最終ステージを迎えるツール・ド・ランカウイ2010。マレーシアの首都クアラルンプールのクリテリウムで締めくくられる平坦ステージは、愛三工業レーシングチームにとって文字通り最後のチャンスとなる。

昨日のゲンティンハイランドを日本勢で最も速く駆け上がってきたのは鈴木謙一(愛三工業)。トップのホセ・ルハノ(ヴェネズエラ、ISD)からの遅れを10分以内に抑える好走を見せた。本人としてもまずまずの感触を得たようだ。

鈴木 「昨日は自分が思っていたよりは登れました。本格的な山岳の準備をしていなかったけれど、しばらくは集団の前が見える位置で走れていました。以前ジョラジャ・マレーシアでゲンティンの途中までは走ったことがあったのですが、その先がわからないまま走った割には良かった。今度はトップ20、トップ10を狙う走りができると思います」

区間2勝目を狙うエース西谷泰治は、昨日の繰り上げベストアジアンライダージャージの青から、再び純白の全日本チャンプジャージに着替えて最終ステージに臨む。

品川が真似るのは西谷の勝利ゴールのポーズ。皆が腹を抱えて笑う品川が真似るのは西谷の勝利ゴールのポーズ。皆が腹を抱えて笑う photo:Yufta Omata

今日で最後とあってチームの雰囲気は和やかだ。第4ステージでの西谷のガッツポーズを品川や盛がマネをして周囲の笑いを誘う。確かに特徴的なガッツポーツだったが、それを今日も見たいのは僕だけでなく、選手とチームのスタッフ全員の願いだろう。最後のチャンスにかける西谷に意気込みを聞く。

西谷 「クリテリウムの今日はチームのみんなで組んでスプリントを狙うには少し難しいコースかもしれない。なかなかみんなでやろうとしてもリスクもある。道幅が狭くてテクニカルですから。今日は少人数で動いていくのがベストだと思います。総合も確定してるので、逃げもありです。今日に限って言えば可能性はスプリントだけではないですよ。

(ライバルスプリンターは?との問いに)いままでの結果を見ているとマシューズ選手と、フットオンの ビダル・セリスも強い。この2人は勝負になった時に要注意です。セリスはコンスタントに上位に来ているし、スプリントをかけると持続する強さがある。ライン取りもうまい。」

昨日のゲンティンはモト(バイク)で登っても恐ろしく迫力のある登りだった。あのヒルクライムを経ての最終ステージは、なかなかに疲労が抜けないのでは、と思っていたが、品川真寛は「ゲンティンを走って疲れたけど、逆に調子がいいかもしれない。ガンガン行きます!」と、むしろポジティブ。

選手たちを見下ろすのは高さ452mのペトロナスツインタワー選手たちを見下ろすのは高さ452mのペトロナスツインタワー photo:Yufta Omata

大勢が決した総合争いと違い、まだ結果はわからないのが山岳賞とポイント賞ジャージだ。山岳賞は第1ステージからピーター・マクドナルド(オーストラリア)が着続けたが、昨日のゲンティンの勝者ルハノがたった1勝でマクドナルドに並んだ。マクドナルド自身、ゲンティンでは力走の4位に入り執念を見せたから、どうしたって欲しいタイトルなことは間違いない。

そしてマレーシア中が熱い視線を送るのはポイント賞の行方。トップをゆく母国の星アヌアル・マナン(クムサン・ジンセン・アジア)は昨日のステージでライバルのマイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・スキンズ)に差を付けることに成功したが、まだ安心できる差とは言えない。グリーンジャージの獲得を目指すマナンの目標達成への最短ルートは、ステージ優勝だ。

総合リーダーのルハノ擁するISD・ネーリが集団をコントロール総合リーダーのルハノ擁するISD・ネーリが集団をコントロール photo:Yufta Omata

最後のクリテリウムは逃げが許されず

最後にテクニカルなクリテリウムが待つことから、レースはスプリンターチームの思惑からか逃げが決まらない。ようやく決まった逃げも1分30秒をつけるのがせいぜいのところで、リーダーチームのISD・ネーリもまた強力に引くものだから、逃げ狙いの選手には気の毒な一日だと言う他はない。

クアラルンプールは都会だ。東海岸の古都コタ・バルを一週間前にスタートし、マレー半島をぐるりと周ってこの近代都市にたどりついたが、これまでの街とのコントラストに、マレーシアという国の現実をまざまざと感じさせる。

都会は人を開放的にするのか、街を行く女の子の服装もヒジャブ姿がとたんに少なくなる。さまざまな民族の混交が今のマレーシア国家を生んだが、首都クアラルンプールは現代の民族混交のあり様をまざまざと見せてくれる。伝統か革新か。多くのアジアの国が直面する2択の狭間で、地方と都会の差異が大きく広がっている。

