2020/12/30(水) - 17:12
2020年シーズン国内レースプレーバックを2回に渡ってお届けする。第1回は、3ヶ月遅れながらも開幕にこぎつけたJプロツアーを振り返る。
事態が急転した3月後半 7月前半までレースのない期間が続く
2020年、世界中が新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受ける中、UCI(国際自転車競技連合)は3月15日に感染拡大地域でのイベント中止要請を発表した。
3月20日にスタートする予定だった「ツール・ド・とちぎ(UCI2.2)」は、無観客開催に加え、非UCIレースとしての開催も検討していたが、開催直前になって中止を決定。5月に予定されていた国内最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン(UCI2.1)」も、3月25日に発表された東京五輪延期にあわせ中止が発表された。以降、レースの中止や延期が続々と発表される前例のない事態が続き、一度は延期が発表された全日本選手権も最終的に中止が決まった。
JBCF(一般社団法人 全日本実業団自転車競技連盟)が主催する国内ロードレースのシリーズ戦「Jプロツアー」は、UCIが管轄するレースではないものの、緊急事態宣言やイベント開催自粛要請などを受け、4月に予定していた開幕戦を延期。6月まで一切レースが開催されない状態が続いた。
Jプロツアー東日本ロードクラシックで国内レース開幕
7月下旬、国内大会の先陣を切る形で、Jプロツアーは開幕に踏み切った。
JBCFは4月に予定されていた「東日本ロードクラシック」を、3日間無観客で開催すると決定。6月に新たに就任した安原理事長の元、新型コロナウィルス感染防止対策を施し、開催地との調整を経て開催にこぎつけた。
本来であれば東京五輪のロードレースが開催されるはずだった日程…7月23日、開幕戦のスタートラインに17チーム110名が揃った。参戦を見合わせたチームや選手もあったものの、昨年シリーズチャンピオンを争ったマトリックスパワータグや宇都宮ブリッツェンだけでなく、海外レースを主戦場とするキナンサイクリングチームやチーム右京が揃い、3日間ともに緊張感のあるレースが展開された。
初日の120kmのレースを制したのは、キナンサイクリングチームの山本元喜。なんと2018年の全日本選手権で優勝して以来の勝利だと言う。
翌日からは宇都宮ブリッツェンが組織力を発揮した。2日目、60kmの短距離レースは、終盤に宇都宮ブリッツェンが全ての逃げを吸収してスプリント勝負に持ち込み、表彰台を独占。3日目の132kmのレースは、終盤に大雨となる中、Jプロツアーで幾度も対決してきた増田成幸とホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)とマッチスプリントとなり、増田が優勝。フィニッシュの瞬間、増田は感情を露わにして吠えた。
8月、延期されていた宇都宮ラウンドが開催された。2020年シーズン初となる公道レースは、開催地の自治体の理解があってこそ出来た大会だ。この宇都宮ラウンドから、開幕3戦の出場を見合わせたチームブリヂストンサイクリングが参戦を開始した。
宇都宮クリテリウムは、個人対個人のスプリント勝負となり、宇都宮ブリッツェンの小野寺玲が優勝して3連覇達成。地元チームとしてのプライドを見せた。翌日の宇都宮ロードレースでは、残り2kmから独走に持ち込んだキナンサイクリングチームのトマ・ルバが優勝。今シーズン2勝目を挙げたキナンサイクリングチームは、この後もレース展開の要所に絡むことになる。
お盆明けの8月22日、23日は、Jプロツアー第6戦、第7戦となる「群馬CSC交流戦8月大会」。JプロツアーのレースにE1クラスタの選手が出走出来る今年唯一の交流戦だ。
初日はスタート後に雷雲の接近により天候が悪化したためキャンセル。2日目も雷雨の予報があったものの、前日とは逆にスタート後に天候が回復。120kmのレースは小集団のスプリント勝負に持ち込まれ、石原悠希(ヒンカピー・リオモ・ベルマーレ・レーシングチーム)が、Jプロツアー初優勝を挙げた。
