今季の新メンバーと新ウェアを発表した2020年の弱虫ペダルサイクリングチーム。渡辺航先生、ラファの矢野大介さん、西谷雅史選手らにインタビュー。ここまで順調な歩みでステップアップしてきたチームは、熱い想いとともに新たな展開を始める。

渡辺航先生インタビュー「発足から7年め ますます応援したくなるチームに」

弱虫ペダル作者の渡辺航先生と弱虫ペダル作者の渡辺航先生と photo:Makoto.AYANO
― 2014年にシクロクロスチームとしてスタートしてから7年め、ロードチームは結成から3年めですね。ここまでの歩みを振り返っていかがですか?

渡辺航先生 最初は山本和弘選手ひとりきりのシクロクロスチームからのスタートでしたね。全日本選手権のタイトルだけは逃しましたが、世界選手権出場など国内のほとんどすべてのレースで勝利できました。2016年創設のロードチームは実業団下位クラスタからのスタート。2年やってJPT昇格。順当に来たな、と思います。選手の努力と頑張り、スタッフの底支えでここまでこれた。

― 改めてチーム活動の狙いを教えて下さい。なぜリアルなチームを?

もともと弱虫ペダルチームを立ち上げたのは、ファンや観客の方々に「自転車競技って面白い」と思ってもらいたかったから。選手と距離が近くて応援しやすいシクロクロスから始まり、ロードレースでは実際にチームで参戦する様子をファンが観て、レースのことを理解してくれるように、そしてその輪が広がるようにと思って。チームも確実にステップを踏んでレベルアップしているので、良かったなと思います。

弱虫ペダル作者の渡辺航先生弱虫ペダル作者の渡辺航先生 photo:Makoto.AYANO
― 6年間、順調に成功していると言える活動ですね。

選手たちの努力の賜物なんです。いつも活動の様子を間近に見せてもらって、本当にそう思うんです。昨年はシクロクロスではエリートとU23のチャンピオンも取れました。応援するチームを通して自転車レースをもっと知ればもっと楽しくなる。弱虫ペダルファンにもホントの世界を知ってもらうことで、盛り上がってくれたらと。

弱虫ペダルサイクリングチーム2020 左上は弱虫ペダル作者・渡辺航先生弱虫ペダルサイクリングチーム2020 左上は弱虫ペダル作者・渡辺航先生 photo:Satoshi.Oda
― 今シーズンからメンバーがまた増えて、西谷雅史さんという超ベテランが加入して、中島君というジュニアの期待の星も揃いました。層が厚くなりましたね。

まさに「上から下まで」って感じです(笑)。将来のある若手が伸びていくのを喜んでくれるファンがいるし、紅一点の唐見実世子選手に対しても「アテネ五輪に出た女性選手がまだ現役で頑張っている」と感動してくれる人がいます。西谷さんの年齢を聞いて、52歳でもまだこのレベルで走れるじゃないか!と共感して、気持ちをノセていってくれたら応援する楽しみも広がるかな、と思います。

西谷雅史(中央)、前田公平(左)、織田聖(右)西谷雅史(中央)、前田公平(左)、織田聖(右) photo:Makoto.AYANOジュニアのマウンテンバイク選手である中島渉(あゆみ)ジュニアのマウンテンバイク選手である中島渉(あゆみ) photo:Makoto.AYANO


― 西谷さんはツール・ド・おきなわのボスですからね。52歳でも市民210kmの部で先頭争いに加わり、トップ10入り。この知らせを聞いて驚く人は多いと思います。市民レース界隈がザワつきますよ。

すごいですよね。ファンもあのレベルで走るということの凄さ、大変さを良く知っているんです。自転車競技という特殊性や難しさ、怪我のリスク、そして年齢等を乗り越えながら走っている選手をリスペクトしてくれる。そういった選手たちが勝利という目標に向かって、皆が気持ちを一つにして協力して走る。その純粋さ、美しさが伝わって、どんどんロードレースが好きになってくれればと思います。

― 渡辺先生自身の自転車への情熱は今も変わりはありませんか?

