2019/07/11(木) - 15:06
ヴォージュ山地からドイツの風景を感じさせるアルザスの街へ。中級山岳が続く厳しいステージでスプリントのライバルをふるい落とし、サガンの7年ぶりの超人ハルクポーズが帰ってきた。NTTの視察団がツールに帯同。そしてチームイネオスは明日に備えた機材セットアップを開始した。現地で拾った話によるレポート。
スタート地点の話題はカチューシャ・アルペシンの消滅の噂。チームは今季限りで解散が決まったというニュースが流れたのだ。選手たちを縛るものは無く、他に移籍できるチームがあるのなら契約の話を進めることをチーム側も推奨しているとのことで、カチューシャのチーム関係者が他チームの監督たちと話し合っている姿があちこちでみられた。来季スポンサーが見つからず、イスラエルサイクリングアカデミーと合体を検討しているとも。
カチューシャは現況エースナンバーのイルヌール・ザカリンが一昨日の第3ステージで遅れを喫しており、総合を狙えなくなっている。1996年~2001年にわたりツールで6年連続のポイント賞獲得のレジェンド、エリック・ツァベルの息子リック・ツァベルも強豪スプリントスターたちに比してまだ力不足が否めない。ツァベルもディメンションデータのロルフ・アルダグ監督と相談中だった。笑顔も見えるので、解散の深刻さは感じられなかった。果たして噂の真偽は?
昨日ステージ優勝を挙げたエリア・ヴィヴィアーニの移籍ももはや公然の秘密になった。もちろんUCIとの取り決めにより8月1日まで公表されない決まりだが、コフィディスに移籍することは決定しているようだ。コフィディスは来季プロコンからワールドツアーチーム昇格を狙っており(今年もその動きがあったが認められなかった)、高い年俸を積んでも獲得したいスプリンターがヴィヴィアーニだったようだ。
ドゥクーニンク・クイックステップのパトリック・ルフェーブルGMは 昨日のステージ勝利でさらに価値が上がったヴィヴィアーニを留めておく資金力が無いことを認めている。ヴィヴイアーニにとって決して格下げ移籍というわけでもなさそうだ。
ディメンションデータのバス周辺ではゲストとみられるグループがいて賑やかだった。聞けばNTTの欧州支社の方々がツール・ド・フランスの視察に来ているとのこと。ディメンションデータはじつはNTTの子会社で、来季のチームはメインスポンサーがNTTとなることが決まっている。
つまりディメンションデータはチームNTTとなる。NTTはすでに今ツールでもオフィシャルパートナーとして名を連ね、テクニカルパートナーとして計測も行い、大会に対して大きなスポンサードを行っている。
視察グループは来季のスポンサーとなる関係者たちの帯同とのことだった。ディメンションデータのチーム代表ダグ・ライダーGMは「来年は『NTTチーム』になるから、日本との結びつきが強くなる。彼らにはツール・ド・フランスを観戦して学んでもらっている段階で、まずは私達の活動をよく知ってもらうことが大切」と話す。
帯同していたNTT英国の社員は「すでにチームをサポートしてきた(子会社の)ディメンションデータの関係者にガイドしてもらって、我々も来年に備えます。これからの数年間は本当にエキサイティング」と嬉しそうに話してくれた。
帯同していたのはイギリス支社の方が多かったようで、日本人は居ず。日本のNTT本社とのつながりがまだ見えないが、そうなれば期待したいのは日本人選手のチーム入り。希望的観測だが、やはり、もしスポンサーの意向で日本人をチームに加入させることができるなら、NIPPOヴィーニファンティーニに加えてもうひとつの道筋をもった選択肢が増えることになる。
またこの6月にはUCIよりワールドツアーチームはU23育成チームをもたなければならないという指針がチームに周知されている。急すぎるため決定は9月以降、実際の運用は2021年度からの、強制力をもった規則になるかもしれないという。そのことで日本人をある程度含めた育成あるいはセカンドディビジョンチーム発足の可能性も考えられる。このあたりはまた日を改めてライダーGMの話を伺ってみたい。
もうひとつのチームで変化があったのはチームイネオス。バスの周りには新型のピナレロDOGMAの軽量バージョンであるDOGMA F12 X-LIGHTが用意され、ライトウェイト社製の軽量カーボンホイールが選手全員のバイクにセットされていた。
そのドイツ製のホイール、ライトウェイトMeilenstein Obermayerはペアで935gという超軽量ホイール(フロント395g、リア540g)だ。同社はプロチームであってもスポンサー(無料供給)しないことで知られており、かつてのヤン・ウルリッヒやマリオ・チポッリーニなど有力選手が自費購入して使ってきた。このようなチーム全員分を揃えた例はいまだかつて無く、チームカーのルーフキャリアに積まれたスペアバイク全員分にもセットされていた。
チームはシマノがスポンサーでありパートナーでありながらも、このツールでは2つのメーカーのホイールを使い分ける選択をしたようだ。チームスカイ時代にブラドレー・ウィギンスが使用した前例はあるが、当時は秘密裏にされていた。
この日のステージはGトーマスもベルナルも勝負をかける日ではなく、おそらくチームの考えは勝負の大きな転換点となると言われている翌第6ステージのラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ山頂フィニッシュだ。そのリハーサルとして、前日から慣れるために使用したのだろう。
少しの差の積み重ねが大きな差になる「マージナルゲイン」の考え方では理にかなっていながら、近代では他チームにおいてもほとんど見ることもなくなっていた約70万円の高価なハンドメイドホイールは武器となるのか? そしてより軽量なX-LIGHTのフレームとの組み合わせで、UCI規定の最低重量6.8kgは(重りを付加せず)クリアできるのか?
