「平坦」と分類された第17ステージは、4つのカテゴリー山岳を含む消耗戦に。限界まで削られた26名のスプリントを制したヤスペル・フィリプセンは、ファンデルプールの献身を「特権」と表現し、安堵した。一方、レース外では午前2時のドーピング検査を巡る波紋が広がっている。

Tシャツの裏表を使い、ウェレンス(WELLENS)とメルリール(MERLIER)を自在に操る7人(1人足りない) photo:Sotaro.Arakawa
ツール・ド・フランスでは3週間のコースを1週間ごとに区切り、休息日にプレビューを公開している。3週目のコースプレビューで、第17ステージについて筆者はこう書いた。「このステージを『平坦』に分類するとは、どういう了見なのだろうか」。
なぜなら序盤には4級、4級、3級、4級と、4つのカテゴリー山岳が立て続けに組み込まれ、終盤も緩やかな登りが続く。実際に車でコースをたどってみても、ピュアスプリンター向きのフィニッシュとは思えなかったからだ。そのためプレビューでは「登れる」スプリンター向きと予想。ただ、実際には大集団のスプリントよりも、逃げ切った選手たちによる小集団スプリントの可能性が高いと思っていた。
しかし結果は、26名によるスプリント。しかもピュアスプリンターと呼べ、勝利したヤスペル・フィリプセン(ベルギー)とオラフ・コーイ(オランダ)が入っていたのだ。

今大会初勝利を掴んだヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・プレミアテック) photo:CorVos
フィリプセンが「最後は限界に達していたが、他の全員も同じだった」と語った通り、序盤から逃げを巡る攻防が続き、カテゴリー山岳を越え、その後もアタックと合流が繰り返された。フィリプセンをリードアウトしたマチュー・ファンデルプール(オランダ)も、フィニッシュ後には「もしかしたらリードアウトができないかもしれないと思った」と話した。それほど、全員の脚が限界だった。
その証拠にマシューズはスプリントで伸びを欠き、9位に終わった一方、そのチームメイトであり、展開によってはマシューズのリードアウトを務めていたはずのマウロ・シュミット(スイス、ジェイコ・アルウラー)が2位に入った。フィニッシュ地点で選手たちがやってくるのを待っていると、マシューズの悔しそうな叫び声が歓声に混ざって聞こえてきた。
フィリプセンの勝因の一つに、間違いなくマチューの存在がある。終盤に番手を上げ、最後はフィリプセンを勝利へと導く圧巻のリードアウトを見せたからだ。その働きについて質問されたフィリプセンは、こう答えた。
「彼のような選手がチームにいるのは大きなアドバンテージだ。マチューは勝者だから、彼にスプリントを託されるとプレッシャーも増える。でも、マチューをリードアウトとして使える特権を持つ選手は、ほとんどいない」

絶好のリードアウトを披露したマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・プレミアテック)がフィリプセンを祝福 photo:CorVos
これでフィリプセンの今大会におけるスプリント成績は、5位、5位、4位、3位、3位、そして優勝となった。着実に順位を上げてきたようにも見える。だが本人によれば、直近で3位に入った第12ステージまでは「酷い状態だった」という。その原因は、連日40℃を悠々と超えていた暑さではない。「暑さではなく、他の原因不明な何かだった」。本人にも、その正体は分からなかった。
一方、記者会見では、チームから勝利を求められるプレッシャーについても率直に話した。チームから責められるわけではない。勝てなかったからといって、スタッフが公に不満を口にするわけでもない。ただ、総合争いを狙う選手を連れてこず、ステージ優勝のために編成されたチームである以上、言葉にならない期待は存在する。
またインスタグラムには批判的なコメントも届き、気持ちを切り替えるため、ツールについて書かれた記事やTV番組から距離を置き、なるべく別のことを考えるよう努めていたという。そのためフィリプセンが強調したのは、勝利の喜び以上に「安堵」だった。

