2019/12/05(木) - 18:29
民主化デモの危険をはらみながらも無事に閉幕した、香港でのUCIトラックワールドカップ第3戦をフォトレポート。地元スター選手への大熱狂と、女子オムニアムで魅せた梶原悠未の強い走り。4日間に渡って香港随一の国際ベロドローム「香港単車館」は沸き立った。
トラックに近づくたびに気持ちが引き締まる photo:So.Isobe
手際よくチェーンリングを交換するドイツチームのメカ photo:So.Isobe
機材の整備に余念のない齊藤メカ photo:So.Isobe
ウォーミングアップを行う小林優香(ドリームシーカーレーシングチーム) photo:So.Isobe
香港国際空港から直線距離でおよそ45km。車なら1時間かからない郊外のベッドタウン「将軍澳(広東語読みでチョンクワンオウ)」に、香港随一の国際ベロドローム「香港単車館」はある。周長250m、香港のトラックスター選手を生み出してきたこのトラック周辺は、11月に香港民主化デモで初の死者を出した場所でもあった。
ホテルから会場まで歩く5分間の道中、全ての信号は壊されて使用不能。道路と歩道を隔てる鉄柵も武器として使うために取り外され、彼が転落したという建物の周囲には無数の抗議メッセージが書き殴られる。結果的にレース期間中、周囲でデモ活動は起らず(しかし日曜日夜には離れた場所で火炎瓶や催涙弾を使った衝突事件があった)、一切身の危険を感じることはなかったが、その痕跡を見るたびにどうしても心は重くなる。オーストラリアやイギリスなど強豪国が参加を(あるいは一軍メンバーの派遣を)見送る中、とにもかくにもUCIトラックワールドカップ第3戦は開幕した。
スタート前の緊張の瞬間。観客の視線が注がれる photo:So.Isobe
男子ケイリン決勝戦 新田祐大は5位に終わった photo:So.Isobe
トップスターを揃えて男子チームスプリントを圧倒したオランダ photo:So.Isobe
女子チームパシュートで金メダルを射止めたニュージーランド photo:So.Isobe
木曜日18時に開催される男女チームパシュート予選に始まり、日曜日19時半開始の男子スクラッチレースまで、男女合計14種目が次々とシームレスに行われていく。短距離種目、長距離種目、個人種目、チーム種目とトラック競技のバリエーションは多種多様だ。競技が始まるのは午後からで、各種目の決勝戦は決まって夕方から夜。金曜日と土曜日の最終種目終了は21時頃だ。0時以降に1日が終わるヨーロッパの6日間レースほどではないが、それでもショー要素の強いトラックレースは夜型の競技だ。
恥ずかしながら今回初めて国際トラックレースの現場に立ったが、実際の雰囲気は思っているよりもずっと壮観だった。トラックの内側はウォーミングアップする選手たちで埋め尽くされ、周長250mの板張りバンクでは短距離種目で最高75km/h、長距離種目で平均50km/h以上にもなるスピードでラップを重ねていく。相手の様子を伺いつつ爆発的な加速を見せるスプリンター、混戦の中選手交代を行うマディソンの技、中長距離種目のアタックに次ぐアタック。選手たちが巻き起こす風がヴェロドローム内を回り始めると、大声援が同じように観客席を駆け巡る。
50km/h以上ものスピードで周回を重ねていく photo:So.Isobe
アルカンシエルを着るリー・ワイジー(香港)に観客席が湧き上がる photo:So.Isobe
圧倒的なスプリント力で勝ち進んだリー・ワイジー(香港) photo:So.Isobe
女子スプリントを圧勝したリー・ワイジー(香港)。場内は4日間で最も大きな声援に包まれた photo:So.Isobe
自国開催のワールドカップで金メダルを掴んだリー・ワイジー(香港) photo:So.Isobe
香港のファンは良くレースを解っていると思った。勇気あるアタックには惜しげも無く歓声を贈り、混戦になればなるほど応援のボリュームが上がる。それが自国選手であればなおさらで、アルカンシエルを着る短距離種目の絶対的女王、リー・ワイジーが登場すると会場は大声援に包まれる。女子スプリント決勝戦でエマ・ヒンツェ(ドイツ)を破って優勝した時の熱狂ぶりは凄まじく、他国チームやスタッフ、メディアまでも巻き込んでしまうその盛り上がりぶりには鳥肌が立った。
親しみを込めて「サラ」(香港人は全員英語名を持っている)と呼ばれ、現在女子スプリントとケイリンでアルカンシエルを着るリー・ワイジー。香港では自転車ファン以外からも知られ、2012年のロンドン五輪では香港代表の旗手を務めたスター選手。レース後には地元メディアがコメントを求めて幾重にも取り囲む。ケイリンでは力を出しきれずに終わったものの、走りを讃える拍手は彼女がトラック外に出るまで途切れることはなかった。
常に強いレース運びを見せた梶原悠未 photo:So.Isobe
女子オムニアム 日の丸を掲げてウイニングランを行う梶原悠未(日本) photo:So.Isobe
金メダルを首にかけた梶原悠未 photo:So.Isobe
銅メダルを獲得した女子ケイリンの小林優香 photo:So.Isobe
男子スプリントでは深谷知広が2大会連続の銅メダルを獲得 photo:So.Isobe
