2010/03/19(金) - 11:40
今年もイタリアに「プリマヴェーラ(春)」を告げる名物レースの季節がやってきた。今年で開催101回目を迎えるミラノ〜サンレモ(UCIヒストリカル)には、世界各国から名立たるスプリンターやアタッカーたちが集結。今年はその中に新城幸也(Bboxブイグテレコム)と別府史之(レディオシャック)が加わる。
チプレッサとポッジオで繰り広げられる熾烈なタイトル争奪戦
イタリアで「プリマヴェーラ(春)」と呼び親しまれるミラノ〜サンレモは、1907年に第1回大会が開催された「クラッシチッシマ(クラシックの最上級)」。今年で103年目を迎えるクラシックの中のクラシックだ。
昨年100回記念を迎えた大会は今年で開催101回目。コースはその名の通りミラノからサンレモまで、300kmの大台目前の298kmで行なわれる。日本で言うところの、東京〜愛知、大阪〜静岡に匹敵するほどの長旅。現存するロードレースの中で最長距離を誇っている。
内陸部の大都市ミラノをスタートするコースは、平野部を突っ切る前半部が平坦基調。ジェノバ近郊のトゥルキーノ峠(標高532m)を越えると、リグーリア海に沿ったオーシャンロードが始まる。トゥルキーノ峠は大会の最標高地点だが、レース展開的には重要なポイントではない。
勝負の鍵を握るのは、後半に登場するレ・マニエ、イ・トレ・カーピ(3つの岬)、チプレッサ、ポッジオの4つ。海沿いの平坦路を走った後、204km地点でレ・マニエ峠(標高318m)をクリア。
2008年に導入されたこのレ・マニエは、5km弱で標高差300mを駆け上がる。アタッカー有利の展開に持ち込みたいチームは、スプリンターの脚を弱めるためにここでペースを上げてくるだろう。ここから徐々にレースは慌ただしさを増す。
イ・トレ・カーピの小さな起伏の先で、真の勝負どころとして選手たちを待ち構えるのが、ゴール28km手前から連続する2つの上り、高低差234mのチプレッサ(平均4.1%、最大9%)と、高低差136mのポッジオ(平均3.7%、最大8%)だ。
チプレッサとポッジオで激しいアタック合戦が繰り広げられるのが通例で、飛び出した選手は何とかスプリンターチームの追撃を抑え込んでゴールまで逃げ切りを図る。対するスプリンターチームは、上りで縮小した集団を率いて、エーススプリンターのゴール勝負をお膳立てする。
最後のポッジオの頂上からゴールまでは僅かに6.2km。その構成は3km下って3km平坦。テクニカルなダウンヒルで飛び出す選手も出てくるだろう。アタッカーの逃げ切りか、それともスプリンターの追い上げ&スプリントバトルか。この二通りの展開が絶妙なバランスでクロスするコースレイアウトが、ミラノ〜サンレモ最大の魅力だ。
ビッグタイトル獲得を目指すスプリンターたち
伝統的にスプリンターに有利な展開に持ち込まれることの多いミラノ〜サンレモ。過去の優勝者リストを見ても、名立たるスプリンターの名前が並んでいる。ピュアスプリンターが優勝を狙うことの出来る数少ないメジャークラシックだけに、出場するスプリンターは豪華だ。
有力選手が口を揃えて危険人物に挙げているのがトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)。2007年大会で3位に入っているボーネンは、これが9回目の出場。ボーネンは直前のティレーノ〜アドリアティコでステージ優勝を飾っており、トップコンディションに近い。難なく上りをこなしてスプリント勝負に挑むだろう。
地元イタリアの期待を背負って出場するのは、2005年大会の覇者アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)だ。2週間前に落車で怪我を負ったペタッキだが、コンディションに問題は無い。ガヴァッツィ、ロレンツェット、ホンド、ベルヌッチらがランプレトレインを形成し、36歳のベテランをゴール前で解き放つ。
昨年の優勝者マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)は、歯の疾患に伴うオフシーズンの練習不足で低迷中だ。昨シーズン23勝を飾った最速スプリンターは、今シーズン勝ち星ゼロ。ティレーノでもステージ優勝を飾れず、最終ステージで落車するなど、ツキに見放されている。鬼門の上りをこなすことが出来れば他チームの脅威になるだろう。
ティレーノの最終ステージを制したエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)は、現在最も乗りに乗っている選手の一人。上りをこなす登坂力も兼ね備えており、タフな展開に持ち込まれた場合にその力を発揮する。
2004年と2007年に優勝を飾っているオスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)や、昨年3位のトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)も上りを得意とするスプリンターだ。昨年2位のハウッスラーが膝の故障で欠場するため、フースホフトがサーヴェロ・テストチームのエースを担う。
ニーバリ、ペッリツォッティ、クロイツィゲルと言ったアタッカーを擁するリクイガスは、エーススプリンターにダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)を立てる。同じくイタリアからは、故バッレリーニ伊代表監督に悲願の優勝を捧げたいと願うルーカ・パオリーニ(アックア・エ・サポーネ)も出場する。3年連続で海外勢に奪われているタイトルを取り戻すことが出来るだろうか。
逆にタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)やアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)は、母国に初のタイトルをもたらすべく、エーススプリンターとしてサンレモに挑む。サンレモで優勝した南半球出身選手、およびアメリカ大陸出身選手はまだいない。
