2018/09/29(土) - 02:27
ロード世界選手権U23ロードレースの勝負を分けたのは下り区間だった。ハイスピードダウンヒルでレースを動かし、アタックを仕掛けて独走に持ち込んだマルク・ヒルシ(スイス)が勝利。日本から出場した5名はいずれも完走を逃している。
ドイツ国境に近い人口17,000人のクーフシュタインをスタートするロード世界選手権U23ロードレース。イン渓谷に沿った平坦路をこなしてから「グナーデンヴァルト(距離2.6km/平均勾配10.5%/最大勾配14%)」を越え、そこから「イグルス(距離7.9km/平均勾配5.7%/最大勾配10%)」の登りを含む23.8km周回コースに突入する。周回数は男子ジュニアが2周、女子エリートが3周、男子エリートが7周であるのに対しU23は4周。距離は179.5km、獲得標高差は2,907mに達する。
序盤の平坦区間でアタックを仕掛けたシモン・トラッチ(ポーランド)にイジドル・ペンコ(スロベニア)とニコラス・ズコスキー(カナダ)が反応する形で3名の逃げが形成され、3分ほど先行した状態で「グナーデンヴァルト」へ。急勾配の登りで独走状態となったズコスキーが2分のリードをもってインスブルックの周回コースに入ったが、ベルギーやアイルランド、スロベニアがコントロールするメイン集団によって逃げは引き戻された。
2年連続でU23タイムトライアルで世界チャンピオンに輝いているミッケル・ビョーグ(デンマーク)が登りで動いたものの決まらない。レースが大きな局面を迎えたのは2周目の長い下り区間だった。
フィニッシュまで50km強を残してスイスのパトリック・ミュラーとジーノ・マーダー、マルク・ヒルシ、ルーカス・ルエッグの4名が先頭に立ってペースを上げると、この動きに反応できたのはロットNLユンボ所属のニールソン・ポーレス(アメリカ)とバーレーン・メリダ所属のマーク・パデュン(ウクライナ)、ミッケル・オノル(デンマーク)の3名のみ。3周目に入るとその中からパデュンとミュラーが抜け出すことに成功する。
イタリアやベルギーチームの集団牽引によってパデュンとミュラー以外の先行者は一旦引き戻され、チームスカイ入りが決まっているエドワード・ダンバー(アイルランド)が続いて動くとスイスのマーダーがチェックに入る。こうして先頭はパデュンとミュラーの2名、10秒遅れでダンバーとマーダーの2名、33秒遅れで23名のメイン集団という展開で最終周回に突入した。
カチューシャ・アルペシン所属のステフ・クラス(ベルギー)による強力な集団牽引によってまずはダンバーとマーダーが吸収される。先頭のパデュンとミュラーを視界にとらえたメイン集団からは、ロット・スーダル所属のビョルグ・ランブレヒト(ベルギー)が強力なアタック。「イグルス」の登りでランブレヒトがアタックを繰り返すと、マルク・ヒルシ(スイス)とヤーコ・ハンニネン(フィンランド)だけが食らいついた。
誰も協力しないことに苛立ちを見せながらも、ヒルシとハンニネンを引き連れる形でライバルたちを振り切ったランブレヒト。そのまま3名で下り区間に突入すると、今度はヒルシが動いた。
前を走るランブレヒトとハンニネンの後ろから、勢いをつけてスプリントしたヒルシが下り区間で先行を開始。最高スピードが90km/hを超える下りで抜け出し、時折トップチューブに座ってペダリングする「フルーム下り」でスピードを繋いでコーナーに突っ込んでいく。下りきった段階でランブレヒトとハンニネンに5秒差をつけたヒルシが、その後の平坦区間でリードを10秒まで広げた。
残り4km地点の登り区間でタイム差は5秒まで縮まったものの、平坦区間で再びリードは拡大。個人タイムトライアルでは39位と振るわなかったが、ヒルシの独走力が冴え渡った。フィニッシュまで9kmを残して飛び出したヒルシが、インスブルックのフィニッシュラインまで逃げ切った。
U23カテゴリー2年目のヒルシが手にした世界チャンピオンのタイトル。現在サンウェブのデヴェロップメントチームで走っている20歳のヒルシは2019年にサンウェブのUCIワールドチームに加入することが決まっている。
