群雄ひしめくエアロロード戦線に、一際大きな存在感を示すBMC Timemachine Road。シンプルで洗練されたフォルムとエアロなギミックが同居する、スーパーバイクの真実に迫るインプレッションをお届けしよう。



BMC Timemachine Road 01BMC Timemachine Road 01 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ありとあらゆるブランドがエアロロードを発表したのではないかと思わせる2018年。生半なバイクでは印象を残すこともなく忘れ去られてしまいそうなほど、数多くのエアロロードが発表された1年となった。

各社共にエアロダイナミクスに対するノウハウも蓄積されてきたこと、更にはディスクブレーキの台頭とそれによるケーブルフル内装化というトレンドもあり、どこか似通ったフォルムのエアロロードが多いというのもまた事実。

空力性能を追求したナロータイプフォークブレード空力性能を追求したナロータイプフォークブレード エリート社と共同で開発したボトルゲージとツールケースエリート社と共同で開発したボトルゲージとツールケース コンパクトにまとまったリアトライアングルコンパクトにまとまったリアトライアングル


だが、その中でも燦然たる輝きを放つモデルはもちろんあり、その中の一つが今回紹介するBMCのTimemachine Road(以下、TMR)だ。BMCがエアロロードとして2013年に発表した初代TMR以降、実に6年目にして初のフルモデルチェンジを果たし、最新鋭のエアロレーサーとして生まれ変わった。

BMCのTTバイク「timemachine TM01」に用いられたコンセプトを継承しつつ設計された初代TMR。TTバイク然としたフォルムに加え、エアロヒンジのようなフロントブレーキワイヤーカバーやインテグレートデザインの専用Vブレーキを採用し、空気抵抗の低減を図った画期的なエアロロードだった。

ワイヤー類を全て内装するコラムスペーサーワイヤー類を全て内装するコラムスペーサー 新設計の翼断面を使用したICSエアロコックピット新設計の翼断面を使用したICSエアロコックピット

直線的な造形が特徴的なフレームワークだ直線的な造形が特徴的なフレームワークだ ヘッドチューブ下部からダウンチューブへはインテグレートデザインを採用ヘッドチューブ下部からダウンチューブへはインテグレートデザインを採用


だが、整備性の悪さがメカニックに嫌われたか、プロレースでの使用率はあまり伸びず。供給するBMCレーシングの選手らが使用するのはオールラウンドバイクのSLRシリーズがほとんどで、見た目のインパクトとは裏腹に目立った戦績には恵まれることの無いバイクでもあった。6年という初代TMRのモデルライフの間にSLRは2度もモデルチェンジされている事も、TMRの不遇感に拍車をかけた。

このままフェードアウトしていく運命なのか、そんな思いを誰もが抱き始めたころ発表されたのが新型TMRである。長い雌伏を経て、再び最前線へと帰ってきたBMCのエアロロード。ステルス機を思わせる直線的なシルエット、当然の如くディスクブレーキとケーブルフル内装システムを引っさげ、発表された新型バイクは「BMC史上もっとも速いロードバイク」だという。

62mmハイトのDT Swiss ARC 1400 DICUTがセットされている62mmハイトのDT Swiss ARC 1400 DICUTがセットされている ディスクブレーキはフラットマウントだディスクブレーキはフラットマウントだ


まさにその言葉を現前するように、”只者ではない感”をいたるところに張り巡らせた新型TMR。開発に当たってはCFD解析によるバーチャルなシミュレーションとトラックにおける実際の走行テスト、風洞での実験という3つのテストを何度も繰り返したという。気の遠くなるようなトライ&エラーの末導き出されたのは、ナロータイプフォークブレード、ドロップシートステー、ヘッドチューブ下部からダウンチューブへのインテグレートデザイン、そして最高の空力特性を持ったチューブシェイプ。

しかし、最も目を引くのはフレームの中央部に埋め込まれるようにインテグレートされたボトルケージ周りのデザインだろう。エリート社と共同で開発したという専用のボトルケージ、そしてストレージボックスはシームレスに繋がったエアロモジュールとして機能し、従来のロードフレームではなし得なかった空力性能を実現した。

そして、ディスクブレーキを採用することによる空気抵抗の増加を最小限に抑えることも新型TMRの開発目標の一つだった。その一つが「ICSエアロコックピット」と呼ぶハンドルシステム。新設計の翼断面形状ハンドルと専用ステムによって、ケーブルをフル内装し空気抵抗を徹底的に削減。さらにフロントフォークにはブレーキキャリパーカバーが設置され、徹底的に乱流の発生を抑える設計となっている。

