2018/05/24(木) - 15:08
天気予報によると、ジロ最終週は毎日雨を覚悟しておかないといけない。大雨でずぶ濡れになった観客に見守られながらのイゼオ湖畔のスプリント。高速アタック合戦が延々と繰り広げられたジロ第17ステージを振り返ります。
北イタリアのガルダ湖とイゼオ湖を結ぶ第17ステージ。シワのように波打つ山々の一部が自然に堰き止められて形成された湖が点在しており、この日はガルダ湖、レドロ湖、イドロ湖、イゼオ湖を通過した。静かな湖面にはボートが浮かんでいる。イタリアの「湖水地方」を象徴する御三家マッジョーレ湖、ルガーノ湖、コモ湖はもう少し西側にある。
ガルダ湖畔にあるリーヴァ・デル・ガルダの街は、見るからにヨーロッパの北のほうからやってきた外国語を話す観光客であふれていた。気温は25度ほどで、太陽は眩しく、日陰に入ると涼しく、湖から心地よい風が吹く。そんな快適な天候と、コンパクトにまとまった旧市街と、湖が演出する様々なアトラクション。観光客が集まってくるのも納得できる。
イタリア全国の市町村が誘致費用を負担してまでジロのステージをホストする理由は、地元市民のためのお祭りであり、何よりも国内外への観光地アピールに他ならない。実際に地名が映像やレポートで連呼され、美しい空撮や映像が配信される。実際にこうしてリーヴァ・デル・ガルダは美しい観光地なのだと、このレポート効果で日本における知名度もわずかながら上がったはず。
スタジアムスポーツではなく、毎年固定されたコースで行われないステージレースには、そういった各地の観光地アピールという可能性を秘めている。主催者はいろんな街からやってくる誘致アピールをまとめ、地図に広げ、レース要素を考えながら3週間のコースを引く。毎年のようにジロに登場する街には、ロードレース好きの市長やパトロンがいる場合が多い。
ちなみにこの第17ステージは正式に「フランチャコルタステージ」と命名されていた。フランチャコルタはその名の通りロンバルディア州の東部に位置するフランチャコルタ地方(フィニッシュ地点イゼオの近郊に広がる丘)で作られるスプマンテ(スパークリングワイン)の名前。ジロ主催者はステージ誘致とセットでステージ命名権まで売り出しはじめている。
リーヴァ・デル・ガルダの街を離れてすぐ正式スタートが切られる予定が、直後に上り勾配の長いトンネルが2つ(長さ1,120mと長さ3,600m)設定されていたため、急遽0km地点がトンネル通過後に移動した。しっかりと照明の点いた明るいトンネルだったものの、第7ステージの終盤に真っ暗な下りトンネルが登場した際に選手側から大反発を受けたこともあり、主催者はトンネルに関して神経質になっている。その影響で正式なステージ距離は155kmから149.5kmに短くなった。
「エリア・ヴィヴィアーニがスプリント4勝目」と書くとものすごく平凡な平坦ステージだったように聞こえるが、中身は全く平凡ではなかった。「もっとイージーな1日になると予想していたのに・・・」とマリアローザのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)が語るほど、スタートからフィニッシュまでフルガス(アクセル全開)な1日になった。
ここまでの16ステージでステージ1勝以上しているのは10チーム(サンウェブ、クイックステップフロアーズ、ロット・フィックスオール、ロットNLユンボ、ミッチェルトン・スコット、ボーラ・ハンスグローエ、モビスター、バーレーン・メリダ、チームスカイ、BMCレーシング)。つまり残りの12チームは、自信を持ってスプリント勝利を狙えるエーススプリンターがいない限り、逃げに選手を送り込むしかない。そして逃げ切りを狙うにはどんどんチャンスが少なくなっている。
早い時間帯から始まるレース中継もハイスピードな展開の要因として考えられる。ジロに限らずステージレースでは、伝統的に、序盤は集団が逃げにタイム差を与えながら平穏に進み、およそフィニッシュまで80〜100kmを残したタイミングでレース中継が始まるとともにスピードアップ。テレビカメラの前で逃げは逃げ、集団は逃げを追いかける展開が染み付いていた。しかしここ最近はスタートからレース中継が始まるものだから、序盤のアタックもしっかりテレビに映る。仮に逃げが決まらなくても、積極的に動いている姿がテレビに映る。テレビの露出がレース展開に少なからず影響している、と思う。
