2018/06/10(日) - 20:07
富士スバルラインを舞台に開催された第15回Mt.富士ヒルクライムで、新王者が誕生。コースレコードとなる57分10秒で5合目まで駆け上った田中裕士(グランペール)が15代目の富士ヒルクライムチャンピオンとなった。
日本一の霊峰・富士山で毎年6月初旬に行われるMt.富士ヒルクライム(以下、富士ヒルクライム)。1万人規模のワンデイサイクリングイベントという、国内で唯一無二の存在感を誇る大型大会だ。
まさに全国からヒルクライマーが集まる祭典であり、普段は多くの登山や観光客でごった返す富士山がこの日ばかりはサイクリスト一色となる、スペシャルなレース。そして、その中でも頂点に位置するカテゴリーが「主催者選抜」クラスとなる。
「年代別」カテゴリーに対して、脚自慢が年齢問わず戦うことができる、総合カテゴリーとして、一般的なイベントが「エキスパート」「エリート」などといった名前で設定するカテゴリーに相当するものだが、それらと決定的に異なるのが、参加者が自由にエントリーすることができるわけではない、という点。主催者選抜、という名の通り、大会側が示した一定の基準をクリアした選手でなければエントリーすらかなわない。
例えるならば、ホビーレーサーにとっての全日本ヒルクライム選手権のようなカテゴリーとなっており、出走できるだけで一つのステータスとも言えるレースだ。そして、その勝者に与えられる栄光は非常に大きいものだ。
日本一のヒルクライマーを決める戦いは、濃く霧がかかった富士北麓公園から始まった。昨年覇者である兼松大和(Team Green Road)を筆頭に、「山の神」森本誠(GOKISO)など有力なヒルクライマー達の集団が富士スバルラインで火花を散らした。
数m先が見通せない深い霧は、逃げに有利に働くと思われたか、スバルライン料金所手前のリアルスタート地点から、散発的にアタックがかかる。最も積極的に動いたのは、大野拓也(OVERHEAT)。
「どうせ脚が終わるのだったら、派手に走ろうと思って」とアタックを繰り返した大野だが有力選手が同調せず、差は10秒以上には広がらない。集団は一つのまま、距離を消化していった。
レースが動いたのは第1関門が設けられる樹海台。大野を吸収した集団からカウンターで森本が仕掛けた。一気にペースアップした集団からは、全日本TT王者も経験したことがある中村龍太郎(イナーメ信濃山形)やツール・ド・おきなわで無敵を誇る高岡亮寛(Roppongi Express)らが振るいにかけられた。
しばらく逃げ続けた森本へ田中がブリッジを掛けるも、兼松らが牽引する集団が2人を吸収。この動きで20名ほどまで集団は絞られた。ハイペースで3合目を駆け抜けた集団から、田中がスルスルと抜けだしたのは間もなく4合目という地点。
滑らかにペースを上げた田中の動きに、集団は一瞬見合ってしまう。その一瞬で、10秒ほどの差をつけた田中へ、森本が単独でブリッジ。協調してローテする二人に、星野貴也(COWGUMMA)が合流し、3名のパックを形成した。結果的にこの動きが勝負を決定づけた。
応援の太鼓が鳴り響く大沢駐車場の直登で苦しい様子を見せていた森本が脱落、先頭は田中と星野の一騎打ちへと持ちこまれた。そして、五合目を覆う深い霧から、最初に姿を現したのは田中だった。
昨年、大会直前の落車の影響から調子を落としつつも、4位という結果を残していた田中。「去年フィニッシュした直後は、落車のダメージも残っていたなかで入賞できただけでも良かった、と思っていたのですが、時がたつにつれて悔しくなって。絶対、リベンジしたいと思って、10月ごろから富士ヒルを見据えたトレーニングを重ねてきました。過去最高の仕上がりで、前日の試走でもこれ以上ない感触でした。実は、その時点でもう満足してしまっていて、今日勝てたときは逆に驚きました」と、8か月越しの思いを形にした。
終盤の展開については、「星野くんとは、たびたび練習もする仲で。脚質も脚力も似ていて、いつかこういった形で戦う日が来るんだろうな、と思っていました。それが、まさか富士ヒルで、しかも森本さんをふるい落として、というのは驚きでしたけれど(笑)ラストは二人ともスプリントは得意でないので、平坦区間からアタックの応酬でお互い脚を削り合って、極限の我慢比べのレースでした」と振り返る。
パワートレーニングの普及もあってか、ホビーレーサーの進化が止まらない。3年前に中村が1時間を切るタイムで優勝を果たして以降、森本、そして兼松が大会記録を更新してきた。そして、今年はその偉業を田中が引き継ぎ、記録はついに57分台へ。また来年、この記録は更新されるのか。熱い戦いが偉大な記録を生み出し続けることに期待が高まる。
日本一の霊峰・富士山で毎年6月初旬に行われるMt.富士ヒルクライム(以下、富士ヒルクライム)。1万人規模のワンデイサイクリングイベントという、国内で唯一無二の存在感を誇る大型大会だ。
