全日本初優勝を飾った山本元喜(キナンサイクリングチーム)や、2度目の優勝を狙った佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)ら男子エリートのトップ5、そして展開を作った選手たちにコメントを紹介します。



優勝:山本元喜(キナンサイクリングチーム)

表彰台 2位佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)、1位山本元喜(キナンサイクリングチーム)、3位新城雄大(キナンサイクリングチーム)表彰台 2位佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)、1位山本元喜(キナンサイクリングチーム)、3位新城雄大(キナンサイクリングチーム) photo:Kei Tsuji
残り5周の登りでレースが動いた時に人数が絞られて、そこから小石と飛び出す展開に。佐野さん、石橋、(新城)雄大、小野寺が後ろから迫ってきましたが、その中に雄大が控えてくれたので、比較的余裕をもって小石と逃げていました。

ラスト1周で後方から雄大がブリッジして追いついて、小石に対して数で優位に立つのが理想的だったんですけど、小石が先にペースを抑え始めたので、思ったよりも早く後続に追いつかれてしまった。でも雄大が上手く石橋を切り離しながら佐野さんと2人で追いついてきてくれたので、4人中キナンが2人という形に持っていけた。その時点で1位は絶対にとらないといけないというプレッシャーはありました。

月曜日に現地入りして、合計すると27周ほど周回コースを試走しました。だからコースプロフィールは完全に頭に入っていましたし、体にも染み付いていた。どこで踏めばどう伸びるかも熟知できていた。だから残り2周で佐野さんがアタックした時も落ち着いて踏む場所を判断して、下りも利用して追いついた。そして後ろでは雄大が小石をマークしてくれている状況。自分は無理することなく佐野さんに前を引いてもらって最終周回に向かいました。

中島康晴と弟の山本大喜と共に日本チャンピオンを喜ぶ山本元喜中島康晴と弟の山本大喜と共に日本チャンピオンを喜ぶ山本元喜 photo:Satoru Kato
「熊野の時のお返しです」と山本元喜(キナンサイクリングチーム)「俺が多勢だったらそうするよ」と佐野淳哉(マトリックスパワータグ)「熊野の時のお返しです」と山本元喜(キナンサイクリングチーム)「俺が多勢だったらそうするよ」と佐野淳哉(マトリックスパワータグ) photo:Satoru Kato
後方から追いついてきた雄大に「両脚がつっている」と言われたものの、彼の存在のおかげで万全の状態で最後の登りに挑むことができた。登りの入り口から一気に仕掛けました。そこで仮に佐野さんを千切ることができなくても、数的な優位は変わらなかったと思います。雄大が動けなくても、彼の存在自体が武器になりました。

1つ目の登りを終えた時点で佐野さんとタイム差30秒。下り区間で10秒広がって、2つ目の登りで40秒。自分よりも体重のある佐野さんから下りでリードを奪うことができたことは、自分が踏めている証拠だったので自信になりました。仮に佐野さんが追いついてきても、後方に雄大が控えていたので、付き位置に入って最後にスプリントするだけ。そう冷静に考えながら、パワーメーターを見ながら踏みすぎないようにして独走を続けました。

事前に12周の試走を2回行いました。どの天候でも勝負できるように、1回は晴れで、1回は雨の中。11周を走ってから1周全力で走るという練習をしてきたので、限界に近いような終盤にどれだけ踏めるかはわかっていた。パワーメーターを見ながらその数値を超えないように、フィニッシュまで踏み抜けるように落ち着いて走りました。

2位:佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)

最終周回 先行する山本元喜を追う佐野淳哉(マトリックスパワータグ)最終周回 先行する山本元喜を追う佐野淳哉(マトリックスパワータグ) photo:Satoru Kato
各チームが「この選手でも勝利を狙える」というサブエースを先頭集団に送り込んでいたので、後ろのメイン集団には追う理由がない状態。タイム差が1分半まで広がった段階で、これは決定的な動きになると思いました。

序盤から力を使って前を引いたチームと力を溜めたチームの二手に分かれました。ローテーションがうまく回っていなかったので僕も前を引きましたが、結果的にはチームメイトに任せてもっと力を温存していても良かった気がします。30人もいたら絶対に綺麗にローテーションは回らない。引くメンバーがしっかりいたので常にペースは落ちなかったんですが、全く引かないメンバーもいたので、カメラに映らないところで常に先頭集団が割れたりくっついたりを繰り返していました。

