2020/11/29(日) - 23:19
勝負を分けたのは最終ピットに入るか否か。不得意なコースで粘り続ける織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)を最後のスプリントで退けた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が2016年以来4年ぶりとなる全日本王者に輝いた。
スタート直後のぬかるみセクションに突入する男子エリートの集団 photo:MakotoAYANO
周囲を取り囲む山からの吹き下ろしこそあれど、10度前後まで気温が上がる(この競技としては)過ごしやすいコンディションに恵まれたシクロクロス全日本選手権最終レース、男子エリート。しかしその気温と太陽がコース上の泥を身体とバイクにまとわりつく硬いものに変貌させ、コース上ではピットワークも含めた総合力を問う60分レースが展開された。
エリート男子が2回めの全日本CX開催の舞台となった飯山市長峰スポーツ公園へと走り出す photo:Makoto AYANO
選りすぐられた67名がスタートした男子エリートレースは、かつてこの長峰スポーツセンターで行われた大雪レースで勝利した横山航太(シマノレーシング)のホールショットで動き出す。横山と長年良きライバル関係を築いてきた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が続き、小坂光(宇都宮ブリッツェン)、竹之内悠(ToyoFrame)、前田公平&織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)の順で最初のキャンバー区間をクリアした。
1周目の大キャンバーを行く先頭グループ。先頭に立つ沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling) photo:Makoto AYANO
泥の急勾配をよじ登る先頭グループ。滑って足がもつれる photo:Makoto AYANO
MTBクロスカントリーの絶対王者であり、先日12回目のナショナルタイトルを射止めた山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)は7番手につけたが、パワーを発揮できる区間が少ないコースで思うように順位を上げられない。地元飯山の期待を一身に背負う竹内遼(FUKAYA RACING)は10番手以降から着実にポジションを上げていった。
沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)をリードする photo:Makoto AYANO
地元の長野開催で期待された横山航太(シマノレーシング)が苦戦する photo:Makoto AYANO
乗車率の低さにパワーが活かしきれない走りの山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) photo:Makoto AYANO
1周目中盤に入ると沢田と前田が若干抜け出したが、ランニング区間で前田が遅れ、代わってエリート挑戦初年度の織田が沢田に食らいつく。勢い良い走りを披露する竹内が3番手に浮上した2周目には、既に沢田と織田は10秒程度のリードを築き上げていた。
織田聖をリードする沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling) photo:MakotoAYANO
苦戦を強いられた小坂光(宇都宮ブリッツェン) photo:Makoto AYANO
ディフェンディングチャンピオンの前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)は精彩を欠いた photo:Makoto AYANO
「自分の過去のレースで最も勝率が高いのは独走に持ち込むこと。だから2周目、3周目から一人になりたかった」と言う沢田はぐいぐいとレースを引っ張り、今季JCXレースで3連勝している織田にプレッシャーをかけていく。決して得意と言えない泥レースの織田は2周目に落車を喫したものの、沢田に水を開けられることなく食らいつく。
沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)を従えて林間コースへと担ぐ photo:Makoto AYANO
「ペースを上げても張り付かれたので、彼の不得意コースだとしても強いぞと感じました。正直だいぶ弱気になりかけましたが、このコースは前に出ている方が有利。後ろ(3番手以降)が離れていたこともあって、舗装路でも落ち着いてローテーションを回しました」と、沢田は織田とのランデブーを振り返っている。
難セクションでの乗車テクニックが光る竹内遼(FUKAYA RACING) photo:Makoto AYANO
合計7周回で行われることが決まったレースは、沢田と織田の先頭グループを竹内が一人追走し、4番手に小坂、5番手に山本というオーダーで進んでいく。パワーとスキル、そしてランニング力と忍耐力が求められる重馬場レースでトップグループがハイペースを刻んだため、2周目終了時点から80%ルールによるカットが始まることに。この日の完走人数は僅か10名に留まった。
