2021/09/26(日) - 10:40
得意の勝ちパターンに持ち込んだマリアンヌ・フォス(オランダ)を新鋭スプリンターの爆発力が上回った。ダークホース、エリーザ・バルサモ(イタリア)が新世界チャンピオンに。不調を抱えながら走った與那嶺恵理は85位で完走している。
アントワープの街を出発し、56kmのラインコースを走ってからルーヴェンの市街地サーキットを1周半、6箇所の登坂区間が詰め込まれた「フランドリアンサーキット」を1周、そしてルーヴェンの市街地コースを2周半する157.7kmで争われた女子エリートロードレース。快晴、気温20度という絶好のレース日和の中、シーズン最終レースとなる與那嶺恵理を含む48カ国合計162名の選手がスタートを切った。
アントワープ港から8kmのニュートラル走行を挟んでリアルスタートの旗が振られるも、150kmオーバーという女子最長距離クラスのレースで積極的な飛び出しは掛からなかった。イタリアやデンマーク、ドイツ、そして大会5連覇が懸かったオランダなど強豪国が目を光らせる中、ルーヴェンの市街地サーキットに入った。
全選手が脚を温存したまま突入したアップダウン区間で、過去優勝者リジー・ダイグナンをエースに据えたイギリスチームがハイペースを刻み始めると平均スピードは一気に上昇。現役ラストレースとなるアンナ・ファンデルブレッヘンや、アネミエク・ファンフルーテン、マリアンヌ・フォス、そしてデミ・フォレリングといった豪華メンバー擁するオランダは先頭に立つのではなく集団内で息を潜め続けた。
優勝候補選手のイラストが描かれた最大勾配18%の石畳登坂「モスケストラート(距離550m/平均7.98%)」ではフォレリングが変速トラブルに見舞われ、バイク交換に時間を要するも長い追走の末に合流を果たす。ここから後半戦に向け、アシストとして引退レースを走ることを選んだファンデルブレッヘンなどオランダチームがいよいよ集団先頭を固めることとなる。
オランダが動いたのはフィニッシュまで58kmを残した石畳登坂ベークストラート(距離439m/平均7.65%/最大15%)だった。石畳区間に入るや否や、2019年大会の焼き直しのようにファンフルーテンがアタック。ロードで1回、個人タイムトライアルで2回アルカンシエルを着ているベテランは抜け出すには至らなかったものの、オランダはアシストを使いながらハイペースをキープした。
2度の石畳登坂を経て、外腸骨動脈線維化症の症状を抱えながら走った與那嶺の姿はファンデルブレッヘンと共に第2グループにあった。「とにかく身体は心配だし、痺れるし、集中できないし、イライラする。JCFがエリート女子のみ派遣をしないと発表したことでもメンタルが荒れました。けどそれでも、レースはやってくる。毎年一番楽しみにしているレースの一つ。それが私の世界選手権。万全の身体で望みたかったけど、コレも今の自分。今回は完走出来たら自分を褒めよう。と思ってスタートしました」と與那嶺はレース前の心境を告白する。
「スタートしてから脚がめっちゃ痺れて、もうダメで遅れてしまった。武井コーチが”恵理、今日はもうやめていいぞ”って言うので、私も辞めようと思って、どこで辞めようかなと考えていました。けど、世界選手権は絶対に完走しないといけない」と言う與那嶺は、追走グループに入って以降はペースを取り戻し、最終的に9分13秒遅れの85位で完走を果たしている。
與那嶺は月曜日にイタリアに渡り、トラブルを克服すべく手術を受ける。退院後は日本に戻って休養とリハビリ、トレーニングに励む予定だという。「世界選手権は最高でした。ロードレース、大好きです。多くの観客と日本語での応援、感謝です。ありがとうございます。絶対にここで10位以内、1桁順位を取って区切りをつけたいと思えたので良かったです。出てよかった」と心境を話している。
オランダチームはファンフルーテンを中心に至る所で攻撃を仕掛けた。シクロクロス世界チャンピオンのルシンダ・ブラントが、個人TT新世界チャンピオンのエレン・ファンダイクが仕掛けるたびに集団が絞られ、追走と合流を繰り返す中で人数は次第に絞り込まれていく。MTBのショートトラック世界チャンピオンであるシーナ・フライ(スイス)など他国も抜け出しを図ったものの、いずれも戦局を変える決定打には繋がらなかった。
