イタリアの老舗バイクブランド、ボッテキアからデビューしたエアロロード「AEROSPACE」をインプレッション。ブランド史上最高の空力性能を追求しつつ、レーサーの踏力に応える高い剛性を得た1台を紹介しよう。



ボッテキア AEROSPACEボッテキア AEROSPACE (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
1924年のツール・ド・フランス、イタリア人として史上初のマイヨジョーヌを獲得したオッタビオ・ボッテキア氏に由来するブランドネームを掲げるイタリアンブランド、ボッテキア。100年以上もの長い歴史を誇る中で、常にプロチームとの関わりを持ち続けてきた生粋のレーシングブランドである。

ジャンニ・モッタやグレッグ・レモンといった往年の名選手もボッテキアを駆り、グランツールを始めとする名だたるレースにおいて活躍を見せてきた。近年においても、プロコンチネンタルチームのアンドローニジョカトリ・シデルメクが使用し、ジロ・デ・イタリアでステージ優勝を果たすなど、活躍を見せてきた。

ケーブル類はフル内装とされエアロダイナミクスの向上に一役買うケーブル類はフル内装とされエアロダイナミクスの向上に一役買う マッシブなフロントフォークマッシブなフロントフォーク フォークブレードは樽型に膨らんでおりスタビリティと風抜けの良さに寄与するフォークブレードは樽型に膨らんでおりスタビリティと風抜けの良さに寄与する


1世紀以上にわたる長い歴史を誇るイタリアンレーシングブランドが、満を持して放つハイエンドエアロロードが、今回インプレッションする「AEROSPACE(エアロスペース)」だ。ここ数年で一気にレースシーンでのスタンダードへと上り詰めた、ディスクブレーキ仕様のエアロロードをボッテキア流に解釈した1台となる。

航空工学を意味するAEROSPACEという名が示すように、ボッテキアはこのバイクの開発にあたってエアロダイナミクスという概念を数値化、そしてその結果をフレーム形状へと昇華した。これまでの限界や制約をとりはらい、ブランド史上最速となる一台としてAEROSPACEは送り出されたという。

臼式のシートクランプが空気抵抗を減少させる臼式のシートクランプが空気抵抗を減少させる ステムは専用品となるがハンドルは汎用的なモデルを使用可能ステムは専用品となるがハンドルは汎用的なモデルを使用可能


踏力を受け止めるチェーンステーはボリューム感あふれる設計踏力を受け止めるチェーンステーはボリューム感あふれる設計 ダウンチューブとトップカバーはツライチとなるダウンチューブとトップカバーはツライチとなる


最先端のトレンドを網羅するスペックと、ボッテキアのフィロソフィーが同居したフレームワークがAEROSPACEの特徴だ。ボッテキアは既にエアロロードとしてT1 ENDURANCEをラインアップしていたが、T1の曲線的なデザインから一転、AEROSPACEは直線的で力強いシェイプを与えられた。

マッシブでボリュームのあるダウンチューブからチェーンステーにかけての造形は、スプリンターの爆発的な出力に応えるためのもの。トップチューブは空気抵抗を最小限に抑えるホリゾンタルデザインとされる一方、極細のドロップドシートステーを採用することで、リアトライアングルの反応性を高め、長距離のレースにも対応する快適性も担保する。

ダウンチューブがそのままチェーンステーに繋がるようなデザインのBBダウンチューブがそのままチェーンステーに繋がるようなデザインのBB ブレーキキャリパーとのクリアランスを限界まで追い求めたリアエンドブレーキキャリパーとのクリアランスを限界まで追い求めたリアエンド


ボッテキアはオールラウンドバイクであるEMME4をディスクブレーキとリムブレーキの両方に対応するコンパーチブルバイクとして用意していたが、AEROSPACEに関してはディスクブレーキ専用バイクとして設計している。ディスクブレーキありきでのフレームの設計、カーボンレイアップを行うことによって、より総合力の高いバイクに仕上がっているはずだ。

AEROSPACEはブランドとして初となるケーブルフル内装を果たしたバイクでもある。専用のAEROSPACE INTEGRATEDステムの下部を這わすようにしてフレーム内部にケーブルが導かれることで、ほぼ外部に露出する箇所が無いクリーンなルックスとエアロダイナミクスの向上を実現している。一方で、ハンドルは汎用品を使用できる。乗り手の好みでコンタクトポイントを変更出来るのもイタリアンレーシングブランドらしい配慮といえよう。

シートステーは扁平形状シートステーは扁平形状 ボッテキアのレーシングラインであるREDLABのロゴが入るボッテキアのレーシングラインであるREDLABのロゴが入る マッシブでエアロなデザインのダウンチューブマッシブでエアロなデザインのダウンチューブ


最新のトレンドとスペックをボッテキアのフィロソフィーを通して再解釈したピュアエアロレーサー、AEROSPACE。フィニッシュラインを最速で駆け抜けるために開発されたフォーミュラマシンは、それにふさわしいコスメティークも施されている。ボッテキアのレーシングラインを示す深紅のRED LABカラーの他に、気品あるマットブラック/ゴールド、そして宇宙を思わせるマットブラック/プリズマの3種が用意される。

今回はコンポーネントにシマノULTEGRA DI2、ホイールにマヴィックのCOSMIC PRO CARBON DISCを組み合わせた試乗車にてテストした。それでは早速インプレッションに移ろう。



― インプレッション

「高剛性でレーサーにぴったりの一台」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)

驚くほど硬くて、素晴らしく速いバイクですね。ヘッド周りもBBも、フレームのどこをとっても非常にソリッドな感触で、ハイパワーで踏んだ時の反応性はピカイチでした。エアロ形状もあって巡航性能も高いですが、登りでも切れ味鋭い走りを見せてくれます。

