2018/09/30(日) - 02:29
残り39kmで独走に持ち込むリオ五輪金メダリストを止める者は誰もいなかった。圧倒的な登坂力と独走力でアンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ)が初の世界タイトル獲得。日本チームは苦戦を強いられ、79位の與那嶺恵理(ウィグル・ハイファイブ)が唯一の完走者となった。
いよいよロード世界選手権のクライマックスに向けてカウントダウンが始まる。オーストリア9月最後の週末、土曜日、女子エリートロードレースがクーフシュタインからインスブルックまでの全長155.6km/獲得標高差2,406mの難関山岳コースで行われた。
男子ジュニア&U23レースと同様に、女子エリートも「グナーデンヴァルト(距離2.6km/平均勾配10.5%/最大勾配14%)」を含む84.2kmのロード区間を走ってからインスブルックの周回コースに突入。「イグルス(距離7.9km/平均勾配5.7%/最大勾配10%)」の登りを含む23.8km周回コースを3周する。前週からずっと天気予報が傘マークを示していたが、レース当日は晴れ時々曇りの快適なコンディション。暑くもなく寒くもない気温15度の秋のティロル地方を48種類のナショナルジャージに身を包んだ149名が駆け抜けた。
序盤に飛び出したアウレラ・ネルロ(ポーランド)とアナクリスティナ・サナブリア(コロンビア)の2名が2分程度のリードを得る中、メイン集団から続出するカウンターアタックをベルギーやドイツ、オランダが封じ込めながらレースは進む。「グナーデンヴァルト」の登りに向けてペースが上がったところで優勝候補のアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)らが落車。タイムトライアルとの二冠が注目されたファンフルーテンは「グナーデンヴァルト」で脱落した選手たちをごぼう抜きにして難なく集団に復帰している。
急勾配区間を含む「グナーデンヴァルト」でメイン集団は20名に絞られたが、與那嶺恵理(ウィグル・ハイファイブ)を含む集団が追いついて50名ほどに人数を増やす。そこからライバルたちに休む間も与えずにアタックを連発したのがオランダチームだった。
ディフェンディングチャンピオンのシャンタル・ブラーク(オランダ)らが断続的に集団からアタックを仕掛けると、序盤から逃げは早くも吸収される。続いて飛び出したエレン・ファンダイク(オランダ)にタティアナ・グデルツォ(イタリア)、セシルウトラップ・ルドウィグ(デンマーク)、ロッタ・レピスト(フィンランド)が続く形で4名が抜け出し、與那嶺を含む約50名のメイン集団から20秒のリードでインスブルックの周回を開始する。しかしこの動きも長続きせず、ファンダイクらも1周目の「イグルス」の登りで吸収。そこから新たな動きが生まれる。
登りでアタックを成功させたのはスプリンターとして知られるコリン・リヴェラ(アメリカ)。追走グループを形成したファンダイクとアマンダ・スプラット(オーストラリア)、マウゴジャータ・ヤシンスカ(ポーランド)、エミリア・ファーリン(スウェーデン)、エレーナ・ピローネ(イタリア)が先頭リヴェラに合流して2周目へ。45秒遅れで追いかける21名のメイン集団の中に與那嶺の姿はなかった。
強豪国のビッグネームが先頭グループを形成したものの、タイム差が1分以上に広がることはなかった。すると、フィニッシュまで42kmを残して、「イグルス」の登りで活性化したメイン集団からファンデルブレッヘンがアタック。強烈なペースで登りを突き進んだファンデルブレッヘンはすぐに1分差を詰め、先頭グループに追いつくや否やカウンターアタックを仕掛けた。
食らいつくスプラットを振り切ったファンデルブレッヘンが残り39km地点で独走を開始する。「イグルス」の頂上通過時点で2番手スプラットに30秒、3番手リヴェラに1分、メイン集団に2分45秒のタイム差をつけたファンデルブレッヘンが独走。下りと平坦路でさらにリードを広げたファンデルブレッヘンがスプラットに対して1分19秒のリードで最終周回に入った。
登りでも下りでも平坦路でも、ファンデルブレッヘンが最速だった。後続に全く寄せ付ける隙を与えずにファンデルブレッヘンが独走。2番手スプラットに3分42秒差、そして追走グループから最後の「イグルス」で抜け出した3番手グデルツォに5分26秒もの差をつけて、オランダ国旗が翻る最終ストレートにファンデルブレッヘンがやってきた。
まさに圧倒的と言える走りで独走フィニッシュし、左手で顔を覆ったファンデルブレッヘン。「ただ速く走ることだけを考えていたので、後続とのタイム差は聞いていなかった。だからフィニッシュするまで自分が世界チャンピオンになるなんて信じていなかった。(残り42km地点の)アタックが早すぎるかと思ったけど、チャンスを感じたので挑戦してみることにした。世界選手権で勝つことがどれだけ難しいかを知っているだけに、この勝利に大きな喜びを感じている」。新世界王者ファンデルブレッヘンは観客から飛んでくる大声援に手を振って応えた。