今回日本勢が獲得したメダルは3つ。女子オムニアムの梶原悠未が強いレース運びで金メダルを獲得し、男子スプリントの深谷知広と女子ケイリンの小林優香はそれぞれ銅メダル。スクラッチ、テンポレース、エリミネーション、そしてポイントレースという4種目の合計得点で争われるオムニアムの最終レースで梶原が逆転した時も、日の丸を掲げてウイニングランをした時も、観客席からは大きな歓声と暖かな拍手が惜しみなく贈られた。香港ファンが待っているのは接戦と、スペクタクルな逆転劇。日の丸が走路を一周する間は、トラック内側でカメラを構える自分も大きな感動を覚えた。
今回日本勢はチーム監督、コーチ、メカニック勢はもちろんのこと、機材的にもオリンピックに向けての最後のUCI登録の場となったこともあり、ブリヂストンサイクルの開発陣や、ナショナルジャージを制作するメーカーの開発者も会場に足を運んでいた。あちこちから派遣されたスタッフ陣と、そして横断幕を携えてやってきた日本人ファン。間違いなくその陣容は香港チームをも凌ぐほどだった。
チームメイトの走りを見守る photo:So.Isobe
入念にウォーミングアップを進めるスイスチームの選手 photo:So.Isobe
日本から窪木一茂と今村駿介の応援バナーを持ち込んだファンも photo:So.Isobe
男子チームパシュートで勝利したドイツに大声援が送られる photo:So.Isobe
日本チームは既にトラックワールドカップ第4戦が開催されるニュージーランド、ケンブリッジへと渡り調整中に入った。チームブリヂストンサイクル加入後の初戦を迎える脇本雄太や、橋本英也も合流しており、そのまま翌週に開催される第5戦ブリスベン大会との連戦に挑む。強豪国が多く参加する中、世界選手権、そして東京オリンピックを見据えた戦いはさらに熱を帯びることとなる。
text&photo:So.Isobe
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香港国際空港から直線距離でおよそ45km。車なら1時間かからない郊外のベッドタウン「将軍澳(広東語読みでチョンクワンオウ)」に、香港随一の国際ベロドローム「香港単車館」はある。周長250m、香港のトラックスター選手を生み出してきたこのトラック周辺は、11月に香港民主化デモで初の死者を出した場所でもあった。
ホテルから会場まで歩く5分間の道中、全ての信号は壊されて使用不能。道路と歩道を隔てる鉄柵も武器として使うために取り外され、彼が転落したという建物の周囲には無数の抗議メッセージが書き殴られる。結果的にレース期間中、周囲でデモ活動は起らず(しかし日曜日夜には離れた場所で火炎瓶や催涙弾を使った衝突事件があった)、一切身の危険を感じることはなかったが、その痕跡を見るたびにどうしても心は重くなる。オーストラリアやイギリスなど強豪国が参加を(あるいは一軍メンバーの派遣を)見送る中、とにもかくにもUCIトラックワールドカップ第3戦は開幕した。
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恥ずかしながら今回初めて国際トラックレースの現場に立ったが、実際の雰囲気は思っているよりもずっと壮観だった。トラックの内側はウォーミングアップする選手たちで埋め尽くされ、周長250mの板張りバンクでは短距離種目で最高75km/h、長距離種目で平均50km/h以上にもなるスピードでラップを重ねていく。相手の様子を伺いつつ爆発的な加速を見せるスプリンター、混戦の中選手交代を行うマディソンの技、中長距離種目のアタックに次ぐアタック。選手たちが巻き起こす風がヴェロドローム内を回り始めると、大声援が同じように観客席を駆け巡る。
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親しみを込めて「サラ」(香港人は全員英語名を持っている)と呼ばれ、現在女子スプリントとケイリンでアルカンシエルを着るリー・ワイジー。香港では自転車ファン以外からも知られ、2012年のロンドン五輪では香港代表の旗手を務めたスター選手。レース後には地元メディアがコメントを求めて幾重にも取り囲む。ケイリンでは力を出しきれずに終わったものの、走りを讃える拍手は彼女がトラック外に出るまで途切れることはなかった。
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今回日本勢はチーム監督、コーチ、メカニック勢はもちろんのこと、機材的にもオリンピックに向けての最後のUCI登録の場となったこともあり、ブリヂストンサイクルの開発陣や、ナショナルジャージを制作するメーカーの開発者も会場に足を運んでいた。あちこちから派遣されたスタッフ陣と、そして横断幕を携えてやってきた日本人ファン。間違いなくその陣容は香港チームをも凌ぐほどだった。
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text&photo:So.Isobe
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