この日初めての逃げらしい逃げを打ったのは、残り24km地点の登坂区間でするすると抜け出したマビ・ガルシア(スペイン)だった。2020年のストラーデビアンケと同じ得意パターンに持ち込んだ37歳のベテランは、アタックが激化する集団を尻目に30秒リードを築いた。
逃げるガルシア、攻撃するオランダ、そしてオランダのアタックをことごとくフォローして潰すアンナ・ヘンダーソン(イギリス)。メイン集団内に参加8名中7名を残したオランダはフォスのスプリントに勝負を絞り、ペースを整えて残り10km地点でガルシアを吸収。最終盤に入ってもなお人数を絞り込みつつフォスを温存させ、5連覇に向けて完璧な筋書きで距離を消化していった。
オランダの波状攻撃に耐え、第1グループに残ったのは30名弱。残り2km地点の最終登坂「サン・アントニウスベルグ」ではスプリントを嫌うカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)が仕掛けたもののファンダイクが先行を許さない。4名を残したイタリアがリードアウトトレインを組み、フィニッシュまで続く緩斜面を駆け上がった。
エリーザ・バルサモ(イタリア)を従えて、エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)による超強力リードアウトがスタート。イタリア列車の急加速に飛びついたのはフォスただ一人。オランダがフォスの勝ちパターンに持ち込んだものの、バルサモの爆発力がルーヴェンの大観衆を驚かせた。
ロンゴボルギーニのリードアウトを得たバルサモが発進し、即座にフォスが反応。フォスは半車身差まで詰め寄ったものの、距離を確認しながら踏むイタリアンスプリンターが最後までリードを維持。一歩早く踏みやめるフォスの目の前で、バルサモが誰よりも早くフィニッシュラインを駆け抜けた。
誰よりも勝ち方を知るフォスを力でねじ伏せ、新鋭スプリンターが新世界チャンピオンに輝いた。イタリアナショナルチームのトラック中長距離メンバーとしてイタリアやヨーロッパチャンピオンに輝き、東京五輪のチームパシュートとオムニアムに出場していたバルサモ。来季トレック・セガフレードに移籍する1998年生まれ23歳が5年間所属したバルカーチームに最高の置き土産を残すことに。
「とにかく信じられない。いまの感情を表す言葉が見つからない。今日勝てるとは思っていなかったけれど、ここの舞台で勝つことが夢だった。長いシーズンの終盤にもかかわらず、私のチームは素晴らしく、彼女たちがいなければアルカンシェル獲得は不可能だった。最終コーナーを抜けてからスプリントに頭を切り替え、自分自身に”後ろを振り返らずに、踏む場所を間違えることなくフルガスで行け”と言い聞かせた」と言うバルサモ。落車など不本意な形で終わった五輪のリベンジを返せた、とも。
一方、「彼女がスプリントを開始した瞬間、スピードに乗ることができなかった。銀メダルが最大限の結果だと思うし、自分のコンディションには満足している」と4回目の優勝を逃したフォスは言う。最強メンバーを揃えたオランダだったが、レースを絞りこむことはできた一方決定打に欠き、ダークホースの優勝を許すことに。
また、バルサモとフォスの先行を許した後続スプリントではカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)が先着し表彰台の一角に滑り込んだ。輝かしいキャリアの最終レースを走ったファンデルブレッヘンは、マーレン・ローセル(スイス)に讃えられながら89位でレースを終えている。
選手コメントは別記事で紹介します。
アントワープの街を出発し、56kmのラインコースを走ってからルーヴェンの市街地サーキットを1周半、6箇所の登坂区間が詰め込まれた「フランドリアンサーキット」を1周、そしてルーヴェンの市街地コースを2周半する157.7kmで争われた女子エリートロードレース。快晴、気温20度という絶好のレース日和の中、シーズン最終レースとなる與那嶺恵理を含む48カ国合計162名の選手がスタートを切った。