まさに全国からヒルクライマーが集まる祭典であり、普段は多くの登山や観光客でごった返す富士山がこの日ばかりはサイクリスト一色となる、スペシャルなレース。そして、その中でも頂点に位置するカテゴリーが「主催者選抜」クラスとなる。
「年代別」カテゴリーに対して、脚自慢が年齢問わず戦うことができる、総合カテゴリーとして、一般的なイベントが「エキスパート」「エリート」などといった名前で設定するカテゴリーに相当するものだが、それらと決定的に異なるのが、参加者が自由にエントリーすることができるわけではない、という点。主催者選抜、という名の通り、大会側が示した一定の基準をクリアした選手でなければエントリーすらかなわない。
例えるならば、ホビーレーサーにとっての全日本ヒルクライム選手権のようなカテゴリーとなっており、出走できるだけで一つのステータスとも言えるレースだ。そして、その勝者に与えられる栄光は非常に大きいものだ。
日本一のヒルクライマーを決める戦いは、濃く霧がかかった富士北麓公園から始まった。昨年覇者である兼松大和(Team Green Road)を筆頭に、「山の神」森本誠(GOKISO)など有力なヒルクライマー達の集団が富士スバルラインで火花を散らした。
数m先が見通せない深い霧は、逃げに有利に働くと思われたか、スバルライン料金所手前のリアルスタート地点から、散発的にアタックがかかる。最も積極的に動いたのは、大野拓也(OVERHEAT)。
「どうせ脚が終わるのだったら、派手に走ろうと思って」とアタックを繰り返した大野だが有力選手が同調せず、差は10秒以上には広がらない。集団は一つのまま、距離を消化していった。
レースが動いたのは第1関門が設けられる樹海台。大野を吸収した集団からカウンターで森本が仕掛けた。一気にペースアップした集団からは、全日本TT王者も経験したことがある中村龍太郎(イナーメ信濃山形)やツール・ド・おきなわで無敵を誇る高岡亮寛(Roppongi Express)らが振るいにかけられた。
しばらく逃げ続けた森本へ田中がブリッジを掛けるも、兼松らが牽引する集団が2人を吸収。この動きで20名ほどまで集団は絞られた。ハイペースで3合目を駆け抜けた集団から、田中がスルスルと抜けだしたのは間もなく4合目という地点。
滑らかにペースを上げた田中の動きに、集団は一瞬見合ってしまう。その一瞬で、10秒ほどの差をつけた田中へ、森本が単独でブリッジ。協調してローテする二人に、星野貴也(COWGUMMA)が合流し、3名のパックを形成した。結果的にこの動きが勝負を決定づけた。
応援の太鼓が鳴り響く大沢駐車場の直登で苦しい様子を見せていた森本が脱落、先頭は田中と星野の一騎打ちへと持ちこまれた。そして、五合目を覆う深い霧から、最初に姿を現したのは田中だった。
昨年、大会直前の落車の影響から調子を落としつつも、4位という結果を残していた田中。「去年フィニッシュした直後は、落車のダメージも残っていたなかで入賞できただけでも良かった、と思っていたのですが、時がたつにつれて悔しくなって。絶対、リベンジしたいと思って、10月ごろから富士ヒルを見据えたトレーニングを重ねてきました。過去最高の仕上がりで、前日の試走でもこれ以上ない感触でした。実は、その時点でもう満足してしまっていて、今日勝てたときは逆に驚きました」と、8か月越しの思いを形にした。
終盤の展開については、「星野くんとは、たびたび練習もする仲で。脚質も脚力も似ていて、いつかこういった形で戦う日が来るんだろうな、と思っていました。それが、まさか富士ヒルで、しかも森本さんをふるい落として、というのは驚きでしたけれど(笑)ラストは二人ともスプリントは得意でないので、平坦区間からアタックの応酬でお互い脚を削り合って、極限の我慢比べのレースでした」と振り返る。
パワートレーニングの普及もあってか、ホビーレーサーの進化が止まらない。3年前に中村が1時間を切るタイムで優勝を果たして以降、森本、そして兼松が大会記録を更新してきた。そして、今年はその偉業を田中が引き継ぎ、記録はついに57分台へ。また来年、この記録は更新されるのか。熱い戦いが偉大な記録を生み出し続けることに期待が高まる。
第15回Mt.富士ヒルクライム 主催者選抜クラス 結果
1位 | 田中裕士(グランペール) | 57:10 |
2位 | 星野貴也(COWGUMMA) | 0:02 |
3位 | 板子佑士(Life Ride) | 1:12 |
4位 | 森本誠(GOKISO) | 1:16 |
5位 | 中村俊介(SEKIYA) | 1:17 |
6位 | 兼松大和(Team Green Road) | 1:21 |
7位 | 大野拓也(OVERHEAT) | 1:24 |
8位 | 武田祥典(桜高軽音部) | 1:54 |
text&photo:Naoki.Yasuoka
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