待望のステージ優勝を挙げたヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・プレミアテック) photo:CorVos
そして今回の勝利により、マイヨヴェール争いも一気に緊迫感を増す。
この日、逃げ集団に入り、中間スプリントで最大の25ポイントを獲得したピーダスンは、ステージでも8位に入り10ポイントを加算。合計452ポイントとした。一方、フィリプセンは445ポイント。その差はわずか7ポイントだ。
ただし、ここからの中間スプリントは簡単ではない。第18ステージは1級、2級、3級山岳を越えた先、第19ステージは2級、1級山岳の先、そして第20ステージでは最初の超級山岳を越えなければポイントにたどり着けない。
「ピーダスンは僕よりも登りが得意だ」とフィリプセンは認める。だが、そのピーダスンにとっても、クライマーたちに先着してポイントを獲得するのは容易ではない。つまりマイヨヴェール争いは、ピーダスンが語る通り「パリまで続く」のだろう。

3週目に入り、これまで以上の報道陣が集まるヴォワロンのフィニッシュ地点 photo:Sotaro.Arakawa
最後に、ツールを騒がせているドーピング検査の話題にも触れておきたい。第15ステージで落車し、ツールを去ったヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)が、その日の午前2時ごろに予告なしの検査を受けていた問題だ。同じ日の午前5時ごろにはタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)も検査を受け、マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)も今大会中に同時刻の検査を受けたと明かしている。
真っ先に声明を出したCPA(プロ選手組合)は、夜間検査が選手の睡眠と回復を妨げるとして声明を発表。続いてMPCC(世界アンチドーピング倫理運動)も、アンチ・ドーピング体制の強化を支持しながら、制度の弱点や抜け穴を検証し続ける必要性を訴えた。
なかでも大きな波紋を呼んだのが、モホリッチの発言だった。「全員が同じ扱いを受けるべきだ。総合上位にいる、あるフランス人選手はこの検査を受けていないと聞いている」。選手名は挙げなかったものの、その条件からポール・セクサス(フランス、デカトロンCMA CGM)を指した発言と受け止められた。
検査を担当するITA(国際検査機関)は、フランスの裁判官から許可を得ていた。ただし、これはフランス人選手を有利にする証拠ではなく、フランス国内で通常時間外の検査を行うため、現地の法的手続きを踏んだということでもある。それでも、なぜ選手によって午前2時と午前5時に分かれ、総合上位の一部だけが対象になったのか。選定基準が明かされていないことが、恣意的な人選ではないかという疑念を招いた。
そして水曜日、ここまで沈黙を続けていたUCI(国際自転車競技連合)が声明を発表。夜間検査が選手の睡眠や回復を妨げることを認める一方、ドーピングとの闘いは「絶対的な優先事項」だとしてITAを全面的に支持した。つまり選手への負担を理解しながらも、必要と判断された場合にはドーピング防止を優先する、という回答だった。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Grenoble, France
photo:CorVos

ツール・ド・フランスでは3週間のコースを1週間ごとに区切り、休息日にプレビューを公開している。3週目のコースプレビューで、第17ステージについて筆者はこう書いた。「このステージを『平坦』に分類するとは、どういう了見なのだろうか」。
なぜなら序盤には4級、4級、3級、4級と、4つのカテゴリー山岳が立て続けに組み込まれ、終盤も緩やかな登りが続く。実際に車でコースをたどってみても、ピュアスプリンター向きのフィニッシュとは思えなかったからだ。そのためプレビューでは「登れる」スプリンター向きと予想。ただ、実際には大集団のスプリントよりも、逃げ切った選手たちによる小集団スプリントの可能性が高いと思っていた。
しかし結果は、26名によるスプリント。しかもピュアスプリンターと呼べ、勝利したヤスペル・フィリプセン(ベルギー)とオラフ・コーイ(オランダ)が入っていたのだ。

フィリプセンが「最後は限界に達していたが、他の全員も同じだった」と語った通り、序盤から逃げを巡る攻防が続き、カテゴリー山岳を越え、その後もアタックと合流が繰り返された。フィリプセンをリードアウトしたマチュー・ファンデルプール(オランダ)も、フィニッシュ後には「もしかしたらリードアウトができないかもしれないと思った」と話した。それほど、全員の脚が限界だった。
その証拠にマシューズはスプリントで伸びを欠き、9位に終わった一方、そのチームメイトであり、展開によってはマシューズのリードアウトを務めていたはずのマウロ・シュミット(スイス、ジェイコ・アルウラー)が2位に入った。フィニッシュ地点で選手たちがやってくるのを待っていると、マシューズの悔しそうな叫び声が歓声に混ざって聞こえてきた。
フィリプセンの勝因の一つに、間違いなくマチューの存在がある。終盤に番手を上げ、最後はフィリプセンを勝利へと導く圧巻のリードアウトを見せたからだ。その働きについて質問されたフィリプセンは、こう答えた。
「彼のような選手がチームにいるのは大きなアドバンテージだ。マチューは勝者だから、彼にスプリントを託されるとプレッシャーも増える。でも、マチューをリードアウトとして使える特権を持つ選手は、ほとんどいない」