ゴール後に座り込む佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)ゴール後に座り込む佐野淳哉(マトリックス・パワータグ) photo: So Isobe
人数が絞り込まれてきた段階で、今シーズンここまで強力な走りを見せていた(新城)雄大選手が厄介だと思っていた。小石選手と(山本)元喜選手が逃げた時に、レースのセオリーとして当たり前のこととして彼は追走グループを引くことはない。予想以上に小石選手と元喜選手の勢いがよくて、追走のメンバーが予想以上に減ってしまったことが誤算でした。僕と石橋選手は雄大選手を連れながら前を追うしかなかった。なるべくしてなったような結果になりました。

2人を揃えるキナンに対して淡々と行っても仕方がないので、力技で人数を減らすために残り2周の登りでアタック。でも結果的に僕の破壊力が足りなかった。あの展開から僕が勝つには、全員を木っ端微塵にできるような力が必要でしたが、自分にはそんな力はなかった。

元喜選手のチーム力と、度胸のあるレース運びが勝敗を分けたと思います。キナンが積極的に前で動いていたようには見えなかったんですけど、そのチーム戦略が勝ちにつながった。それに対して僕の力は勝つには値しないものだったのだと思います。でも今ある力の中で最善を尽くせたと思います。

3位:新城雄大(キナンサイクリングチーム)

喜ぶ山本元喜と新城雄大(キナンサイクリングチーム)喜ぶ山本元喜と新城雄大(キナンサイクリングチーム) photo:Kei Tsuji
元喜さんと小石さんが先行して追走につこうと思ってアタックしたけれど、ワンテンポ遅れて付ききれずに前から降ってきた小野寺さんと(佐野)淳哉さんと、後ろから追いついてきた石橋さんとで前を追いかける形になりました。僕は元喜さんが前にいるので足を使わないようにして、元喜さんが捕まった時に備えていました。

チームカーからラストの登りで前にブリッジしろと指示があったのですが、ラスト2周の登りで前が見えていて、この集団ごと連れて行ったらダメだと思って単独で追いつきました。そうしたら佐野さんが追いついて来てしまって、牧場の登りでアタックされたのでついて行こうとしたのですが足がつってしまって反応しきれず、元喜さんが付いてくれました。

追走グループの中からアタックする新城雄大(キナンサイクリングチーム)追走グループの中からアタックする新城雄大(キナンサイクリングチーム) photo:Kei Tsuji
小石さんと前を追うことになりましたが、登りが強い小石さんを連れて行きたくなかったので、抜け出して前の2人に追いつきました。そこで元喜さんと話して、僕は足がやばいと伝えたら、ラストの登りで元喜さんがアタックして行きました。僕は淳哉さんに追いつく足があると思っていたので少しでも足を使わせようとしたのですが遅れてしまい、あとは元喜さんに託すことになりました。

最終局面で数的優位を作れたこと、Jプロツアーの宇都宮ロードで全日本に向けて連携のシュミレーションをしたことがこのレースで活かせました。元喜さんが本当に強かったので安心して任せられましたし、僕はなるべく元喜さんが走りやすいように相手の選手が嫌と思うような走りを心がけました。

4位:入部正太朗(シマノレーシング)

入部正太朗(シマノレーシング)がメイン集団から追走に入る入部正太朗(シマノレーシング)がメイン集団から追走に入る photoSo.Isobe
優勝だけを狙っていたのですが、最初の大きな逃げを見送ってしまったのが全ての敗因です。周りにチームメイトもいたので、最終盤に追いつければ大丈夫と思い込んでしまったんですね。追うなり繋げるなり何かアクションを起こすべきでした。結果的にしょうもない差が生まれてしまって、チームメイトを使いながら前を追いかける状態になってしまいました。

後続集団のメンバーを全員置き去りにできたので、多分今日一番脚があったのは自分だったと思います。たらればですが、もし追いついていれば自分にチャンスがあった。でもあの状況で自分にできることは、必死に前を追いかけることだけでした。一緒に追走した選手たちも意外と脚が無かったから、なおさら序盤から積極的に仕掛けるべきでしたね。

