アダム・ハンセンがジロ・デ・イタリアで初めて実戦投入したリドレーのNOAH SL DISC AERO PLUSをインプレッション。ディスクブレーキを取り入れ円熟味を増したリドレー第4世代のエアロロードの実力、そして魅力にスポットライトを当てる。



リドレー NOAH SL DISC AERO PLUSリドレー NOAH SL DISC AERO PLUS (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
「Tested on Pavé」。全てのリドレーバイクに貼り付けられるこのステッカー以上に、同社の性格を如実に表すものはないかもしれない。ロードレースやシクロクロスをを国技と評することさえできるベルギーの、熱狂の中心地であるフランドルで産声をあげたリドレーにとって、過酷極まりない石畳を耐え抜く製品開発は必然のこと。フレームで睨みをきかせるフランドルの獅子は、本物のプロ選手を満足させる高い信頼性の証だ。

現在リドレーのロードバイクラインアップを支えるのは3種類。グランツールの難関山岳を見据えた軽量オールラウンドモデルのHELIUM(ヘリウム)と、スプリンターやルーラーのためのスピードマシンのNOAH(ノア)、そしてリドレーの真骨頂である石畳クラシック用のエンデュランスモデル、FENIX(フェニックス)と揃うその全てがプロユースモデルだ。

ベルギーが誇るロット・スーダル(記事掲載時点で最終盤を迎えているジロ・デ・イタリアはロット・フィックスオールとして参加)などからのフィードバックを活かし、軽さや剛性はもちろん、例えばジオメトリーなどには実戦仕様の設計が色濃く反映されている。

DEAN FASTをヒントにしたコンパクトなリアバックはリムブレーキフレームと共通DEAN FASTをヒントにしたコンパクトなリアバックはリムブレーキフレームと共通 ダウンチューブ前側に細い溝が見て取れる。これが空力の要であるinmold F-Surface+だダウンチューブ前側に細い溝が見て取れる。これが空力の要であるinmold F-Surface+だ スリットを設けることでスポークが巻き起こす乱流を整えるF-スプリットフォーク」スリットを設けることでスポークが巻き起こす乱流を整えるF-スプリットフォーク」


今回インプレッションを行ったNOAH SL DISC AERO PLUSは、リドレー創業25周年という節目の2014年にデビューを飾ったNOAH SLに、ディスクブレーキを搭載した最新鋭機だ。2017年のユーロバイクで初披露され、ジロ・デ・イタリアではグランツアー20回連続出場記念の特別カラーをアダム・ハンセン(オーストラリア)が初めて実戦投入したことでも注目を受けた。まずはベースであるNOAH SLの基本設計を紹介していきたい。

マッシブなダウンチューブや、弧を描くトップチューブといった基本的なフレームワークは、2009年にデビューした第2世代NOAHの面影を残すもの。第3世代の「NOAH FAST」はフレーム/フォークと一体化したカーボンブレーキなど非常に攻めた作りが特徴だったが、トップスプリンターであるアンドレ・グライペル(ドイツ)などの声を取り入れ、NOAH SLはノーマルブレーキやインテグラルシートポストの採用などで使いやすさを向上させ、更には軽量性にも重視したモデルとして2014年のユーロバイクで初披露された。

大きくアールを描くトップチューブは第2世代のNOAHから受け継ぐもの大きくアールを描くトップチューブは第2世代のNOAHから受け継ぐもの 専用設計のステム一体型ハンドルを初採用。ワイヤーやケーブル類のフル内装を実現した専用設計のステム一体型ハンドルを初採用。ワイヤーやケーブル類のフル内装を実現した

チェーンステーの形状はストレート。ダイレクトマウントタイプのRDハンガーが採用されているチェーンステーの形状はストレート。ダイレクトマウントタイプのRDハンガーが採用されている アンドレ・グライペルの助言によってインテグラルシートポストが廃止されたというアンドレ・グライペルの助言によってインテグラルシートポストが廃止されたという


空力の要となるのはNOAH SLで初投入された「inmold F-Surface+」と呼ばれるダウンチューブとシートポストの断面形状だ。ヘッドチューブやシートチューブ、ダウンチューブといったフレーム各所には現在エアロロードの主流となったカムテール形状が使われているが、特にメリットが生まれるチューブ左右両側に細い溝をつけ、あえて細かい乱流を生むことでフレーム全体のエアロダイナミクスを向上させるというもの。

先代モデルよりも優れた空気抵抗低減が生まれ、更にフレームの大幅な軽量化も両立したこのアイディアは、当然今回フォーカスするNOAH SL DISC AERO PLUSにも搭載されている。写真で言えばダウンチューブの下側、艶ありと艶なしで塗り分けられているその境が溝に当たる部分だ。TTバイクのDEAN FASTを参考にしたコンパクトなリアバック、そしてスポークが巻き起こす乱流を整える機能を持つ「F-スプリットフォーク」も当然引き継がれている。

