「ユイの壁」で決した第83回フレーシュ・ワロンヌ。登りが追加されて難易度が増しても、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)の勢いは止まらなかった。ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)との因縁の一騎打ちでアラフィリップが大会連覇を果たした。


ミュール・ド・ユイを登るメイン集団ミュール・ド・ユイを登るメイン集団 photp:A.S.O.
フレーシュ・ワロンヌ2019フレーシュ・ワロンヌ2019 photp:A.S.O.フレーシュ・ワロンヌ2019フレーシュ・ワロンヌ2019 photp:A.S.O.

アムステルゴールドレースとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュの間に挟まれた水曜日に開催された、アルデンヌクラシック第2戦フレーシュ・ワロンヌ。ツール・ド・フランスやリエージュと同じA.S.O.(アモリー・スポルト・オルガニザシオン)が主催するワンデーレースで、2019年で開催83回目を迎える。「フレーシュ」はフランス語で「矢」を意味しており、レース名は「ワロン地域を貫く矢」の意味。

レース最大の見所は最大勾配が26%に達する激坂「ユイの壁」ことミュール・ド・ユイ(1,300m/9.6%)頂上フィニッシュ。2019年はこの「壁」とコート・デレッフ(2,100m/5%)、コート・ド・シュラーブ(1,300m/8.1%)という3つの上りを含む29km周回を3周する。「ユイの壁」で決するレイアウトには変わりないが、2018年前より周回数が増加。登場する登りの数が増えたことで、単純に今までよりも高い登坂力を選手の脚に問いかけた。

2018年までリエージュ〜バストーニュ〜リエージュのフィニッシュを迎え入れていたアンスの街をスタートすると、コンスタントに吹く強い南風を受けながら、クーン・ボウマン(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)やジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム)らが逃げグループを形成する。最大5分45秒のタイム差がついたメイン集団では、ドゥクーニンク・クイックステップが横風区間をエシュロン作戦を敢行。勝負を左右する集団分裂は起こらなかったが、前半から常にスピードが上がる耐久戦の様相を呈した。

いよいよユイの周回コースに入ってタイム差が3分を切ると、ボーラ・ハンスグローエやカチューシャ・アルペシンがカウンターアタックを仕掛けてレースをかき回し始める、チェザーレ・ベネデッティ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)やネイサン・ハース(オーストラリア、カチューシャ・アルペシン)、ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・メリダ)らがメイン集団を抜け出すことに成功。追走グループを形成し、約2分のリードで1回目の「ユイの壁」をクリアした先頭グループを追いかける。

その後もモビスターやドゥクーニンク・クイックステップがコントロールするメイン集団から抜け出す選手が後を絶たず、ゴルカ・イサギレ(スペイン、アスタナ)やトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・スーダル)らも追走グループに次々と合流。しかし危険を察知したモビスター勢の牽引によって追走グループは一旦引き戻された。

まだフィニッシュまで35kmを残したタイミングで、激坂の名手ダニエル・マーティン(アイルランド、UAEチームエミレーツ)や初出場のペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)らがメイン集団から脱落。さらにアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)やヨン・イサギレ(スペイン、アスタナ)、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、バーレーン・メリダ)、ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ディメンションデータ)といった主要選手も落車によって戦線から離脱していく。こうして徐々に人数を減らすメイン集団は、先頭で唯一逃げ続けていたロスコフを2回目の「ユイの壁」頂上でキャッチした。


リエージュ近郊の渓谷路を走るリエージュ近郊の渓谷路を走る photp:A.S.O.
1回目のミュール・ド・ユイを登るメイン集団1回目のミュール・ド・ユイを登るメイン集団 photp:A.S.O.
逃げるジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム)らがミュール・ド・ユイに挑む逃げるジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム)らがミュール・ド・ユイに挑む photo:CorVos
ビョルグ・ランブレヒト(ベルギー、ロット・スーダル)のペースアップによって、この2回目の「ユイの壁」でメイン集団が割れる。ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ)やティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)、エンリク・マス(スペイン、ドゥクーニンク・クイックステップ)、マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)、ワウト・プールス(オランダ、チームスカイ)といったエース級選手を含む30名が先行したものの、5度の優勝者アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)を戦線に復帰させたいモビスターの牽引によって残り23km地点で再び集団は一つに。

その後もアタックは止まらず、この日4〜5回目のアタックを仕掛けたマルチンスキーとマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・メリダ)が抜け出した状態でレースは残り10kmを切った。

アラフィリップを大会連覇に導きたいドゥクーニンク・クイックステップはドリス・デヴェナインス(ベルギー)とエンリク・マス(スペイン)を先頭に立たせ、逃げていたマルチンスキーとモホリッチを残り5.5km地点のコート・ド・シュラーブの麓でキャッチ。デヴェナインスが脱落すると今度は2018年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合2位マスが強力なペースを刻み、メイン集団を約30名に絞り込んだ状態でコート・ド・シュラーブをクリアしていく。

