2021/06/03(木) - 12:17
国内では前例のない「レースバブル」を導入して開催された今年のツアー・オブ・ジャパンについて、大会ディレクターの栗村修氏に話を聞いた。あわせて、総合優勝争いをした宇都宮ブリッツェンの清水監督と、キナンサイクリングチームの石田監督、6年ぶりの出場で存在感を見せた那須ブラーゼンの若杉監督と谷順成のコメントを紹介する。
栗村修 大会ディレクター「誰にも正解がわからない前例のない挑戦」
ツアー・オブ・ジャパン大会ディレクターの栗村修氏(写真は2019年の記者発表会) photo:Satoru Kato-昨年の中止から、コロナ禍での大会開催。大会全体を振り返っていただき率直な想いをお聞かせください。
「細かい改善点や反省点だらけで、今後、修正していかなければいけないなという気持ちが頭の半分を占めています。同時に、その改善点や反省点を横に置いておいて、このコロナ禍の中で大きな事故なく、止まっていた国内、もっと言えばアジアのUCIレースを3日間に短縮した日程とはいえ開催できた達成感がもう一方の頭の半分を占めていて、別々の感情が頭の中で渦巻いているのが正直なところです」
富士山を背に2年ぶりのツアー・オブ・ジャパン スタート ©️TOJ
「大会パンフレットにも書きましたが、再びレースの火を灯すという大きな使命感を持って動き始め、大会スタッフ、開催地の関係者の皆様、そして何より、観戦したい気持ちを抑えて観戦自粛の呼びかけに応じてくださったファンの皆様、大会に関わるすべての人たちのご尽力があってこその今年のTOJだったと思いますので、感謝の気持ちしかありません」
-今回、バブル方式を用いてのレース開催となりました。その部分の評価は?
「現実的な問題として、移動しながら大会が進んでいくステージレースは、スタジアムスポーツのような1日かつ1箇所でやるスポーツイベントよりは非常に難易度が高いものになります。そこで大会独自のガイドラインとして、大会期間中にコロナ陽性者を絶対に出さない、移動する各地域に絶対に迷惑をかけない、ということを定めました。
正直我々としても、東京の緊急事態宣言延長が決まったのが5月11日でしたが、ここで延長になったら開催することは難しいと考えていました。ただ、延長の際のガイドラインで大規模イベントが制限から外れたことで、少しだけ開催に向けての火が灯った感覚はありました。しかしその時点で相模原市も厳しい状況ではありましたので、一切気は抜けない状況ではありましたが…。
そういった短期間の中で物事を判断しなければいけない中で、バブル方式がどこまでできるのかという答えは分かりませんでしたし、今もまだこれで『正解』と言える段階ではないと思っています」
相模原ステージ フィニッシュ地点 チームバブルに指定されるチームカー駐車場 photo:Satoru Kato
東京ステージでの表彰会場への入り口。チームバブルはこの奥でさらに柵で仕切られ、入ることは出来ない。 photo:Satoru Kato
「自分は解説者もやっており、テレビ中継や情報収集で得た情報で海外のレースがどのようにバブル方式を用いているのかという知識が一般の方よりはありました。それと日本の内情を合わせて、事務局スタッフが時間がない中で懸命に今でき得る現実的な対応をバブル方式として定めて今回は運用した感じになります。ただ、できたか・できなかったかという評価は、現時点で論じることは難しいのかな、と。誰にも正解が分からない、前例がないという中での挑戦でしたので、この後にきちんと精査していきたいと思います」
ツアー・オブ・ジャパンは、昨年3月中旬以降ではツアー・オブ・タイランドに次ぐ2例目のアジアツアーのレースとなった photo:Satoru Kato-今回はレースランクが2クラスに変更され、国内チームのみでの開催となりました。レースの魅力が下がることも懸念されていましたが、若い選手たちの躍動もあり、個人的にはとてもポジティブな印象を受けた大会になりました。今後、大学生も含めた国内チームのみでのUCIレース開催という新しい道筋も作れたのではないかと感じるのですが、いかがでしょうか?
