2018/03/24(土) - 11:28
レコードバンク・E3ハーレルベーケで、イヴ・ランパールト(ベルギー)と共に74kmを残して逃げ、フィニッシュまで24kmを独走したニキ・テルプストラ(オランダ)が勝利。チームメイトのフィリップ・ジルベール(ベルギー)が2位に入り、クイックステップフロアーズがフランドル前哨戦を支配した。
出走サインに登場したニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ) (c)CorVos
チョコレート製のBMCバイクとグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) (c)CorVos
レコードバンク・E3ハーレルベーケ2018 (c)Record Bank E3 Harelbeke
ロンド・ファン・フラーンデレンを9日後に控えるフランドル地方で、クラシック本戦の前哨戦として非常に重要なレコードバンク・E3ハーレルベーケ(UCIワールドツアー)が開催。かつてE3プライス・フラーンデレンと呼ばれ、2012年からUCIワールドツアーカレンダーに組み込まれた61回目大会には名だたる重量級クラシックハンターたちが顔を揃えた。
ウェストフランデレン州に位置するハーレルベーケを発着する206.4kmのコースには、15か所の急勾配区間が設定されている。「ボーネンベルグ」の異名をもつターインベルグ(距離650m/平均勾配9.5%)を筆頭に、終盤にはパテルベルグ(距離700/平均勾配12%)、オウデクワレモント(距離2200m/平均勾配4.2%)、ターインベルグ(距離1000m/平均勾配6.5%)などタフな名物登坂が連続する。他のフランドル地方のクラシック同様に標高のある峠などは一切登場せず、最も標高のある上りも150m以下だが、それでも獲得標高差は2,000mに達する。
スタート直後から逃げたダミアン・ゴダン(フランス、ディレクトエネルジー)ら (c)CorVos
レース中盤にメイン集団を分断する落車が起こる (c)CorVos
落車をきっかけにクイックステップフロアーズが組織立ったペースアップを敢行 (c)CorVos
クラシックウィークの幕開けを告げるこの日、フランドル地方の気温は低かった。幸い雨には見舞われず、リアルスタートの旗が振られると同時にアタック合戦が幕開ける。すぐにシモーネ・コンソンニ(イタリア、UAEチームエミレーツ)やダミアン・ゴダン(フランス、ディレクトエネルジー)、ピム・リヒハルト(オランダ、ルームポット・ネデランセロテリ)、ネリソン・オリヴェイラ(ポルトガル、モビスター)ら8名がタフコースに向けて逃げ始めた。
協力して逃げる8名は7分のリードを得たが、必勝態勢を組むクイックステップフロアーズとロット・スーダルがメイン集団のコントロールを始めるとタイム差は6分弱で推移する。メイン集団では序盤から落車が発生し、昨年大会でも相次ぐ落車やメカトラに見舞われて沈んだペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)が巻き込まれてしまうものの、今回は大事に至ることなく集団に復帰した。
落車の影響で遅れた大集団が精鋭グループを追走する (c)CorVos
落車の影響で勝負権を失ったアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ) (c)CorVos
レースが動いたのは行程の半分を過ぎた頃。ゴールまで100kmを残してメイン集団を完全に断つ集団落車が起き、これに乗じてクイックステップフロアーズが組織的なペースアップに打って出る。フレームが真っ二つになったブライアン・コカール(フランス、ヴィタルコンセプト)や足止めを食らったアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)、オリヴァー・ナーセン(ベルギー、AG2R)ら多くの有力勢が後続グループに埋もれ、エースを置き去りにされたチームとクイックステップフロアーズの追走劇が始まった。
大柄なティム・デクレルクと6日間レースのスペシャリスト、イーリョ・ケイセ(共にベルギー、クイックステップフロアーズ)が献身的にペースアップを行った状態で、最大18%勾配を持つターインベルグに突入。トム・ボーネン(ベルギー)が中盤のアタックポイントとして愛したこの急坂で、フロリアン・セネシャル(ベルギー)の牽引からイヴ・ランパールト(ベルギー)がアタックし、ニキ・テルプストラ(オランダ)が追従。お手本のような攻撃でクイックステップフロアーズのエースとサブエースがフィニッシュまで70km以上を残して抜け出しに成功した。
イヴ・ランパールト(ベルギー)がニキ・テルプストラ(オランダ)を献身的にアシスト (c)CorVos
ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)のアタックをフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)がチェック (c)CorVos
ティシュ・ベノート(ベルギー、ロット・スーダル)とフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)を引き連れて進むグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) (c)CorVos
一時遅れたオリヴァー・ナーセン(ベルギー、AG2R)が6名を引き連れてGVAたちを追走 (c)CorVos