ヨーロッパ選手権に続いて世界選手権を制したヒルシは「世界タイトルを手にいれるためには強いだけじゃなくて賢く走らないといけない。今日はビョルグ・ランブレヒトが最強だったけど、彼の走りには焦りが見えた。限界ギリギリで彼のアタックに食らいつき、最後はスプリントに備えることもできたけど、チャンスがあると判断して下りでアタックした。過去の世界選手権の経験から、スイスはチームとして積極的なレースをする作戦だった」とコメント。ヒルシとスイスのトリプルエースを担ったマーダーとミュラーはしっかりとトップ10フィニッシュしている。
「登りでは敵がいないと感じていた。少し失望しているけど、少なくともベルギーにメダルをもたらすことができて良かった」と語るのは2位のランブレヒト。敗因について「昨年のツール・ド・ラヴニールでマルク・ヒルシの下りの速さを知っていた。自分は最高の下り巧者ではなかった」と語る。
そして3位にはフィンランドから唯一の出場者であるハンニネンが入った。直前のフランスレースでレイン・タラマエ(エストニア、ディレクトエネルジー)らを下して優勝しているほぼ無名の21歳は「世界最高峰のU23選手たちと一緒に走る素晴らしい経験だった。他の多くの選手はプロとして活動しているけど、自分は単なるアマチュア選手。人数的にも不利だったけど、脚力がものを言う今日のコースは自分向きだった」とコメントしている。
5名で挑んだ日本チームは完走ならず。前半の「グナーデンヴァルト」で渡辺歩(GSCブラニャック)と大前翔(慶應義塾大学)が遅れ、松田祥位(EQADS)、石上優大(EQADS)、山本大喜(キナンサイクリング)の3名が集団内でインスブルックの周回コースに入ったものの、1周目の「イグルス」の登りで脱落してしまう。ハイペースで進行する集団とのタイム差は広がり続けた。15分遅れの段階で足切りとなるため、いずれの選手も最終周回に入ることができずにレースを降りている。
以下はJCFのレポートに掲載された浅田顕コーチ、石上優大(EQADS)、山本大喜(キナンサイクリング)のコメント。
浅田顕コーチのコメント
90㎞のライン区間と7㎞の峠を含むゴール周回を4周する非常に厳しい今回の山岳コースでは、山本を可能な限り最後までメイン集団に残すためにライン区間は渡辺と大前、登り区間では松田が山本の位置取りと牽引を受け持つことで30位以内を成績目標とした。8月の骨折以来の復帰戦となる石上は自力で動き、今できる最大の走りでゴールを目指した。
レースは全体的に速く純粋に登坂力がなければ残れない展開のなか、日本チームは早い段階で戦列から離れることになり、各周回での規定タイムオーバーにより全員が途中棄権となった。結果は本当に残念だが、これが山岳コースでの実力評価。真直ぐ受け止め来年の成長に繋げたい。レース自体は1年を戦ってきた各国ライバル同士のぶつかり合いで、U23世界一を決めるに相応しい実力勝負の素晴らしいレース展開であった。
石上優大(EQADS)のコメント
完走できると思っていたが甘かった。(鎖骨骨折のため)自転車乗り始めて2週間ちょっと。やれることはやってきたが全然足りなかった。結果的にはケガの影響は否めない。テーピングと強い痛み止めを飲んで、なんとかごまかしたが、練習できなかったのが響いてしまった。アンダー23はあと1年。もう時間はないと思っている。限られた時間のなかで、やれることをやって結果を出していきたい。
山本大喜(キナンサイクリング)のコメント
調子もよく、自分のできることをやりきったが、完全に力の差で遅れてしまった。ライン区間の登りでは脚があったが、周回コースの登りで絶対に集団に付いていこうと全力で走り、頂上で遅れかけてもなんとか付いていったが、その後、下り切ると集団は伸びきり、そこでちぎれてしまった。このままでは世界のトップとの差がどんどん大きくなってしまうため、ここをきっかけにして違う取り組みをしていかないといけない。自転車競技をやるからには、世界をめざすという目標でやっている。その目標が変わってしまうときは、やめるべきだと思っている。エリートカテゴリーでもしっかりと世界を目標にして走っていきたい。
ドイツ国境に近い人口17,000人のクーフシュタインをスタートするロード世界選手権U23ロードレース。イン渓谷に沿った平坦路をこなしてから「グナーデンヴァルト(距離2.6km/平均勾配10.5%/最大勾配14%)」を越え、そこから「イグルス(距離7.9km/平均勾配5.7%/最大勾配10%)」の登りを含む23.8km周回コースに突入する。周回数は男子ジュニアが2周、女子エリートが3周、男子エリートが7周であるのに対しU23は4周。距離は179.5km、獲得標高差は2,907mに達する。