「最後の一葉」で有名なアルザス地方へ。街の風景はドイツの田舎風で、ブレーメンの音楽隊に登場しそうな素敵な風景が葡萄畑とともに続く。半分ドイツということで(ざっくり表現で失礼します)、沿道の応援は、フランス語を話すフランス人のアラフィリップの人気度は他の地域より下がり、代わりにボーラ・ハンスグローエやサガンの人気が高まっていたように感じた。
それでも「JU JU」(アラフィリップの愛称)と書いた応援を多く見かけた(チームはLOU LOUと呼ぶが)。そして「レース中、10秒に一回はジュリアンと呼ばれた」ともアラフィリップは言う。
1級や超級は無い中級山岳ステージで、上りが連続するルートでレースを厳しくしたのはサンウェブやボーラ。登れないスプリンターを登りで削り、マイケル・マシューズとペテル・サガンで勝負をかけるという作戦。果たしてその通りとなり、人数が半分に絞られた中集団でのスプリントに。ルネサンスの街並みがよく保存されているコルマールの街で、フィニッシュに選ばれたのは味気ない郊外の高速道路へのアクセス幹線道路(残念)。
サガンのステージ優勝は4年連続。サガンは2017年ツールでステージ1勝を飾りながらも、その翌日に失格処分を受けてレースを離脱。2018年はステージ3勝を飾ってマイヨヴェールを獲得している。これがステージ通算12勝目で、スプリントポイントでも順調にポイントを獲得しているサガンは7度目のマイヨヴェール獲得に一歩近づいた。
第1ステージでの2位を含め、勝利にあと一歩届かないストレスな日を過ごした。サガンのとった「超人ハルク」のポーズは、遡ればじつに7年ぶりのこと。2012年は他にもフォレストガンプの「走れフォレスト!」のランニングポーズや、謎のチキンダンスなど、数々のパフォーマンスを披露してきた。そのユニークなシーンが帰ってきた。
それでも今回の山岳の多いツールではスプリンターが活躍できるステージは多くない。ツール通算12勝は、史上では15番目。最多34勝のエディ・メルクス、マーク・カヴェンディッシュの30勝、ジーノ・バルタリ、マリオ・チポッリーニ、ミゲル・インデュライン、ロビー・マキュアン、ルイ・トゥルスリエ、そしてエリック・ツァベルら巨人たちの勝利数にはまだ遠い。しかしボーラ・ハンスグローエのチーム全体のレベルアップもあり、チームのアシストとサポート力が増している今、チーム力で勝ちを狙えるチャンスが増えている。
翌第6ステージはラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユの頂上決戦。近年で4回目の登場でお馴染みとなった激坂フィニッシュは今年グラベルを含む登りが延長された。「100%のレースになる。トゥールマレー峠や他の頂上フィニッシュとは違うけれど、アパタイザー(前菜)以上、本当のツールのスタートだ」とゲラント・トーマス。「明日は今ツールで最もハードなステージになる」とダン・マーティンは言う。
近年でもっともオープンなツールで、トーマス、ベルナル、ニバリ、ポート、ピノ、バルデ、マーティン、ファビオ・アル...勝てるであろう選手は数えきれない。アルプスやピレネーの超級山岳とは違う中級山岳。ツールはラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユでは決まらないがが、誰がこのツールに勝つかは大きく絞られることになる。
text&photo:Makoto.AYANO in Colmar FRANCE
スタート地点の話題はカチューシャ・アルペシンの消滅の噂。チームは今季限りで解散が決まったというニュースが流れたのだ。選手たちを縛るものは無く、他に移籍できるチームがあるのなら契約の話を進めることをチーム側も推奨しているとのことで、カチューシャのチーム関係者が他チームの監督たちと話し合っている姿があちこちでみられた。来季スポンサーが見つからず、イスラエルサイクリングアカデミーと合体を検討しているとも。
カチューシャは現況エースナンバーのイルヌール・ザカリンが一昨日の第3ステージで遅れを喫しており、総合を狙えなくなっている。1996年~2001年にわたりツールで6年連続のポイント賞獲得のレジェンド、エリック・ツァベルの息子リック・ツァベルも強豪スプリントスターたちに比してまだ力不足が否めない。ツァベルもディメンションデータのロルフ・アルダグ監督と相談中だった。笑顔も見えるので、解散の深刻さは感じられなかった。果たして噂の真偽は?
