イタリアのトレンドセッター、ピナレロ。そのロードバイクラインアップに追加されたセカンドグレードのディスクブレーキモデル「PRINCE FX DISK」をインプレッション。DOGMA直系のハイパフォーマンスバイクの実力に迫る。



ピナレロ PRINCE FX DISKピナレロ PRINCE FX DISK (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ツール・ド・フランス常勝を誇るチームイネオスと設立時から長年にわたるパートナーシップを結び、レースシーンで並ぶもののない存在感を見せつけるピナレロ。イタリアはトレヴィーゾに本拠を構え、60年に渡る歴史を誇る老舗ブランドでもある。

その歴史において、トップエンドモデルでありピナレロ曰く「プレミアムモデル」とされるDOGMAに次ぐレーシングラインが今回紹介するPRINCEだ。今でこそセカンドグレードとしての位置づけに収まっているが、その歴史は2003年デビューのDOGMAからさかのぼること6年、1997年にまで遡る。

コンパクトなリアトライアングル 近代ピナレロのアイコンの一つコンパクトなリアトライアングル 近代ピナレロのアイコンの一つ ISPのように滑らかにシートチューブと繋がるシートピラーISPのように滑らかにシートチューブと繋がるシートピラー 緩やかな曲線を描くONDAフォーク緩やかな曲線を描くONDAフォーク


PRINCEの歴史はピナレロというブランドにとって大きなターニングポイントとなってきた。初代PRINCEは世界初のカーボンバック&インテグラルヘッドを採用し、プロトタイプを駆ったヤン・ウルリッヒ(ドイツ、当時チームテレコム)がマイヨジョーヌを獲得したことで、世界的な人気モデルとなった。

そして、ピナレロのアイコンたるONDAフォークを装備したPRINCE SLを経て、しばらくカタログからその名を消したPRINCE。しかし、ピナレロはPRINCE復活の場として特別な舞台を用意していた。2008年にピナレロのフラッグシップバイクとして初となるフルカーボンバイクにその名を与えたのだ。東レの50HM1Kカーボンを使用したPRINCE CARBONは、またしても勝利を量産。アレハンドロ・バルベルデのアルデンヌクラシック制覇やツール・ド・フランスのステージ優勝など、多くの栄冠を掴み取った。

ボトル取り付け部分を凹ませた「Concaveダウンチューブ」ボトル取り付け部分を凹ませた「Concaveダウンチューブ」 フォーククラウンがよりヘッドチューブと一体化するインテグレーテッド化がさらに推し進められたフォーククラウンがよりヘッドチューブと一体化するインテグレーテッド化がさらに推し進められた


BB周辺はボリューミーだがスレッド式BBを採用するBB周辺はボリューミーだがスレッド式BBを採用する チェーンステーはもちろん左右非対称チェーンステーはもちろん左右非対称


DOGMA60.1の登場においても、ピナレロはPRINCEを勝利を目指すレーサーのためのハイパフォーマンスバイクとして位置づけ、その性能を磨き続けてきた。DOGMAは究極を突き詰めたプレミアムモデルであり、他ブランドのフラッグシップモデルに対応するポジションとなるのがPRINCEなのだ。

そして、DOGMA F8以降のピナレロバイクデザインを与えられ、再びピナレロのレーシングバイクとして生み出されたのが、第5世代となるPRINCE FXだ。フラッグシップであったDOGMA F10から多くのテクノロジーを引き継ぎ、それまでのセカンドグレードであったGAN RSを置き換える存在としてデビューした。

オリジナルブランド、モストのショートノーズサドルオリジナルブランド、モストのショートノーズサドル フラットマウント規格を採用フラットマウント規格を採用


ピナレロは言う。同社の2020ラインアップにおいて、エガン・ベルナルのマイヨジョーヌと共に鮮烈なデビューを飾ったDOGMA F12と同等の重要性を持つのが、このPRINCE FX DISKだと。急激に普及するディスクブレーキロードに求められるオールラウンドな走行性能と所有欲を満たす上質なデザインをあわせもつ1台に仕上がっている。