チプレッサとポッジオで攻撃を仕掛けるアタッカーたち
終盤に登場するチプレッサとポッジオの上りで攻撃を仕掛け、スプリンターに挑戦状を叩き付けるのがアタッカーたちだ。ミラノ〜サンレモにおける「逃げ切り成功率」は低いが、それでも僅かな可能性を信じて攻撃に出るのだ。
毎年のようにポッジオでアタックを仕掛けるのがフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)。昨年ジロ・ディ・ロンバルディアで逃げ切りを成功させたジルベールは、イタリアンクラシックで2つ目のビッグタイトルを目指す。
アタッカーとスプリンターの両方の素質を兼ね備えたフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)は2006年大会の優勝者。上りでアタックを成功させ、少人数でのゴールスプリント勝負に持ち込むことが出来れば、ポッツァートのチャンスはグンと上がる。
元世界チャンピオンのアレッサンドロ・バッラン(イタリア)はアメリカのBMCレーシングチームを率いて出場。プロコンチネンタルチームと侮るなかれ、ヒンカピーやブルグハートらが揃い、その戦闘力は高い。
2008年大会のゴール前で単独アタックを成功させ、圧倒的な独走力で勝利を手にしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)は今年も要注意人物。独走力と言えばフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)も忘れてはならない。スプリント勝負を阻止すべく、早めに攻撃を仕掛けてくる可能性も。
直前のティレーノ〜アドリアティコで激しい総合争いを演じたステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)とミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)も、好調を維持したままサンレモに挑む。上りのバトル最前線でその姿が見られるはずだ。
他にもエンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)やダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ISD・ネーリ)と言ったクラシックレーサーが揃う。優勝候補には挙がらないが、今年もランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)の出場に注目が集まる。
そして、日本からは新城幸也(Bboxブイグテレコム)が初出場!ユキヤは自身のブログの中で「今シーズン初のビックレース頑張ります!!!」とコメントしている。初挑戦のサンレモでどんな走りを見せてくれるのか、注目したい。
レディオシャックはランス・アームストロング(アメリカ)の不出場によりリザーブの別府史之の初出場が決定した。フミもミラノ~サンレモ初出場だ。(3月19日)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, A.S.O., Hideaki Takagi
チプレッサとポッジオで繰り広げられる熾烈なタイトル争奪戦
イタリアで「プリマヴェーラ(春)」と呼び親しまれるミラノ〜サンレモは、1907年に第1回大会が開催された「クラッシチッシマ(クラシックの最上級)」。今年で103年目を迎えるクラシックの中のクラシックだ。
昨年100回記念を迎えた大会は今年で開催101回目。コースはその名の通りミラノからサンレモまで、300kmの大台目前の298kmで行なわれる。日本で言うところの、東京〜愛知、大阪〜静岡に匹敵するほどの長旅。現存するロードレースの中で最長距離を誇っている。
内陸部の大都市ミラノをスタートするコースは、平野部を突っ切る前半部が平坦基調。ジェノバ近郊のトゥルキーノ峠(標高532m)を越えると、リグーリア海に沿ったオーシャンロードが始まる。トゥルキーノ峠は大会の最標高地点だが、レース展開的には重要なポイントではない。
勝負の鍵を握るのは、後半に登場するレ・マニエ、イ・トレ・カーピ(3つの岬)、チプレッサ、ポッジオの4つ。海沿いの平坦路を走った後、204km地点でレ・マニエ峠(標高318m)をクリア。
2008年に導入されたこのレ・マニエは、5km弱で標高差300mを駆け上がる。アタッカー有利の展開に持ち込みたいチームは、スプリンターの脚を弱めるためにここでペースを上げてくるだろう。ここから徐々にレースは慌ただしさを増す。
イ・トレ・カーピの小さな起伏の先で、真の勝負どころとして選手たちを待ち構えるのが、ゴール28km手前から連続する2つの上り、高低差234mのチプレッサ(平均4.1%、最大9%)と、高低差136mのポッジオ(平均3.7%、最大8%)だ。
チプレッサとポッジオで激しいアタック合戦が繰り広げられるのが通例で、飛び出した選手は何とかスプリンターチームの追撃を抑え込んでゴールまで逃げ切りを図る。対するスプリンターチームは、上りで縮小した集団を率いて、エーススプリンターのゴール勝負をお膳立てする。
最後のポッジオの頂上からゴールまでは僅かに6.2km。その構成は3km下って3km平坦。テクニカルなダウンヒルで飛び出す選手も出てくるだろう。アタッカーの逃げ切りか、それともスプリンターの追い上げ&スプリントバトルか。この二通りの展開が絶妙なバランスでクロスするコースレイアウトが、ミラノ〜サンレモ最大の魅力だ。
ビッグタイトル獲得を目指すスプリンターたち
伝統的にスプリンターに有利な展開に持ち込まれることの多いミラノ〜サンレモ。過去の優勝者リストを見ても、名立たるスプリンターの名前が並んでいる。ピュアスプリンターが優勝を狙うことの出来る数少ないメジャークラシックだけに、出場するスプリンターは豪華だ。
