2010/05/15(土) - 16:07
この日、フィデンツァのスタート地点に集まった観客は、日本人選手の姿を探していたに違いない。出走サインのステージの辺りをフラフラしていると「ドーヴェ・アラシーロ?(新城はどこ?)」と何度聞かれたことか。こっちが聞きたいぐらいだと言うのに。
ガゼッタ紙「アラシロ・カミカゼ」
スタート地点はフィデンツァの旧市街地から一歩外に出た「フィデンツァ・ヴィレッジ」。日本でも流行の郊外型アウトレットモールで、その広大な駐車場がジロにジャックされた。そもそもレンガ作りの美しい街がすぐそこにあるのに、わざわざレンガ作り風にアーティフィシャルなモールを作ったあたりがどこか可笑しい。
いつも出走サインの締め切り数分前にスタート地点にやってくる新城幸也(Bboxブイグテレコム)だが、この日は比較的時間に余裕を持って出走サインにやってきた。
「昨日は日本の皆さんに直接声を届けることが出来て良かったです。チームメイトも祝福してくれましたし、兄ちゃん(福島晋一)たちからも電話があったんです」。そう語るユキヤの顔からは笑みがこぼれる。
ユキヤは一日にしてイタリア人の心を鷲掴みにした。大会関係者から「昨日の日本人、凄かったじゃないか!あれほど強いとは思っていなかった」と感嘆の声。ステージ優勝は逃したが、最も積極的に逃げグループを牽き、最後まで闘志溢れる走りを見せたユキヤの美学に、イタリア人は共感したのだろう。イタリアにおいてその評価はステージ優勝者以上かも知れない。
ガゼッタ紙には「アラシロ・カミカゼ」の文字が踊る。「なんて安直な表現だ」と思いつつ、記事を読むと「これぞサムライ魂」という表現もあった。
出走サインを終えると、ステージ横のスペースに呼び出されたユキヤ。前日に144kmに渡って逃げたユキヤは、逃げた距離によって争われるフーガ(逃げ)賞を獲得していたのだ。大会委員長のアンジェロ・ゾメニャン氏からマスコットのぬいぐるみを受け取った。
ちなみにこのフーガ賞。逃げた距離を積算した総合成績も争われる。現在フーガ総合成績トップはポール・ヴォス(ドイツ、チームミルラム)で、記録は288km。つまりこれまで合計288kmを逃げていたということ。144kmのユキヤは総合5位だ。
出走サイン後も、ユキヤはイタリア国営放送RAIのインタビューやサイン、握手などに大忙し。インタビューしていても、アチコチから紙とペンが伸びてくる。「昨日の疲れが残っているので、今日は動かないですよ」。そう言って、ユキヤはスタートラインに並ぶこと無く、集団後方でスタートして行った。
相次ぐ落車、ブイグの補給に立ち会う
ロンバルディア平原から山岳地帯を抜け、ティレニア海沿いのカラーラにゴールする。前日はファウスト・コッピに捧げるステージで、この日はジャック・アンクティルに捧げるステージ。レースブックのヒストリー部によれば、今から50年前のジロ・デ・イタリアで、アンクティルはカラーラの個人タイムトライアルで優勝し、フランス人初の総合優勝に輝いた、とある。
スタート地点とゴール地点は晴れ模様だが、途中の山岳地帯はぐずついた生憎の天気。ラジオコルサ(競技無線)は何度もしつこく「路面は滑りやすい」と警告している。しかしその言葉も虚しく、落車による犠牲者が多発した。
下りで落車し、リタイアを余儀なくされたのはパオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ)。生粋のクライマーとして知られ、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合8位、ジロ・デ・イタリア出場6回目のティラロンゴは、最終週の山岳ステージでヴィノクロフの右腕として活躍が期待されていた。
ティラロンゴは、クーネオのチームタイムトライアルでもチームの先頭でゴールするなど、好調をアピールしていただけに、今回の離脱はヴィノクロフにとって大きな痛手。今後の展開に少なからず影響を及ぼすだろう。
TOJでお馴染みのロイド、感涙のゴール
独走のまま先頭でゴールにやってきたのはマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)だ。5月16日に日本で開幕するTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)に、サウスオーストラリアのメンバーとして2006年に出場しているロイド。当時、伊豆ステージで狩野智也(スキル・シマノ)との一騎打ちを制してステージ優勝している。
ゴールに飛び込むその姿はどこか挙動不審。無理は無い、目には涙が浮かんでいる。表彰台では感無量の表情を魅せてくれた。
レース後の会見でロイドは「終盤はただ前を走る赤いクルマ(オフィシャルカー)を見て走り続けた。ラスト200mで特別な感情が溢れて来たよ。レースはデータ云々の話ではない。感情の塊だ。勝負で負ける確率は99%。勝ったことでようやく自分の進化を感じることができた」と声を詰まらせながら語った。
レース終盤の山岳でペースの上がった集団に無理に食らいつかず、15分以上遅れてゴールにやってきたユキヤ。決して調子が悪い訳ではなく、前日に大逃げを決めた直後なので、リカバリーに励んでいるのは明らか。
ゴール後の表情も明るい。「思ったより疲れてなくて、調子はいいです。早く回復して、次のチャンスが来るのを待ちます!」なお、翌日からスペシャルカラーの新型バイクを投入予定。もちろん写真もアップします!