現在28歳のファンデルブレッヘンはリオ五輪ロードレースで金メダルを獲得しているものの、世界選手権ではまだ一度もタイトルを獲得したことがない。ロードレースで2012年に5位、2013年4位、2015年に2位、そしてタイムトライアルで2015年と2017年に2位。直前のチームタイムトライアルで2位、個人タイムトライアルで2位。世界選手権のシルバーコレクターという汚名を圧倒的な走りで払拭した。
2018年のストラーデビアンケ、ロンド・ファン・フラーンデレン、ラ・フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで勝利している世界最高峰のクラシックハンターが念願のアルカンシェル獲得。オランダの女子エリートロードレース制覇はこれが11回目となる。なお、前半に落車しながらもオランダチームの一員としてレースを動かし、7分遅れで完走したTT王者ファンフルーテンはレース後の検査で脛骨の骨折が発覚している。
レース前半の「グナーデンヴァルト」で集団から脱落した金子広美(イナーメ信濃山形)と唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)は完走ならず。インスブルック周回の1周目でメイン集団から脱落した與那嶺は辛うじてタイムカットを免れて最終周回に入った。完走者81名のサバイバルレースを20分47秒遅れの79位で終えた與那嶺は「本当に悔しい世界選手権でした」と振り返る。
「自分のために走れるレースでこの成績。ジャパンチームから最高のサポートを受け、自分の出来る準備をしてこの結果です。体重を減らす必要があると強く感じました。今シーズン、筋トレの継続により身体はどっしり大きくなりましたが自分の持ち味の登りの切れ、スピードは大きく落ちてしまいました。レース展開は最初の登りまでは位置取りは完璧に出来ました。しかしその後の登りでは身体が動かず。とても恥ずかしかったです。この走りとこの成績は本当に恥ずかしい。レースを続けるのがとても恥ずかしかったです」と語る與那嶺はチームを移籍して2019年シーズンを戦う予定。「まずは10月からオフをしっかり取って、1月からのツアー・ダウンアンダーに向け準備をはじめます。多くの応援ありがとうございます」。
いよいよロード世界選手権のクライマックスに向けてカウントダウンが始まる。オーストリア9月最後の週末、土曜日、女子エリートロードレースがクーフシュタインからインスブルックまでの全長155.6km/獲得標高差2,406mの難関山岳コースで行われた。
男子ジュニア&U23レースと同様に、女子エリートも「グナーデンヴァルト(距離2.6km/平均勾配10.5%/最大勾配14%)」を含む84.2kmのロード区間を走ってからインスブルックの周回コースに突入。「イグルス(距離7.9km/平均勾配5.7%/最大勾配10%)」の登りを含む23.8km周回コースを3周する。前週からずっと天気予報が傘マークを示していたが、レース当日は晴れ時々曇りの快適なコンディション。暑くもなく寒くもない気温15度の秋のティロル地方を48種類のナショナルジャージに身を包んだ149名が駆け抜けた。
序盤に飛び出したアウレラ・ネルロ(ポーランド)とアナクリスティナ・サナブリア(コロンビア)の2名が2分程度のリードを得る中、メイン集団から続出するカウンターアタックをベルギーやドイツ、オランダが封じ込めながらレースは進む。「グナーデンヴァルト」の登りに向けてペースが上がったところで優勝候補のアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)らが落車。タイムトライアルとの二冠が注目されたファンフルーテンは「グナーデンヴァルト」で脱落した選手たちをごぼう抜きにして難なく集団に復帰している。
急勾配区間を含む「グナーデンヴァルト」でメイン集団は20名に絞られたが、與那嶺恵理(ウィグル・ハイファイブ)を含む集団が追いついて50名ほどに人数を増やす。そこからライバルたちに休む間も与えずにアタックを連発したのがオランダチームだった。
ディフェンディングチャンピオンのシャンタル・ブラーク(オランダ)らが断続的に集団からアタックを仕掛けると、序盤から逃げは早くも吸収される。続いて飛び出したエレン・ファンダイク(オランダ)にタティアナ・グデルツォ(イタリア)、セシルウトラップ・ルドウィグ(デンマーク)、ロッタ・レピスト(フィンランド)が続く形で4名が抜け出し、與那嶺を含む約50名のメイン集団から20秒のリードでインスブルックの周回を開始する。しかしこの動きも長続きせず、ファンダイクらも1周目の「イグルス」の登りで吸収。そこから新たな動きが生まれる。
登りでアタックを成功させたのはスプリンターとして知られるコリン・リヴェラ(アメリカ)。追走グループを形成したファンダイクとアマンダ・スプラット(オーストラリア)、マウゴジャータ・ヤシンスカ(ポーランド)、エミリア・ファーリン(スウェーデン)、エレーナ・ピローネ(イタリア)が先頭リヴェラに合流して2周目へ。45秒遅れで追いかける21名のメイン集団の中に與那嶺の姿はなかった。