これでフィリプセンの今大会におけるスプリント成績は、5位、5位、4位、3位、3位、そして優勝となった。着実に順位を上げてきたようにも見える。だが本人によれば、直近で3位に入った第12ステージまでは「酷い状態だった」という。その原因は、連日40℃を悠々と超えていた暑さではない。「暑さではなく、他の原因不明な何かだった」。本人にも、その正体は分からなかった。
一方、記者会見では、チームから勝利を求められるプレッシャーについても率直に話した。チームから責められるわけではない。勝てなかったからといって、スタッフが公に不満を口にするわけでもない。ただ、総合争いを狙う選手を連れてこず、ステージ優勝のために編成されたチームである以上、言葉にならない期待は存在する。
またインスタグラムには批判的なコメントも届き、気持ちを切り替えるため、ツールについて書かれた記事やTV番組から距離を置き、なるべく別のことを考えるよう努めていたという。そのためフィリプセンが強調したのは、勝利の喜び以上に「安堵」だった。

そして今回の勝利により、マイヨヴェール争いも一気に緊迫感を増す。
この日、逃げ集団に入り、中間スプリントで最大の25ポイントを獲得したピーダスンは、ステージでも8位に入り10ポイントを加算。合計452ポイントとした。一方、フィリプセンは445ポイント。その差はわずか7ポイントだ。
ただし、ここからの中間スプリントは簡単ではない。第18ステージは1級、2級、3級山岳を越えた先、第19ステージは2級、1級山岳の先、そして第20ステージでは最初の超級山岳を越えなければポイントにたどり着けない。
「ピーダスンは僕よりも登りが得意だ」とフィリプセンは認める。だが、そのピーダスンにとっても、クライマーたちに先着してポイントを獲得するのは容易ではない。つまりマイヨヴェール争いは、ピーダスンが語る通り「パリまで続く」のだろう。

最後に、ツールを騒がせているドーピング検査の話題にも触れておきたい。第15ステージで落車し、ツールを去ったヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)が、その日の午前2時ごろに予告なしの検査を受けていた問題だ。同じ日の午前5時ごろにはタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)も検査を受け、マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)も今大会中に同時刻の検査を受けたと明かしている。
真っ先に声明を出したCPA(プロ選手組合)は、夜間検査が選手の睡眠と回復を妨げるとして声明を発表。続いてMPCC(世界アンチドーピング倫理運動)も、アンチ・ドーピング体制の強化を支持しながら、制度の弱点や抜け穴を検証し続ける必要性を訴えた。
なかでも大きな波紋を呼んだのが、モホリッチの発言だった。「全員が同じ扱いを受けるべきだ。総合上位にいる、あるフランス人選手はこの検査を受けていないと聞いている」。選手名は挙げなかったものの、その条件からポール・セクサス(フランス、デカトロンCMA CGM)を指した発言と受け止められた。
検査を担当するITA(国際検査機関)は、フランスの裁判官から許可を得ていた。ただし、これはフランス人選手を有利にする証拠ではなく、フランス国内で通常時間外の検査を行うため、現地の法的手続きを踏んだということでもある。それでも、なぜ選手によって午前2時と午前5時に分かれ、総合上位の一部だけが対象になったのか。選定基準が明かされていないことが、恣意的な人選ではないかという疑念を招いた。
そして水曜日、ここまで沈黙を続けていたUCI(国際自転車競技連合)が声明を発表。夜間検査が選手の睡眠や回復を妨げることを認める一方、ドーピングとの闘いは「絶対的な優先事項」だとしてITAを全面的に支持した。つまり選手への負担を理解しながらも、必要と判断された場合にはドーピング防止を優先する、という回答だった。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Grenoble, France
photo:CorVos
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