142mm幅のエンド、フラットマウント、12mmスルーアクスルなど、当然ディスクブレーキ時代の規格を備える142mm幅のエンド、フラットマウント、12mmスルーアクスルなど、当然ディスクブレーキ時代の規格を備える 今回の試乗車は受注発注モデルとなるファストフォワードのF4Dホイールをアセンブル今回の試乗車は受注発注モデルとなるファストフォワードのF4Dホイールをアセンブル


また、ディスクブレーキ化したことで空力に磨きが掛かった。リムブレーキモデルはワイヤー/ケーブルの過度な内装化を避けてきたが、ルーティングによって引きが重たくならない油圧ブレーキの特性を活かし、NOAH SL DISC AERO PLUSにはいよいよ専用設計のステム一体型ハンドルが投入された。これによってワイヤーやホース類が完全内装となり、エアロロードとしての価値がより一層推し進められている。

「でも、NOAH SLは扱いやすさを大切にしているんじゃないの?」という声も聞こえてきそうだが、安心してほしい。リドレー傘下のフォルツァとイタリアのパーツメーカー、ウルサスが共同開発した専用ハンドルは特別な工具は一切不要で、作業しやすいようきちんとルーティングも考えられている。コラム断面を半月型にして生まれた空間に各種ワイヤー類を通すため構造的にも無理がなく、完全内装であるため不要なトラブル発生を防ぐメリットもある。

コラム自体は強度を出しやすい円形断面ではないが、カーボンレイアップを工夫することで解決しているという。機械式コンポーネントの場合はコラムスペーサーの高さを調節するたびに分解する必要があるが、そもそもある程度ポジションの固まったレーサーを対象としたフラッグシップモデルであることも書き加えておきたい。

ディスクブレーキを投入したことでヘッド下側は非常にシンプルなフォルムを得たディスクブレーキを投入したことでヘッド下側は非常にシンプルなフォルムを得た シートポストにもダウンチューブと同じinmold F-Surface+が導入されているシートポストにもダウンチューブと同じinmold F-Surface+が導入されている リアセクションも同じくクリーンなルックスに。空力の良さは見た目にも伝わる部分リアセクションも同じくクリーンなルックスに。空力の良さは見た目にも伝わる部分


もちろん単にディスクブレーキをポン付けしただけではなく、各所の構造変更やカーボン積層のチューニングを進めたことで円熟味が増している。フレーム/フォークエンドの剛性アップが可能となる12mmスルーアクスルと142mm幅エンドの採用は、スプリント勝利が至上命題のNOAH SLにとって好相性と言える部分だ。フレーム重量はリムブレーキモデルから60g増にとどめており、ディスクブレーキエアロロードとしては十分に軽い1010g。

NOAH SL DISC AERO PLUSは本格導入に先駆けた入荷であり、現在はXSサイズのみがラインアップされる。価格はフレームセットで46万円。当然ハンドルが付属しての価格であるため、フラッグシップモデルとしては比較的良心的なプライスと言える。今回はシマノR8070系アルテグラDi2と、リドレーと同じくジェイピースポーツグループが販売代理店を務めるファストフォワードのディスクブレーキホイールF4D(クリンチャーモデル)を組み合わせたテストバイクでインプレッションを行った。リドレーのスローガン#BeTOUGHを地で行くトッププロたちを、これから支えていく最新モデルの価値や如何に。



― インプレッション

「エアロロードの固定観念をひっくり返す登坂力」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)

「エアロロードの固定観念をひっくり返す登坂力」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)「エアロロードの固定観念をひっくり返す登坂力」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ) いやぁ、凄くカッコイイバイクじゃないですか。全てのケーブル類が内装されているのがエアロロードらしいですし、ディスクブレーキも含めて近未来なルックスが魅力的ですね。個人的にはディスクブレーキロードを2台乗り継いできましたし、その見た目だけでもお気に入り登録してしまいました(笑)。

これ、驚かされたのが登りの軽さなんですよね。ハイエンドモデルなので踏み込んだ時に進むのは当然なのですが、テスト中に疲れて残りをゆっくり走ろうとしたら、軽いギアをクルクル回しているにも関わらずススッと前に進んだんです。軽量バイクに近い走りにびっくりしました。

ハイエンドモデルだけに良いカーボン素材を使っていることも理由でしょうし、思いっきりブレーキを握っても全くたわまない、非常に硬くできたフロントフォークが好印象でした。ダンシングも軽快で、強めに加速しても中速ぐらいからグーッと伸びていくんです。

あくまで主観で、エアロホイールの効果もあるのでしょうが、空力の良さは確かに感じる部分です。下りでは前に伸びていきますし、一般的なバイクと比べてスピードが落ちにくいと思います。バイク全体で風が暴れさせることなく受け流しているような気配はありました。

