2021/07/26(月) - 22:36
4列目スタートから一気に先頭を捉え、食い下がるスイス勢を蹴散らし金メダルを掴み取ったのはトーマス・ピドコック(イギリス)だった。今年6月の交通事故による鎖骨骨折からわずか2ヶ月弱。21歳の超オールラウンダーがイギリスに今大会3つ目の金メダルをもたらした。
開会式翌日に男子ロードレースを、その翌日に女子ロードレースを終えてもなお東京オリンピックの自転車競技熱はとどまる所を知らない。メダル争いの舞台は富士スピードウェイから伊豆・修善寺の日本サイクルスポーツセンター内に作られた伊豆MTBコースへ。7月26日(日)、過去最高のチャレンジングコースと言わしめる4kmの周回コースを舞台に、世界から選りすぐられたトップ選手38名が火花を散らした。
気温湿度こそ高くとも、心配された酷暑には繋がらず。遠くで雷鳴が轟く中でも雨粒が降り注ぐことは最後までなかった。土埃舞うドライコンディションの中、15時のスタートと共にビクトール・コレツキー(フランス)やヘンリケ・アヴァンチーニ(ブラジル)たちが抜群の飛び出しを見せた。
緩斜面舗装のホームストレートを駆け抜け、直後の直登「天城越え」でミラン・ファーダー(オランダ)が先頭を奪い取る。その背後では4列目スタートのトーマス・ピドコック(イギリス)が一気に10番手前後まで走行位置を上げ、先日のツール・ド・フランスでマイヨジョーヌを着用したマチュー・ファンデルプール(オランダ)や元世界チャンピオンのニノ・シューター(スイス)たちは先頭集団内で順当にポジションをキープ。38人中の32番ゼッケンをつける山本幸平(日本)は混沌とする隊列後方から追い上げを目指した。
3分弱のスタートループを終え、先頭グループはスイス(シューター、フルッキガー)とオランダ(ファンデルプール、ファーダー)が2人ずつを加えた強豪選手ばかり10名。次なる展開に移ろうとしたタイミングで、中継カメラは空中に投げ出されるファンデルプールの姿を捉えた。
大きなドロップオフ「桜ドロップ」に5番手で進入したファンデルプールは、明らかに目測を誤り、空中前転して高低差のあるドロップを転がり落ちた。暫くコース脇にうずくまっていたファンデルプールはやがて再乗車してレースを続けたが、大きな落車ダメージを負ったことは誰の目にも明らかだった。
ファンデルプールはその後約1時間弱耐えながら走っていたものの、ついにピットエリアでバイクを降りる。ツールを早めに切り上げ、東京に照準を合わせていたファンデルプールは「コース試走時にあったスロープが本番でもあると思っていた」という認識違いで涙を吞むことに。またこの日、中盤以降にポジションを上げ、銅メダルポジションを視界に捉えていたオンドレイ・シンク(チェコ)はリアタイヤパンクによってリタイアを強いられることとなった。
優勝候補が一人消えた先頭グループは、やがてスイス(シューター、フルッキガー)の支配下に置かれた。誰よりも勝ち方を知るシューターのペースアップによってアヴァンチーニやコレツキーが遅れたものの、唯一ピドコックが追従。すると、スイス勢の後ろで一呼吸置いた21歳が強烈なハイペースを刻み始めた。
4周目突入後の直登区間で仕掛けたピドコックからは、まずはアントン・クーパー(ニュージーランド)とフルッキガーが脱落。そして、軽やか且つパワフルに走り続けるピドコックにシューターも遅れをとった。こうしてピドコックが4周目に独走態勢を築き、息を吹き返したフルッキガーが数秒差で追う展開でレースは後半戦へと移っていく。
5周目突入時点で先頭ピドコックと追走フルッキガーの距離は僅か6秒。しかし両者の余裕ぶりには確実な違いがあった。登りのたびに両者の差は1秒、また1秒と開き、6周回目突入時点では11秒に拡大。それ以降もピドコックのペースは落ちることなく、金メダル獲得を確実なものとしていった。
フルッキガーとの差を20秒にまで広げ、最終周回もスムーズな走りを崩さなかったピドコック。観衆が見守る前で最終登坂を駆け上がり、ユニオンジャックを受け取ってホームストレートに現れた。両手で母国国旗を広げ、力強いガッツポーズとともに東京オリンピック男子MTBレースで勝利した。