2名はゴダンとリヒハルトだけになっていたエスケープグループを飲み込み、木っ端微塵となった後続グループを徐々に引き離していく。後続ではサガン、フィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)、ゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ)、昨年覇者グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)、ストラーデ・ビアンケ覇者ティシュ・ベノート(ベルギー、ロット・スーダル)という有力選手たちが追走集団を作った。
エイケンベルグ(距離1200m/平均勾配5.5%)で先頭はランパールトとテルプストラだけになり、追走グループにはサガンの女房役であるダニエル・オス(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)らが合流してくる。要所要所にメンバーを配置するクイックステップフロアーズを切り崩そうとヴァンアーヴェルマートがアタックし、ジルベールとベノートがチェック。3名を見送ったサガンたちはアタックと吸収を繰り返すばかりでペースが上がらず、やがてオウデクワレモントを越えた先で人数を揃えた大集団に飲み込まれる。
ベノートとヴァンアーヴェルマートはローテーションを回したが(ジルベールは付き位置)、ランパールトが献身的に牽き続けるクイックステップデュオとの距離は45秒から縮まらない。反対にオウデクワレモントでメイン集団から飛び出した7名が近づき、これを確認したジルベールがアタック。暫く追走を続けたものの分が悪いことを悟りペースを落とした。
残り24kmから独走したニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ) (c)CorVos
追走グループのペースを上げるティシュ・ベノート(ベルギー、ロット・スーダル) (c)CorVos
ニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ)が得意の独走に持ち込む (c)CorVos
残り24km地点で遂にランパールトが力尽きると、テルプストラがフルスロットルで個人TTモードに入る。後続(GVA、キュング、ルーランツ、ナーセン、ジルベール、ベノート、スティバル、トレンティン、ヴァンマルケ、モスコン、ストゥイヴェン)とのタイム差は残り20kmで40秒弱。逃げ切りにはやや分が悪い状態で淡々とペダルを回し続けた。
追走グループではストゥイヴェンやトレンティンがペースアップするも、ジルベールとスティバルがローテーションを撹乱したことも手伝ってテルプストラとの距離は思ったように縮まらない。残り10kmを切ると急速に差が縮まり始めたが、残り5.5kmでヴァンアーヴェルマートが仕掛けたことを機に打撃戦が始まり、相対的にペースが落ちてしまう。一時12秒まで縮まった差は再び拡大傾向に転じた。
後続グループのお見合いを尻目にハーレルベーケの市街地に戻ってきたテルプストラは、胸のクイックステップロゴをアピールしつつ、気合のガッツポーズでフィニッシュ。2人となってから74km、単独となってから24kmに渡る独走劇を最高の形で締めくくった。
74kmに渡る逃げを成功させたニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ) (c)CorVos
20秒遅れの集団ではフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)が先着 (c)CorVos
3位を確保したグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) (c)CroVos
「キャリア最高の勝利であり、今後に対する大きな自信となる結果だ。素晴らしいチーム無くしてはあり得なかったし、全員が最高の仕事をしてくれた。僕らの魂を見せつけることができたと思う」と、テルプストラはクラシック連勝街道を爆進中のチームを讃える。「去年は勝ち星が無く落ち込んだけれど厳しいウインタートレーニングを重ねてきたんだ。74kmを残してアタックするなんてクレイジーだと思われるだろうけど、僕らは奇跡を起こせると思っていたよ。残り10kmに入ってからは最高にキツかった。でも自分に負けること無く踏み続けたんだ」。
20秒差でフィニッシュした追走グループ内では、脚を貯めていたジルベールが先着。ヴァンアーヴェルマートが表彰台の一角を確保し、世界王者サガンは3分19秒遅れの26位でフィニッシュ。キレの無い走りで沈んだサガンに対する議論が飛びそうだ。
豪快にシャンパンを開けるニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ)たち (c)CorVos
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ロンド・ファン・フラーンデレンを9日後に控えるフランドル地方で、クラシック本戦の前哨戦として非常に重要なレコードバンク・E3ハーレルベーケ(UCIワールドツアー)が開催。かつてE3プライス・フラーンデレンと呼ばれ、2012年からUCIワールドツアーカレンダーに組み込まれた61回目大会には名だたる重量級クラシックハンターたちが顔を揃えた。