昨日ステージ優勝を挙げたエリア・ヴィヴィアーニの移籍ももはや公然の秘密になった。もちろんUCIとの取り決めにより8月1日まで公表されない決まりだが、コフィディスに移籍することは決定しているようだ。コフィディスは来季プロコンからワールドツアーチーム昇格を狙っており(今年もその動きがあったが認められなかった)、高い年俸を積んでも獲得したいスプリンターがヴィヴィアーニだったようだ。
ドゥクーニンク・クイックステップのパトリック・ルフェーブルGMは 昨日のステージ勝利でさらに価値が上がったヴィヴィアーニを留めておく資金力が無いことを認めている。ヴィヴイアーニにとって決して格下げ移籍というわけでもなさそうだ。
ディメンションデータのバス周辺ではゲストとみられるグループがいて賑やかだった。聞けばNTTの欧州支社の方々がツール・ド・フランスの視察に来ているとのこと。ディメンションデータはじつはNTTの子会社で、来季のチームはメインスポンサーがNTTとなることが決まっている。
つまりディメンションデータはチームNTTとなる。NTTはすでに今ツールでもオフィシャルパートナーとして名を連ね、テクニカルパートナーとして計測も行い、大会に対して大きなスポンサードを行っている。
視察グループは来季のスポンサーとなる関係者たちの帯同とのことだった。ディメンションデータのチーム代表ダグ・ライダーGMは「来年は『NTTチーム』になるから、日本との結びつきが強くなる。彼らにはツール・ド・フランスを観戦して学んでもらっている段階で、まずは私達の活動をよく知ってもらうことが大切」と話す。
帯同していたNTT英国の社員は「すでにチームをサポートしてきた(子会社の)ディメンションデータの関係者にガイドしてもらって、我々も来年に備えます。これからの数年間は本当にエキサイティング」と嬉しそうに話してくれた。
帯同していたのはイギリス支社の方が多かったようで、日本人は居ず。日本のNTT本社とのつながりがまだ見えないが、そうなれば期待したいのは日本人選手のチーム入り。希望的観測だが、やはり、もしスポンサーの意向で日本人をチームに加入させることができるなら、NIPPOヴィーニファンティーニに加えてもうひとつの道筋をもった選択肢が増えることになる。
またこの6月にはUCIよりワールドツアーチームはU23育成チームをもたなければならないという指針がチームに周知されている。急すぎるため決定は9月以降、実際の運用は2021年度からの、強制力をもった規則になるかもしれないという。そのことで日本人をある程度含めた育成あるいはセカンドディビジョンチーム発足の可能性も考えられる。このあたりはまた日を改めてライダーGMの話を伺ってみたい。
もうひとつのチームで変化があったのはチームイネオス。バスの周りには新型のピナレロDOGMAの軽量バージョンであるDOGMA F12 X-LIGHTが用意され、ライトウェイト社製の軽量カーボンホイールが選手全員のバイクにセットされていた。
そのドイツ製のホイール、ライトウェイトMeilenstein Obermayerはペアで935gという超軽量ホイール(フロント395g、リア540g)だ。同社はプロチームであってもスポンサー(無料供給)しないことで知られており、かつてのヤン・ウルリッヒやマリオ・チポッリーニなど有力選手が自費購入して使ってきた。このようなチーム全員分を揃えた例はいまだかつて無く、チームカーのルーフキャリアに積まれたスペアバイク全員分にもセットされていた。
チームはシマノがスポンサーでありパートナーでありながらも、このツールでは2つのメーカーのホイールを使い分ける選択をしたようだ。チームスカイ時代にブラドレー・ウィギンスが使用した前例はあるが、当時は秘密裏にされていた。
この日のステージはGトーマスもベルナルも勝負をかける日ではなく、おそらくチームの考えは勝負の大きな転換点となると言われている翌第6ステージのラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ山頂フィニッシュだ。そのリハーサルとして、前日から慣れるために使用したのだろう。
少しの差の積み重ねが大きな差になる「マージナルゲイン」の考え方では理にかなっていながら、近代では他チームにおいてもほとんど見ることもなくなっていた約70万円の高価なハンドメイドホイールは武器となるのか? そしてより軽量なX-LIGHTのフレームとの組み合わせで、UCI規定の最低重量6.8kgは(重りを付加せず)クリアできるのか?