有力選手が口を揃えて危険人物に挙げているのがトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)。2007年大会で3位に入っているボーネンは、これが9回目の出場。ボーネンは直前のティレーノ〜アドリアティコでステージ優勝を飾っており、トップコンディションに近い。難なく上りをこなしてスプリント勝負に挑むだろう。
地元イタリアの期待を背負って出場するのは、2005年大会の覇者アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)だ。2週間前に落車で怪我を負ったペタッキだが、コンディションに問題は無い。ガヴァッツィ、ロレンツェット、ホンド、ベルヌッチらがランプレトレインを形成し、36歳のベテランをゴール前で解き放つ。
昨年の優勝者マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)は、歯の疾患に伴うオフシーズンの練習不足で低迷中だ。昨シーズン23勝を飾った最速スプリンターは、今シーズン勝ち星ゼロ。ティレーノでもステージ優勝を飾れず、最終ステージで落車するなど、ツキに見放されている。鬼門の上りをこなすことが出来れば他チームの脅威になるだろう。
ティレーノの最終ステージを制したエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)は、現在最も乗りに乗っている選手の一人。上りをこなす登坂力も兼ね備えており、タフな展開に持ち込まれた場合にその力を発揮する。
2004年と2007年に優勝を飾っているオスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)や、昨年3位のトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)も上りを得意とするスプリンターだ。昨年2位のハウッスラーが膝の故障で欠場するため、フースホフトがサーヴェロ・テストチームのエースを担う。
ニーバリ、ペッリツォッティ、クロイツィゲルと言ったアタッカーを擁するリクイガスは、エーススプリンターにダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)を立てる。同じくイタリアからは、故バッレリーニ伊代表監督に悲願の優勝を捧げたいと願うルーカ・パオリーニ(アックア・エ・サポーネ)も出場する。3年連続で海外勢に奪われているタイトルを取り戻すことが出来るだろうか。
逆にタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)やアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)は、母国に初のタイトルをもたらすべく、エーススプリンターとしてサンレモに挑む。サンレモで優勝した南半球出身選手、およびアメリカ大陸出身選手はまだいない。
チプレッサとポッジオで攻撃を仕掛けるアタッカーたち
終盤に登場するチプレッサとポッジオの上りで攻撃を仕掛け、スプリンターに挑戦状を叩き付けるのがアタッカーたちだ。ミラノ〜サンレモにおける「逃げ切り成功率」は低いが、それでも僅かな可能性を信じて攻撃に出るのだ。
毎年のようにポッジオでアタックを仕掛けるのがフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)。昨年ジロ・ディ・ロンバルディアで逃げ切りを成功させたジルベールは、イタリアンクラシックで2つ目のビッグタイトルを目指す。
アタッカーとスプリンターの両方の素質を兼ね備えたフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)は2006年大会の優勝者。上りでアタックを成功させ、少人数でのゴールスプリント勝負に持ち込むことが出来れば、ポッツァートのチャンスはグンと上がる。
元世界チャンピオンのアレッサンドロ・バッラン(イタリア)はアメリカのBMCレーシングチームを率いて出場。プロコンチネンタルチームと侮るなかれ、ヒンカピーやブルグハートらが揃い、その戦闘力は高い。
2008年大会のゴール前で単独アタックを成功させ、圧倒的な独走力で勝利を手にしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)は今年も要注意人物。独走力と言えばフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)も忘れてはならない。スプリント勝負を阻止すべく、早めに攻撃を仕掛けてくる可能性も。
直前のティレーノ〜アドリアティコで激しい総合争いを演じたステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)とミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)も、好調を維持したままサンレモに挑む。上りのバトル最前線でその姿が見られるはずだ。
他にもエンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)やダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ISD・ネーリ)と言ったクラシックレーサーが揃う。優勝候補には挙がらないが、今年もランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)の出場に注目が集まる。
そして、日本からは新城幸也(Bboxブイグテレコム)が初出場!ユキヤは自身のブログの中で「今シーズン初のビックレース頑張ります!!!」とコメントしている。初挑戦のサンレモでどんな走りを見せてくれるのか、注目したい。
レディオシャックはランス・アームストロング(アメリカ)の不出場によりリザーブの別府史之の初出場が決定した。フミもミラノ~サンレモ初出場だ。(3月19日)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, A.S.O., Hideaki Takagi