そして迎えた最後の「ユイの壁」。人数を残したボーラ・ハンスグローエやチームスカイ、ロット・スーダルを先頭にユイの街中を抜け、残り1kmアーチ通過とともに激坂区間へと入っていく。ティム・ウェレンス(ベルギー)とイエール・ファネンデル(ベルギー)のロット・スーダルコンビを先頭に最も勾配のあるS字コーナーに差し掛かると、ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)が最初に仕掛けた。

ダンシングで加速したフルサングにはすかさずミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)とアラフィリップが反応。身をくねらせながら失速する選手たちを尻目に、アラフィリップがそのまま踏んでいく。アラフィリップが振り返ったその視線の先に、翌日に39歳の誕生日を控えたかつての「ユイの王様」バルベルデの姿はなかった。

クウィアトコウスキーも失速したため先頭はフルサングとアラフィリップの2人に。ストラーデビアンケとアムステルゴールドレースでも終盤に先行した2人による一騎打ち。3日前のアムステルでは追走グループに追いつかれて両者ともにチャンスを失ったが、フレーシュ・ワロンヌの激坂バトルでは後続を寄せ付けなかった。

タイミングを見計らって加速したアラフィリップがフルサングをパス。ダンシングを続けたアラフィリップが、食らいつくフルサングを振り切った。2年連続で、アラフィリップが「ユイの壁」を制した。


メイン集団を牽引するドゥクーニンク・クイックステップメイン集団を牽引するドゥクーニンク・クイックステップ photp:A.S.O.
ミュール・ド・ユイの急勾配区間に向かうメイン集団ミュール・ド・ユイの急勾配区間に向かうメイン集団 photo:CorVos
ミュール・ド・ユイを先頭で駆け上がるジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)ミュール・ド・ユイを先頭で駆け上がるジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos
ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)を下したジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)を下したジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos
「風が強い1日だったのでスタートからずっとナーバスな展開だった。精神的に疲弊したよ。最後の周回コースに入ってから前走者がナンセンスな動きを見せて、その影響でホイールのスポークが3本折れた。フィニッシュに近い状況だったもののスペアバイクに乗り換えて再スタート。問題なく集団に復帰したし、チームとして完璧な走りだったと思う」。ドゥクーニンク・クイックステップはこれが今シーズン25勝目。『ルル』の愛称で呼ばれるアラフィリップが今シーズン9勝目を飾った。

「偉大なチャンピオン(バルベルデ)の前でフィニッシュした昨年の初優勝は特別だった。今日の勝利で、このレースは完璧に自分向きであることを証明できたと思う。初出場した時からずっと表彰台に上っていることもあり、周囲からの期待はとにかく大きかった。今シーズンの好成績がさらにプレッシャーを押し上げたものの、集中して、自分とチームが何をすべきかに集中した。昨年よりも難しかったよ」。2015年2位、2016年2位、2017年欠場、2018年1位、そして2019年1位。ミラノ〜サンレモとフレーシュ・ワロンヌの同年制覇はエディ・メルクス(ベルギー)らに続く史上4人目の記録。アラフィリップはもちろん日曜日のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでも優勝候補に挙げられる。

「表彰台の頂点にまた一歩近づいた」と語るのは、アムステルの3位表彰台に続き、フレーシュ・ワロンヌで初の表彰台に上ったフルサング。「日曜日のアムステルを残念な形で終えていただけに今日は巻き返したかった。ジュリアン(アラフィリップ)に追い抜かれてからも何とか食らいついたけど、彼の前に再び出ることはできなかった。より爆発力のあるジュリアンは、ステージレース向きの自分よりもこういったレースに向いている。自分向きとは言えないこのレースで、調子の良さを発揮して、表彰台に上ったことに満足している。日曜日のリエージュが楽しみだ」。


表彰台に登るヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ)表彰台に登るヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

フレーシュ・ワロンヌ2019結果
1位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 4:55:14
2位 ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)
3位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ) 0:00:06
4位 ビョルグ・ランブレヒト(ベルギー、ロット・スーダル) 0:00:08
5位 マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
6位 バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)
7位 パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)
8位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)
9位 イエール・ファネンデル(ベルギー、ロット・スーダル) 0:00:11
10位 エンリーコ・ガスパロット(イタリア、ディメンションデータ)
11位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
12位 ブノワ・コズネフロワ(フランス、アージェードゥーゼール)
13位 ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)
14位 ディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・メリダ)
15位 ローレンス・デプルス(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)
16位 ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)
17位 ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル) 0:00:15
18位 ギヨーム・マルタン(フランス、ワンティ・グループゴベール) 0:00:19
19位 ルディ・モラール(フランス、グルパマFDJ) 0:00:23
20位 セルジオルイス・エナオ(コロンビア、UAEチームエミレーツ) 0:00:25

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