林間の泥のスイッチバックをこなす沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)と織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Makoto AYANO
1週間前に開催された関西シクロクロス・マキノ大会とは違い、高く間隔の狭い2連シケインで得意のバニーホップを封じられた(=飛ぶと遅いという)織田は、沢田のペースアップに対応しながら食らいつく。「今日は時と聖が本当に強かった」とライバルに言わしめるほど、先頭2人の走りは抜きん出て力強く映った。
お互い譲らず急登をこなす沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)と織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Makoto AYANO
ひりつくような緊張感を伴いながら、確実にフィニッシュまでの距離を削っていく沢田と織田。最終周回に入ると沢田がパワフルなアタックを繰り出すも、織田が引き戻し、コース中〜後半の階段区間ではカウンターアタック。すると直後に現れたこの日最後のピットに織田が入った一方、沢田はピットイン無しを選択。1〜2秒をやり取りする攻防戦の末、先頭沢田、2番手織田という順番でコース終盤のキャンバー区間に突入した。
「最終コーナーを前で立ち上がれさえすれば、スプリントで並ばれることはないと分かっていました。ピットを通過して前に出れたことは予想外でしたが、チャンスでしたね。前に出てからは凄く緊張しました」と振り返る沢田は、フィニッシュ直前のテクニカルレイアウトを危なげなくこなし、先頭でスプリントを開始する。今季スプリント力で数々の勝利をもぎ取ってきた織田だったが、この日は沢田の戦略が上回った。
織田聖をスプリントで下し雄叫びを上げてフィニッシュする沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling) photo:Makoto AYANO
うなだれる織田の前で力強いガッツポーズを披露した沢田が、2016年以来となる2度目のシクロクロス全日本チャンピオンに輝く。フィニッシュ後に座り込み、何度も何度も勝利を噛み締めた沢田が共にレースを作った織田、そして粘りつよく単独走行を続けた竹内と共に表彰台の頂上に登った。
TEAM BRIDGESTONE Cycling監督でもある大会ディレクターの小林輝紀氏と抱き合う沢田時 photo:MakotoAYANO
泥だらけの顔を奥さんに拭いてもらう沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling) photo:Makoto AYANO
「聖がピットインすれば(聖が)負けるし、僕がピットインしたら(僕が)負けていた」、とレースが決まった瞬間を振り返る沢田。「自信はありました。3週間前の全日本MTBを終えた直後に腰を痛め、1日1時間ほどしかローラー台に乗れない状態でした。それでも治療を重ね、(前週の)マキノ直前にようやく走れるように。マキノは練習不足ゆえに勝敗よりも追い込むことが目的でしたが、よく走れた。パワーでは誰にも負けていませんでしたし、あれだけ踏めたのなら今日も前で展開すれば勝てる自信はありました」と語る新チャンピオン。ブリヂストンMTBチームの小林監督がオーガナイザーを務める”ホームレース”で、待望の勝利を掴んだ。
「目の前でガッツポーズされるのは悔しかった。正直僕向きのコースではないので勝ちは狙っておらず表彰台は嬉しいのですが...。ですが僕がピットに入っていなかったとしても、今日の時さんには勝てませんでした」と、悔しさと共に沢田の強さを讃えた織田が2位。この日随一の声援を受け続けた地元の竹内が3位に滑り込んでいる。
エリート男子 優勝した沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)、2位の織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、3位の竹内遼(FUKAYA RACING) photo:Makoto AYANO
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周囲を取り囲む山からの吹き下ろしこそあれど、10度前後まで気温が上がる(この競技としては)過ごしやすいコンディションに恵まれたシクロクロス全日本選手権最終レース、男子エリート。しかしその気温と太陽がコース上の泥を身体とバイクにまとわりつく硬いものに変貌させ、コース上ではピットワークも含めた総合力を問う60分レースが展開された。