第8戦、第9戦は、今シーズン初の西日本での開催。4月から延期されていた「西日本ロードクラシック」が、全日本選手権が開催される予定だった広島中央森林公園で開催された。
61.5kmの短距離レースとなった初日は、3名を先頭集団に残したキナンサイクリングチームが圧倒し、山本大喜が初優勝。2日目は1周目に形成された逃げ集団が人数を減らしながらも最後まで逃げ切り、阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)がルバ、トリビオの強豪2人をスプリントで下して久々のロードレース 勝利を挙げた。
混戦となった女子のJフェミニンツアー
今年のJプロツアーは、例年であれば海外レース参戦のため欠場するチームがシーズンを通して出場したことで多彩なレース展開が生まれた。コロナ禍による副産物とも言えるが、国内レースの可能性を見せた。
女子レースも同様なことが言えた。女子のシリーズ戦「Jフェミニンツアー」には、海外チームに所属して活動する樫木祥子が参戦。シーズン前半にはリーダージャージを着用し、計3勝を挙げた。一方で、高校生の渡部春雅(駒沢大学高校)と垣田真穂(松山城南高校)が、それぞれ1勝を挙げたことも特筆すべきことだろう。
マンセボ再来日で潮目が変わったJプロツアー後半戦
9月前半に予定されていたレースが中止となり、Jプロツアーは約1ヶ月のインターバル期間を経て9月下旬に再開した。
第10戦、第11戦の「広島森林公園ロードレース」に合わせて、マトリックスパワータグのフランシスコ・マンセボが再来日。安原監督によれば、マンセボは自宅から片道70kmもある日本大使館に毎日自転車で通い続け、来日の可能性を探っていたという。さらに、開幕から出場を見合わせていたシマノレーシングが参戦し、初めてJプロツアー全18チームがスタートラインに揃った。
マンセボにより息をふき返したマトリックスパワータグは、初日の147.6kmのレースを掌握。力を発揮しきれていなかったレオネル・アレクサンダー・キンテロ・アートアーガを初勝利に導いた。
2日目は73.8kmの短距離レース。ここでもマンセボがレースをまとめ、最後は集団スプリント勝負へ。審判業務に入っていた両親が見守る前で、西村大輝(宇都宮ブリツェン)が初勝利を挙げた。連勝とはならなかったものの、3位に入ったキンテロが個人総合首位となり、リーダージャージを獲得。残りのシーズンをリードしていくことになる。
10月、大分市で予定されていたUCIレースが中止となり、代わりにJプロツアーとして開催されることになった。大分市でのJプロツアー開催は2017年以来3年ぶり。今シーズンのJプロツアーでは、宇都宮ラウンドに次ぐ2例目の公道レースとなった。
大分駅前で行われた「おおいた いこいの道クリテリウム」では、序盤からマトリックスパワータグがレースをコントロールする中、終盤にはチームブリヂストンサイクリングが主導権を奪い、沢田桂太郎のJプロツアー初勝利につなげた。
翌日の「おおいたサイクルロードレース」は、ラグビーワールドカップの会場にもなった昭和電工ドーム大分周辺を周回するレース。神経質な展開となったレースは、マンセボがホセ・ビセンテ・トリビオの今シーズン初勝利をお膳立て。マンセボは表彰台にこそ乗らなかったものの、存在感の大きさを印象付けた。
最終戦は、開幕戦と同じ群馬サイクルスポーツセンターに戻っての「経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップ」。レース距離は、6kmサーキットを30周する180km。近年のJBCF主催レースでは異例の長距離で争われた。
中盤までは逃げ集団が先行してゆっくりと進行していたレースは、残り5周からコントロールを開始したマトリックスパワータグがまとめ上げ、最後はキンテロとマンセボが抜け出し、揃ってフィニッシュラインを越えた。トリビオが3位に入り、マトリックスパワータグが表彰台を独占。4年連続で真紅の輪翔旗を獲得し、キンテロの総合優勝とチーム総合優勝を決めた。
次回はシーズン終盤に集中した各種目の全日本選手権を中心にプレーバック。あわせて、Jプロツアーとジャパンサイクルリーグに分かれる2021年国内ロードレースについて、現時点での状況を整理する。