「率直なところで、自分自身のキャパシティの問題や新コースが組み込まれたこと、コロナ対策など優先順位を高くして取り組まなければいけないことが多かったので、レースの内容まで深く見ることはできていませんでした。それでも、Jプロツアーとジャパンサイクルリーグのチームをフルで招待するのではなく、大学チームとジャパンナショナルチームの若い選手たちが活躍する姿を見て、クラブチームも参加できる2クラスで開催することもアリだなとはすごく感じました。ツアー・オブ・ジャパンとして開催するかは別問題として、国内レース界を活性化させるひとつのヒントとして、今後の動きに繋げていきたいと思います」
宇都宮ブリッツェン 清水裕輔GM兼監督
「大まかに言えばプラン通りだったが、初日からハードな方向を選んでしまった」
増田成幸が「自分と10歳以上離れたチームメイト」と話していたように、若手中心のメンバー構成で臨んだ宇都宮ブリッツェン。富士山ステージでの集団コントロールは増田の勝利のためには当然にも見えたが、清水監督はタイミングが早かったと振り返る。
第1ステージ富士山 スタート早々に宇都宮ブリッツェンが集団コントロールに入ったが、これでかなり消耗したという photo:Kensaku SAKAI
「個人総合優勝の可能性がある中で、こうしてしっかりと結果を残せたことは、まずは良かったと思います。ただ、昨年と違って若い選手が多いメンバー構成で、リーダーチームとしてどう動くかという部分では、経験不足や実力不足、連携不足な部分もあったと思いますので、それらを糧にしてまたしっかりと強化に繋げていきたいと思います。
3日間を通して、大まかに言えばプラン通りではありますが、初日の富士山に関しては予定よりも早い段階で集団のコントロールに入ったかなと感じます。そこは選手たちが自信を持ってやってくれたことなので良いのですが、その分、ダメージが第2ステージに残ってしまったのかなという印象があって。
若手の中でも経験のある西村大輝が増田成幸をサポートしていた photo:Satoru Katoチームとして敢えてハードな方向を選んでしまったなと感じる部分はあります。
若手中心のメンバー構成でしたが、初日から気になる点はいくつかあったので、それを一つひとつ修正してきちんと繋げていってくれたのではないかと思っています。今回のメンバーを選ぶのにもすごく悩む部分があって、本音を言えば他に連れてきたい選手もいました。選手間の実力差はほとんどありませんし、他の選手を連れてきても今回と同様の結果を得られたと思います。今のチーム内競争のモチベーションを上手く次に繋げていきたいと思っています」
キナンサイクリングチーム 石田哲也監督
「山本大喜は今回見えたひとつの可能性」
トマ・ルバが総合2位、山本大喜が総合3位で終えたキナンサイクリングチーム。特に山本大喜の富士山ステージでの3位は、それまでの印象を覆すほど強烈だった。そこには、チームとしての戦略と、山本本人の意思があったと石田監督は話す。
富士山ステージで3位に入った山本大喜(キナンサイクリングチーム)選手の間でもこの結果に驚きがあったという photo:Satoru Kato
「まず、このような状況下でレースを開催してくれたことに感謝します。シマノレーシングさんが出場出来なかったのは残念でしたが、我々にも起こり得ることと考えると他人事では済まないと思っています。また、選手とスタッフがUCIルールに則ったコロナ対策下でのレースを経験できたことは良かったと思っています。
結果については、今年最初のUCIレースで最大の目標として臨みましたが、優勝出来なかったことは残念でした。増田選手が五輪前であれだけのパフォーマンスを見せて強かったですね。
大会に向けた準備として、マルコス(・ガルシア)とサルバ(サルバドール・グアルディオラ)が来日出来ない可能性があったので、トマ(・ルバ)の他にもう1人登れる選手を作らねばなりませんでした。マークされるリスクを考えると、トマだけに絞るのではなく、もう1枚あった方が良いと考えました」
相模原ステージ リーダージャージの増田成幸(宇都宮ブリッツェン)を、総合2位のトマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)がしっかりマーク photo:Satoru Kato
他チームとのコミュニケーション役を務めた新城雄大(キナンサイクリングチーム) Photo: KINAN Cycling Team / Syunsuke FUKUMITSU
