ジャーナリストやカメラマン、沿道の観客まで、話題はやはり「昨日何が起こったのか」に尽きる。総合争いにおいて半分諦めムードの観客たちが待つポルト・レカナーティに、イタリアチャンピオンジャージのフィリッポ・ポッツァート(カチューシャ)が先頭で飛び込んで来た。

激動のステージから一夜明け、再び太陽がコースを照らす

スタート地点はチッタ・サンタンジェロのショッピングセンタースタート地点はチッタ・サンタンジェロのショッピングセンター photo:Kei Tsuji「逃げグループの選手名が判明した時点で、もうタイム差は5分以上に広がっていた」。それが前日のステージで失策したリクイガスのザナッタ監督の言い分。36km地点で巨大な逃げ集団が形成され、総合成績に激震が走った第11ステージ。ガゼッタ紙は歴史的な一日の振り返りに8ページを割いた。

逃げ集団形成の原因は、様々なトラブルが重なったことにある。

前日にマリアローザを失ったアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)前日にマリアローザを失ったアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Kei Tsujiちょうど雨が降り始めるタイミングだったため、選手たちがジャケットを取りにチームカーに下がっていた。止まってジャケットを着る選手もいたため、集団はペースダウン。トンネル通過も手伝って集団のペースが落ち、そこで飛び出したいくつかのグループが先行した。

ギャップを縮めることが出来ずにタイム差が広がり、追走を始めた頃に土砂降りの雨。しかもマリアローザ擁するアスタナも、アルカンシェル擁するBMCレーシングチームも、リタイア者続出で戦力ダウン。リクイガスは4名を逃げに送り込んでいたため、集団牽引に積極的ではない。

笑顔でスタートラインに向かう新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)笑顔でスタートラインに向かう新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsujiこれらの要因が重なって、歴史的な逃げが生まれた。約50名の逃げ集団に対し、メイン集団を引く選手は実質的に30名だったとされる。

ラクイラを襲った(総合成績の)激震から一夜明け、再び太陽が元気な姿を見せる。ペスカーラ近くのチッタサンタンジェロ・ヴィレッジ(ショッピングセンター)に選手たちがやってきた。

今年は郊外型アウトレット系のショッピングセンターをスタートするのが恒例となっている。駐車場が確保しやすく、ショッピングセンターの宣伝にもなる。プレスとしてはもう少しイタリアらしい趣のあるスタート地点希望だが。


攻撃に出たイタリアのビッグネーム

スタートラインに並んだステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)とカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)スタートラインに並んだステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)とカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsuji前日の借りは次の日に返すと言わんばかりのアタック。第11ステージで大きく遅れたイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)やアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)が、最後の3級山岳で攻撃に出た。

もう開幕して2週間近くが経つが、地元イタリアは未だにステージ優勝者を出せていない。10名の逃げグループに合計7名のイタリア人選手が入ったことで、俄然ゴール地点のテンションが上がる。

新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)がスタート前にストレッチ新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)がスタート前にストレッチ photo:Kei Tsuji「ようやくイタリア人の勝利か?翌日のガゼッタ紙が盛り上がりそうだ!」なんて話をゴール地点の後方のカメラマンエリアで話していると、超ベテランカメラマンのロベルト・ベッティーニ氏が「いや、もしかしたら一面トップはアームストロングかも知れないぞ」と、例のランディスの告発を教えてくれる。ほんまかいな...。
巨匠は「ここでイタリア人が勝たないと今年のジロは本当にマズい」とも。

大型スクリーンでレースの模様を見ていると、ラスト4kmを走る集団内でエヴァンスとダニエーレ・リーギ(イタリア、ランプレ)が殴り合いを始めるシーンが映し出された。

スプリントを繰り広げる逃げグループの選手たちスプリントを繰り広げる逃げグループの選手たち photo:Kei Tsujiチームメイトのダミアーノ・クネゴ(イタリア)が逃げに乗っていたので、リーギは集団のローテーションを阻害する動きを見せたのだが、そのことがカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)の気に触れたのだ。

「リーギの走りはスポーツの精神に反するものだ。集団先頭に出てブレーキをかけようとした。本当に危険な行為だ」とエヴァンスはリーギを糾弾。対するリーギは「自分はランプレチームのために走っている。だからローテーションに加わらないのは当然の行為だ。それよりも殴りつけるなんて世界チャンピオンのすることじゃない」と反論する。