レース中盤からはシマノレーシングが中心となってメイン集団のペースアップを図るレース中盤からはシマノレーシングが中心となってメイン集団のペースアップを図る photo:Satoru Kato
僕が結果を残せる時って、序盤から積極的に攻めている時なんですよね。でも今日は守りに入ってしまった。全日本選手権は海外メンバーがいないことで独特な展開になることが多く、危うくレースから降ろされてしまうところでした。みんな勝ちたいのは理解できますが、単調すぎる展開でしたね。かと言って皆逃げを吸収できる脚を持ってる訳ではありませんでし。

ここまで多くの犠牲を払ってきていますし、スタッフやチームメイトの努力を一つの判断ミスで潰してしまったのは反省点です。ただ(山本)元喜は奈良の後輩ではありますし、勝ったのが彼で良かったと思えますね。

5位:平塚吉光(チーム右京)

全日本選手権なので、勝てないと意味がありませんよね。そういう意味でチームとして5位と6位というのは、一番やってはいけない展開だったと思います。畑中選手がエースだったのですが、その一方でやはりマークがキツいですので、他選手でその隙を狙っていく戦略を持っていました。

タイム差が開ききってしまった段階で、前に乗ったサブエースである小石選手の勝負と踏んでいました。でもレースの展開が、予想よりも1周ずつ早いタイミングで推移していたので彼の脚がなくなってしまった。でも思う通りにいかないのがレースですね。

6位:小石祐馬(チーム右京)

13周目 小石祐馬(チーム右京)と山本元喜(キナンサイクリングチーム)の2人が逃げる13周目 小石祐馬(チーム右京)と山本元喜(キナンサイクリングチーム)の2人が逃げる photo:Satoru Kato
残り4周で僕と山本選手がアタック。お互い脚があったので逃げ切りも十分可能だと思っていました。だから元喜さんが勝ったのはすごく悔しいですが、その一方あの場所で展開できたことが自信にもなると感じています。

佐野さんと新城選手が追いついてきて、キナンが2人になったのはやはり大きかった。あの時点で右京がもう一人いれば展開も違ったと思うのですが、レースなので仕方ありません。逃げに複数名乗せるという作戦通り、序盤の30人逃げに右京として4人を乗せることができたのですが、それでも勝てなかったので全日本選手権は難しいと改めて実感します。最後は自分で勝負させてもらえたので、もう少し脚を残している必要がありましたね。今日の元喜さんは強かったです。

14位:吉田隼人(NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ)

牧場の登りをこなす吉田隼人(NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ)牧場の登りをこなす吉田隼人(NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ) photoSo.Isobe
U23のレースは動いたもの負けでしたが、大門監督から「単騎だし、お前なら勝負できるから積極的に行け」と伝えられていたので逃げに乗りました。最終ブリッジ組だったので追い付くのに力を使ってしまい、合流した後もなかなか脚が戻ってこなかったですね。やっぱり単騎だと、アタックが掛かった時にどこに着いていくべきなのか、見送るべきなのか見きわめが難しかった。それでもあのコースで勝負できる場所にいれたというのは最低限こなす仕事でしたし、その意味ではよかったかなと思います。

22位:鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)

メイン集団のペースアップに対応する鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)メイン集団のペースアップに対応する鈴木譲(宇都宮ブリッツェン) photoSo.Isobe
逃げと集団のタイム差が最大5分くらいであれば、3分くらいに縮めた後、エース級選手がブリッジするシナリオになったと思いますが、あまりにも大きなリードを与えてしまったのが全ての敗因です。集団内のマークがキツくて動ける選手がおらず、どんどん消耗するだけの展開になってしまった。

ブリッツェンとしては4人を送り込めたものの、ほとんどのメンバーがシーズン序盤から(コンディションを)仕上げていたので、疲労が溜まっている状態だったんですね。結果的に僕か雨澤が入れていれば後半勝負にも対応できたかなと思いますが、集団待機を決めていた判断ミスです。

text:Kei.Tsuji,So.Isobe,Satoru.Kato
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