「これまでのリザルトを見ても(山本)大喜が登れるという印象は無かったのですが、合宿などでトマと一緒に登ることもあり、本人と話したらチャレンジしたいという意思があったので、トライしてみました。もしマルコスとサルバが来ていたら大喜が表に出ることは無かったかもしれないので、今回見えたひとつの可能性と思います。
我々は外国人選手でUCIレースの結果を残していますが、日本人選手には常々「日本人選手は外国人選手のアシストではない」と言ってます。それはチームの目標でもあるし、今回は大喜でそれを見せられたと思います。
レースが少なくピークを合わせるのが難しい状況でしたが、完全ではないもののトレーニングのみでレースを出来る状態に合わせられたことは、今後の経験値として大きな成果だったと思います。選手間の連携もうまく出来ていて、新城雄大にはリーダーシップを、畑中勇介には経験値で劣る部分を補ってもらい、5人が自分の役割を認識してそれぞれの仕事をこなせていました。この良い状態を今後のレースに活かし、ファンの皆さんに「やっぱりキナンだ」と思ってもらえるようなレースをしたいです。10月に延期になりましたが「ツール・ド・熊野」が、僕らホームでの最大の目標です」
那須ブラーゼン 谷順成
「ただ参加するだけでなく、チームの力をしっかりと発揮できた」
第2ステージ相模原では、逃げ集団で一時バーチャルリーダーになった谷順成。総合トップ10の目標は達成したものの、経験したことのなかった総合優勝争いには反省点を挙げる。
相模原ステージ 先頭集団で走る谷順成(那須ブラーゼン) photo:Satoru Kato
「今回のTOJは自分の個人総合10位以内というのを目標にチームのメンバーも臨んでくれ、1日目、2日目と目標の個人総合トップ10内に入って進めることができましたし、3日間を通して目標を達成できたのがまずひとつ良かったと思います。
チームメイトとしっかりとミーティングを重ねて、全員でどうやって動いていくかということを最初に確認していましたし、それぞれの仕事に集中して取り組めていたからこそ、自分が最後に良い位置でゴールできたのかなと感じています。TOJにただ参加するだけでなく、那須ブラーゼンというチームの力をしっかりと発揮できたと思いますし、皆さんにもしっかりとアピールできたと思うので、成果はあったのではないかと思います。
第1ステージで目標とする個人総合トップ10内に入りましたが、守りに入らずにステージ優勝を獲る勢いでいこうと話し合っていました。前で動いて3人を逃げに送り込んで、総合逆転も見える走りができたので、チームのチャレンジとしてはとても良かったと思っています。ただ同時に、自分としてはステージレースで総合争いに絡むということが今までなかったので、経験不足で逃げ集団内で上手く立ち回れなかった部分もありました。次に同じようなチャンスがあればこの経験を活かして勝ちたいです。
今回の成果をしっかりと糧にして、さらに個人としてもチームとしても飛躍していけるようにしたいです」
那須ブラーゼン 若杉厚仁監督兼CEO
「収穫のあったTOJ 最後の詰めの判断や経験値は今後の課題」
2015年以来の出場となった那須ブラーゼンはダークホース的な活躍を見せ、谷の総合9位という結果を残した。若杉監督はこの結果をどのように見ているのか。
「特殊な状況下での開催ではありましたが、少なくとも国内の最強チームがそろうレースですのでチームとしてできる限りのチャレンジをしよう、十分それに叶うだけの実力はあるという話をしてレースに臨みました」
富士山ステージ 先頭集団で登る谷順成(写真中央) ©️TOJ
チームとしては、富士山のステージではどうしてもタイム差がついてしまうので、我々としては戦前から第2ステージを重要ステージに定めていました。そのうえで、富士山ステージで思いのほか選手たちが残ることができましたし、谷も実力を発揮してステージ7位に入ることができました。それであれば、もともと想定していた動きにプラスして、個人総合のジャンプアップを目指す動きをしていこうと話し合って、それがうまい具合にハマりましたし、攻める走りができたのではないかと思います」