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選りすぐられた67名がスタートした男子エリートレースは、かつてこの長峰スポーツセンターで行われた大雪レースで勝利した横山航太(シマノレーシング)のホールショットで動き出す。横山と長年良きライバル関係を築いてきた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が続き、小坂光(宇都宮ブリッツェン)、竹之内悠(ToyoFrame)、前田公平&織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)の順で最初のキャンバー区間をクリアした。
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MTBクロスカントリーの絶対王者であり、先日12回目のナショナルタイトルを射止めた山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)は7番手につけたが、パワーを発揮できる区間が少ないコースで思うように順位を上げられない。地元飯山の期待を一身に背負う竹内遼(FUKAYA RACING)は10番手以降から着実にポジションを上げていった。
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合計7周回で行われることが決まったレースは、沢田と織田の先頭グループを竹内が一人追走し、4番手に小坂、5番手に山本というオーダーで進んでいく。パワーとスキル、そしてランニング力と忍耐力が求められる重馬場レースでトップグループがハイペースを刻んだため、2周目終了時点から80%ルールによるカットが始まることに。この日の完走人数は僅か10名に留まった。
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ひりつくような緊張感を伴いながら、確実にフィニッシュまでの距離を削っていく沢田と織田。最終周回に入ると沢田がパワフルなアタックを繰り出すも、織田が引き戻し、コース中〜後半の階段区間ではカウンターアタック。すると直後に現れたこの日最後のピットに織田が入った一方、沢田はピットイン無しを選択。1〜2秒をやり取りする攻防戦の末、先頭沢田、2番手織田という順番でコース終盤のキャンバー区間に突入した。
「最終コーナーを前で立ち上がれさえすれば、スプリントで並ばれることはないと分かっていました。ピットを通過して前に出れたことは予想外でしたが、チャンスでしたね。前に出てからは凄く緊張しました」と振り返る沢田は、フィニッシュ直前のテクニカルレイアウトを危なげなくこなし、先頭でスプリントを開始する。今季スプリント力で数々の勝利をもぎ取ってきた織田だったが、この日は沢田の戦略が上回った。
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「聖がピットインすれば(聖が)負けるし、僕がピットインしたら(僕が)負けていた」、とレースが決まった瞬間を振り返る沢田。「自信はありました。3週間前の全日本MTBを終えた直後に腰を痛め、1日1時間ほどしかローラー台に乗れない状態でした。それでも治療を重ね、(前週の)マキノ直前にようやく走れるように。マキノは練習不足ゆえに勝敗よりも追い込むことが目的でしたが、よく走れた。パワーでは誰にも負けていませんでしたし、あれだけ踏めたのなら今日も前で展開すれば勝てる自信はありました」と語る新チャンピオン。ブリヂストンMTBチームの小林監督がオーガナイザーを務める”ホームレース”で、待望の勝利を掴んだ。
「目の前でガッツポーズされるのは悔しかった。正直僕向きのコースではないので勝ちは狙っておらず表彰台は嬉しいのですが...。ですが僕がピットに入っていなかったとしても、今日の時さんには勝てませんでした」と、悔しさと共に沢田の強さを讃えた織田が2位。この日随一の声援を受け続けた地元の竹内が3位に滑り込んでいる。
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男子エリート結果
1位 | 沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling) | 1:00:13 |
2位 | 織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) | +0:00 |
3位 | 竹内遼(FUKAYA RACING) | +1:29 |
4位 | 小坂光(宇都宮ブリッツェン) | +1:44 |
5位 | 山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) | +2:27 |
6位 | 横山航太(シマノレーシング) | +2:48 |
7位 | 竹之内悠(ToyoFrame) | +3:08 |
8位 | 前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム) | +5:06 |
9位 | 宮津旭(PAX PROJECT) | +5:30 |
10位 | 丸山厚(ROND CX TEAM) | +6:12 |
text:So Isobe
photo:Makoto AYANO
photo:Makoto AYANO
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