ウェストフランデレン州に位置するハーレルベーケを発着する206.4kmのコースには、15か所の急勾配区間が設定されている。「ボーネンベルグ」の異名をもつターインベルグ(距離650m/平均勾配9.5%)を筆頭に、終盤にはパテルベルグ(距離700/平均勾配12%)、オウデクワレモント(距離2200m/平均勾配4.2%)、ターインベルグ(距離1000m/平均勾配6.5%)などタフな名物登坂が連続する。他のフランドル地方のクラシック同様に標高のある峠などは一切登場せず、最も標高のある上りも150m以下だが、それでも獲得標高差は2,000mに達する。
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協力して逃げる8名は7分のリードを得たが、必勝態勢を組むクイックステップフロアーズとロット・スーダルがメイン集団のコントロールを始めるとタイム差は6分弱で推移する。メイン集団では序盤から落車が発生し、昨年大会でも相次ぐ落車やメカトラに見舞われて沈んだペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)が巻き込まれてしまうものの、今回は大事に至ることなく集団に復帰した。
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大柄なティム・デクレルクと6日間レースのスペシャリスト、イーリョ・ケイセ(共にベルギー、クイックステップフロアーズ)が献身的にペースアップを行った状態で、最大18%勾配を持つターインベルグに突入。トム・ボーネン(ベルギー)が中盤のアタックポイントとして愛したこの急坂で、フロリアン・セネシャル(ベルギー)の牽引からイヴ・ランパールト(ベルギー)がアタックし、ニキ・テルプストラ(オランダ)が追従。お手本のような攻撃でクイックステップフロアーズのエースとサブエースがフィニッシュまで70km以上を残して抜け出しに成功した。
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エイケンベルグ(距離1200m/平均勾配5.5%)で先頭はランパールトとテルプストラだけになり、追走グループにはサガンの女房役であるダニエル・オス(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)らが合流してくる。要所要所にメンバーを配置するクイックステップフロアーズを切り崩そうとヴァンアーヴェルマートがアタックし、ジルベールとベノートがチェック。3名を見送ったサガンたちはアタックと吸収を繰り返すばかりでペースが上がらず、やがてオウデクワレモントを越えた先で人数を揃えた大集団に飲み込まれる。
ベノートとヴァンアーヴェルマートはローテーションを回したが(ジルベールは付き位置)、ランパールトが献身的に牽き続けるクイックステップデュオとの距離は45秒から縮まらない。反対にオウデクワレモントでメイン集団から飛び出した7名が近づき、これを確認したジルベールがアタック。暫く追走を続けたものの分が悪いことを悟りペースを落とした。
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追走グループではストゥイヴェンやトレンティンがペースアップするも、ジルベールとスティバルがローテーションを撹乱したことも手伝ってテルプストラとの距離は思ったように縮まらない。残り10kmを切ると急速に差が縮まり始めたが、残り5.5kmでヴァンアーヴェルマートが仕掛けたことを機に打撃戦が始まり、相対的にペースが落ちてしまう。一時12秒まで縮まった差は再び拡大傾向に転じた。
後続グループのお見合いを尻目にハーレルベーケの市街地に戻ってきたテルプストラは、胸のクイックステップロゴをアピールしつつ、気合のガッツポーズでフィニッシュ。2人となってから74km、単独となってから24kmに渡る独走劇を最高の形で締めくくった。
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20秒差でフィニッシュした追走グループ内では、脚を貯めていたジルベールが先着。ヴァンアーヴェルマートが表彰台の一角を確保し、世界王者サガンは3分19秒遅れの26位でフィニッシュ。キレの無い走りで沈んだサガンに対する議論が飛びそうだ。
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結果
1位 | ニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ) | 5h03’34” |
2位 | フィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ) | +20” |
3位 | グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) | |
4位 | オリヴァー・ナーセン(ベルギー、AG2R) | |
5位 | ティシュ・ベノート(ベルギー、ロット・スーダル) | |
6位 | ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード) | |
7位 | セップ・ヴァンマルク(ベルギー、EFエデュケーションファースト・ドラパック) | |
8位 | ジャンニ・モスコン(イタリア、チームスカイ) | |
9位 | ゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ) | |
10位 | シュテファン・キュング(スイス、BMCレーシング) |
text:So.Isobe
photo:CorVos
photo:CorVos
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