スプリントで先頭に立つフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)、後方からトマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)が対抗スプリントで先頭に立つフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)、後方からトマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)が対抗 photo:Kei Tsujiレース後、審判はエヴァンスとリーギに2000スイスフラン(約16万円)の罰金を課した。本当に今年のジロは毎日いろんなところでいろんなことが起こる・・・。

ゴール後に分かったのだが、エヴァンスはラスト7km地点でもルーカ・マッツァンティ(イタリア、カチューシャ)と小競り合いを起こしていた。前日のステージを終えて、エヴァンスは非常にピリピリしている。メディアへの友好的な笑顔が少なくなって来た。

トリコローレを着るフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)が優勝トリコローレを着るフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)が優勝 photo:Kei Tsuji話をレースに戻すと、ラスト3kmあたりで、逃げグループのフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)が胸元で十字を切るのが見えた。

後方から迫り来る集団を振り切って、最後まで冷静さを失わなかったピッポ(ポッツァート)がラスト150mでスプリント開始。ゴール地点を先頭で駆け抜けるイタリアチャンピオンジャージの姿に、どこかイタリアの意地を感じた。

集団内でゴールするカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)集団内でゴールするカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsujiそしてもう一人意地を見せたのがバッソ。「まだ総合を諦めていない。今まで通りの走りをしていては総合逆転は狙えない。攻撃的にレースを進め、遠くからアタックを仕掛ける必要がある。自分の持ち味は3週間に渡ってレベルを維持する耐久力だ。コースが厳しさを増すとともに、その耐久力が活きる。今年のジロは予測不能で、毎日何が起こるか分からない。今日のような短い上りでもタイム差が広がる可能性があったんだ」。

バッソはポルトとのタイム差を10秒詰めたが、それでもまだ「埋めるべき溝」が11分39秒もある。イタリア勢は最終週の山岳で攻撃的な走りを見せてくれるだろう。

トマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)は僅差のステージ2位。ゴールがあと数メートル遠ければ結果は違っていたかもしれない。しかし負けは負け。昨年の第20ステージに続いて、ヴォクレールはまたもジロのステージ2位の苦汁をなめた。

レース後、Bboxブイグテレコムのアルノー監督に聞く。「トマは賢い走り方をした。総合成績挽回を狙うバッソやヴィノクロフに逃げグループを引かせていたんだ。最後はあと一歩届かなかったが、ステージ優勝に手が届くレベルにあることを証明してみせた。どんなコースにも対応出来る選手であり、今後のステージでも充分に期待出来る」。悔しさを滲ませながらもこれからのステージに希望を繋ぐコメントだ。

スタート前に「少人数での逃げを試みるにはコースの難易度が低いですね。ゴール前の平坦路が長過ぎます」と語っていた新城幸也は、ウィリアム・ボネ(フランス)の発射台としての役目を果たし、有力スプリンターに混ざって22位でゴール。ボネは集団の先頭から5番目でゴールした。

狙うステージでは力を尽くし、狙わないステージでは力をセーブ。ユキヤはここまで上手く力を使い分けている。昨年のツール・ド・フランスの経験が活きていると本人も認める。前日のステージでは大きく遅れたことで25ポイント減点のペナルティーを受けたが、ステージ優勝&完走が目標のユキヤには影響しない。

本格的な山岳突入まで残り2ステージ。翌日は故マルコ・パンターニに捧げるチェゼナティコステージだ。

追記:サーディンの美味しさにうなる

サーディンの乗ったバゲットサーディンの乗ったバゲット photo:Kei Tsuji電話レポートで「海の美味しいものを食べて下さいね」と言われていたので、是非そうしようと思いながらプレスセンターで仕事。すると他のカメラマンが皿にこんもりとパスタやバゲットを乗せてニコニコ顔で帰ってくるではないか。

地元のレストランがプレスや大会関係者向けに出していたもので、自分もここぞとばかりに食べまくった。特にサーディンのバゲットは、仕事が手に付かないほど美味しくて、10枚は食べた(美味しくて数えることも忘れた)。またじっくりとこのマルケ州を旅行したいと思う。

text&photo:Kei Tsuji

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