やっぱりディスクブレーキの安心感は最高ですし、ブレーキフィーリングもシマノのデュラエースとアルテグラが代替わりしたことでより一層良くなりました。特に高速域ほどディスクブレーキのメリットは大きくなりますし、NOAH SL DISC AERO PLUSのオールラウンド感は、ディスクロードを探しているなら大本命といえるでしょう。

あくまで登りも下りもあって、それで平均スピードが速いレースを想定してるんだなと感じさせる走りがこのバイクの特徴です。登りがメインあればヘリウムを選ぶべきですが、NOAH SLはエアロをまとったオールラウンドモデルと呼べるほどの総合力が魅力です。エアロロードの固定観念をひっくり返してくれる一台ですよ。

「平坦だけに閉じこめておくのは勿体無い」紺野元汰(SBC)

エアロロードバイク然としたルックスにも関わらず、乗り味はとてもオールラウンド。ここまでトータルバランスに秀でているエアロロードは今まで経験したことがありませんでした。

「平坦だけに閉じこめておくのは勿体無い」紺野元汰(SBC)「平坦だけに閉じこめておくのは勿体無い」紺野元汰(SBC)
その理由はおそらく、縦剛性だけではなく横剛性がしっかりと確保されているから。自分の走り方とマッチしているからそう感じた部分もあるでしょうが、登りが機敏で、ダンシングでもシッティングでもどんな踏み方でも素直に前に進んでくれます。ディスクブレーキゆえに低重心ですし、フレームエンドが硬いことがシャープな走りに繋がっているように思います。テンポの速いダンシングでもダルく感じません。

もちろん登りよりも平坦を得意としていて、持ち前の機敏さでスプリントでは初速の掛かりも良いし、空力とトータルバランスで中間から高速域に加速していく時の伸びが良いんです。F4Dホイールとのマッチングが良く平坦巡航も気持ち良く進みますし、唯一弱点を挙げるとすれば乗り心地が優秀ではないことくらいです。

コラム内部に空洞を作り、その中にワイヤーやブレーキホース、Di2ケーブルなどを通す仕組みコラム内部に空洞を作り、その中にワイヤーやブレーキホース、Di2ケーブルなどを通す仕組み コラム前側に配線類が通っているのが確認できるコラム前側に配線類が通っているのが確認できる


ディスクブレーキ化によってバイクの動きがシャープになりますし、当然制動力でも安心なので個人的には賛成派。例えば豪雨の宇都宮ロードではレース中初めてディスクブレーキが欲しいなと思いましたし、JBCFレースで解禁になったら是非使いたいですね。アマチュアの場合は凄くメリットが生まれると思いますよ。

全てのワイヤー類を内装しているので普通のバイクと比べれば整備の手間が掛かりますが、エアロロードとしての魅力を引き出す部分ですし、見た目もカッコ良いですよね。どんなバイクにも言えますが、信頼できるショップに任せることが基本です。

エアロロード特有のネガが抑えられ、登りが入るコースでも全然走ってくれるので平坦だけに閉じ込めておくのは勿体ない。ハンドルが付属してこの値段ですからコストパフォーマンスも良好で、走りも価格もバランスのとれた良いバイクだと感じました。

リドレー NOAH SL DISC AERO PLUSリドレー NOAH SL DISC AERO PLUS (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
リドレー NOAH SL DISC AERO PLUS
フレーム素材:60、40、30トンハイモジュラスカーボン
専用ハンドル:ステム角度-8.5度、ステム長100mm、ハンドル幅410mm
対応コンポーネント:シマノR9100系デュラエース、R8000系アルテグラ、及びDi2、スラムRED e-Tap、カンパニョーロEPS(スラムとカンパニョーロのメカニカルシステムには対応しない)
カラー:NSL07Cms
重 量:フレーム1010g、フォーク490g
サイズ:XS
価 格:460,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ) 鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)

スポーツバイクファクトリー北浦和スズキの店長兼代表取締役を務める。大手自転車ショップで修行を積んだ後、独立し現在の店舗を構える。週末はショップのお客さんとのライドやトライアスロンに力を入れている。「買ってもらった方に自転車を長く続けてもらう」ことをモットーに、ポジションやフィッティングを追求すると同時に、ツーリングなどのイベントを開催することで走る場を提供し、ユーザーに満足してもらうことを第一に考える。

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紺野元汰(SBC湘南藤沢店)紺野元汰(SBC湘南藤沢店) 紺野元汰(SBC湘南藤沢店)

神奈川県内に5店舗を構えるSBCの湘南藤沢店に勤務する、走れるスタッフ。高校時代にロードレースの世界に入って以降は橋川健さんの元でベルギー武者修行も経験し、2014年のジャパンカップオープンレースで2位、Jプロツアーでピュアホワイトジャージを経験。2年のブランクを経てスタッフとなった今はSBCヴェルテックスレーシングの一員としてツール・ド・おきなわ210kmで優勝を目指す。

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ウェア協力:Ale
ヘルメット協力:HJC

text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO

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