延期、中止、そして延期の末ようやく開催される第118回パリ〜ルーベ。降雨の予報も出ている「クラシックの女王」のコースとファンアールトやファンデルプールなど注目選手をチェックしておこう。



2002年以来、雨に濡れた地獄がやってくるか

パヴェ区間は大勢の観客に覆われるパヴェ区間は大勢の観客に覆われる photo:Makoto Ayano
パリ〜ルーベ2021 コースマップパリ〜ルーベ2021 コースマップ photo:A.S.O.「クラシックの女王」またの名を「北の地獄」。近代オリンピックと同じ1896年に第1回大会が開催され、今年で第118回を迎えるパリ〜ルーベがコロナ禍で中止、延期を経て2年半振りに帰ってくる。

唯一無二のレースである所以は連続するパヴェ(石畳)とフィニッシュ地点のルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)。角が立った石が敷かれ、波打ったパヴェで跳ねるバイクを抑え込みながら、選手たちは257.7kmの道のりをベルギー国境近くのルーベを目指し進んでいく。

スタートが切られるのはパリではなく、その北80kmに位置するコンピエーニュ。前半の96.3kmまでは快適なアスファルトの舗装路が選手たち脚を温め、そこからパヴェの農道を探すように蛇行しながら最初のセクター「No.30 トロワヴィル〜アンシー」を迎える。選手に求められるのはラインを読むテクニックと激しい振動のなか進む走力、そしてマシントラブルに動じない精神力だ。

2019年大会のアランベールでパンクしたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)2019年大会のアランベールでパンクしたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ) photo:CorVos
例年より1つ増えたパヴェは合計30区間、全長55kmに及び、各セクターには5段階の難易度が設定されている。その中でも5つ星がつくのは「No.19 トルエー=ド=アランベール」、「No.11 モンサン=ぺヴェル」、「N0.4 カルフール・ド・ラルブル」の3区間。いずれも全長が2kmを越え、特にモンサン=ぺヴェル(残り48.6km地点)とカルフール・ド・ラルブル(残り17.2km地点)は、例年アタックが繰り広げられる勝負所となっている。

残り1kmで最後のパヴェ「No.1 ルーベ」が終わると、選手たちはルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)を1周半してフィニッシュラインにたどり着く。長い歴史に名を刻む優勝者には、パヴェの石塊で作られたトロフィーが贈られる。

また4月の暑さはないものの、注目される天気は雨予報。本格的な降雨のなか行われれば、ヨハン・ムセウ(ベルギー)が勝利した2002年大会まで遡らなければならない近年とは異なるレース展開になりそうだ。

パリ〜ルーベ2021 コースプロフィールパリ〜ルーベ2021 コースプロフィール photo:A.S.O.
登場するパヴェ30区間
区間 レース距離 残り距離 名称 長さ 難易度
30 96.3km 161.4km トロワヴィル〜アンシー 900m ☆☆
29 102.8km 154.9km ヴィースリー〜キエヴィ 1,800m ☆☆☆
28 105.4km 152.3km キエヴィ〜サンピトン 3,700m ☆☆☆☆
27 110.1km 147.6km サンピトン 1,500m ☆☆
26 116.6km 141.1km オウシー〜サン=マルタン=シュル=エカイヨン 2,300m ☆☆☆
25 120.9km 136.8km サン=マルタン=シュール=エカイヨン~ヴェルテン 2,300m  ☆☆☆
24 127.3km 130.4km カペル~リュヌ 1,700m  ☆☆☆
23 136.3km 121.4km アルトル~ケレネン  1,300m  ☆☆
22 138.1km 119.6km ケレネン〜マン 2,500m ☆☆☆
21 141.2km 116.5km マン〜モンショー=シュル=エカイヨン 1,600m ☆☆☆
20 154.2km 103.5km アヴルイ〜ワレー 2,500m ☆☆☆☆
19 162.4km 95.3km トルエー=ド=アランベール 2,300m ☆☆☆☆☆
18 162.4km 89.3km ワレー〜エレーム 1,600m ☆☆☆
17 175.2km 82.5km オルネン〜ヴァンディニー 3,700m ☆☆☆☆
16 182.7km 75km ヴァルレン〜ブリヨン 2,400m ☆☆☆
15 186.2km 71.5km ティヨワ〜サール=エ=ロジエール 2,400m ☆☆☆☆
14 192.5km 65.2km バーヴリー〜オルシー 1,400m ☆☆☆
13 197.5km 60.2km オルシー 1,700m ☆☆☆
12 203.6km 54.1km オシー〜ベルシー 2,700m ☆☆☆☆
11 209.1km 48.6km モンサン=ぺヴェル 3,000m ☆☆☆☆☆
10 215.1km 42.6km メリニー〜アヴリン 700m ☆☆
9 218.5km 39.2km ポン=ティボ〜エンヌヴラン 400m ☆☆☆
8 224.4km 33.8km タンプルーヴ 500m ☆☆
7 230.8km 26.9km シソワン〜ブルゲル 1,300m ☆☆☆
6 233.3km 24.4km ブルゲル〜ワヌアン 1,100m ☆☆☆
5 237.8km 19.9km カンファナン=ぺヴェル 1,800m ☆☆☆☆
4 240.5km 17.2km カルフール=ド=ラルブル 2,100m ☆☆☆☆☆
3 242.8km 14.9km グルソン 1,100m ☆☆
2 249.5km 8.2km ヴィルム〜エム 1,400m ☆☆☆
1 256.3km 1.4km ルーベ 300m