「高剛性でレーサーにぴったりの一台」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)「高剛性でレーサーにぴったりの一台」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜) とにかく速さを至上命題としたレーシングバイクだという雰囲気を全身から発しているようなバイクなので、乗り手にも相応の体力を求めてきます。僕だと上半身が負けてしまうくらい。とはいえ軽く流した時に進まないというわけではなく、トルクを掛けていけば掛けていくほど、本来の性能を発揮するような印象でした。

走り自体にクセはなく、非常にニュートラルでキレのあるレーシングバイクですね。バイクの挙動としてピーキーだったり扱いづらかったりということはありませんが、高剛性が故の許容度の狭さというか、ターゲットレベルの高さは感じます。シッティングでのペダリングにしろ、ダンシングでの振り方にしろ、「こうやらないと進まないんだから!」というようにバイク側から指定されているようなイメージですね。でも、そこを上手く掴めば格段に速く走れるバイクでもあります。

私が乗った印象だとケイデンスを高めにキープしたほうが速く走れましたが、本来はパワーが高い方が、大トルクを掛けていくことで真価を発揮するのだと思います。このフレームを上手くしならせられるレベルのライダーが乗れば、鬼に金棒といったところでしょう。

超高剛性バイクであることは間違いないのですが、意外に快適性もしっかりと確保されているように感じました。実際のところは長距離を走ってみないとわかりませんが、レースバイクとしては合格レベルだと思います。テストバイクがチューブレスタイヤを使用していることもあるとは思いますが、ホイールやタイヤとの組み合わせで、調整できる範囲いうことでもあります。

とにかく、ハイスピードで走ることを前提にしているバイクなので、ゆったり景色を楽しみながらロングライド、といった使い方は想定外だと思います。シリアスレーサー、それもパワーのあるスプリンターにこそ乗ってほしいバイクですね。

「コンセプトが明快なピュアレーシングバイク」錦織大祐(フォーチュンバイク)

滅茶苦茶硬いですね、ちょっとデッドボールスレスレの内角高めの剛性感です(笑)。薄いチュービングでパリッと乾いた感じの硬さで、レースバイクらしい剛性感ですね。ただ、しっかりとリアトライアングルは仕事をしているので、きちんとシートに荷重を乗せてあげると、薄くしている部分がバランスを取ってくれると感じました。

とにかく速さを求めるバイクのコンセプトがしっかりと貫き通されていて、潔さを感じます。全体のバランスを重視して、脚残りも良くどんなシチュエーションでもソツなく走るといった優等生ではないですね。むしろ、エアロロードという概念をそのまま形にしたような、ピュアに速さを追い求めたバイクです。

フレームからフロントフォークの先まで、一貫して硬い。とにかく弱いところが無いので、低速から高速まで力を掛けて回していった時の反応性や速度の伸び感は他の追随を許しません。登りも踏めば踏むほど進むのですが、踏めば踏むだけ脚も持っていかれますね。サーキットを舞台にしたレースなどで、ゴール勝負にかけるスプリンターはきっと気に入ると思いますよ。

「コンセプトが明快なピュアレーシングバイク」錦織大祐(フォーチュンバイク)「コンセプトが明快なピュアレーシングバイク」錦織大祐(フォーチュンバイク)
とここまで話していると、物凄くクセが強いバイクを想像されるかもしれませんが、溢れんばかりの剛性感を除けば全体の挙動は非常に素直です。直進安定性が高く、フロント周りもしっかりしているので、コーナーでもバイク全体で曲がっていける、イタリアンレーシングバイクらしい味付けです。

コンセプトが明快なので、そこを損なわないようなパーツで組みたいですね。特にホイールは、ある程度しっかりしたモデルがいいと思います。ホイールで乗り心地を改善しようと柔らかめのものを選ぶとフレームの良さをスポイルしてしまうでしょう。そういった部分はタイヤで調整したいところですね。28C程度の太めのタイヤを組み合わせてもいいでしょうし、ケーシングのしなやかなタイヤやチューブレスタイヤもマッチすると思います。

レーシングバイクというイメージ通りの鮮烈なキャラクターはこのバイクの大きな魅力です。脚力自慢のレーサーにはもちろんオススメですし、たとえ脚が売り切れてもこの個性的な乗り味が気に入ったのなら、唯一無二の存在となるでしょう。

ボッテキア AEROSPACEボッテキア AEROSPACE (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ボッテキア AEROSPACE
フレーム:モノコックカーボン、エアロディスク、エアロシートポスト、PRESS FIT 86
フォーク:モノコックカーボン
カラー: RED LAB、MATT BLACK / PRISMA、MATT BLACK / GOLD
サイズ:47、49、51、53cm
税抜価格:
430,000円(フレームセット)
560,000~1,380,000円(機械式ULTEGRA完成車~RED eTap AXS完成車)

※MATT BLACK / PRISMA、MATT BLACK / GOLDは¥30,000アップ



インプレッションライダーのプロフィール

高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)高木友明(アウトドアスペース風魔横浜) 高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)

横浜駅から徒歩10分、ベイサイドエリアに店舗を構えるアウトドアスペース風魔横浜の店長。前職メッセンジャーの経験を活かし自転車業界へ。自身はロードバイクをメインに最近はレース活動にも力を入れる実走派だ。ショップはロード・MTBの2本柱で幅広い自転車遊びを提案している。物を売るだけでなくお客さんと一緒にスポーツサイクルを楽しむことを大事にし、イベント参加なども積極的に行っている。

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錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

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text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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