序盤の平坦区間でアタックを仕掛けたシモン・トラッチ(ポーランド)にイジドル・ペンコ(スロベニア)とニコラス・ズコスキー(カナダ)が反応する形で3名の逃げが形成され、3分ほど先行した状態で「グナーデンヴァルト」へ。急勾配の登りで独走状態となったズコスキーが2分のリードをもってインスブルックの周回コースに入ったが、ベルギーやアイルランド、スロベニアがコントロールするメイン集団によって逃げは引き戻された。
2年連続でU23タイムトライアルで世界チャンピオンに輝いているミッケル・ビョーグ(デンマーク)が登りで動いたものの決まらない。レースが大きな局面を迎えたのは2周目の長い下り区間だった。
フィニッシュまで50km強を残してスイスのパトリック・ミュラーとジーノ・マーダー、マルク・ヒルシ、ルーカス・ルエッグの4名が先頭に立ってペースを上げると、この動きに反応できたのはロットNLユンボ所属のニールソン・ポーレス(アメリカ)とバーレーン・メリダ所属のマーク・パデュン(ウクライナ)、ミッケル・オノル(デンマーク)の3名のみ。3周目に入るとその中からパデュンとミュラーが抜け出すことに成功する。
イタリアやベルギーチームの集団牽引によってパデュンとミュラー以外の先行者は一旦引き戻され、チームスカイ入りが決まっているエドワード・ダンバー(アイルランド)が続いて動くとスイスのマーダーがチェックに入る。こうして先頭はパデュンとミュラーの2名、10秒遅れでダンバーとマーダーの2名、33秒遅れで23名のメイン集団という展開で最終周回に突入した。
カチューシャ・アルペシン所属のステフ・クラス(ベルギー)による強力な集団牽引によってまずはダンバーとマーダーが吸収される。先頭のパデュンとミュラーを視界にとらえたメイン集団からは、ロット・スーダル所属のビョルグ・ランブレヒト(ベルギー)が強力なアタック。「イグルス」の登りでランブレヒトがアタックを繰り返すと、マルク・ヒルシ(スイス)とヤーコ・ハンニネン(フィンランド)だけが食らいついた。
誰も協力しないことに苛立ちを見せながらも、ヒルシとハンニネンを引き連れる形でライバルたちを振り切ったランブレヒト。そのまま3名で下り区間に突入すると、今度はヒルシが動いた。
前を走るランブレヒトとハンニネンの後ろから、勢いをつけてスプリントしたヒルシが下り区間で先行を開始。最高スピードが90km/hを超える下りで抜け出し、時折トップチューブに座ってペダリングする「フルーム下り」でスピードを繋いでコーナーに突っ込んでいく。下りきった段階でランブレヒトとハンニネンに5秒差をつけたヒルシが、その後の平坦区間でリードを10秒まで広げた。
残り4km地点の登り区間でタイム差は5秒まで縮まったものの、平坦区間で再びリードは拡大。個人タイムトライアルでは39位と振るわなかったが、ヒルシの独走力が冴え渡った。フィニッシュまで9kmを残して飛び出したヒルシが、インスブルックのフィニッシュラインまで逃げ切った。
U23カテゴリー2年目のヒルシが手にした世界チャンピオンのタイトル。現在サンウェブのデヴェロップメントチームで走っている20歳のヒルシは2019年にサンウェブのUCIワールドチームに加入することが決まっている。
ヨーロッパ選手権に続いて世界選手権を制したヒルシは「世界タイトルを手にいれるためには強いだけじゃなくて賢く走らないといけない。今日はビョルグ・ランブレヒトが最強だったけど、彼の走りには焦りが見えた。限界ギリギリで彼のアタックに食らいつき、最後はスプリントに備えることもできたけど、チャンスがあると判断して下りでアタックした。過去の世界選手権の経験から、スイスはチームとして積極的なレースをする作戦だった」とコメント。ヒルシとスイスのトリプルエースを担ったマーダーとミュラーはしっかりとトップ10フィニッシュしている。
「登りでは敵がいないと感じていた。少し失望しているけど、少なくともベルギーにメダルをもたらすことができて良かった」と語るのは2位のランブレヒト。敗因について「昨年のツール・ド・ラヴニールでマルク・ヒルシの下りの速さを知っていた。自分は最高の下り巧者ではなかった」と語る。