シートクランプは下から締める臼方式シートクランプは下から締める臼方式 短めのヘッドチューブでポジションの自由度も高い短めのヘッドチューブでポジションの自由度も高い フロントのディスクローターにはカバーがかけられるフロントのディスクローターにはカバーがかけられる


あらゆる空気抵抗を生み出す要素を排除した結果、新型TMRはSLR01 Discと比較し40km/hでの巡航において6~12wのパワーセーブを実現した。これは机上のシミュレーションや風洞でのテストではなく、トラックにおける実走、さらに3名のライダーによるテストの結果の数値だ。また、屋外走行で横風の影響を想定した風洞実験では、ヨー角において0°のとき−11.5w、15°のときに−19.5wのパワー低減効果が実証されたという。

スイスの精密なモノづくりへの情熱が生み出したエアロロード、BMC Timemachine Road。国内ではスラムRED eTap、シマノULTEGRA Di2のそれぞれの完成車とハンドルステムシートピラーが付属するモジュールセットでの展開。今回のインプレッションバイクはULTEGRA Di2で組み上げられ、62mmハイトのDT Swiss ARC 1400 DICUTをアセンブルしたTimemachine Road 01 THREEとなる。BMC渾身のエアロロードの実力を紐解くインプレッションをお届けしよう。



― インプレッション

「グランツーリスモな乗り味のラグジュアリーロード」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)

巡航性能の高さが際立つ乗り味というのがまず第一印象ですね。巡航力を上げるためには継続して踏みやすいフレーム剛性や安定感のあるハンドリング、優れた快適性にスピードの持続力を上げるエアロダイナミクスと様々な要素が必要になってきますが、このバイクはその全てを平坦巡航に振ったような割り切った性能を感じます。クルマで言うグランツーリスモ感を味わえるラグジュアリーロードバイクといったイメージでしょうか。

「グランツーリスモな乗り味のラグジュアリーロード」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)「グランツーリスモな乗り味のラグジュアリーロード」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜) ルックスは昨今の前衛的なエアロロードですから、キレキレのレーシングバイクなのかと思いきやそういった印象は薄いと思いました。例えばレース中のアタックやゴールスプリントに対応するような反応性の高さよりも、ある程度の出力で継続して踏み続けるような、スピードの維持がし易い味付けに調整されています。

優れた快適性もこのバイクの特徴の一つですね。エアロロードというとフレームの形状故に路面からの振動が伝わりやすいものが多いですが、このTMR01は路面からの微振動をカットしてくれるかのような滑らかな乗り心地が好印象でした。それこそシルクの上を走っているかのようで、ストレスが少ないですね。こういった快適性もグランツーリスモな巡航能力を高める要素となっています。

一方ハンドル、ヘッドチューブ、フロントフォークにかけてのフロントまわりの剛性は高く、ハンドリングが安定しておりコーナーも曲がりやすかったですね。エアロロードらしい設計のためか、小振りなダンシングよりも大きく力をかけて左右に振っていくようなリズムの取り方が合っていると感じました。

そして肝心のエアロダイナミクスに関しては、エアロフレームとともにエリートと共同設計したというボトルやツールケースも含めて優れた空力性能を発揮しているように感じます。特に30km/h以上の速度域でのスピードの持ち具合は非常に良いですね。バイクの周りを流れる風をいなして進んでいくエアロ効果を感じます。

バイクの乗り味的に、信号の少ない広くて長い道をひたすら一定ペースで走るようなロングライドに最適ですね。それこそ北海道のような広大な土地をラグジュアリーに駆け抜けていく楽しみ方は最高にマッチするでしょう。サーキットエンデューロやブルベなど、ペース維持で走るようなシーンやイベントでもその性能を発揮してくれると思います。

速いスピードで走れば楽しいですが、速度を落としても気持ちよく進んでくれますので、河川敷を25km/hくらいの速度で流すサイクリングにも良いですね。戦闘機のような格好良い見た目と高速域が心地よい乗り味で、上質なライドに駆り立ててくれる1台になりそうです。

「スピード維持のしやすさが際立つ、平坦巡航特化の乗り味」西谷雅史さん(サイクルポイント オーベスト)

平坦での高速巡航が非常に気持ち良いバイクですね。他のエアロロードと比べても優れたエアロダイナミクスを感じますし、踏み続けやすく快適性も高いフレーム剛性と直進安定性に大きく舵を振ったハンドリングなど、真っ直ぐな平坦路を速いスピードで走り続けることにおいては、他を圧倒するパフォーマンスを発揮してくれます。