アントワープ港から8kmのニュートラル走行を挟んでリアルスタートの旗が振られるも、150kmオーバーという女子最長距離クラスのレースで積極的な飛び出しは掛からなかった。イタリアやデンマーク、ドイツ、そして大会5連覇が懸かったオランダなど強豪国が目を光らせる中、ルーヴェンの市街地サーキットに入った。
全選手が脚を温存したまま突入したアップダウン区間で、過去優勝者リジー・ダイグナンをエースに据えたイギリスチームがハイペースを刻み始めると平均スピードは一気に上昇。現役ラストレースとなるアンナ・ファンデルブレッヘンや、アネミエク・ファンフルーテン、マリアンヌ・フォス、そしてデミ・フォレリングといった豪華メンバー擁するオランダは先頭に立つのではなく集団内で息を潜め続けた。
優勝候補選手のイラストが描かれた最大勾配18%の石畳登坂「モスケストラート(距離550m/平均7.98%)」ではフォレリングが変速トラブルに見舞われ、バイク交換に時間を要するも長い追走の末に合流を果たす。ここから後半戦に向け、アシストとして引退レースを走ることを選んだファンデルブレッヘンなどオランダチームがいよいよ集団先頭を固めることとなる。
オランダが動いたのはフィニッシュまで58kmを残した石畳登坂ベークストラート(距離439m/平均7.65%/最大15%)だった。石畳区間に入るや否や、2019年大会の焼き直しのようにファンフルーテンがアタック。ロードで1回、個人タイムトライアルで2回アルカンシエルを着ているベテランは抜け出すには至らなかったものの、オランダはアシストを使いながらハイペースをキープした。
2度の石畳登坂を経て、外腸骨動脈線維化症の症状を抱えながら走った與那嶺の姿はファンデルブレッヘンと共に第2グループにあった。「とにかく身体は心配だし、痺れるし、集中できないし、イライラする。JCFがエリート女子のみ派遣をしないと発表したことでもメンタルが荒れました。けどそれでも、レースはやってくる。毎年一番楽しみにしているレースの一つ。それが私の世界選手権。万全の身体で望みたかったけど、コレも今の自分。今回は完走出来たら自分を褒めよう。と思ってスタートしました」と與那嶺はレース前の心境を告白する。
「スタートしてから脚がめっちゃ痺れて、もうダメで遅れてしまった。武井コーチが”恵理、今日はもうやめていいぞ”って言うので、私も辞めようと思って、どこで辞めようかなと考えていました。けど、世界選手権は絶対に完走しないといけない」と言う與那嶺は、追走グループに入って以降はペースを取り戻し、最終的に9分13秒遅れの85位で完走を果たしている。
與那嶺は月曜日にイタリアに渡り、トラブルを克服すべく手術を受ける。退院後は日本に戻って休養とリハビリ、トレーニングに励む予定だという。「世界選手権は最高でした。ロードレース、大好きです。多くの観客と日本語での応援、感謝です。ありがとうございます。絶対にここで10位以内、1桁順位を取って区切りをつけたいと思えたので良かったです。出てよかった」と心境を話している。
オランダチームはファンフルーテンを中心に至る所で攻撃を仕掛けた。シクロクロス世界チャンピオンのルシンダ・ブラントが、個人TT新世界チャンピオンのエレン・ファンダイクが仕掛けるたびに集団が絞られ、追走と合流を繰り返す中で人数は次第に絞り込まれていく。MTBのショートトラック世界チャンピオンであるシーナ・フライ(スイス)など他国も抜け出しを図ったものの、いずれも戦局を変える決定打には繋がらなかった。
この日初めての逃げらしい逃げを打ったのは、残り24km地点の登坂区間でするすると抜け出したマビ・ガルシア(スペイン)だった。2020年のストラーデビアンケと同じ得意パターンに持ち込んだ37歳のベテランは、アタックが激化する集団を尻目に30秒リードを築いた。
