2010年4月7日、ベルギー北部のアントウェルペンで第98回シュヘルデプライス(UCI1.HC)が開催された。スプリンター向きのクラシックと呼ばれるこの大会で勝利を収めたのはタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)。アメリカ人初の大会制覇を達成した。

スタートラインに並んだファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)スタートラインに並んだファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Cor Vosベルギー・フランドル地方アントウェルペン(英名アントワープ)近郊で開催されるシュヘルデプライスは、UCI(国際自転車競技連合)のHC(超級)のセミクラシックレース。“セミ”とは言え、1907年に第1回大会が開催されており、その歴史はロンド・ファン・フラーンデレンよりも古い。今年で開催98回目を迎える伝統の一戦だ。

コースは156kmの大周回を1周し、16.4kmの小周回を3周する計205km。石畳区間が数カ所設定されているが、スプリンターの脚と止めるような上りは登場しない。

集団内で周回をこなすトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)集団内で周回をこなすトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ) photo:Cor Vos完全にスプリンター向きのクラシックレースとして知られており、過去の優勝者には名スプリンターの名前がズラリと並ぶ。近年ではトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)が2勝している。

レースにはプロツアー12チームとプロコンチネンタル9チーム、コンチネンタル3チームが出場。コフィディスも出場予定だったが、相次ぐ故障や病気のためメンバーを揃えることが出来ずに欠場した。

スコーテンの小周回をこなす選手たちスコーテンの小周回をこなす選手たち photo:Cor Vosスタート直後からアタックが繰り返されたため、最初の1時間の平均スピードは50.3km/hをマーク。ロンド・ファン・フラーンデレンで素晴らしいアシストぶりを披露したマシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)やヨナス・ユングブラッド(スウェーデン、オメガファーマ・ロット)ら8名が飛び出すと、ようやくレースは落ち着きを取り戻した。

8名の逃げグループは最大6分のリードを得てレース後半へ。メイン集団はチームHTC・コロンビアがコントロールした。HTCのエーススプリンターは過去に2勝しているカヴェンディッシュではなく、今シーズン通算勝利数トップ(6勝)のアンドレ・グライペル(ドイツ)だ。

終盤に設定されたスコーテンの周回コースをこなすトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)ら終盤に設定されたスコーテンの周回コースをこなすトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)ら photo:Cor Vos落車やパンクのトラブルが相次ぐ中、メイン集団は着実に逃げグループのリードを削りながら進行。トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)も落車の被害に遭い、靴を交換するなどしたが、問題なくレースに復帰した。

結局逃げグループはゴール10km手前で吸収。ゴールが近づくと、それまで集団を積極的に牽いていたチームHTC・コロンビアが姿を消し、代わってチームスカイやカチューシャが入り乱れるカタチでラスト1kmへ。

スプリント勝利を飾ったタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)スプリント勝利を飾ったタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) photo:Cor Vosスプリントの口火を切ったのは、ベルギーチャンピオンジャージを着るボーネン。ワウテル・ウェイラント(ベルギー)の発射台役を担ったボーネンが先頭でゴールに突き進んだが、その番手をキープしたタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)とロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)がラスト150mでスプリントを開始。

失速するボーネンと勢い良く抜き去ったファラーとマキュアンがスプリントバトルを繰り広げ、最後まで勢いを絶やさなかったファラーが先着。マキュアンが2位、ロベルト・フェルスター(ドイツ、チームミルラム)が3位に入った。

表彰台、左から2位ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)、優勝タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)、3位ロベルト・フェルスター(ドイツ、チームミルラム)表彰台、左から2位ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)、優勝タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)、3位ロベルト・フェルスター(ドイツ、チームミルラム) photo:Cor Vos大会初制覇を達成したファラーは「このレースはヘント〜ウェベルヘムに次ぐ重要な目標レースの一つだった。正直言うと体調は良くなかったけど、チームメイト7人が100%の力で支えてくれたので、モチヴェーションは高かった。チームの走りは素晴らしかったよ」とコメント。アメリカ人として初めて優勝者リストの中に名前を刻んだ。

グレゴー・ブラウンのインタビュー記事でお伝えした通り、ファラーはフランドル地方で開催されるクラシックレースをシーズン前半の目標に掲げている。今シーズンはヘント〜ウェベルヘムで9位、デパンヌ3日間レースでステージ優勝、そしてロンド・ファン・フラーンデレンで5位(集団先頭)という過去最高の成績を残しており、春のクラシック最終戦パリ〜ルーベでの活躍にも期待が集まる。

「チームには過去にトップ5でゴールした選手が2人いる。これまでのレースで彼らが僕を支えてくれていたように、日曜日は彼らの走りを全力でサポートするよ」。ファラーは初出場した2008年のパリ〜ルーベで57位。今年はマルティン・マースカント(オランダ)とヨハン・ファンスーメレン(ベルギー)のアシストを務める予定だ。

マキュアンは惜しくも2002年に続く2度目の優勝ならず。しかし故障に悩まされた昨シーズンを乗り越え、強いマキュアンが帰って来ている。「ラスト10kmは混沌としていてポジション取りに苦労した。チームメイトの力を狩りてラスト1kmで集団前方に付き、ラスト500mでファラーの付き位置を確保。ラスト100mからスプリントしたけど、今日はファラーが一番強かった。自分の走りには充分満足している。レースに出場する度に調子が上がっているよ」。マキュアン自身も自分の走りに手応えを感じているようだ。

レース展開はストリーミング映像、選手コメントは各チーム公式より。

シュヘルデプライス2010結果
1位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)     4h28'42"
2位 ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)
3位 ロベルト・フェルスター(ドイツ、チームミルラム)
4位 グレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、チームスカイ)
5位 ワウテル・ウェイラント(ベルギー、クイックステップ)
6位 エンリーコ・ロッシ(イタリア、チェラミカ・フラミニア)
7位 クリス・ブックマンス(ベルギー、トップスポート・フラーンデレン)
8位 ジミー・カスペール(フランス、ソール・ソジャサン)
9位 ロイド・モンドリー(フランス、アージェードゥーゼル)
10位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、BMCレーシングチーム)

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos

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