2018/11/18(日) - 22:24
アンソニー・クラーク(アメリカ、スクゥイッド・スクァッド)の独走に待ったをかけ、スプリントを制した前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)に会場は沸いた。サミエル・ルーネルズ(アメリカ、スクゥイッド・スクァッド)が2連続勝利を遂げた女子レースと共に、野辺山2日目のUCIレースを振り返ります。
エリート男子:クラークをスプリントで下した前田公平が野辺山初優勝
午前中顔を出していた太陽は薄雲の中に姿を隠し、八ヶ岳から吹き下ろす風は前日よりも冷たく感じられた。コースコンディションは前日に続きスーパードライかつスリッピー。14時40分、これまで2日間合計22カテゴリー、1100台分もの轍が刻み込まれたコースに向けて、100名の男子エリートレーサーが一斉に駆け出した。
スタートダッシュはギャリー・ミルバーン(オーストラリア、MAAP)が決め、直後の芝生区間では小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム)が先頭に。更に織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)や2連覇を狙うアンソニー・クラーク(アメリカ、スクゥイッド・スクァッド)が次々と先頭を奪い合う激しい展開で初開催のUCI1レースは動き出す。
積極的にペースを刻むクラークの後ろでは集団が割れ、フォローできたのは前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)、織田、エミール・ヘケレ(チェコ、スティーブンスバイクス・エミリオスポーツ)、ミルバーンの5名。数秒差を空けてしまったケヴィン・ブラッドフォード(アメリカ)、全日本王者の小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム)、そして前全日本王者の沢田時(チームブリヂストンサイクリング)らは、最終的に勝負に絡むことはできなかった。
「序盤に攻めてから様子を見る普段通りの走り」を続けたクラークのスピードに、まずは前日落車の影響が響いたか織田が、続いて「オーバーペースで苦しくなってしまった」と言うミルバーンが遅れて先頭は3人。すると中盤、森林区間でのヘケレの落車をきっかけにクラークが独走に持ち込んだ。
最大17秒のリードを得たクラークは逃げ切り体制に入ったものの、数度のミス、そして「昨日よりもコンディションが上がっていたので良く踏めた」と言うヘケレの追走により約1周半を逃げた末に吸収される。2周を残してヘケレに食い下がった前田との3人パックが形成され、昨日とは違う激しい展開、そして日本人が優勝争いに絡む展開に会場は興奮に包まれる。
そして、その後方ではブラッドフォードが単独追走となり、小坂や沢田、横山、そして丸山厚(Team RIDLEY)らが続く。織田や元全日本王者の竹之内悠(東洋フレーム)らは徐々に順位を落とす苦しい走りが続いた。
先頭グループ内ではヘケレとクラークが激しく鍔迫り合いを続けた。最終周回に入る手前では両者が接触し、突っ込まれる形となったヘケレはブレーキレバーが折れるトラブルに見舞われる。更に最終周回のシケイン後にも接触によってチェーンを落としてしまい、この停車によってヘケレは先頭グループからの脱落を強いられた。
こうして勝負は前田とクラークの2名に絞り込まれ、二人は火花を散らしながらフィニッシュまでの距離を減らしていく。最終コーナーはクラークが先頭で抜けたが、芝生のホームストレート上でのスプリント勝負は前田に軍配した。力強くバイクを振った前田は1車身ほどの差をもって先着。自身初となる野辺山シクロクロス優勝を、UCI1クラス昇格によって多くの賞金とUCIポイントが懸けられた2日目に達成した。
「中盤までは二人に付いていくので精一杯でしたが、耐えていたらチャンスを感じるようになっていきました。アンソニーはスプリントが強いので差し切る自信はありませんでしたが、それまでにあの二人を千切るパワーが無いので勝つにはあれ(スプリント)しかなかった」と振り返る前田。スプリント時に前田の後輪はパンクしており、本人も気づかない中での勝利だったという。
