2010/05/19(水) - 11:52
レースの先頭でラスト1kmのアーチを通過する新城幸也(Bboxブイグテレコム)を見るのはこれが2回目だ。1回目は逃げグループからアタックした第5ステージ。そして発射台役として集団スプリントに挑んだ第10ステージ。再びユキヤがその元気な姿を見せてくれた。
久々の好天 南イタリアの勢いに圧倒される
観客の貪欲さにシュコダのスタッフも少しウンザリ気味 photo:Kei Tsuji比較的長めの230kmの平坦コースで行なわれた第10ステージ。ナポリの東部に位置するアヴェリーノの街がジロ・デ・イタリアのスタート地点を迎えるのは2年連続。そう言えば昨年も街中のカオス具合に苦労した。
アヴェリーノの観客たちのキャラバングッズに対する執着心はすごい。いつも笑顔で帽子を配っているシュコダの女性スタッフも、あまりの激しいグッズ争奪戦にウンザリしている感じ。完全に人を選んで帽子を配り歩いていた。
観客のサインに快く応じる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsujiイタリア半島はよく長靴に例えられる。この日のレースはちょうど“くるぶし”の辺りを西から東へ。一帯には“くるぶし”のようなこんもりとした山々が連なり、独特の地形を形成している。230kmのコースは概ね平坦だが、緩やかなアップダウンの繰り返し。
スタート前、ユキヤに今日のステージの意気込みを聞く。「今日も平坦ステージなので逃げは無いと思います」。日本のファンが聞くと肩を落としそうな答えが返って来た。しかしそれもチームオーダーなので仕方が無い。
緩いアップダウンをこなして半島東部に向かう photo:Kei Tsuji「体調は全然問題ないですよ。やっぱりワンディレースよりもステージレースが好きです」。悪天候が続いたので少し体調を心配したが、それは杞憂に終わった。
前日の大雨が嘘のような澄み切った空の下、早々に逃げが決まったこともあり、レースはリラックスムードで進んだ。ユキヤは「アタックに加わろうかとも思いましたが、先頭でアタックが掛かっている展開のときにパンク。3人の飛び出しが決まってからはサイクリングでした。でも仮に逃げに乗っていたとしても、今日の後半は一直線の平坦路。あまり意味が無かった」と分析する。
この日はスタートからゴールまでの間に合計3カ所で撮影。気温25度ほどのポカポカ陽気が眠気を誘う。特に、補給ポイントで選手たちの到着を待っているとき、危うく睡魔に負けるところだった。
ラスト80km地点で選手たちを見送ってから、「半ズボン」が完全にネタとなっている電話レポートを終え、ゴールに向かってクルマを走らす。案の定、ゴール地点ビトントの街中は「南」特有の混雑具合。選手たちの到着1時間前にも関わらず、運転するプレスカーに向かって熱い声援が飛び込んで来た。
花咲き誇る平野部を駆ける photo:Riccardo Scanferla
ラスト1kmを2番手で駆け抜けた発射台ユキヤ
スタッフにジャケットを投げる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji撮影時、いつ見てもユキヤは集団後方に位置していたが、ゴール前になって徐々に集団前方に上がって来た。
チームHTC・コロンビアがコントロールするメイン集団がタイム差を詰める photo:Kei Tsuji「具体的な距離は分からないけど、終盤にいくつも街を抜ける辺りで徐々に前方に上がりました。ガーミンのようにメンバーを揃えてスプリンターをサポート出来ればいいですけど、今回は自分一人で位置をキープ。考えてみれば、これが今大会最初の本格的なスプリントでしたね。ガーミンやスカイ、サクソバンクがポジションを争って、総合狙いのエースがいるアスタナやBMCも参戦。先頭はゴチャゴチャでしたよ」。
黒髪をなびかせて走るその姿は、ゴール地点に設置された大型スクリーンの粗い映像からもすぐに判別可能だ。スパート気味のマッテーオ・トザット(イタリア、クイックステップ)を追って集団を牽く姿が国際映像に乗る。日本で多くのファンが興奮している姿を想像しながら、2番手でラスト1kmのアーチを通過するユキヤを見る。
ラスト数キロを好位置で走った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)が苦しい表情でゴール(ピントを外した) photo:Kei Tsujiしかしその後ろにエーススプリンターのボネの姿が無い。後ろを振り返り、ボネの姿がないことを確認したユキヤは、ステージ優勝したタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)らに抜かれ、集団内でひっそりとゴールした。