昨シクロクロスシーズン終了後にイネオス・グレナディアーズに加入し、春のクラシックレースを転戦したのちMTBレースにフォーカスしていたピドコック。UCIワールドカップ初戦は100番手スタートから5位、続く第2戦で5番手から優勝と波に乗るも、その後6月にトレーニング中の交通事故で鎖骨骨折に見舞われる。しかしすぐさま復帰し、オリンピックを目指してトレーニングを続けてきた。
「五輪選手になっただけで十分クレイジーな出来事だった。レース前、自分に「ここにいるだけで特別なことなんだ」と言い聞かせていた。(骨折からの復帰は)とても辛かった。怪我のせいでレースに出場でなかったけれど良いトレーニングを積むことができ、コンディションも悪くなかった。レースを走っていないことから、自分の力を疑うこともあった」と新オリンピックチャンピオンに輝いたピドコックは振り返る。「スタートしてからは良い位置につくことができたが、暑さに苦しめられた。だが、それはみんなも同じだっただろう」とも。
引き離されながらも粘り強く追走していたフルッキガーは2位フィニッシュし、辛くもスイスにメダルを残すことに成功。銅メダルは3番手グループに後半追いつき、引き離したダヴィド・ヴァレロ(スペイン)の手に渡った。
また、指標となる選手に食らいつきペースを保った山本は7分21秒遅れの29位で完走。「今の自分の全てを出し切ることができたので清々しい気分です。ここまで集中できたのは数年ぶりでした」と、大きな応援に後押しされ、心技体揃った現役最終レースを笑顔で締めくくっている。
山本と鈴木雷太監督のコメントは別記事で紹介します。
開会式翌日に男子ロードレースを、その翌日に女子ロードレースを終えてもなお東京オリンピックの自転車競技熱はとどまる所を知らない。メダル争いの舞台は富士スピードウェイから伊豆・修善寺の日本サイクルスポーツセンター内に作られた伊豆MTBコースへ。7月26日(日)、過去最高のチャレンジングコースと言わしめる4kmの周回コースを舞台に、世界から選りすぐられたトップ選手38名が火花を散らした。
気温湿度こそ高くとも、心配された酷暑には繋がらず。遠くで雷鳴が轟く中でも雨粒が降り注ぐことは最後までなかった。土埃舞うドライコンディションの中、15時のスタートと共にビクトール・コレツキー(フランス)やヘンリケ・アヴァンチーニ(ブラジル)たちが抜群の飛び出しを見せた。
緩斜面舗装のホームストレートを駆け抜け、直後の直登「天城越え」でミラン・ファーダー(オランダ)が先頭を奪い取る。その背後では4列目スタートのトーマス・ピドコック(イギリス)が一気に10番手前後まで走行位置を上げ、先日のツール・ド・フランスでマイヨジョーヌを着用したマチュー・ファンデルプール(オランダ)や元世界チャンピオンのニノ・シューター(スイス)たちは先頭集団内で順当にポジションをキープ。38人中の32番ゼッケンをつける山本幸平(日本)は混沌とする隊列後方から追い上げを目指した。
3分弱のスタートループを終え、先頭グループはスイス(シューター、フルッキガー)とオランダ(ファンデルプール、ファーダー)が2人ずつを加えた強豪選手ばかり10名。次なる展開に移ろうとしたタイミングで、中継カメラは空中に投げ出されるファンデルプールの姿を捉えた。
大きなドロップオフ「桜ドロップ」に5番手で進入したファンデルプールは、明らかに目測を誤り、空中前転して高低差のあるドロップを転がり落ちた。暫くコース脇にうずくまっていたファンデルプールはやがて再乗車してレースを続けたが、大きな落車ダメージを負ったことは誰の目にも明らかだった。
ファンデルプールはその後約1時間弱耐えながら走っていたものの、ついにピットエリアでバイクを降りる。ツールを早めに切り上げ、東京に照準を合わせていたファンデルプールは「コース試走時にあったスロープが本番でもあると思っていた」という認識違いで涙を吞むことに。またこの日、中盤以降にポジションを上げ、銅メダルポジションを視界に捉えていたオンドレイ・シンク(チェコ)はリアタイヤパンクによってリタイアを強いられることとなった。