一見したところDOGMA F10と形状は似通っているようにみえるが、細部はより進化したデザインとなり、細やかなブラッシュアップを図っている。、ボトル取り付け部分を凹ませた「Concaveダウンチューブ」や、フォーク先端に整流効果のあるフィンを設けた「フォークフラップ」といったテクノロジーはDOGMAから受け継ぐ一方、PRINCE独自の解釈に落とし込まれている部分もある。

非対称が際立つシートステー非対称が際立つシートステー 樽型に膨らむことでエアロダイナミクスを向上させるフォークブレード樽型に膨らむことでエアロダイナミクスを向上させるフォークブレード 整流効果のあるフィンを設けた「フォークフラップ」整流効果のあるフィンを設けた「フォークフラップ」


F10との違いはフレームの前三角に顕著で、ダウンチューブは前輪との隙間を縮めるようホイールに沿って切り欠きされている他、フォーククラウンがよりヘッドチューブと一体化するインテグレーテッド化がさらに推し進められており、乱流の発生を抑制するようデザインされている。

ディスクブレーキ周りの規格はフロント12×100mm、リア12×142mmのフラットマウント仕様とスタンダードな仕様。DOGMA F8時代からディスクブレーキバイクを開発してきたノウハウを存分に駆使し、ピナレロらしい乗り味とディスクブレーキのメリットを享受する1台に仕上がった。

イタリアンディスクロードのど真ん中ともいえるPRINCE FX DISKは、アルテグラ完成車、もしくはフレームセットでの展開となる。今回の試乗車はアルテグラ完成車のスペックそのまま。ホイールはフルクラム RACING 500DBに、タイヤはピナレロロゴ入りのヴィットリア ZAFFIROを組み合わせている。それではインプレッションに移ろう。



― インプレッション

「DOGMAに肉薄する高性能を万人向けにチューニングした癖のない走りが魅力」藤野智一(なるしまフレンド)

PRINCE FXはT900という、少し前であればトップエンドのバイクに使用されるレベルのカーボンを使っていることもあり、反応も良く適度な振動吸収性もあり、非常に乗りやすいバイクでした。その名車がディスクブレーキを装備して、更にパワーアップしましたね。

「DOGMAに肉薄する高性能を万人向けにチューニングした癖のない走りが魅力」藤野智一(なるしまフレンド)「DOGMAに肉薄する高性能を万人向けにチューニングした癖のない走りが魅力」藤野智一(なるしまフレンド)
ディスクブレーキならではのメリット、レバー操作が軽いとか、コントローラブルであるとか、そういった美点はしっかりと受け入れつつ、PRINCE FXの乗り味を維持しているのは驚きでした。前後ともスルーアクスルを採用している影響でしょうか、少し剛性感が増している印象は受けましたが、全体的なキャラクターはリムブレーキモデルからぶれていません。

完成車パッケージについてくるホイールがアルミのエアロホイールですが、その点を差し引かずとも軽快な走りが魅力的で、登りでも意外なほど進んでくれました。コーナーで変に捩れるようなこともなく、ニュートラルな乗り味で、レースに出るのでなければこのままのアセンブルでも不満は無いですね。

もちろん、ホイールをアップグレードすれば、全体的に走りのレベルはランクアップするでしょう。ただ、あまり軽すぎて剛性が不足しているようなホイールはミスマッチになりそうです。相性が良いのは、カンパのBORA ONE 35やフルクラムのSPEED 40などが挙げられるでしょう。

とにかく癖の少ないバイクで、どんなレベルの人にもおすすめできる1台です。はじめの1台としては、少し高いかもしれませんが、ビギナーが乗っても扱いきれないことはないですし、真剣にレースに取り組む人でも不満を抱くことはないでしょう。

DOGMAに肉薄しつつも万人向けにチューニングされたのがPRINCE FXというフレームです。完成車で購入しても、ホイールを始めとしたパーツを交換していけばハイアマチュアの要望にしっかり応えてくれるポテンシャルを持っています。ベテランサイクリストにとっても、1台目のディスクブレーキロードとしてしっかりおすすめできるバイクですね。