東京ステージでは、Bプランとして渡邊翔太郎が逃げに乗った photo:Satoru Kato「第3ステージに関しては、2つやることを設定していました。ひとつ目は、谷がポイント周回をすべて先頭で通過できればボーナスタイムでホセ(・ビセンテ・トリビオ、マトリックスパワータグ)選手を逆転できる可能性があったので、個人総合にこだわってチャレンジすること。ただこれは、最初のポイント周回で(フランシスコ・)マンセボ選手がこちらの動きを察知して動きを封じ込められてしまいました。そこで、プランBとしてステージ優勝を狙う動きに切り替え、渡邊が逃げに乗りました。最後の場面で渡邊が集団に吸収されると思って踏み止めてしまい、分かれた2人が逃げ切ったので、渡邊の脚質を考えるとステージ優勝がこぼれ落ちてしまったかなという印象です。
レース運びや積極性という部分では評価できるし収穫もあったTOJでしたが、最後の詰めの部分での判断や経験値という部分はまだまだ伸ばしていかなければいけないと痛感しています。それを今後に繋げていきたいと思います。
まず何より、このような状況下でこのような素晴らしい舞台を用意していただけたことを嬉しく思いますし、大会関係者、開催地の皆様に感謝したいと思います。また、国内最強のチームが出そろってレースを走れたことも、率直に嬉しく思いました」
text:Nobumichi KOMORI, Satoru Kato
photo:Satoru Kato, Kensaku SAKAI, Tour of JAPAN, KINAN Cycling Team
栗村修 大会ディレクター「誰にも正解がわからない前例のない挑戦」
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-今回、バブル方式を用いてのレース開催となりました。その部分の評価は?
「現実的な問題として、移動しながら大会が進んでいくステージレースは、スタジアムスポーツのような1日かつ1箇所でやるスポーツイベントよりは非常に難易度が高いものになります。そこで大会独自のガイドラインとして、大会期間中にコロナ陽性者を絶対に出さない、移動する各地域に絶対に迷惑をかけない、ということを定めました。
正直我々としても、東京の緊急事態宣言延長が決まったのが5月11日でしたが、ここで延長になったら開催することは難しいと考えていました。ただ、延長の際のガイドラインで大規模イベントが制限から外れたことで、少しだけ開催に向けての火が灯った感覚はありました。しかしその時点で相模原市も厳しい状況ではありましたので、一切気は抜けない状況ではありましたが…。
そういった短期間の中で物事を判断しなければいけない中で、バブル方式がどこまでできるのかという答えは分かりませんでしたし、今もまだこれで『正解』と言える段階ではないと思っています」
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宇都宮ブリッツェン 清水裕輔GM兼監督
「大まかに言えばプラン通りだったが、初日からハードな方向を選んでしまった」
増田成幸が「自分と10歳以上離れたチームメイト」と話していたように、若手中心のメンバー構成で臨んだ宇都宮ブリッツェン。富士山ステージでの集団コントロールは増田の勝利のためには当然にも見えたが、清水監督はタイミングが早かったと振り返る。
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3日間を通して、大まかに言えばプラン通りではありますが、初日の富士山に関しては予定よりも早い段階で集団のコントロールに入ったかなと感じます。そこは選手たちが自信を持ってやってくれたことなので良いのですが、その分、ダメージが第2ステージに残ってしまったのかなという印象があって。
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キナンサイクリングチーム 石田哲也監督
「山本大喜は今回見えたひとつの可能性」
トマ・ルバが総合2位、山本大喜が総合3位で終えたキナンサイクリングチーム。特に山本大喜の富士山ステージでの3位は、それまでの印象を覆すほど強烈だった。そこには、チームとしての戦略と、山本本人の意思があったと石田監督は話す。
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結果については、今年最初のUCIレースで最大の目標として臨みましたが、優勝出来なかったことは残念でした。増田選手が五輪前であれだけのパフォーマンスを見せて強かったですね。
大会に向けた準備として、マルコス(・ガルシア)とサルバ(サルバドール・グアルディオラ)が来日出来ない可能性があったので、トマ(・ルバ)の他にもう1人登れる選手を作らねばなりませんでした。マークされるリスクを考えると、トマだけに絞るのではなく、もう1枚あった方が良いと考えました」