優勝候補が一人消えた先頭グループは、やがてスイス(シューター、フルッキガー)の支配下に置かれた。誰よりも勝ち方を知るシューターのペースアップによってアヴァンチーニやコレツキーが遅れたものの、唯一ピドコックが追従。すると、スイス勢の後ろで一呼吸置いた21歳が強烈なハイペースを刻み始めた。
4周目突入後の直登区間で仕掛けたピドコックからは、まずはアントン・クーパー(ニュージーランド)とフルッキガーが脱落。そして、軽やか且つパワフルに走り続けるピドコックにシューターも遅れをとった。こうしてピドコックが4周目に独走態勢を築き、息を吹き返したフルッキガーが数秒差で追う展開でレースは後半戦へと移っていく。
5周目突入時点で先頭ピドコックと追走フルッキガーの距離は僅か6秒。しかし両者の余裕ぶりには確実な違いがあった。登りのたびに両者の差は1秒、また1秒と開き、6周回目突入時点では11秒に拡大。それ以降もピドコックのペースは落ちることなく、金メダル獲得を確実なものとしていった。
フルッキガーとの差を20秒にまで広げ、最終周回もスムーズな走りを崩さなかったピドコック。観衆が見守る前で最終登坂を駆け上がり、ユニオンジャックを受け取ってホームストレートに現れた。両手で母国国旗を広げ、力強いガッツポーズとともに東京オリンピック男子MTBレースで勝利した。
昨シクロクロスシーズン終了後にイネオス・グレナディアーズに加入し、春のクラシックレースを転戦したのちMTBレースにフォーカスしていたピドコック。UCIワールドカップ初戦は100番手スタートから5位、続く第2戦で5番手から優勝と波に乗るも、その後6月にトレーニング中の交通事故で鎖骨骨折に見舞われる。しかしすぐさま復帰し、オリンピックを目指してトレーニングを続けてきた。
「五輪選手になっただけで十分クレイジーな出来事だった。レース前、自分に「ここにいるだけで特別なことなんだ」と言い聞かせていた。(骨折からの復帰は)とても辛かった。怪我のせいでレースに出場でなかったけれど良いトレーニングを積むことができ、コンディションも悪くなかった。レースを走っていないことから、自分の力を疑うこともあった」と新オリンピックチャンピオンに輝いたピドコックは振り返る。「スタートしてからは良い位置につくことができたが、暑さに苦しめられた。だが、それはみんなも同じだっただろう」とも。
引き離されながらも粘り強く追走していたフルッキガーは2位フィニッシュし、辛くもスイスにメダルを残すことに成功。銅メダルは3番手グループに後半追いつき、引き離したダヴィド・ヴァレロ(スペイン)の手に渡った。
また、指標となる選手に食らいつきペースを保った山本は7分21秒遅れの29位で完走。「今の自分の全てを出し切ることができたので清々しい気分です。ここまで集中できたのは数年ぶりでした」と、大きな応援に後押しされ、心技体揃った現役最終レースを笑顔で締めくくっている。
山本と鈴木雷太監督のコメントは別記事で紹介します。
東京2020オリンピック 男子MTB XCO結果
1位 | トーマス・ピドコック(イギリス) | 1:25:14 |
2位 | マティアス・フルッキガー(スイス) | +0:20 |
3位 | ダヴィド・ヴァレロ(スペイン) | +0:34 |
4位 | ニノ・シューター(スイス) | +0:42 |
5位 | ヴィクトール・コレツキー(フランス) | +0:46 |
6位 | アントン・クーパー(ニュージーランド) | +0:46 |
7位 | ヴラッド・ダスカル(ルーマニア) | +0:49 |
8位 | アラン・ハースリー(南アフリカ) | +1:19 |
9位 | ヨルダン・サルー(フランス) | +1:36 |
10位 | ミラン・ファーダー(オランダ) | +2:07 |
29位 | 山本幸平(日本) | +7:21 |
text:So Isobe
photo:Nobuhiko Tanabe
photo:Nobuhiko Tanabe
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