まさに手に汗握る、ライバル同士の一騎打ち。落車とパンクで形勢が変わるシーソーゲームの末、マチュー・ファンデルプール(オランダ)がワウト・ファンアールト(ベルギー)を退け勝利。3年連続4度目のシクロクロス世界チャンピオンに輝いた。



第一コーナーを見据えるマチュー・ファンデルプール(オランダ)第一コーナーを見据えるマチュー・ファンデルプール(オランダ) photo:Nobuhiko Tanabeワウト・ファンアールト(ベルギー)がスタートを待つワウト・ファンアールト(ベルギー)がスタートを待つ photo:Nobuhiko Tanabe

男子エリートレースがスタート。ファンアールトがピドコックを跳ね除ける男子エリートレースがスタート。ファンアールトがピドコックを跳ね除ける photo:Nobuhiko Tanabe
ベルギー最西端に位置する海沿いの街、オステンドで2日間続いたシクロクロス世界選手権の最終レースは、向こう1年間の世界チャンピオンを決定付ける男子エリート。コースの約20%が海沿いの深い砂という特殊なレイアウトを持つコース上では、今年も世界一を決めるにふさわしい白熱したレースが展開されることになる。

波打ち際区間へと入るファンデルプールとファンアールト波打ち際区間へと入るファンデルプールとファンアールト photo:Nobuhiko Tanabe
砂区間でリードを奪うワウト・ファンアールト(ベルギー)砂区間でリードを奪うワウト・ファンアールト(ベルギー) photo:Nobuhiko Tanabe
ファンアールトを追うマチュー・ファンデルプール(オランダ)ファンアールトを追うマチュー・ファンデルプール(オランダ) photo:Nobuhiko Tanabe
天気晴朗なれども波高し。気温1度、風速18km/hという北海沿いらしい天候の中、15時10分に15カ国から集った44名が一斉にスタート。マチュー・ファンデルプール(オランダ)がホールショットを獲り、トーマス・ピドコック(イギリス)を肩で弾いたワウト・ファンアールト(ベルギー)が直後のフライオーバーで先頭に立つ。レース開始直後から繰り広げられる、ライバル同士の戦いは他選手のペースを凌駕した。

サンドセクションを、21%勾配の巨大なフライオーバーを通過するたびに後続グループとの差を広げていくマチューとワウト。その後方ではローレンス・スウェーク、クィンティン・ヘルマンス、トーン・アールツ、マイケル・ファントーレンハウトというベルギー4名が続く。他選手と絡んだピドコックが10番手付近まで順位を落とした一方、最後尾スタートの元世界王者ゼネク・スティバル(チェコ)は圧巻のダッシュで一気に17番手までポジションを上げてみせた。

3番手グループを率いるマイケル・ファントーレンハウト(ベルギー)3番手グループを率いるマイケル・ファントーレンハウト(ベルギー) photo:Nobuhiko Tanabe
混戦の隊列中盤。スティーブ・シェネル(フランス)は27位に混戦の隊列中盤。スティーブ・シェネル(フランス)は27位に photo:Nobuhiko Tanabeフェリペ・オルツ(スペイン)が普段の調子を出せず26位にフェリペ・オルツ(スペイン)が普段の調子を出せず26位に photo:Nobuhiko Tanabe

元世界王者ゼネク・スティバル(チェコ)は圧巻のダッシュでポジションを挽回元世界王者ゼネク・スティバル(チェコ)は圧巻のダッシュでポジションを挽回 photo:Nobuhiko Tanabe
先頭を突き進む二人のうち、深いサンドセクションで完璧なコントロールを披露したのはファンアールトだった。オランダ勢の4カテゴリー完全制覇に待ったをかけるべくプレッシャーを掛けるファンアールトの背後では、ファンデルプールが降車を強いられ若干のリードを許してしまう。その差が3秒ほどまで広がったタイミングで、深い轍に前輪を取られたファンデルプールが宙を舞った。

ファンデルプールは幸い身体とバイクに問題はなくすぐさまレース復帰したものの、逃げるファンアールトとの差は12秒まで拡大。「マチューは今季僕より勝っているからこそ、プレッシャーを感じているはずだ」と話したファンアールトの言葉通りの展開になったものの、続く3周目に両者の差は急速に縮まっていく。ファンアールトがピットから遠い位置で前輪パンクに見舞われ、両者の立場が逆転した。