逃げるガルシア、攻撃するオランダ、そしてオランダのアタックをことごとくフォローして潰すアンナ・ヘンダーソン(イギリス)。メイン集団内に参加8名中7名を残したオランダはフォスのスプリントに勝負を絞り、ペースを整えて残り10km地点でガルシアを吸収。最終盤に入ってもなお人数を絞り込みつつフォスを温存させ、5連覇に向けて完璧な筋書きで距離を消化していった。
オランダの波状攻撃に耐え、第1グループに残ったのは30名弱。残り2km地点の最終登坂「サン・アントニウスベルグ」ではスプリントを嫌うカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)が仕掛けたもののファンダイクが先行を許さない。4名を残したイタリアがリードアウトトレインを組み、フィニッシュまで続く緩斜面を駆け上がった。
エリーザ・バルサモ(イタリア)を従えて、エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)による超強力リードアウトがスタート。イタリア列車の急加速に飛びついたのはフォスただ一人。オランダがフォスの勝ちパターンに持ち込んだものの、バルサモの爆発力がルーヴェンの大観衆を驚かせた。
ロンゴボルギーニのリードアウトを得たバルサモが発進し、即座にフォスが反応。フォスは半車身差まで詰め寄ったものの、距離を確認しながら踏むイタリアンスプリンターが最後までリードを維持。一歩早く踏みやめるフォスの目の前で、バルサモが誰よりも早くフィニッシュラインを駆け抜けた。
誰よりも勝ち方を知るフォスを力でねじ伏せ、新鋭スプリンターが新世界チャンピオンに輝いた。イタリアナショナルチームのトラック中長距離メンバーとしてイタリアやヨーロッパチャンピオンに輝き、東京五輪のチームパシュートとオムニアムに出場していたバルサモ。来季トレック・セガフレードに移籍する1998年生まれ23歳が5年間所属したバルカーチームに最高の置き土産を残すことに。
「とにかく信じられない。いまの感情を表す言葉が見つからない。今日勝てるとは思っていなかったけれど、ここの舞台で勝つことが夢だった。長いシーズンの終盤にもかかわらず、私のチームは素晴らしく、彼女たちがいなければアルカンシェル獲得は不可能だった。最終コーナーを抜けてからスプリントに頭を切り替え、自分自身に”後ろを振り返らずに、踏む場所を間違えることなくフルガスで行け”と言い聞かせた」と言うバルサモ。落車など不本意な形で終わった五輪のリベンジを返せた、とも。
一方、「彼女がスプリントを開始した瞬間、スピードに乗ることができなかった。銀メダルが最大限の結果だと思うし、自分のコンディションには満足している」と4回目の優勝を逃したフォスは言う。最強メンバーを揃えたオランダだったが、レースを絞りこむことはできた一方決定打に欠き、ダークホースの優勝を許すことに。
また、バルサモとフォスの先行を許した後続スプリントではカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)が先着し表彰台の一角に滑り込んだ。輝かしいキャリアの最終レースを走ったファンデルブレッヘンは、マーレン・ローセル(スイス)に讃えられながら89位でレースを終えている。
選手コメントは別記事で紹介します。
ロード世界選手権2021女子エリートロードレース結果
1位 | エリーザ・バルサモ(イタリア) | 3:52:27 |
2位 | マリアンヌ・フォス(オランダ) | |
3位 | カタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド) | 0:01 |
4位 | カータ・ヴァス(ハンガリー) | |
5位 | アーレニス・シエラ(キューバ) | |
6位 | アリソン・ジャクソン(カナダ) | |
7位 | デミ・フォレリング(オランダ) | |
8位 | セシリーウトラップ・ルドヴィグ(デンマーク) | |
9位 | リサ・ブレナウアー(ドイツ) | |
10位 | コリン・リヴェラ(アメリカ) | |
85位 | 與那嶺恵理(日本) | 9:13 |
text:So.Isobe
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