3日間のイスラエルステージが無事に終了した。ジロは、4機のチャーター機に分かれて、イタリアを目指す。ジロ第3ステージに模様を現地イスラエルからフォトグラファーの辻啓がレポートします。



マリアローザにゼッケンをつけるマリアローザにゼッケンをつける photo:Kei Tsuji
前日の中継で一躍有名になった二人組前日の中継で一躍有名になった二人組 photo:Kei Tsuji
トイレに入ったチームメイトが出てくるのを阻止トイレに入ったチームメイトが出てくるのを阻止 photo:Kei Tsuji

写真のクレジットまでご覧になっている方はお気付きの通り、このイスラエルの2日間(第2ステージと第3ステージ)はコース途中での写真撮影ができていない。別に何か悪いことをしでかしたとか、やる気がなくなったとかではなく、単にプレスカーでは物理的に撮影が不可能だったから。という言い訳をしてから本題に入る。

ヨーロッパでのレース取材において、プレス登録を行っているステッカー付きの車はレース通過前のコース走行が許可されている。とは言えコース上で選手たちを追い抜くことは禁止されているので、撮影後は迂回路やショートカットを見つけ出して車を飛ばし、次の撮影ポイントに向かうことが日常になっている。慣れれば、プレスカーで1日平均3〜4カ所での撮影が可能になる。

ところが、ここイスラエルではそれができない。何しろコースを管理しているのはロードレースを初めて見るような警察官や警備員で、プレスの動き方は把握しておらず、融通が利かない。融通が利かないどころかアルファベットを読めない(読めるかもしれないけど読めないと主張する)人もいて、プレスステッカーの「PRESS」の意味を説明してもダメの一点張り。

イタリアと同じ地中海性気候でも、自転車競技がたっぷり染み込んだ土壌がないものだから、プレスの動きなんて考慮されていない。先回りしてもコースに入れずに渋滞にひっかかるなんてことがありえるので、とにかくフィニッシュを優先して2日連続泣く泣くコース途中の撮影をパスした。実際にコース途中で撮影したフォトグラファーはフィニッシュにたどり着けないという悪夢に見舞われている。

しっかりとラッピングが施されたチームカーしっかりとラッピングが施されたチームカー photo:Kei Tsuji
ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)が出走サインに向かう際に乗ったピンクバイクローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)が出走サインに向かう際に乗ったピンクバイク photo:Kei Tsuji
ジロ用と見間違えるEFエデュケーションファースト・ドラパックのPOCヘルメットジロ用と見間違えるEFエデュケーションファースト・ドラパックのPOCヘルメット photo:Kei Tsuji
ロット・スーダルの背中ポケットには接着剤フィックスオールが入るロット・スーダルの背中ポケットには接着剤フィックスオールが入る photo:Kei Tsuji
第3ステージはネゲヴ砂漠を突っ切る。砂漠といってもサハラや鳥取砂丘のような砂サラサラ系ではなく、石ゴツゴツ系の土漠。(行ったことはないけど)月面のような、もしくは映画マッドマックスに出てきそうな荒野を貫く1本道を走るので、レースコース以外に選択肢がほぼない。つまり大会関係車両はすべてコースを走ってフィニッシュを目指すことになる。ダイナミックなマクテシュラモン(ラモンクレーター)を駆け下り、そしてまた駆け上がり、延々と続く遠隔地を走る。携帯電話はつながらない。

小石混じりで砂の浮いた光沢のある舗装は滑りやすく、特に白線の上はグリップが効かない。路面状況に関しては南イタリアによく似ている。知り合いのチームメカニックやシマノのニュートラルサービスのスタッフに聞いたところ、特にパンクが多いような印象ではないとのことだが、ただただ滑りやすい。スタート地点に嵐のような乳房雲が立ち込め、雨粒がパラパラと落ちたのでハラハラしたが、数滴落ちただけで路面が濡れるようなことはなかった。

イスラエルの交通事情を記しておくと、ヨーロッパ諸国と同じ右側通行で、ハンドルは左。意外にもオートマ車が多い。交通標識はヘブライ語、アラビア語、アルファベットの3カ国語表記が標準になっており、標識を見るたびに知っている文字を探すことになる。

マイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)を激励する元ジロ覇者のライダー・ヘシェダル(カナダ)マイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)を激励する元ジロ覇者のライダー・ヘシェダル(カナダ) photo:Kei Tsuji
ジュリー(審判)が乗るジュリアジュリー(審判)が乗るジュリア photo:Kei Tsuji
ネゲヴ砂漠でプロトンを待つネゲヴ砂漠でプロトンを待つ photo:Kei Tsuji
マクテシュ・ラモン(ラモンクレーター)のダイナミックな下りマクテシュ・ラモン(ラモンクレーター)のダイナミックな下り photo:Kei Tsuji
3ヶ国語表記の標識3ヶ国語表記の標識 photo:Kei Tsuji
主催者RCSスポルトはドバイツアーとアブダビツアーで海外レース開催の下地を作ったものの、グランツールの規模をヨーロッパの外に持ち出すのは桁違いに手間がかかる。これまでオランダやデンマーク、アイルランドでのジロ開幕を経験しているが、やはりヨーロッパ以外の国での開幕は様々な面でハードルが高い。

まず、陸路でイスラエルに車両を持ち込めない。大型の中継車両はフェリーで地中海を渡ってきたが、チーム関係車両はすべて主催者がイスラエル現地で手配した。地元チームのイスラエルサイクリングアカデミーを除いて、各チームに支給されたのは選手移動用のバン1台と機材運搬用トラック2台、そしてチームカー4台。チームカーはフォードもしくは起亜自動車(キア)、現代自動車(ヒュンダイ)のステーションワゴンもしくはハッチバックで、ほぼ完璧なチームカラーのラッピングは主催者が施したもの。事前にチームが主催者にカラーオーダーを送り、3日間限定のチームカーが誕生した。

ヨーロッパ以外のレースで主催者がチームカーを用意するのはよくあることだが、しっかりとラッピングが施されたチームカーを全チーム揃えたのはおそらくこのジロが初めて。例えばツアー・オブ・オマーンやアブダビツアーなどの中東レースでは同じモデルの同じカラーの車にチームのステッカーを貼っただけ。中東レースを走った選手曰く、チームカーに特徴がないので、レース中に自分のチームを見つけることは困難を極めるらしい。

なお、チームカーはイスラエルでの3ステージが終了すると返却され、ラッピングは剥がされる。ジロでレースを走った車両が今後レンタカーや中古車としてイスラエルを走ることになるのかもしれない。

どこでも賑やかで目立つコロンビアファンどこでも賑やかで目立つコロンビアファン photo:Kei Tsuji
エリトリアの国旗も目立つエリトリアの国旗も目立つ photo:Kei Tsuji
集団内で安全にフィニッシュしたローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)集団内で安全にフィニッシュしたローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji
すでにクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)の右膝の傷はふさがっているすでにクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)の右膝の傷はふさがっている photo:Kei Tsuji
イスラエルからイタリアへの移動、細かく言えば第3ステージのフィニッシュ地点エイラートから第4ステージのスタート地点カターニアまでの移動のために、主催者はチャーター機を4機と、ボーイング747の貨物機を1機手配した。チームのためにバイク880台とホイール2700本のスペースを確保しており、ざっくり言うと選手一人につき5台、ホイール15本のキャパシティが用意されていることになる。

わざわざピンクのチームバイクを用意したチームもいるが、実際はキャパシティいっぱいいっぱいまで機材を持ち込んだチームはおらず、平均的には各選手ロードバイク2台とTTバイクが1台の合計3台ずつ。TTバイクは第1ステージ終了後すぐ、その日のうちに空路でイタリアへ送られている。

第3ステージの翌日、5月7日に選手や大会関係者は7時10分出発(9時50分到着)、8時50分出発(11時30分到着)、9時40分出発(12時10分到着)、10時20分出発(12時55分到着)の4便に分かれて地中海を渡る。サルデーニャ島で3日間を過ごしてからチャーター機で飛んだ昨年と同様に、ジロはシチリア島で再始動する。

とにかく無事にイスラエルの3日間が終了。チームプレゼンテーションが遠い過去のように感じるが、ジロ閉幕までまだしっかり3週間ある。

20連続グランツール出場中のアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・フィックスオール)20連続グランツール出場中のアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・フィックスオール) photo:Kei Tsuji
フィニッシュ後、毎日オランダの報道陣に囲まれるトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)フィニッシュ後、毎日オランダの報道陣に囲まれるトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ) photo:Kei Tsuji
タグホイヤーもすっかりピンクにタグホイヤーもすっかりピンクに photo:Kei Tsuji

text&photo:Kei Tsuji in Eilat, Israel

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