旭(PAXPROJECT) 1:11:32.75
3位 竹内遼(FUKAYA RACING) 1:14:29.22
4位 西山靖晃(山鳥レーシング) 1:16:05.42
5位 門田基志(TEAM GIANT) 1:16:28.01
6位 佐藤誠示(SAGE'S STYLE) 1:16:36.30
7位 平野星矢 (TEAM BRIDGESTONE Cycling) 1:16:44.29
8位 竹之内悠(Toyo Frame) 1:17:39.03
9位 詫間啓耀(NESTO Factory Team) 1:17:49.11
10位 上野蓮(MASAYA RACING) 1:18:00.36
MTB全日本選手権2021 XCO男子U23 結果
1位 北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) 1:11:52.10
2位 村上功太郎(松山大学) 1:14:40.21
3位 松本一成(RIDE MASHUN SPECIALIZED) 1:16:51.69
photo&text : Syunsuke FUKUMITSU

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