「スピード維持のしやすさが際立つ、平坦巡航特化の乗り味」西谷雅史さん(サイクルポイント オーベスト)「スピード維持のしやすさが際立つ、平坦巡航特化の乗り味」西谷雅史さん(サイクルポイント オーベスト)
レーシーなルックスとは裏腹に、フレーム自体はそこまで硬さを感じませんでした。全体的にしなやかで、踏み込んでも反発が少ないので常にパワーを掛け続けるような走りが出来ます。まさに平坦巡航のための踏み味といった印象で、高速域でのスピード維持がしやすいですね。一方、急加速するダッシュのような走りはあまり得意ではありません。

このしなやかなフレーム剛性は快適性にも寄与しており、路面からの突き上げが抑えられているなと感じました。エアロロードというとボリュームのある形状から縦剛性が強く、乗り心地が悪いものも少なくありません。しかしこのバイクはそんなネガティブが全くなく、むしろ乗り心地が良い部類に入りますね。

また最新のエアロロードらしく、圧倒的な空気抵抗の少なさを感じますね。エアロを意識したフレーム形状や、ケーブル内蔵のハンドルシステム、空気抵抗を低減するボトルケージとツールケースなど様々な施策が効果を発揮しているように思います。速度が上がるほどにその効果を実感できる高い走行性能も大きな魅力ですね。

フレームと一体化したモジュールによってエアロダイナミクスを高めているフレームと一体化したモジュールによってエアロダイナミクスを高めている ツールケースを開けると工具や小物を収納できるバッグが出てくるツールケースを開けると工具や小物を収納できるバッグが出てくる

そしてハンドリングは直進安定性を非常に重視しており、真っ直ぐ走るということに対して抜群の安定感を実現しています。その分、コーナーを曲がりづらい側面は少なからずありますが、役割が明確なバイクですので、そういった点は割り切って乗って欲しいと思います。

専用設計のコックピットは、ステム一体型ハンドルなどとは違いハンドルの角度調整なども行う事できるため、ユーザーフレンドリーだと思いました。シートピラーに関しても、クランプがフレーム内蔵の臼式ながら調整もしやすく製造精度の高さを感じましたね。その点は精密機械の製造が得意なスイスのブランドならではといったところでしょうか。

値段や見た目からレース専用のバイクなのかと思いきや、実際にはしなやかな乗り味で平坦での速さを楽しめるバイクとなっています。また緩やかな登りなら高いエアロ感も相まってスピードを維持したままこなせそうです。田園部の平坦やサイクリングロード、アップダウンのあるブルベなどを淡々と走るのが好きなライダーにおすすめしたいですね。

BMC Timemachine Road 01BMC Timemachine Road 01 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
BMC Timemachine Road 01 MOD(フレームセット)
フレーム:Aerodynamic 01 Premium Carbon Frame, Aero Module, TCC Speed
フォーク:Aerodynamic 01 Premium Carbon Fork, Integrated Aero Cover, ICS Aero, TCC Speed
ハンドル:400, 420, 440mm
ステム:90, 100, 110, 120mm
サイズ:47, 51, 54, 56
カラー:ステルス
フレームセット:540,000円(税抜)

BMC Timemachine Road 01 TWO(完成車)
コンポーネント:スラム RED eTap
サドル:フィジーク Antares R1 Carbon
ホイール:DT スイス ARC 1400 DICUT db 62 Carbon
カラー:スーパーレッド
価格:1,200,000円(税抜)

BMC Timemachine Road 01 THREE(完成車)
コンポーネント:シマノ Ultegra Di2
サドル:フィジーク Antares R5 Kium
ホイール:DT スイス ARC 1400 DICUT db 62 Carbon
カラー:オフホワイト
価格:1,000,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)高木友明(アウトドアスペース風魔横浜) 高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)

横浜駅から徒歩10分、ベイサイドエリアに店舗を構えるアウトドアスペース風魔横浜の店長。前職メッセンジャーの経験を活かし自転車業界へ。自身はロードバイクをメインに最近はレース活動にも力を入れる実走派だ。ショップはロード・MTBの2本柱で幅広い自転車遊びを提案している。物を売るだけでなくお客さんと一緒にスポーツサイクルを楽しむことを大事にし、イベント参加なども積極的に行っている。

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西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)西谷雅史(サイクルポイント オーベスト) 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。過去にはツール・ド・おきなわ市民200kmや、ジャパンカップオープンレースなどの国内ビックレースにて優勝を経験。2016年にはニセコクラシック年代別優勝も果たし、今なお衰えを知らない”最速店長”の一人である。

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text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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