さて、翌日は今年のジロ前半戦の目玉、未舗装のダートが登場するモンタルチーノステージ。しかし(レース当日の)朝起きてガックリ。スタート地点はシトシトと雨が降っている。
雨が降ったダートでのレースって??パリ〜ルーベさながらの泥んこレースが見られるかも知れない。モンタルチーノのゴールに飛び込んでくるのは泥だらけの選手たちか??とにかくダートは必見です!!
text&photo:Kei Tsuji
ガゼッタ紙「アラシロ・カミカゼ」
スタート地点はフィデンツァの旧市街地から一歩外に出た「フィデンツァ・ヴィレッジ」。日本でも流行の郊外型アウトレットモールで、その広大な駐車場がジロにジャックされた。そもそもレンガ作りの美しい街がすぐそこにあるのに、わざわざレンガ作り風にアーティフィシャルなモールを作ったあたりがどこか可笑しい。
いつも出走サインの締め切り数分前にスタート地点にやってくる新城幸也(Bboxブイグテレコム)だが、この日は比較的時間に余裕を持って出走サインにやってきた。
「昨日は日本の皆さんに直接声を届けることが出来て良かったです。チームメイトも祝福してくれましたし、兄ちゃん(福島晋一)たちからも電話があったんです」。そう語るユキヤの顔からは笑みがこぼれる。
ユキヤは一日にしてイタリア人の心を鷲掴みにした。大会関係者から「昨日の日本人、凄かったじゃないか!あれほど強いとは思っていなかった」と感嘆の声。ステージ優勝は逃したが、最も積極的に逃げグループを牽き、最後まで闘志溢れる走りを見せたユキヤの美学に、イタリア人は共感したのだろう。イタリアにおいてその評価はステージ優勝者以上かも知れない。
ガゼッタ紙には「アラシロ・カミカゼ」の文字が踊る。「なんて安直な表現だ」と思いつつ、記事を読むと「これぞサムライ魂」という表現もあった。
出走サインを終えると、ステージ横のスペースに呼び出されたユキヤ。前日に144kmに渡って逃げたユキヤは、逃げた距離によって争われるフーガ(逃げ)賞を獲得していたのだ。大会委員長のアンジェロ・ゾメニャン氏からマスコットのぬいぐるみを受け取った。
ちなみにこのフーガ賞。逃げた距離を積算した総合成績も争われる。現在フーガ総合成績トップはポール・ヴォス(ドイツ、チームミルラム)で、記録は288km。つまりこれまで合計288kmを逃げていたということ。144kmのユキヤは総合5位だ。
出走サイン後も、ユキヤはイタリア国営放送RAIのインタビューやサイン、握手などに大忙し。インタビューしていても、アチコチから紙とペンが伸びてくる。「昨日の疲れが残っているので、今日は動かないですよ」。そう言って、ユキヤはスタートラインに並ぶこと無く、集団後方でスタートして行った。
相次ぐ落車、ブイグの補給に立ち会う
ロンバルディア平原から山岳地帯を抜け、ティレニア海沿いのカラーラにゴールする。前日はファウスト・コッピに捧げるステージで、この日はジャック・アンクティルに捧げるステージ。レースブックのヒストリー部によれば、今から50年前のジロ・デ・イタリアで、アンクティルはカラーラの個人タイムトライアルで優勝し、フランス人初の総合優勝に輝いた、とある。
スタート地点とゴール地点は晴れ模様だが、途中の山岳地帯はぐずついた生憎の天気。ラジオコルサ(競技無線)は何度もしつこく「路面は滑りやすい」と警告している。しかしその言葉も虚しく、落車による犠牲者が多発した。
下りで落車し、リタイアを余儀なくされたのはパオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ)。生粋のクライマーとして知られ、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合8位、ジロ・デ・イタリア出場6回目のティラロンゴは、最終週の山岳ステージでヴィノクロフの右腕として活躍が期待されていた。
ティラロンゴは、クーネオのチームタイムトライアルでもチームの先頭でゴールするなど、好調をアピールしていただけに、今回の離脱はヴィノクロフにとって大きな痛手。今後の展開に少なからず影響を及ぼすだろう。
TOJでお馴染みのロイド、感涙のゴール
独走のまま先頭でゴールにやってきたのはマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)だ。5月16日に日本で開幕するTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)に、サウスオーストラリアのメンバーとして2006年に出場しているロイド。当時、伊豆ステージで狩野智也(スキル・シマノ)との一騎打ちを制してステージ優勝している。
ゴールに飛び込むその姿はどこか挙動不審。無理は無い、目には涙が浮かんでいる。表彰台では感無量の表情を魅せてくれた。
レース後の会見でロイドは「終盤はただ前を走る赤いクルマ(オフィシャルカー)を見て走り続けた。ラスト200mで特別な感情が溢れて来たよ。レースはデータ云々の話ではない。感情の塊だ。勝負で負ける確率は99%。勝ったことでようやく自分の進化を感じることができた」と声を詰まらせながら語った。
レース終盤の山岳でペースの上がった集団に無理に食らいつかず、15分以上遅れてゴールにやってきたユキヤ。決して調子が悪い訳ではなく、前日に大逃げを決めた直後なので、リカバリーに励んでいるのは明らか。
ゴール後の表情も明るい。「思ったより疲れてなくて、調子はいいです。早く回復して、次のチャンスが来るのを待ちます!」なお、翌日からスペシャルカラーの新型バイクを投入予定。もちろん写真もアップします!
さて、翌日は今年のジロ前半戦の目玉、未舗装のダートが登場するモンタルチーノステージ。しかし(レース当日の)朝起きてガックリ。スタート地点はシトシトと雨が降っている。
雨が降ったダートでのレースって??パリ〜ルーベさながらの泥んこレースが見られるかも知れない。モンタルチーノのゴールに飛び込んでくるのは泥だらけの選手たちか??とにかくダートは必見です!!
text&photo:Kei Tsuji
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