伝統と革新の是非は置いておくとして、都会でのロードレースとはなかなかに絵になるもの。田舎のあぜ道に「マレーシアらしい」写真を撮ることに夢中になったフォトグラファーたちは、今度は都会のど真ん中で「マレーシアらしい」写真を撮るのである。

クアラルンプールの周回コースは都会と田舎が混在クアラルンプールの周回コースは都会と田舎が混在 photo:Yufta Omata

山岳賞を狙うマクドナルドは健闘し、少し山岳賞獲得に色気を出したルハノを押しよけて、無事に山岳ポイントを獲得。山岳賞ジャージを確定させた。ポイント賞はというと、中間スプリントポイントで勝負は無し。マシューズは区間狙いにシフトしたのか、それともこのところのマナンのフィーバーぶりを見て空気を読んだのか。

集団前方で周回をこなす盛一大(愛三工業レーシングチーム)集団前方で周回をこなす盛一大(愛三工業レーシングチーム) photo:Yufta Omataチームメイトに守られて周回をこなすホセ・ルハノ(ベネズエラ、ISD・ネーリ)チームメイトに守られて周回をこなすホセ・ルハノ(ベネズエラ、ISD・ネーリ) photo:Yufta Omata


ともかく、ツール・ド・ランカウイ2010は最終ステージの行方を見守るだけとなった。望遠レンズの奥の奥に、大集団を捉える。純白の西谷泰治は来るか。

最終スプリントバトルを制したスチュアート・ショウ(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)最終スプリントバトルを制したスチュアート・ショウ(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ) photo:Yufta Omata

だが今日のスプリントは、西谷でもマナンでもマシューズでもなく、スチュアート・ショウ(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)が制した。
2位に入ったのは、今朝がた西谷が言及したビダル・セリス(スペイン、フットオン・セルヴェット)。このランカウイではトップ3に入ることたびたびで、表彰台の常連だったが、ついに勝利には届かなかった。しかしそのコンスタントな強さはスプリンターとしての素養を示している。珍しいスペイン人スプリンター。

全日本チャンピオンジャージの西谷泰治(愛三工業レーシングチーム)、最終ステージは12位全日本チャンピオンジャージの西谷泰治(愛三工業レーシングチーム)、最終ステージは12位 photo:Yufta Omata

ランカウィでアジアの選手たちが得たものとは?

西谷は12位でこのランカウイ最終ステージを終えた。セリスは勝つことがいかに難しいかを教えてくれるが、西谷と愛三の戦いをみると、コンスタントに上位に食い込むことの難しさを教えられる。
愛三工業の選手たちはこのランカウイの中でスプリントの形をつくることにこだわった。HC(オークラス)レベルのレースで列車を組む経験は、必ず今後に生きてくる。その時に、西谷のガッツポーツを再び見られるだろう。

しかしその中で区間1勝をつかんだ意義は大きい。いつまでも勝利の余韻に浸るつもりはないが、第4ステージで見られた盛―西谷のホットラインは、HCレースで通用する潜在力を感じさせる。このホットラインへ確実に至る列車を組み上げること、それを今後、愛三がレースの中で模索していくことになる。

このランカウイの序盤に聞いたアジアと欧米の壁。しかしフタを空けてみれば、スプリント、山岳と多くの場面でアジア勢の活躍が見られた。若い世代が育ってきているアジアの自転車競技界は、ひとつ新たな展開へとつながっていくだろう。

愛三の戦いはまだ始まったばかり。なんと言ってもランカウイはシーズン初戦なのだ。今回、ツール・ド・ランカウイを愛三工業について取材したことで、レースは選手たちだけでなく、スタッフやファンなど多くの人があって初めて成り立つのだということを改めて知った。愛三工業は日本国内はもちろん、国外まで含めた大きなムーブメントとしてレースを作っていけるチームだ。

この現地レポートは、キャプテン綾部のランカウイ総括と、これからの展望について語ってもらうことで閉じることにしたい。

綾部 「HCのレースにチームで初めて出場して、目標だったステージ優勝を上げることができたんですが、その後の山岳だとか、総合争いという面ではまだまだ欧米勢との差をまざまざと感じました。これからもっともっと登りなどもこなせるチームになっていかないと、これからアジアでトップクラスで戦っていくのは厳しいですね。そこを課題に今後強いチームにしていきたいと思います。

次のチームの目標はツアー・オブ・ジャパン。登りの多いレースなので、そこでみんなで力を発揮できるように、トレーニングやレースの中でもそこを意識しながら走っていきたいと思います。」

1週間のランカウイを闘い終えた愛三工業レーシングチームのメンバー、スタッフ、そして観戦ツアーの参加者たち1週間のランカウイを闘い終えた愛三工業レーシングチームのメンバー、スタッフ、そして観戦ツアーの参加者たち photo:Yufta Omata

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