女子ロード全日本チャンピオンであり、東京オリンピック代表に選出されている與那嶺恵理(チームティブコSVB) が、現在直面しているコンディションの不調や、その原因についてブログで語った。



今期は不調に悩まされてきた與那嶺恵理(チームティブコSVB)今期は不調に悩まされてきた與那嶺恵理(チームティブコSVB) (c)CorVos
與那嶺は、大阪府出身の1991年生まれ。全日本選手権ではロードで5度、個人タイムトライアルで6度、MTBクロスカントリーで2度勝利。現在はオランダを拠点に、アメリカ籍のUCIコンチネンタルチームであるチームティブコSVBの一員として活動。海外レースでも初参加のリオ五輪ではロードで17位、個人TTで15位。2019年のストラーデビアンケで13位、2020年の世界選手権ロードは21位でフィニッシュするなど、着実に世界の舞台で実績を残してきた。もちろん東京オリンピックでもその活躍が大いに期待されている。

そんな與那嶺だが、2021年シーズンは序盤から不調が続いており、自身のブログ内 『「1年越し」のオリンピックの意味 』と題された投稿では、不調に至るところから原因までが赤裸々に語られている。要約を紹介したい。

ヨーロッパを主戦場とする與那嶺は、例年3月から4月後半までワンデイのクラシックレースを走り、その後夏の間はステージレースをこなすスケジュールを組んでいる。その総走行距離はUCIレースを走る女子選手の中でもトップクラスだ。

今シーズンも初戦オンループ・ヘットニュースブラッドでは本人も手応えのある31位という結果を残したが、その後のレースでは思うような走りができない状態に陥る。彼女が居住する地元で開催されるアムステルゴールドではDNFとなり、レースレポートでは『とても楽しみにしていた地元のレース。(中略)毎年一度のDNF。一つ一つのレースに気持ちを作って向かいますが、それもこんな日があると挫けます』と辛い心境を綴っていた。実際に過去数年のリザルトを比較しても、2021年は不調を感じさせる結果が続いていた。

リオ五輪個人TTで15位、ロードで17位となった與那嶺恵理リオ五輪個人TTで15位、ロードで17位となった與那嶺恵理 photo:Bettini
その後與那嶺は不調の理由を探るべく様々な検査を行い、血液・心肺の検査等で一旦オーバートレーニングと診断され、3週間の休息を余儀なくされる。しかし状況は好転せず、ポジションを見直し、カイロプラクターの元へ。しかしまた5月末のステージレースで症状が再発し、振り出しに戻ることとなった。

不調の結論は「iliac artery endofibrosis」。直訳では「腸骨動脈内線維症」となるが、この翻訳での文献などは存在しない。日本では「閉塞性動脈硬化症」などが近い病名として存在しているが、誤解を避けるためにあえて「外腸骨動脈の繊維化症」とタイトルに据えさせていただいた。

この病気は一般的に若年層で発症することは稀とされる。ただし近年は自転車選手の間で発生率の増加が報告されており、片方または両方の脚の太ももの腫れや運動能力の低下が主な症状だ。これは、自転車競技でのポジショニングによる股関節周辺の屈曲で、脚へ血液を運ぶ動脈が繊維化して狭まり、血液の流れが悪くなることによって引き起こされる。

引用:[External Iliac Artery Endofibrosis in Athletes | SpringerLink]

與那嶺も投稿のなかで「脚への血流が物理的に阻害されてしまって、高い領域でのパワーを出すと脚が窒息してしまって踏めなくなるという症状」と言及しており、原因が判明した安堵感と大舞台を直前に控えたタイミングでの不安感が入り混じった内容を綴っていた。

先述のとおり多くのプロ自転車選手がこの症状に悩まされており、昨年1月にはMTB世界チャンピオンのポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス)が同じ症状で2度目の手術を受けたほか、ファビオ・アル(イタリア)や、スチュアート・オグレディ(オーストリア)などがその一例。與那嶺と時を同じくしてツール・ド・フランスやオリンピックへの参加を決めていたボブ・ユンゲルス(ルクセンブルグ)が同じ症状のため、両大会への不参加を発表している(日本では那須ブラーゼンの小野寺慶が同じ症状で競技活動から引退。文献の少ないこの症状を日本語で詳しく解説している)。

手術によって早期復帰の可能性もあるが、長期的なスパンでの結果はまだ症例が少ない。また手術をした場合4〜6週間外で自転車の練習を行うことができないため、與那嶺はひとまずポジション変更による改善を目指しているという。

ブログに心境を綴った與那嶺。回復に期待したいブログに心境を綴った與那嶺。回復に期待したい (c)CorVos
文中では、オリンピック自国開催で代表として選ばれたこと。予定通り2020年開催であればこのような状況での参加とならなかったこと。またコロナ禍での開催に対する自身の気持ちなど、複雑な環境下での参加に対する正直な気持ちと、それを乗り越えひたむきに大会へ向かっていく決意が綴られている。

オリンピック、女子個人ロードレースは7月25日、女子個人タイムトライアルは7月28日に開催される。女子代表は個人ロードが與那嶺と、金子広美(イナーメ信濃山形)の2名が、個人タイムトライアルは與那嶺の1名が選出されている。1年の延長を経て、残された期間は約1ヶ月。今後の動向に注目が集まる。

text:Masahiro Koshiyama

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