強豪国のビッグネームが先頭グループを形成したものの、タイム差が1分以上に広がることはなかった。すると、フィニッシュまで42kmを残して、「イグルス」の登りで活性化したメイン集団からファンデルブレッヘンがアタック。強烈なペースで登りを突き進んだファンデルブレッヘンはすぐに1分差を詰め、先頭グループに追いつくや否やカウンターアタックを仕掛けた。
食らいつくスプラットを振り切ったファンデルブレッヘンが残り39km地点で独走を開始する。「イグルス」の頂上通過時点で2番手スプラットに30秒、3番手リヴェラに1分、メイン集団に2分45秒のタイム差をつけたファンデルブレッヘンが独走。下りと平坦路でさらにリードを広げたファンデルブレッヘンがスプラットに対して1分19秒のリードで最終周回に入った。
登りでも下りでも平坦路でも、ファンデルブレッヘンが最速だった。後続に全く寄せ付ける隙を与えずにファンデルブレッヘンが独走。2番手スプラットに3分42秒差、そして追走グループから最後の「イグルス」で抜け出した3番手グデルツォに5分26秒もの差をつけて、オランダ国旗が翻る最終ストレートにファンデルブレッヘンがやってきた。
まさに圧倒的と言える走りで独走フィニッシュし、左手で顔を覆ったファンデルブレッヘン。「ただ速く走ることだけを考えていたので、後続とのタイム差は聞いていなかった。だからフィニッシュするまで自分が世界チャンピオンになるなんて信じていなかった。(残り42km地点の)アタックが早すぎるかと思ったけど、チャンスを感じたので挑戦してみることにした。世界選手権で勝つことがどれだけ難しいかを知っているだけに、この勝利に大きな喜びを感じている」。新世界王者ファンデルブレッヘンは観客から飛んでくる大声援に手を振って応えた。
現在28歳のファンデルブレッヘンはリオ五輪ロードレースで金メダルを獲得しているものの、世界選手権ではまだ一度もタイトルを獲得したことがない。ロードレースで2012年に5位、2013年4位、2015年に2位、そしてタイムトライアルで2015年と2017年に2位。直前のチームタイムトライアルで2位、個人タイムトライアルで2位。世界選手権のシルバーコレクターという汚名を圧倒的な走りで払拭した。
2018年のストラーデビアンケ、ロンド・ファン・フラーンデレン、ラ・フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで勝利している世界最高峰のクラシックハンターが念願のアルカンシェル獲得。オランダの女子エリートロードレース制覇はこれが11回目となる。なお、前半に落車しながらもオランダチームの一員としてレースを動かし、7分遅れで完走したTT王者ファンフルーテンはレース後の検査で脛骨の骨折が発覚している。
レース前半の「グナーデンヴァルト」で集団から脱落した金子広美(イナーメ信濃山形)と唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)は完走ならず。インスブルック周回の1周目でメイン集団から脱落した與那嶺は辛うじてタイムカットを免れて最終周回に入った。完走者81名のサバイバルレースを20分47秒遅れの79位で終えた與那嶺は「本当に悔しい世界選手権でした」と振り返る。
「自分のために走れるレースでこの成績。ジャパンチームから最高のサポートを受け、自分の出来る準備をしてこの結果です。体重を減らす必要があると強く感じました。今シーズン、筋トレの継続により身体はどっしり大きくなりましたが自分の持ち味の登りの切れ、スピードは大きく落ちてしまいました。レース展開は最初の登りまでは位置取りは完璧に出来ました。しかしその後の登りでは身体が動かず。とても恥ずかしかったです。この走りとこの成績は本当に恥ずかしい。レースを続けるのがとても恥ずかしかったです」と語る與那嶺はチームを移籍して2019年シーズンを戦う予定。「まずは10月からオフをしっかり取って、1月からのツアー・ダウンアンダーに向け準備をはじめます。多くの応援ありがとうございます」。
ロード世界選手権2018女子エリートロードレース結果
1位 | アンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ) | 4:11:04 |
2位 | アマンダ・スプラット(オーストラリア) | 0:03:42 |
3位 | タティアナ・グデルツォ(イタリア) | 0:05:26 |
4位 | エミリア・ファーリン(スウェーデン) | 0:06:13 |
5位 | マウゴジャータ・ヤシンスカ(ポーランド) | |
6位 | カロルアン・カヌエル(カナダ) | 0:06:17 |
7位 | アネミエク・ファンフルーテン(オランダ) | 0:07:05 |
8位 | アミー・ピータース(オランダ) | |
9位 | ルシンダ・ブランド(オランダ) | 0:07:17 |
10位 | ルース・ウィンダー(アメリカ) | |
79位 | 與那嶺恵理(ウィグル・ハイファイブ) | 0:20:47 |
DNF | 金子広美(イナーメ信濃山形) | |
DNF | 唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム) |
text&photo:Kei Tsuji in Innsbruck, Austria