静かに、でも確実にこっちにやってくる雨雲の存在を感じつつ、イゼオのフィニッシュラインに立つ。案の定、というかもう狙っているとしか思えないタイミングで、レースが残り10kmを切ったところで大粒の雨が叩きつけるように降り始めた。
水しぶきを上げながらフィニッシュラインに先頭で飛び込んできたのはエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)。イタリア人選手によるステージ4勝は2005年のアレッサンドロ・ペタッキ以来の記録。このままローマまで走りきることができれば、仮にローマのステージを落としたとしても、マリアチクラミーノはヴィヴィアーニのものになる。
雨がほぼゼロだった昨年のジロの反動のように、今年のジロは毎日のように雨が降っている。そしてこのぐずついた天気は今週いっぱい続きそうな予報が出ている。不安定な大気が北イタリアに居座るため、明日からのアルプス3連戦はどれも雨を覚悟しなくてはならない。
イスラエルをスタートしてからというもの、選手たちはすでにこれまで2,862.4kmを走り、38,334mを登ってきた。マリアローザを着るイェーツのここまでの平均スピードは40.892km/h。これは2009年大会(デニス・メンショフ総合優勝)に記録された最速平均スピード40.057km/hを上回る数字だが、明日からの3日間で平均スピードはがくんと落ちることになる。
イェーツがマリアローザを着るのは12日目。現役選手の中でイェーツよりも長くマリアローザを着ているのは、21日間のヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)と17日間のトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)しかいない。そしてこのままローマまで着続ければ、マリアローザ着用日数の今世紀最長記録になる。
text&photo:Kei Tsuji in Iseo, Italy
北イタリアのガルダ湖とイゼオ湖を結ぶ第17ステージ。シワのように波打つ山々の一部が自然に堰き止められて形成された湖が点在しており、この日はガルダ湖、レドロ湖、イドロ湖、イゼオ湖を通過した。静かな湖面にはボートが浮かんでいる。イタリアの「湖水地方」を象徴する御三家マッジョーレ湖、ルガーノ湖、コモ湖はもう少し西側にある。
ガルダ湖畔にあるリーヴァ・デル・ガルダの街は、見るからにヨーロッパの北のほうからやってきた外国語を話す観光客であふれていた。気温は25度ほどで、太陽は眩しく、日陰に入ると涼しく、湖から心地よい風が吹く。そんな快適な天候と、コンパクトにまとまった旧市街と、湖が演出する様々なアトラクション。観光客が集まってくるのも納得できる。
イタリア全国の市町村が誘致費用を負担してまでジロのステージをホストする理由は、地元市民のためのお祭りであり、何よりも国内外への観光地アピールに他ならない。実際に地名が映像やレポートで連呼され、美しい空撮や映像が配信される。実際にこうしてリーヴァ・デル・ガルダは美しい観光地なのだと、このレポート効果で日本における知名度もわずかながら上がったはず。
スタジアムスポーツではなく、毎年固定されたコースで行われないステージレースには、そういった各地の観光地アピールという可能性を秘めている。主催者はいろんな街からやってくる誘致アピールをまとめ、地図に広げ、レース要素を考えながら3週間のコースを引く。毎年のようにジロに登場する街には、ロードレース好きの市長やパトロンがいる場合が多い。
ちなみにこの第17ステージは正式に「フランチャコルタステージ」と命名されていた。フランチャコルタはその名の通りロンバルディア州の東部に位置するフランチャコルタ地方(フィニッシュ地点イゼオの近郊に広がる丘)で作られるスプマンテ(スパークリングワイン)の名前。ジロ主催者はステージ誘致とセットでステージ命名権まで売り出しはじめている。