ゴール地点で待ち構えるスタッフから受け取った水を口に運び、ユキヤは「長かったです」と一言。この日の平均スピードは39.5km/h。レース時間は6時間近くに及んだ。
調子の良さを見せつけた新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji「気付いたら後ろに(ボネが)いませんでした。そこから踏み直しても、脚が残っていなかったのでスプリンターに対抗出来なかった。いつも通りの脚があれば、ステージ3位までに入れたかも知れない。でも今日はスプリント出来る脚では無かった」。
いつもケロッとした表情でゴール後のインタビューに応じてくれるユキヤだが、この日は苦しさと悔しさで顔を歪ませる。地元メディアの注目度も上がっており、ユキヤの姿を発見したイタリアンフォトグラファーたちは我先にシャッターを切る。
「今日はボネがエースでしたけど、作戦はその日になってみないと分からないです。昨日のように雨が降ればキツい展開になるし、今日のようにゆっくりとした平坦ステージだとスプリント。だから特に『絶対ボネで』という訳ではないです」。
結果だけを見れば、Bboxブイグテレコムのスプリント作戦は失敗。しかし「ユキヤ→ボネ」の体制が完全に機能すれば、スプリントでのステージ優勝の可能性は充分にあると感じた。
ここまで10ステージ走って好調をキープしている新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei TsujiBboxブイグテレコムのドミニク・アルノー監督は「中盤までずっと平穏な展開だったが、とにかくラスト2kmはカーブの連続で危険な状態だった。ユキヤはボネを集団先頭まで引き上げようとしたが、ボネはテクニカルなコースでユキヤから遅れてしまった。ボネは後で『ユキヤに付いていけなかった』と言っていたよ」と振り返る。
「このジロはユキヤにとって本当に大切な経験になるはず。そして、このジロでの走りは、ツール・ド・フランスの出場にも影響する。ここまでの走りを見る限りいい感じだ」。アルノー監督はユキヤの印象をそう語ってくれた。
さて、今年のジロはこの第10ステージが最南端。翌日の第11ステージから、最終週の山岳地帯に向けて、北上を開始する。第11ステージはルチェーラからラクイラまでの256km。今大会最長コースであり、細かいアップダウンの繰り返し。しかも再び雨が降る予報が出ている。「一番長いステージで雨かよ」。モトに乗るフォトグラファーたちは肩を落として各々のホテルに帰って行った。
text&photo:Kei Tsuji
久々の好天 南イタリアの勢いに圧倒される
![観客の貪欲さにシュコダのスタッフも少しウンザリ気味](http://axwkc.cyclowired.jp/sites/default/files/images/2010/05/19/giro10atappa05.jpg)
アヴェリーノの観客たちのキャラバングッズに対する執着心はすごい。いつも笑顔で帽子を配っているシュコダの女性スタッフも、あまりの激しいグッズ争奪戦にウンザリしている感じ。完全に人を選んで帽子を配り歩いていた。
![観客のサインに快く応じる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)](http://axwkc.cyclowired.jp/sites/default/files/images/2010/05/19/giro10atappa12.jpg)
スタート前、ユキヤに今日のステージの意気込みを聞く。「今日も平坦ステージなので逃げは無いと思います」。日本のファンが聞くと肩を落としそうな答えが返って来た。しかしそれもチームオーダーなので仕方が無い。
![緩いアップダウンをこなして半島東部に向かう](http://axwkc.cyclowired.jp/sites/default/files/images/2010/05/19/giro10atappa20.jpg)
前日の大雨が嘘のような澄み切った空の下、早々に逃げが決まったこともあり、レースはリラックスムードで進んだ。ユキヤは「アタックに加わろうかとも思いましたが、先頭でアタックが掛かっている展開のときにパンク。3人の飛び出しが決まってからはサイクリングでした。でも仮に逃げに乗っていたとしても、今日の後半は一直線の平坦路。あまり意味が無かった」と分析する。