3位には2度のトラブルに見舞われながらも7秒差まで詰めたヘケレが入り、2日連続の表彰台を確保した。自国チェコで開催されたワールドカップではなく、日本でのUCIレース参加を選んだベテランは「すごく調子が良かっただけにトラブルは残念だけど良いレースだった。1年ぶりの野辺山を楽しめて良かった」と後に語っている。
その後ろ、前田から50秒遅れの4位にはミルバーンが入り、続く5位はブラッドフォード。並み居る海外勢を抑えて勝利した前田は「今回は2人に連れて行ってもらっただけなので、(全日本選手権で)自ら展開を作っていくとなると勝負は分かりません。でも、これまで勝てなかった野辺山の、表彰台の真ん中から眺める景色は最高ですね」と、笑顔と安堵の表情を見せながら特大カウベルを受け取った。
エリート女子:今井が再びクラッシュ、ルーネルズとカチョレックがワンツーフィニッシュ
男子の前に開催されたエリート女子レースには、前日から2名多い32名が出走した。号砲と同時に全日本王者戴冠経験を持つ宮内佐季子(ClubLa.sistaOffroadTeam)が飛び出し、前日の落車の影響無く出走した今井美穂(Co2 Bicycle)、そしてサミエル・ルーネルズとエミリー・カチョレックのスクゥイッド・スクァッド勢が続く。パワフルな走りで松本璃奈(TEAM SCOTT)が先頭付近まで上がり、複数名が入り乱れるようにしてコース再奥部の溝区間に入っていった。
しかしここで、バニーホップで溝を飛ぼうとした今井が昨日に続く大クラッシュをしてしまう。「練習では飛べていたし、飛んだ方が確実にアドバンテージでしたが…」と言う今井は問題なくレースに戻ったものの、その時先頭は遥か彼方先。日本勢で唯一食い下がった松本もパンクで戦線離脱し、前日よりも容易くスクゥイッド・スクァッドの二人がワンツー体制を組み上げる。
この野辺山2日目を自身最後のUCIレースに選んだカチョレックがルーネルズを率い、全日本王者の今井は同じく溝越えに失敗したフィオナ・モーリス(オーストラリア、MAAP)や宮内らを追い抜き3番手。体調不良を押して出走を選んだ唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)は徐々にポジションを上げ、最終的に6位に食い込む走りを見せた。
先頭ではルーネルズが先頭に立ち、最終的にチームリーダーのカチョレックを10秒、今井を51秒引き離す圧巻の走りで野辺山2連勝&来日3連勝を達成。フィニッシュ後は現役引退レースを2位で終えたカチョレックと固く抱き合い、リーダーの走りとこれまでのキャリアを讃えた。
「エミリーのラストレースでワンツー勝利できるなんて最高に嬉しい。昨日よりもハイスピードだったので落車のリスクもあったし難しいレースだった。ミホ(今井)が吹っ飛んだ時はどうなるかと思ったけど何事も無くて安心。みんなの前で良い走りができて良かった」とはルーネルズ。最終レースのカチョレックは「サミー(ルーネルズ)はすごく強い選手に成長したし、そろそろ役割を渡すタイミングだと思って引退を決意した。これからはサミーやアンソニーを指導しながら、例えばシングルスピードレースなどもっと楽しむ方向で自転車と接していきたい。すごく楽しいラストレースだった」と語っている。
今回来日した海外勢は、帰国するカチョレックを除く全員が1週間後の日曜に開催される関西シクロクロスマキノ(UCI.2)に参戦予定だ。全日本選手権を1週間後に控える国内勢と共に、再び激しいレースを披露してくれることは間違いないだろう。
エリート男子:クラークをスプリントで下した前田公平が野辺山初優勝
午前中顔を出していた太陽は薄雲の中に姿を隠し、八ヶ岳から吹き下ろす風は前日よりも冷たく感じられた。コースコンディションは前日に続きスーパードライかつスリッピー。14時40分、これまで2日間合計22カテゴリー、1100台分もの轍が刻み込まれたコースに向けて、100名の男子エリートレーサーが一斉に駆け出した。
スタートダッシュはギャリー・ミルバーン(オーストラリア、MAAP)が決め、直後の芝生区間では小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム)が先頭に。更に織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)や2連覇を狙うアンソニー・クラーク(アメリカ、スクゥイッド・スクァッド)が次々と先頭を奪い合う激しい展開で初開催のUCI1レースは動き出す。