そうですね。ぜんぜん変わらないんです!(笑)。日曜だけはチームの皆と一緒に走らせてもらってます。引きずり回されて大変なんですが、一緒に走っていると、選手たちが毎日どれだけ大変なことをしているかがわかります。僕は年々体力を維持していくのが大変になっていく。選手たちはいったいどれだけ努力しているんだ!ということですね。

2年連続のシクロクロス全日本チャンピオン、前田公平2年連続のシクロクロス全日本チャンピオン、前田公平 photo:Makoto.AYANO
自分も練習して走り続けたいんです。自転車で走っていると今だに面白いし、ロードレースを会場で観ていても、必ず新たな発見がある。すごく奥が深い。自転車って本当に楽しいです。僕はこんなに楽しいことを仕事にしていいんだろうか? すみませんっ!て感じです。でもホントに楽しいんですよ。

チームはますますいい感じになってきました。新しいウェアもとてもいい感じです。ファンの皆さん、これからもぜひ応援をよろしくお願いします。

前田公平「MTB、CX、ロードのどれも楽しみたい」

現在の時勢もあって、今の時点で開幕がいつになるか読めない状況ではありますが 、カレンダー通りにレースが無事開催できるという前提でトレーニングなどの準備を進めています。開幕を迎えるにあたっては、特に何か不安を感じている要素も今のところありません。シクロクロスのシーズンを良い流れで終わることができたので、その良い流れのままシーズンインして、ロードレースの方でも良いリザルトを出せるように頑張りたいなと思います。

色々な種目でレースに取り組んでいて、特に夏から秋にはマウンテンバイク、シクロクロス、ロードレースと3種目が入り混じってくるので、毎回新鮮な気持ちでレースに取り組んでいます。特にこれが好きというわけではなく、どれも違う競技なので種目に優劣はつけづらいかなとは思います。ヒルクライムは少し苦手ですが(笑)どのレースも楽しんで走っています。

織田聖「U23最終年、ロードの全日本がまず目標」

今シーズンのロードで最大の目標である全日本に向けて上手く調子を合わせて行き、今年はしっかりと成績を出さなければいけない年なので(U23最終年)結果が出せるように努力していきたいと思います。6月なのでもうすぐです。

シクロクロスのシーズン初戦が海外レース(中国UCIレース千森杯)で、非常に楽しみなイベントの一つです。自分がロードシーズンで行ってきたことがどれだけ反映されているのか確認できるという意味でも、マチュー(ファンデルプール)とのレースでも完走できるくらいの世界のトップレベルの選手たちが来るので、その選手たちとどこまで戦えるかを見られるという意味でも楽しみです。

「Raphaがチームをサポートするということ」 ラファジャパン代表 矢野大介さん

弱虫ペダル作者の渡辺航先生とラファジャパン代表の矢野大介氏弱虫ペダル作者の渡辺航先生とラファジャパン代表の矢野大介氏 photo:Makoto.AYANO
― ラファが弱虫ペダルチームをスポンサーするに至った経緯を教えて下さい。

急展開な話だったんですが、まずタイミングが良かった。オーダーシステムの「ラファ・カスタム」が昨年立ち上がってから少し落ち着いて、イギリス本社の方も「日本でいいチームがあればサポートしたい」という意向を伝えてくれて。で、サポートチームを探していたんです。

条件としては、「より広い範囲に対して影響力を持てるチームである」ということ。あわよくば日本以外に対しても影響力があるような。国を超えた発信力が生まれてくるようなチームがいい、というのが理想でした。

U23シクロクロス全日本チャンピオン 織田聖U23シクロクロス全日本チャンピオン 織田聖 photo:Makoto.AYANO
そんな目で国内をみたときに、この弱虫ペダルチームが適していると思いました。強さで選ぶUCIチームとかじゃなくって、身近に感じられるチームであること、「マルチディシプナリー(=多分野)」なチーム、つまりロードだけじゃなくマウンテンバイクやシクロクロスの活動もあって、それらもちゃんとやっていること。シーズン通して色々なジャンルにコミットしていること、と考えたとき、このチーム以外になかった。一度思いついたら、もう他が目に入らないぐらいのチームだと思いました。

― この話に驚き、意外な組み合わせのように思えましたが、そこまで条件が合致しているとは。

唯一足りないとしたら女性が一人しか居ないことでしょうか。それは他のチームもまだなこと、唐見選手が一人でもすごい頑張っていることで、イギリス本社も納得してくれました。プレゼンしてまったく問題はなかったんです。「ラファのカラーに合わない」なんて意見はまったく出ていないんです。

アテネオリンピック代表ロード選手として出場経験をもつ唐見実世子アテネオリンピック代表ロード選手として出場経験をもつ唐見実世子 photo:Makoto.AYANO
― 矢野さんはレースをよく知っているから、弱虫ペダルチームの活動にはリスペクトがあるのでは?

とくに僕はシクロクロスに近いところに居るので、前田公平、織田聖、そして唐見選手たちがファンからどういう風に思われているかも分かっていたし、彼らもこれからさらに学んでいけばもっと影響力のある選手になることができると思っています。加わった西谷さんのもつリーダーシップも大きいでしょう。チームに中途半端な選手が居ないんです。

― これからのチーム活動に期待したいことは何ですか?