リーヴァ・デル・ガルダの街を離れてすぐ正式スタートが切られる予定が、直後に上り勾配の長いトンネルが2つ(長さ1,120mと長さ3,600m)設定されていたため、急遽0km地点がトンネル通過後に移動した。しっかりと照明の点いた明るいトンネルだったものの、第7ステージの終盤に真っ暗な下りトンネルが登場した際に選手側から大反発を受けたこともあり、主催者はトンネルに関して神経質になっている。その影響で正式なステージ距離は155kmから149.5kmに短くなった。
「エリア・ヴィヴィアーニがスプリント4勝目」と書くとものすごく平凡な平坦ステージだったように聞こえるが、中身は全く平凡ではなかった。「もっとイージーな1日になると予想していたのに・・・」とマリアローザのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)が語るほど、スタートからフィニッシュまでフルガス(アクセル全開)な1日になった。
ここまでの16ステージでステージ1勝以上しているのは10チーム(サンウェブ、クイックステップフロアーズ、ロット・フィックスオール、ロットNLユンボ、ミッチェルトン・スコット、ボーラ・ハンスグローエ、モビスター、バーレーン・メリダ、チームスカイ、BMCレーシング)。つまり残りの12チームは、自信を持ってスプリント勝利を狙えるエーススプリンターがいない限り、逃げに選手を送り込むしかない。そして逃げ切りを狙うにはどんどんチャンスが少なくなっている。
早い時間帯から始まるレース中継もハイスピードな展開の要因として考えられる。ジロに限らずステージレースでは、伝統的に、序盤は集団が逃げにタイム差を与えながら平穏に進み、およそフィニッシュまで80〜100kmを残したタイミングでレース中継が始まるとともにスピードアップ。テレビカメラの前で逃げは逃げ、集団は逃げを追いかける展開が染み付いていた。しかしここ最近はスタートからレース中継が始まるものだから、序盤のアタックもしっかりテレビに映る。仮に逃げが決まらなくても、積極的に動いている姿がテレビに映る。テレビの露出がレース展開に少なからず影響している、と思う。
静かに、でも確実にこっちにやってくる雨雲の存在を感じつつ、イゼオのフィニッシュラインに立つ。案の定、というかもう狙っているとしか思えないタイミングで、レースが残り10kmを切ったところで大粒の雨が叩きつけるように降り始めた。
水しぶきを上げながらフィニッシュラインに先頭で飛び込んできたのはエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)。イタリア人選手によるステージ4勝は2005年のアレッサンドロ・ペタッキ以来の記録。このままローマまで走りきることができれば、仮にローマのステージを落としたとしても、マリアチクラミーノはヴィヴィアーニのものになる。
雨がほぼゼロだった昨年のジロの反動のように、今年のジロは毎日のように雨が降っている。そしてこのぐずついた天気は今週いっぱい続きそうな予報が出ている。不安定な大気が北イタリアに居座るため、明日からのアルプス3連戦はどれも雨を覚悟しなくてはならない。
イスラエルをスタートしてからというもの、選手たちはすでにこれまで2,862.4kmを走り、38,334mを登ってきた。マリアローザを着るイェーツのここまでの平均スピードは40.892km/h。これは2009年大会(デニス・メンショフ総合優勝)に記録された最速平均スピード40.057km/hを上回る数字だが、明日からの3日間で平均スピードはがくんと落ちることになる。
イェーツがマリアローザを着るのは12日目。現役選手の中でイェーツよりも長くマリアローザを着ているのは、21日間のヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)と17日間のトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)しかいない。そしてこのままローマまで着続ければ、マリアローザ着用日数の今世紀最長記録になる。
text&photo:Kei Tsuji in Iseo, Italy