積極的にペースを刻むクラークの後ろでは集団が割れ、フォローできたのは前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)、織田、エミール・ヘケレ(チェコ、スティーブンスバイクス・エミリオスポーツ)、ミルバーンの5名。数秒差を空けてしまったケヴィン・ブラッドフォード(アメリカ)、全日本王者の小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム)、そして前全日本王者の沢田時(チームブリヂストンサイクリング)らは、最終的に勝負に絡むことはできなかった。
「序盤に攻めてから様子を見る普段通りの走り」を続けたクラークのスピードに、まずは前日落車の影響が響いたか織田が、続いて「オーバーペースで苦しくなってしまった」と言うミルバーンが遅れて先頭は3人。すると中盤、森林区間でのヘケレの落車をきっかけにクラークが独走に持ち込んだ。
最大17秒のリードを得たクラークは逃げ切り体制に入ったものの、数度のミス、そして「昨日よりもコンディションが上がっていたので良く踏めた」と言うヘケレの追走により約1周半を逃げた末に吸収される。2周を残してヘケレに食い下がった前田との3人パックが形成され、昨日とは違う激しい展開、そして日本人が優勝争いに絡む展開に会場は興奮に包まれる。
そして、その後方ではブラッドフォードが単独追走となり、小坂や沢田、横山、そして丸山厚(Team RIDLEY)らが続く。織田や元全日本王者の竹之内悠(東洋フレーム)らは徐々に順位を落とす苦しい走りが続いた。
先頭グループ内ではヘケレとクラークが激しく鍔迫り合いを続けた。最終周回に入る手前では両者が接触し、突っ込まれる形となったヘケレはブレーキレバーが折れるトラブルに見舞われる。更に最終周回のシケイン後にも接触によってチェーンを落としてしまい、この停車によってヘケレは先頭グループからの脱落を強いられた。
こうして勝負は前田とクラークの2名に絞り込まれ、二人は火花を散らしながらフィニッシュまでの距離を減らしていく。最終コーナーはクラークが先頭で抜けたが、芝生のホームストレート上でのスプリント勝負は前田に軍配した。力強くバイクを振った前田は1車身ほどの差をもって先着。自身初となる野辺山シクロクロス優勝を、UCI1クラス昇格によって多くの賞金とUCIポイントが懸けられた2日目に達成した。
「中盤までは二人に付いていくので精一杯でしたが、耐えていたらチャンスを感じるようになっていきました。アンソニーはスプリントが強いので差し切る自信はありませんでしたが、それまでにあの二人を千切るパワーが無いので勝つにはあれ(スプリント)しかなかった」と振り返る前田。スプリント時に前田の後輪はパンクしており、本人も気づかない中での勝利だったという。
3位には2度のトラブルに見舞われながらも7秒差まで詰めたヘケレが入り、2日連続の表彰台を確保した。自国チェコで開催されたワールドカップではなく、日本でのUCIレース参加を選んだベテランは「すごく調子が良かっただけにトラブルは残念だけど良いレースだった。1年ぶりの野辺山を楽しめて良かった」と後に語っている。
その後ろ、前田から50秒遅れの4位にはミルバーンが入り、続く5位はブラッドフォード。並み居る海外勢を抑えて勝利した前田は「今回は2人に連れて行ってもらっただけなので、(全日本選手権で)自ら展開を作っていくとなると勝負は分かりません。でも、これまで勝てなかった野辺山の、表彰台の真ん中から眺める景色は最高ですね」と、笑顔と安堵の表情を見せながら特大カウベルを受け取った。
エリート女子:今井が再びクラッシュ、ルーネルズとカチョレックがワンツーフィニッシュ
男子の前に開催されたエリート女子レースには、前日から2名多い32名が出走した。号砲と同時に全日本王者戴冠経験を持つ宮内佐季子(ClubLa.sistaOffroadTeam)が飛び出し、前日の落車の影響無く出走した今井美穂(Co2 Bicycle)、そしてサミエル・ルーネルズとエミリー・カチョレックのスクゥイッド・スクァッド勢が続く。パワフルな走りで松本璃奈(TEAM SCOTT)が先頭付近まで上がり、複数名が入り乱れるようにしてコース再奥部の溝区間に入っていった。
しかしここで、バニーホップで溝を飛ぼうとした今井が昨日に続く大クラッシュをしてしまう。「練習では飛べていたし、飛んだ方が確実にアドバンテージでしたが…」と言う今井は問題なくレースに戻ったものの、その時先頭は遥か彼方先。日本勢で唯一食い下がった松本もパンクで戦線離脱し、前日よりも容易くスクゥイッド・スクァッドの二人がワンツー体制を組み上げる。