ラファと関わることによって、選手たちがSNSで発信することや、ファンと接する機会に対する姿勢が変わってくると良いな、と思っています。レース前やレース後に「こう振る舞うべき」「こう発信すべきなんだ」といったことを学ぶことによって、エンゲージメント(=組織に対する愛着心や思い入れ)を高めていく。一番身近に参考にできる例として、ラファがサポートするEFエデュケーションファーストの選手たちが居るので、まずは全員をフォローしてもらうのがいいでしょう。

チームが乗るフェルト ARとFR(奥)チームが乗るフェルト ARとFR(奥) photo:Makoto.AYANO
― EFの選手たちの発信はユニークで、活動内容自体も独創的ですね。

彼らは常に前向きで、フォローした人がポジティブになれるんです。それを意識して発信している。発信することでそのチームや各選手に対する意識が変わっていって、応援したいと思わせるような存在になっていかなくてはいけません。

― ラファがサポートすることで、そうした変化やシナジー効果が起こるのは面白いですね。

ファンとオープンな関係を持てるような機会をつくっていきます。EFがいう「オルタナティブカレンダー」のように、ロードレースに出るだけじゃなく、例えばラファプレステージ(グループライドイベント)などを走ったり、いろんなことに対してオープンになっていく姿勢にも期待したいですね。そうすることで選手としても育っていくと思います。結果を残すことだけを考える選手ではなく、他のサイクリストにもポジティブな影響を与えられるような存在になっていくことを願っています。

― 弱虫ペダルチームは海外での活動にも積極的ですね。

織田聖選手が転戦するシクロクロスワールドカップも来年はシーズン16戦に増えるんです。そうなると毎週末がレースになる。そうした渡航先でコラボして、海外でもファンと接する機会をつくる活動をやっていきたいですね。

弱虫ペダル作者の渡辺航先生とラファジャパン代表の矢野大介氏弱虫ペダル作者の渡辺航先生とラファジャパン代表の矢野大介氏 photo:Makoto.AYANO
アニメの弱虫ペダルはアジア圏で人気があって、海外でも通用するコンテンツなんです。アニメを通じてチームの存在を知った海外のファンから、選手たちにぜひ来て欲しいと声がかかる、そして交流する。活動の場は決して国内だけと考えないことです。

西谷雅史  52歳での再挑戦

プレイングコーチとして期待される西谷雅史 プレイングコーチとして期待される西谷雅史 photo:Makoto.AYANO
― 選手復帰の前に、東京都内のお店(サイクルポイント・オーベスト)を山梨に移転させたお話から伺わせてください。

西谷 移住した拠点は、甲府市の中央道・双葉ICのすぐ真横というロケーションです。自宅の脇に作業スペースを設けるぐらいのごく小さな規模のお店(オーベスト)を開店させます。大きくやろうという案もあったんですが、それだと元のショップ経営中心の(多忙な)生活に戻っちゃうんで、やめました(笑)。

とにかく最高の環境なので、走りに行く拠点などにしてもらいたいと思っています。選手なら武山晃輔選手(チーム右京)、水野恭兵選手(ENShare)、そして今中大介さんなどが山梨県内で近いので、彼らとも一緒にそうした場や機会を提供していきたい。山梨は走る場所、環境は最高だけど、乗っているサイクリストはほぼ見かけない。山梨での自転車スポーツ普及活動の手助けなどもしたいと思っています。

― さて、選手復帰の話はどういう経緯で出てきたのでしょう?

佐藤GMからのオファーがあったからです。僕が山梨に移住するという話をいち早く嗅ぎつけてチャンスをくれたんです。僕にはJPTレースを走る資格が無かったので、それを叶えてくれるのがこのチームです。

JPTを走りたい希望はあったけど、権利を得るために参加を重ねなくてはならない。昨年下位クラスタからチャレンジして断念した経緯があるので、チャンスを貰った。たぶんあとそう長くはない人生において、走れる機会がもらえる。そんなチャンスはもう2度と無いでしょう。じゃあチャレンジしたい、と。奥さんの理解と後押しもあったんです。でも選手として復帰するために東京を捨てて山梨に行ったわけじゃないんですよ。

― プレイングコーチとしての役割が求められていますね?

そうした役割がうまくできればいいですね。うまくチームがまとめられたらと思います。このチームが前身で「チャンピオンシステム」だった時代からの再びの復帰になるんですが、当時の選手で今もチームに居るのは前田公平選手だけ。でも昔とは雰囲気も違う、まったく別のチームです。 

― 選手としての今シーズンの目標は何ですか?

なにかのレースで結果が出せればいいかな、と。勝負できるところでレースを走れれば。JPTレースを走るのが楽しみですが、グランフォンドではニセコクラシックと世界選手権に行く予定です。


photo&text:Makoto AYANO

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