ファンアールトvsファンデルプール あるいは数のウルフパックか

3月のヘント〜ウェヴェルヘムを制したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)3月のヘント〜ウェヴェルヘムを制したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ) (c)CorVos
優勝候補筆頭はなんと言ってもワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)だろう。今年のツール・ド・フランスで脚質の概念を覆した元シクロクロス世界王者は、執拗なマークを受ける東京五輪や世界選手権といったビッグレースでは勝利を逃したものの、先月のツール・ド・ブリテンを見る限り好調そのものだ。「雨は嫌だし、どうせ事前の作戦なんて関係ないレースになる。とにかくパヴェ区間に集中し、先頭集団に残るために全力を尽くだけだ」と不安をたかる190cmのファンアールトだが、その卓越したテクニックと力は全選手が注視する存在となる。

マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)は初出場ながらファンアールトの対抗となる1人だ。腰の故障が走りを鈍らせ、世界選手権では目立った動きもなく8位に沈んだものの、予想を上回るレースをするのが現シクロクロス世界王者の真骨頂。状態を心配する声にも「かなり良くなっている」と答え、「雨は大歓迎だ。選手たちは”危険が増す”と言うだろうが、ルーベに落車は付きものだろう」と降雨予想にも前向きだ。また、チームメイトには2018年大会で2位のシルヴァン・ディリエ(スイス)や前哨戦GPドゥナンを制したヤスパー・フィリプセン(ベルギー)、ティム・メルリール(ベルギー)などワールドチームに勝る戦力が作戦の幅を広げる。

マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:Kei Tsuji
初のロンド制覇を遂げたカスパー・アスグリーン(デンマーク、エレガント・クイックステップ)初のロンド制覇を遂げたカスパー・アスグリーン(デンマーク、エレガント・クイックステップ) (c)CorVos
2019年の前回大会を制したドゥクーニンク・クイックステップは今大会も盤石な体制を揃えてきた。今年のE3サクソバンククラシックとロンド・ファン・フラーンデレンを制したカスパー・アスグリーン(デンマーク)をエースに、元祖シクロクロッサーのゼネク・スティバル(チェコ)や前回大会3位のイヴ・ランパールト(ベルギー)、フロリアン・セネシャル(フランス)が脇を固める。

春にミラノ〜サンレモを制し、過去4位、5位と好成績を収めているヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)はマッズ・ピーダスン(デンマーク)とともに出場。シーズン後半での勝利がない2018年覇者のペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)も前回大会2位のニルス・ポリッツ(ドイツ)とのコンビネーションが注目される。

他にも世界選手権ロードの銀メダリスト、ディラン・ファンバーレ(オランダ、イネオス・グレナディアーズ)や、ロット・スーダルの前回大会覇者フィリップ・ジルベール(ベルギー)とジョン・デゲンコルプ(ドイツ)、オリヴェル・ナーセン(ベルギー、AG2Rシトロエン)なども展開に絡んでくるだろう。

なお出場選手する174名の平均身長は184cm、平均体重73.7kg。重量級クラシックレーサーたちが濡れたパヴェに挑む。
text:Sotaro.Arakawa

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