中盤以降、ファンアールトとの差を広げたマチュー・ファンデルプール(オランダ)中盤以降、ファンアールトとの差を広げたマチュー・ファンデルプール(オランダ) photo:Nobuhiko Tanabe
「パンクで気持ちが切れてしまった」と言うワウト・ファンアールト(ベルギー)「パンクで気持ちが切れてしまった」と言うワウト・ファンアールト(ベルギー) photo:Nobuhiko Tanabe
銅メダル争いを続けるトーン・アールツ(ベルギー)とトーマス・ピドコック(イギリス)	銅メダル争いを続けるトーン・アールツ(ベルギー)とトーマス・ピドコック(イギリス) photo:Nobuhiko Tanabe
ペースダウンを強いられ、ライバルの先行を許したファンアールト。ピットでバイク交換を行いペースを取り戻したものの、一度開いた10秒の差は縮まりこそすれ、ゼロになることはなかった。「コンディションが良かったぶんパンクが悔やまれる。(レース開始後)30分くらいで負けたと思う。一度マチューとの距離が縮まったけれど、脚が終わってしまった」と悔やむファンアールトを尻目に、力強い走りを維持したファンデルプールがリードを10秒、15秒と広げていった。

その後方を走る3位グループから抜け出したのは、今季今ひとつ調子の上がらないまま世界選手権に挑んだアールツだった。さらに3月1日からイネオス・グレナディアーズ入りするピドコックが猛追し、スウェークらベルギー勢を抜き去って4番手。パワーコースに自信を覗かせていたスティバルは順位を維持し、この日5分42秒遅れの18位で6年ぶりの世界選手権を終えることとなる。

サンドセクションでも、そしてフライオーバーの登りの中間計測でもファンアールトを上回って突き進むファンデルプールは、最後までリードを崩すことなく8周回を走りきり、フィニッシュ。2回右腕を築き上げ、3年連続4度目のシクロクロス世界王者に輝くとともに、母国オランダに今大会4カテゴリー完全制覇を届けることに成功した。

拳を振り上げてフィニッシュするマチュー・ファンデルプール(オランダ)拳を振り上げてフィニッシュするマチュー・ファンデルプール(オランダ) photo:Nobuhiko Tanabe
マチュー・ファンデルプール(オランダ)が表彰会場へマチュー・ファンデルプール(オランダ)が表彰会場へ photo:Nobuhiko Tanabe
直接的なランデブーこそ短時間だったものの、互いのミスで生まれた10秒差の攻防戦を制したファンデルプールは、「ワウトがパンクで戻ってきたのはラッキーだった」と打ち明ける。「それ以外の方法で彼に追いつけたかどうかは分からない。ただしそれでも、その時点でレースは決まっていなかったし、周回を重ねるごとに調子が上がっていくのを感じていた。コースにも慣れていったんだ。レースの後半戦は全てをコントロール下に置くことができていた」と振り返っている。

3年連続4度目の世界王者となったマチュー・ファンデルプール(オランダ)3年連続4度目の世界王者となったマチュー・ファンデルプール(オランダ) photo:Nobuhiko Tanabe
2位ファンアールト、1位ファンデルプール、3位アールツ2位ファンアールト、1位ファンデルプール、3位アールツ photo:Nobuhiko Tanabe
一方、「いつものような反撃ができず、自分自身にがっかりしている。いつものようなモチベーションが今日はなかった」と悔やむのは銀メダルに終わったファンアールト。「最初の2周は完璧な走りだったと思うけれど、その一方体力を費してしまったことも事実。世界選手権に勝つためには全てが100%でないといけない。パンクの後メンタルが崩れ、それ以上プッシュできなくなってしまった」と打ち明ける。

「マチューと僕は対等に渡り合えるがゆえ、リードした方が有利な展開に持ち込める。今日はそういう理想的な展開に持ち込んだものの、パンクでチャンスを無駄にしてしまった。今はがっかりしているけれど、もちろんマチューはチャンピオンにふさわしい選手だ。彼の走りは非常に力強く、あれ以上差を縮めることはできなかった。幸い次のレースはいつでもある。1週間の休息を経てから来年大会に向けてチャレンジしていきたい」と、ファンアールトはライバルを讃えている。

3番手を走るアールツは猛烈な勢いで迫るピドコックのプレッシャーを跳ね除け、笑顔で銅メダルを獲得。ピドコック以降はスウェーク、ファントーレンハウト、イゼルビッド、ヘルマンス、ファンデルハール、ニューウェンハイス、ファンケッセル、フェルメルシュと、12位までベルギーとオランダ勢が独占。日本でも馴染深いフェリペ・オルツ(スペイン)とスティーブ・シェネル(フランス)はそれぞれ26位と27位でレースを終えている。
シクロクロス世界選手権2021 男子エリート結果
1位 マチュー・ファンデルプール(オランダ) 58:57
2位 ワウト・ファンアールト(ベルギー) 0:37
3位 トーン・アールツ(ベルギー) 1:24
4位 トーマス・ピドコック(イギリス) 1:37
5位 ローレンス・スウェーク(ベルギー) 2:05
6位 マイケル・ファントーレンハウト(ベルギー) 2:14
7位 エリ・イゼルビッド(ベルギー) 2:18
8位 クィンティン・ヘルマンス(ベルギー) 2:23
9位 ラース・ファンデルハール(オランダ) 2:41
10位 ヨリス・ニューウェンハイス(オランダ) 3:15

text:So Isobe

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