text:Satoru Kato
事態が急転した3月後半 7月前半までレースのない期間が続く
2020年、世界中が新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受ける中、UCI(国際自転車競技連合)は3月15日に感染拡大地域でのイベント中止要請を発表した。
3月20日にスタートする予定だった「ツール・ド・とちぎ(UCI2.2)」は、無観客開催に加え、非UCIレースとしての開催も検討していたが、開催直前になって中止を決定。5月に予定されていた国内最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン(UCI2.1)」も、3月25日に発表された東京五輪延期にあわせ中止が発表された。以降、レースの中止や延期が続々と発表される前例のない事態が続き、一度は延期が発表された全日本選手権も最終的に中止が決まった。
JBCF(一般社団法人 全日本実業団自転車競技連盟)が主催する国内ロードレースのシリーズ戦「Jプロツアー」は、UCIが管轄するレースではないものの、緊急事態宣言やイベント開催自粛要請などを受け、4月に予定していた開幕戦を延期。6月まで一切レースが開催されない状態が続いた。
Jプロツアー東日本ロードクラシックで国内レース開幕
7月下旬、国内大会の先陣を切る形で、Jプロツアーは開幕に踏み切った。
JBCFは4月に予定されていた「東日本ロードクラシック」を、3日間無観客で開催すると決定。6月に新たに就任した安原理事長の元、新型コロナウィルス感染防止対策を施し、開催地との調整を経て開催にこぎつけた。
本来であれば東京五輪のロードレースが開催されるはずだった日程…7月23日、開幕戦のスタートラインに17チーム110名が揃った。参戦を見合わせたチームや選手もあったものの、昨年シリーズチャンピオンを争ったマトリックスパワータグや宇都宮ブリッツェンだけでなく、海外レースを主戦場とするキナンサイクリングチームやチーム右京が揃い、3日間ともに緊張感のあるレースが展開された。
初日の120kmのレースを制したのは、キナンサイクリングチームの山本元喜。なんと2018年の全日本選手権で優勝して以来の勝利だと言う。
翌日からは宇都宮ブリッツェンが組織力を発揮した。2日目、60kmの短距離レースは、終盤に宇都宮ブリッツェンが全ての逃げを吸収してスプリント勝負に持ち込み、表彰台を独占。3日目の132kmのレースは、終盤に大雨となる中、Jプロツアーで幾度も対決してきた増田成幸とホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)とマッチスプリントとなり、増田が優勝。フィニッシュの瞬間、増田は感情を露わにして吠えた。
8月、延期されていた宇都宮ラウンドが開催された。2020年シーズン初となる公道レースは、開催地の自治体の理解があってこそ出来た大会だ。この宇都宮ラウンドから、開幕3戦の出場を見合わせたチームブリヂストンサイクリングが参戦を開始した。
宇都宮クリテリウムは、個人対個人のスプリント勝負となり、宇都宮ブリッツェンの小野寺玲が優勝して3連覇達成。地元チームとしてのプライドを見せた。翌日の宇都宮ロードレースでは、残り2kmから独走に持ち込んだキナンサイクリングチームのトマ・ルバが優勝。今シーズン2勝目を挙げたキナンサイクリングチームは、この後もレース展開の要所に絡むことになる。
お盆明けの8月22日、23日は、Jプロツアー第6戦、第7戦となる「群馬CSC交流戦8月大会」。JプロツアーのレースにE1クラスタの選手が出走出来る今年唯一の交流戦だ。
初日はスタート後に雷雲の接近により天候が悪化したためキャンセル。2日目も雷雨の予報があったものの、前日とは逆にスタート後に天候が回復。120kmのレースは小集団のスプリント勝負に持ち込まれ、石原悠希(ヒンカピー・リオモ・ベルマーレ・レーシングチーム)が、Jプロツアー初優勝を挙げた。
第8戦、第9戦は、今シーズン初の西日本での開催。4月から延期されていた「西日本ロードクラシック」が、全日本選手権が開催される予定だった広島中央森林公園で開催された。