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我々は外国人選手でUCIレースの結果を残していますが、日本人選手には常々「日本人選手は外国人選手のアシストではない」と言ってます。それはチームの目標でもあるし、今回は大喜でそれを見せられたと思います。
レースが少なくピークを合わせるのが難しい状況でしたが、完全ではないもののトレーニングのみでレースを出来る状態に合わせられたことは、今後の経験値として大きな成果だったと思います。選手間の連携もうまく出来ていて、新城雄大にはリーダーシップを、畑中勇介には経験値で劣る部分を補ってもらい、5人が自分の役割を認識してそれぞれの仕事をこなせていました。この良い状態を今後のレースに活かし、ファンの皆さんに「やっぱりキナンだ」と思ってもらえるようなレースをしたいです。10月に延期になりましたが「ツール・ド・熊野」が、僕らホームでの最大の目標です」
那須ブラーゼン 谷順成
「ただ参加するだけでなく、チームの力をしっかりと発揮できた」
第2ステージ相模原では、逃げ集団で一時バーチャルリーダーになった谷順成。総合トップ10の目標は達成したものの、経験したことのなかった総合優勝争いには反省点を挙げる。
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チームメイトとしっかりとミーティングを重ねて、全員でどうやって動いていくかということを最初に確認していましたし、それぞれの仕事に集中して取り組めていたからこそ、自分が最後に良い位置でゴールできたのかなと感じています。TOJにただ参加するだけでなく、那須ブラーゼンというチームの力をしっかりと発揮できたと思いますし、皆さんにもしっかりとアピールできたと思うので、成果はあったのではないかと思います。
第1ステージで目標とする個人総合トップ10内に入りましたが、守りに入らずにステージ優勝を獲る勢いでいこうと話し合っていました。前で動いて3人を逃げに送り込んで、総合逆転も見える走りができたので、チームのチャレンジとしてはとても良かったと思っています。ただ同時に、自分としてはステージレースで総合争いに絡むということが今までなかったので、経験不足で逃げ集団内で上手く立ち回れなかった部分もありました。次に同じようなチャンスがあればこの経験を活かして勝ちたいです。
今回の成果をしっかりと糧にして、さらに個人としてもチームとしても飛躍していけるようにしたいです」
那須ブラーゼン 若杉厚仁監督兼CEO
「収穫のあったTOJ 最後の詰めの判断や経験値は今後の課題」
2015年以来の出場となった那須ブラーゼンはダークホース的な活躍を見せ、谷の総合9位という結果を残した。若杉監督はこの結果をどのように見ているのか。
「特殊な状況下での開催ではありましたが、少なくとも国内の最強チームがそろうレースですのでチームとしてできる限りのチャレンジをしよう、十分それに叶うだけの実力はあるという話をしてレースに臨みました」
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チームとしては、富士山のステージではどうしてもタイム差がついてしまうので、我々としては戦前から第2ステージを重要ステージに定めていました。そのうえで、富士山ステージで思いのほか選手たちが残ることができましたし、谷も実力を発揮してステージ7位に入ることができました。それであれば、もともと想定していた動きにプラスして、個人総合のジャンプアップを目指す動きをしていこうと話し合って、それがうまい具合にハマりましたし、攻める走りができたのではないかと思います」
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まず何より、このような状況下でこのような素晴らしい舞台を用意していただけたことを嬉しく思いますし、大会関係者、開催地の皆様に感謝したいと思います。また、国内最強のチームが出そろってレースを走れたことも、率直に嬉しく思いました」
text:Nobumichi KOMORI, Satoru Kato
photo:Satoru Kato, Kensaku SAKAI, Tour of JAPAN, KINAN Cycling Team
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