「高次元でバランスが取れた走りで多くの人にマッチする」藤澤優(ワイズロード上野アサゾー店)

「高次元でバランスが取れた走りで多くの人にマッチする」藤澤優(ワイズロード上野アサゾー店)「高次元でバランスが取れた走りで多くの人にマッチする」藤澤優(ワイズロード上野アサゾー店) 高次元でバランスが取れた走りが魅力の一台です。平坦での高速巡航、35km/h以上で走り続けるようなシチュエーションでも抜群にいいですし、登りを回転数を上げて登っても前へ前へと進んでくれる。勝負所になりやすい。頂上から下りへ勾配が変化するような状況でも車体が前へ出てくれるので踏みやめてしまうことが無い。

下りはハンドリングの良さとディスクブレーキのコントロール性能が合わさって、無敵の速さです。直前までブレーキを遅らせて、くっとコーナーを曲がっていける、レーシーなコーナーリングを楽しめます。流石ピナレロ、といったところでしょうか。

剛性感はしっかりとあって、特にフロント回りに顕著です。もちろんBB周辺もしっかりした造りで、ペダリングパワーを推進力へ確実に変換してくれている信頼感は強いですね。トップ選手をイメージした走りが出来るのは面白いですし、彼らからのフィードバックが生きていることを実感できます。

とはいえ、硬すぎて初心者の方が手に負えないようなバイクではなく、ある種の扱いやすさも確保されているのがPRINCE FX DISKの特徴でしょう。路面が荒れ気味の場所でパワーを掛けても、しっかりとトラクションを感じることが出来ました。そういった部分はペダリングスキルが高くない人にとってもメリットになる性能だと思います。

振動吸収性ももちろんしっかり確保されていて、ハイエンドバイクとして十分な性能です。これがセカンドグレードだということが、ピナレロの恐ろしいところです。

ベースとなったDOGMA F10と比べても、遜色のない仕上がりです。高出力をずっと維持できる人や、体重が重めの人であれば、F10のほうが気持ちよく走ることができるでしょうが、大多数のサイクリストにとっては、PRINCE FX DISKのほうがマッチするのではないでしょうか。

レースにももちろん対応しますし、一方で山岳ロングライドなどでも活躍してくれるでしょう。そんな懐の深さもこのバイクの魅力です。最初からアセンブルされているエアロハンドルやショートノーズサドルなども非常に扱いやすく、そういった完成車のパッケージ全体で見ても非常に完成度が高い1台です。

ピナレロ PRINCE FX DISKピナレロ PRINCE FX DISK
ピナレロ PRINCE FX DISK
カラー:266 RED BLACK、258BOB、263 WHITE AMETISTA
マテリアル:ハイストレングス T900 カーボン
サイズ:44SL,46.5SL,50,51.5,53,54,55,56,57.5,59.5,62 (CC)
フォーク:ONDA with ForkFlap
税抜価格:475,000円(フレームセット)、628,000円(アルテグラ完成車)



インプレッションライダーのプロフィール

藤野智一(なるしまフレンド)藤野智一(なるしまフレンド) 藤野智一(なるしまフレンド)

92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。

なるしまフレンド神宮店
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藤澤優(ワイズロード上野アサゾー店)藤澤優(ワイズロード上野アサゾー店) 藤澤優(ワイズロード上野アサゾー店)

大学時代に浅田顕監督の元で経験を積んだ後、スペインへ遠征し2年半ほど本場ヨーロッパのロードレースに挑戦。トップ選手らとしのぎを削った経験を活かし、トレーニングやレース機材のアドバイスを得意とする。現在はワイズロードの中でも最もロードに特化した「上野アサゾー店」の店長を務める。店内に所狭しと並んだ3万~4万点ものパーツを管理し、スモールパーツからマニアックな製品まであらゆるロードレーサーのニーズを満たすラインアップを揃える。

ワイズロード上野アサゾー店
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ウェア協力:イザドア

text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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