61.5kmの短距離レースとなった初日は、3名を先頭集団に残したキナンサイクリングチームが圧倒し、山本大喜が初優勝。2日目は1周目に形成された逃げ集団が人数を減らしながらも最後まで逃げ切り、阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)がルバ、トリビオの強豪2人をスプリントで下して久々のロードレース 勝利を挙げた。
混戦となった女子のJフェミニンツアー
今年のJプロツアーは、例年であれば海外レース参戦のため欠場するチームがシーズンを通して出場したことで多彩なレース展開が生まれた。コロナ禍による副産物とも言えるが、国内レースの可能性を見せた。
女子レースも同様なことが言えた。女子のシリーズ戦「Jフェミニンツアー」には、海外チームに所属して活動する樫木祥子が参戦。シーズン前半にはリーダージャージを着用し、計3勝を挙げた。一方で、高校生の渡部春雅(駒沢大学高校)と垣田真穂(松山城南高校)が、それぞれ1勝を挙げたことも特筆すべきことだろう。
マンセボ再来日で潮目が変わったJプロツアー後半戦
9月前半に予定されていたレースが中止となり、Jプロツアーは約1ヶ月のインターバル期間を経て9月下旬に再開した。
第10戦、第11戦の「広島森林公園ロードレース」に合わせて、マトリックスパワータグのフランシスコ・マンセボが再来日。安原監督によれば、マンセボは自宅から片道70kmもある日本大使館に毎日自転車で通い続け、来日の可能性を探っていたという。さらに、開幕から出場を見合わせていたシマノレーシングが参戦し、初めてJプロツアー全18チームがスタートラインに揃った。
マンセボにより息をふき返したマトリックスパワータグは、初日の147.6kmのレースを掌握。力を発揮しきれていなかったレオネル・アレクサンダー・キンテロ・アートアーガを初勝利に導いた。
2日目は73.8kmの短距離レース。ここでもマンセボがレースをまとめ、最後は集団スプリント勝負へ。審判業務に入っていた両親が見守る前で、西村大輝(宇都宮ブリツェン)が初勝利を挙げた。連勝とはならなかったものの、3位に入ったキンテロが個人総合首位となり、リーダージャージを獲得。残りのシーズンをリードしていくことになる。
10月、大分市で予定されていたUCIレースが中止となり、代わりにJプロツアーとして開催されることになった。大分市でのJプロツアー開催は2017年以来3年ぶり。今シーズンのJプロツアーでは、宇都宮ラウンドに次ぐ2例目の公道レースとなった。
大分駅前で行われた「おおいた いこいの道クリテリウム」では、序盤からマトリックスパワータグがレースをコントロールする中、終盤にはチームブリヂストンサイクリングが主導権を奪い、沢田桂太郎のJプロツアー初勝利につなげた。
翌日の「おおいたサイクルロードレース」は、ラグビーワールドカップの会場にもなった昭和電工ドーム大分周辺を周回するレース。神経質な展開となったレースは、マンセボがホセ・ビセンテ・トリビオの今シーズン初勝利をお膳立て。マンセボは表彰台にこそ乗らなかったものの、存在感の大きさを印象付けた。
最終戦は、開幕戦と同じ群馬サイクルスポーツセンターに戻っての「経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップ」。レース距離は、6kmサーキットを30周する180km。近年のJBCF主催レースでは異例の長距離で争われた。
中盤までは逃げ集団が先行してゆっくりと進行していたレースは、残り5周からコントロールを開始したマトリックスパワータグがまとめ上げ、最後はキンテロとマンセボが抜け出し、揃ってフィニッシュラインを越えた。トリビオが3位に入り、マトリックスパワータグが表彰台を独占。4年連続で真紅の輪翔旗を獲得し、キンテロの総合優勝とチーム総合優勝を決めた。
次回はシーズン終盤に集中した各種目の全日本選手権を中心にプレーバック。あわせて、Jプロツアーとジャパンサイクルリーグに分かれる2021年国内ロードレースについて、現時点での状況を整理する。
text:Satoru Kato
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