「最後の一葉」で有名なアルザス地方へ。街の風景はドイツの田舎風で、ブレーメンの音楽隊に登場しそうな素敵な風景が葡萄畑とともに続く。半分ドイツということで(ざっくり表現で失礼します)、沿道の応援は、フランス語を話すフランス人のアラフィリップの人気度は他の地域より下がり、代わりにボーラ・ハンスグローエやサガンの人気が高まっていたように感じた。
それでも「JU JU」(アラフィリップの愛称)と書いた応援を多く見かけた(チームはLOU LOUと呼ぶが)。そして「レース中、10秒に一回はジュリアンと呼ばれた」ともアラフィリップは言う。
1級や超級は無い中級山岳ステージで、上りが連続するルートでレースを厳しくしたのはサンウェブやボーラ。登れないスプリンターを登りで削り、マイケル・マシューズとペテル・サガンで勝負をかけるという作戦。果たしてその通りとなり、人数が半分に絞られた中集団でのスプリントに。ルネサンスの街並みがよく保存されているコルマールの街で、フィニッシュに選ばれたのは味気ない郊外の高速道路へのアクセス幹線道路(残念)。
サガンのステージ優勝は4年連続。サガンは2017年ツールでステージ1勝を飾りながらも、その翌日に失格処分を受けてレースを離脱。2018年はステージ3勝を飾ってマイヨヴェールを獲得している。これがステージ通算12勝目で、スプリントポイントでも順調にポイントを獲得しているサガンは7度目のマイヨヴェール獲得に一歩近づいた。
第1ステージでの2位を含め、勝利にあと一歩届かないストレスな日を過ごした。サガンのとった「超人ハルク」のポーズは、遡ればじつに7年ぶりのこと。2012年は他にもフォレストガンプの「走れフォレスト!」のランニングポーズや、謎のチキンダンスなど、数々のパフォーマンスを披露してきた。そのユニークなシーンが帰ってきた。
それでも今回の山岳の多いツールではスプリンターが活躍できるステージは多くない。ツール通算12勝は、史上では15番目。最多34勝のエディ・メルクス、マーク・カヴェンディッシュの30勝、ジーノ・バルタリ、マリオ・チポッリーニ、ミゲル・インデュライン、ロビー・マキュアン、ルイ・トゥルスリエ、そしてエリック・ツァベルら巨人たちの勝利数にはまだ遠い。しかしボーラ・ハンスグローエのチーム全体のレベルアップもあり、チームのアシストとサポート力が増している今、チーム力で勝ちを狙えるチャンスが増えている。
翌第6ステージはラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユの頂上決戦。近年で4回目の登場でお馴染みとなった激坂フィニッシュは今年グラベルを含む登りが延長された。「100%のレースになる。トゥールマレー峠や他の頂上フィニッシュとは違うけれど、アパタイザー(前菜)以上、本当のツールのスタートだ」とゲラント・トーマス。「明日は今ツールで最もハードなステージになる」とダン・マーティンは言う。
近年でもっともオープンなツールで、トーマス、ベルナル、ニバリ、ポート、ピノ、バルデ、マーティン、ファビオ・アル...勝てるであろう選手は数えきれない。アルプスやピレネーの超級山岳とは違う中級山岳。ツールはラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユでは決まらないがが、誰がこのツールに勝つかは大きく絞られることになる。
text&photo:Makoto.AYANO in Colmar FRANCE
フォトギャラリー
Amazon.co.jp