この日はスタートからゴールまでの間に合計3カ所で撮影。気温25度ほどのポカポカ陽気が眠気を誘う。特に、補給ポイントで選手たちの到着を待っているとき、危うく睡魔に負けるところだった。
ラスト80km地点で選手たちを見送ってから、「半ズボン」が完全にネタとなっている電話レポートを終え、ゴールに向かってクルマを走らす。案の定、ゴール地点ビトントの街中は「南」特有の混雑具合。選手たちの到着1時間前にも関わらず、運転するプレスカーに向かって熱い声援が飛び込んで来た。
![花咲き誇る平野部を駆ける](http://axwkc.cyclowired.jp/sites/default/files/images/2010/05/19/giro10atappa29.jpg)
ラスト1kmを2番手で駆け抜けた発射台ユキヤ
![スタッフにジャケットを投げる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)](http://axwkc.cyclowired.jp/sites/default/files/images/2010/05/19/giro10atappa34.jpg)
![チームHTC・コロンビアがコントロールするメイン集団がタイム差を詰める](http://axwkc.cyclowired.jp/sites/default/files/images/2010/05/19/giro10atappa39.jpg)
黒髪をなびかせて走るその姿は、ゴール地点に設置された大型スクリーンの粗い映像からもすぐに判別可能だ。スパート気味のマッテーオ・トザット(イタリア、クイックステップ)を追って集団を牽く姿が国際映像に乗る。日本で多くのファンが興奮している姿を想像しながら、2番手でラスト1kmのアーチを通過するユキヤを見る。
![ラスト数キロを好位置で走った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)が苦しい表情でゴール(ピントを外した)](http://axwkc.cyclowired.jp/sites/default/files/images/2010/05/19/giro10atappa47.jpg)
ゴール地点で待ち構えるスタッフから受け取った水を口に運び、ユキヤは「長かったです」と一言。この日の平均スピードは39.5km/h。レース時間は6時間近くに及んだ。
![調子の良さを見せつけた新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)](http://axwkc.cyclowired.jp/sites/default/files/images/2010/05/19/giro10atappa49.jpg)
いつもケロッとした表情でゴール後のインタビューに応じてくれるユキヤだが、この日は苦しさと悔しさで顔を歪ませる。地元メディアの注目度も上がっており、ユキヤの姿を発見したイタリアンフォトグラファーたちは我先にシャッターを切る。
「今日はボネがエースでしたけど、作戦はその日になってみないと分からないです。昨日のように雨が降ればキツい展開になるし、今日のようにゆっくりとした平坦ステージだとスプリント。だから特に『絶対ボネで』という訳ではないです」。
結果だけを見れば、Bboxブイグテレコムのスプリント作戦は失敗。しかし「ユキヤ→ボネ」の体制が完全に機能すれば、スプリントでのステージ優勝の可能性は充分にあると感じた。
![ここまで10ステージ走って好調をキープしている新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)](http://axwkc.cyclowired.jp/sites/default/files/images/2010/05/19/giro10atappa51.jpg)
「このジロはユキヤにとって本当に大切な経験になるはず。そして、このジロでの走りは、ツール・ド・フランスの出場にも影響する。ここまでの走りを見る限りいい感じだ」。アルノー監督はユキヤの印象をそう語ってくれた。
さて、今年のジロはこの第10ステージが最南端。翌日の第11ステージから、最終週の山岳地帯に向けて、北上を開始する。第11ステージはルチェーラからラクイラまでの256km。今大会最長コースであり、細かいアップダウンの繰り返し。しかも再び雨が降る予報が出ている。「一番長いステージで雨かよ」。モトに乗るフォトグラファーたちは肩を落として各々のホテルに帰って行った。
text&photo:Kei Tsuji
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