そして3位にはフィンランドから唯一の出場者であるハンニネンが入った。直前のフランスレースでレイン・タラマエ(エストニア、ディレクトエネルジー)らを下して優勝しているほぼ無名の21歳は「世界最高峰のU23選手たちと一緒に走る素晴らしい経験だった。他の多くの選手はプロとして活動しているけど、自分は単なるアマチュア選手。人数的にも不利だったけど、脚力がものを言う今日のコースは自分向きだった」とコメントしている。
5名で挑んだ日本チームは完走ならず。前半の「グナーデンヴァルト」で渡辺歩(GSCブラニャック)と大前翔(慶應義塾大学)が遅れ、松田祥位(EQADS)、石上優大(EQADS)、山本大喜(キナンサイクリング)の3名が集団内でインスブルックの周回コースに入ったものの、1周目の「イグルス」の登りで脱落してしまう。ハイペースで進行する集団とのタイム差は広がり続けた。15分遅れの段階で足切りとなるため、いずれの選手も最終周回に入ることができずにレースを降りている。
以下はJCFのレポートに掲載された浅田顕コーチ、石上優大(EQADS)、山本大喜(キナンサイクリング)のコメント。
浅田顕コーチのコメント
90㎞のライン区間と7㎞の峠を含むゴール周回を4周する非常に厳しい今回の山岳コースでは、山本を可能な限り最後までメイン集団に残すためにライン区間は渡辺と大前、登り区間では松田が山本の位置取りと牽引を受け持つことで30位以内を成績目標とした。8月の骨折以来の復帰戦となる石上は自力で動き、今できる最大の走りでゴールを目指した。
レースは全体的に速く純粋に登坂力がなければ残れない展開のなか、日本チームは早い段階で戦列から離れることになり、各周回での規定タイムオーバーにより全員が途中棄権となった。結果は本当に残念だが、これが山岳コースでの実力評価。真直ぐ受け止め来年の成長に繋げたい。レース自体は1年を戦ってきた各国ライバル同士のぶつかり合いで、U23世界一を決めるに相応しい実力勝負の素晴らしいレース展開であった。
石上優大(EQADS)のコメント
完走できると思っていたが甘かった。(鎖骨骨折のため)自転車乗り始めて2週間ちょっと。やれることはやってきたが全然足りなかった。結果的にはケガの影響は否めない。テーピングと強い痛み止めを飲んで、なんとかごまかしたが、練習できなかったのが響いてしまった。アンダー23はあと1年。もう時間はないと思っている。限られた時間のなかで、やれることをやって結果を出していきたい。
山本大喜(キナンサイクリング)のコメント
調子もよく、自分のできることをやりきったが、完全に力の差で遅れてしまった。ライン区間の登りでは脚があったが、周回コースの登りで絶対に集団に付いていこうと全力で走り、頂上で遅れかけてもなんとか付いていったが、その後、下り切ると集団は伸びきり、そこでちぎれてしまった。このままでは世界のトップとの差がどんどん大きくなってしまうため、ここをきっかけにして違う取り組みをしていかないといけない。自転車競技をやるからには、世界をめざすという目標でやっている。その目標が変わってしまうときは、やめるべきだと思っている。エリートカテゴリーでもしっかりと世界を目標にして走っていきたい。
ロード世界選手権2018男子U23ロードレース結果
1位 | マルク・ヒルシ(スイス) | 4:24:05 |
2位 | ビョルグ・ランブレヒト(ベルギー) | 0:00:15 |
3位 | ヤーコ・ハンニネン(フィンランド) | |
4位 | ジーノ・マーダー(スイス) | 0:00:35 |
5位 | マーク・パデュン(ウクライナ) | 0:00:37 |
6位 | ハイメ・カストリーリョ(スペイン) | 0:00:45 |
7位 | タデイ・ポガカー(スロベニア) | 0:00:47 |
8位 | イーサン・ヘイター(イギリス) | |
9位 | パトリック・ミュラー(スイス) | |
10位 | ジェームス・ショウ(イギリス) | |
DNF | 石上優大(EQADS) | |
DNF | 大前翔(慶應義塾大学) | |
DNF | 山本大喜(キナンサイクリング) | |
DNF | 松田祥位(EQADS) | |
DNF | 渡辺歩(GSCブラニャック) |
text&photo:Kei Tsuji in Innsbruck, Austria
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