この野辺山2日目を自身最後のUCIレースに選んだカチョレックがルーネルズを率い、全日本王者の今井は同じく溝越えに失敗したフィオナ・モーリス(オーストラリア、MAAP)や宮内らを追い抜き3番手。体調不良を押して出走を選んだ唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)は徐々にポジションを上げ、最終的に6位に食い込む走りを見せた。
先頭ではルーネルズが先頭に立ち、最終的にチームリーダーのカチョレックを10秒、今井を51秒引き離す圧巻の走りで野辺山2連勝&来日3連勝を達成。フィニッシュ後は現役引退レースを2位で終えたカチョレックと固く抱き合い、リーダーの走りとこれまでのキャリアを讃えた。
「エミリーのラストレースでワンツー勝利できるなんて最高に嬉しい。昨日よりもハイスピードだったので落車のリスクもあったし難しいレースだった。ミホ(今井)が吹っ飛んだ時はどうなるかと思ったけど何事も無くて安心。みんなの前で良い走りができて良かった」とはルーネルズ。最終レースのカチョレックは「サミー(ルーネルズ)はすごく強い選手に成長したし、そろそろ役割を渡すタイミングだと思って引退を決意した。これからはサミーやアンソニーを指導しながら、例えばシングルスピードレースなどもっと楽しむ方向で自転車と接していきたい。すごく楽しいラストレースだった」と語っている。
今回来日した海外勢は、帰国するカチョレックを除く全員が1週間後の日曜に開催される関西シクロクロスマキノ(UCI.2)に参戦予定だ。全日本選手権を1週間後に控える国内勢と共に、再び激しいレースを披露してくれることは間違いないだろう。
エリート男子結果
1位 | 前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム) | 57’30” |
2位 | アンソニー・クラーク(アメリカ、スクゥイッド・スクァッド) | |
3位 | エミール・ヘケレ(チェコ、スティーブンスバイクス・エミリオスポーツ) | +07” |
4位 | ギャリー・ミルバーン(オーストラリア、MAAP) | +50” |
5位 | ケヴィン・ブラッドフォード(アメリカ) | +55” |
6位 | 小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム) | +1’07” |
7位 | 沢田時(チームブリヂストンサイクリング) | +1’21” |
8位 | 横山航太(シマノレーシング) | +1’25” |
9位 | 丸山厚(Team RIDLEY) | +1’43” |
10位 | 織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) | +1’57” |
エリート女子結果
1位 | サミエル・ルーネルズ(アメリカ、スクゥイッド・スクァッド) | 41’19” |
2位 | エミリー・カチョレック(アメリカ、スクゥイッド・スクァッド) | +10” |
3位 | 今井美穂(Co2 Bicycle) | +51” |
4位 | 宮内佐季子(ClubLa.sistaOffroadTeam) | +1’19” |
5位 | フィオナ・モーリス(オーストラリア、MAAP) | +1’44” |
6位 | 唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム) | +1’53” |
7位 | 西山みゆき(東洋フレーム) | +2’06” |
8位 | 西形舞(TRCパナマレッズ) | +2’37” |
9位 | 福田咲絵(AX cyclocross team) | 2’40” |
10位 | 平田千枝(ClubLa.sistaOffroadTeam) | +3’02” |
text:So.Isobe
photo:Kei Tsuji/nobeyamacyclocross.cc、Makoto.AYANO
photo:Kei Tsuji/nobeyamacyclocross.cc、Makoto.AYANO
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