スペインを代表する総合バイクブランド、オルベアが満を持して送り出したエアロロード「ORCA AERO」をインプレッション。UCIの新ルールに合わせて空力性能を追求したスプリントマシンの実力に迫る。



オルベア ORCA AEROオルベア ORCA AERO (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
スペイン北東部に広がるバスク地方。自転車競技の盛んなバスクに生まれ、1世紀になんなんとする歴史を誇るバイクブランドがオルベアである。長きにわたる歴史の中で多くの名車を生み出してきたスペインブランドが、初めて送り出すエアロダイナミクスバイクが、このORCA AERO(オルカエアロ)だ。

同社初となるエアロバイク開発のきっかけとなったのは、昨年までオルベアがサポートしてきたプロコンチネンタルチーム、コフィディスの選手からの要望だった。2016年のツール・ド・フランス後に行われた選手たちとのミーティングの中で出された要望が、ORCA AEROの目指す地点を決定づけた。

3:1ルールの撤廃に対応したダウンチューブ3:1ルールの撤廃に対応したダウンチューブ エアロロードながらマッシブなヘッドチューブエアロロードながらマッシブなヘッドチューブ 同社のTTバイク、ORDUに採用され、ORCA OMRへも応用された「フリーフローコンセプト」を取り入れるフォーク同社のTTバイク、ORDUに採用され、ORCA OMRへも応用された「フリーフローコンセプト」を取り入れるフォーク


ORCA AEROの開発にあたり、開発陣は選択を迫られることになったという。一つは、他の要素に目をつぶり、何よりも空力性能を追求した究極のエアロバイク。もう一つは、剛性や重量と空力性能をバランスさせた実戦的なエアロバイクか。この問題に対し、勝利を求める選手たちが票を投じたのは、後者だったという。

ヒルクライムもあれば過激なダウンヒルもある。そして、エアロダイナミクスが活きるトップスピードまで持っていくための反応性はスプリントでの勝利に何よりもなくてはならないもの。勝利に必要なバイクは、それらをすべて高次元でこなすことが出来る一台だということ。

空力、剛性、軽量性という相反しつつレーシングバイクとして欠かすことの出来ない3つの要素をいかに高次元でバランスさせるかという課題に対して、オルベアの開発陣は快適性を犠牲にしてでも、この要求を満たすことを優先した設計を施した。

エアロ形状のシートクランプだが臼式などではないオーソドックスな仕様エアロ形状のシートクランプだが臼式などではないオーソドックスな仕様 推奨ハンドルであるヴィジョンのメトロン5Dにマッチするスペーサーも用意される推奨ハンドルであるヴィジョンのメトロン5Dにマッチするスペーサーも用意される

ダウンチューブ上部から内装されるケーブルルーティングダウンチューブ上部から内装されるケーブルルーティング インテグレートデザインのフォーククラウンインテグレートデザインのフォーククラウン


もっとも大きな空力性能については、同郷であるバスクの名門大学・モンドラゴンと共同で風洞実験施設を建設する投資を行い、800回以上のテストを重ねることで最適な形状を追求していった。オルベアのエアロダイナミクスに対するコンセプトは「マイナスを徹底的に削減すること」。空気抵抗を増大させる要因を一つ一つ取り除いていくことで最高のエアロダイナミクスを手にいれるというアプローチによって完成したORCA AEROは50kmのタイムトライアルでORCA OMRに対して27wをセーブすることができ、同じ出力であれば1分22秒のアドバンテージを獲得する性能を実現した。

その優れた空力性能の土台となるのは、昨年改定された新たなUCIルールに則った最先端のエアロチュービングプロファイル。これまで、UCIはチューブの形状に関するルールとして幅と太さが3:1以下になることを義務付けてきた。しかし、昨シーズンよりその3:1ルールが撤廃され、チューブの設計自由度が大幅に増したのだ。その新しい環境下で開発されたORCA AEROは、これまでの旧いルールに縛られない、真に最適なチューブ形状を採用することができる新世代のエアロロードとして生を受けた。

ボリューム感あふれるBB部ボリューム感あふれるBB部 薄く造作されたシートステイ薄く造作されたシートステイ


フロントフォークには同社のTTバイク、ORDUに採用され、ORCA OMRへも応用された「フリーフローコンセプト」を取り入れる。これはフォークとホイール間のクリアランスを広げることでホイール周りの気流の乱れを抑えるというもの。加えてフォーククラウンはダウンチューブへと流れるように繋がるインテグレートデザインが施されている。また、ハンドルはヴィジョンのメトロン5Dを推奨ハンドルとしており、専用のスペーサーを用意することで空気抵抗を減らしているという。もちろん他のハンドルをアセンブルすることもできる。

また、リアホイールに合わせてカットオフされたシートチューブ、前方投影面積を抑えるコンパクトなシートステーやフレームと一体化したインテグレートシートクランプ、シートステーマウントのダイレクトマウントブレーキなどにより、乱流の発生を最小限に留めている。また、”MMSシステム”として、ダウンチューブにはエアロボトルケージにも対応するためのケージ台座が用意されるなど、細やかな部分でも空気抵抗を削減するための設計が盛り込まれている。

コンパクトなリアトライアングルは昨今主流のデザインだコンパクトなリアトライアングルは昨今主流のデザインだ エアロ形状のシートピラーは前後位置を調整できるヤグラを装備するエアロ形状のシートピラーは前後位置を調整できるヤグラを装備する MMSシステム”として、ダウンチューブにはエアロボトルケージにも対応するためのケージ台座が用意されるMMSシステム”として、ダウンチューブにはエアロボトルケージにも対応するためのケージ台座が用意される


新ルールへの適合とオルベアらしいノウハウを結集することで最先端のエアロダイナミクスを手に入れたORCA AEROは、剛性面でも非常に優れた数値を記録することとなった。選手たちから求められていた現行のORCA OMRと同じレベルの剛性を軽々と超え、オルベア史上最高となる104Nmという高剛性バイクとして誕生したのだ。更に気になる重量もフレーム単体で1150gと、このボリューム感あふれる造形からは想像できないような軽量さをも実現した。

プロからの強い要望を形にし、それを上回って見せたオルベア渾身のエアロロード、ORCA AERO。この新作に秘められたレーシング性能を2人のライダーが解き明かしていく。それではインプレッションに移ろう。



― インプレッション

「環境に合わせたレーシングバイクとして極上の一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)

「環境に合わせたレーシングバイクとして極上の一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)「環境に合わせたレーシングバイクとして極上の一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)
ただ風を切り裂いて進んでいますよ、空気抵抗が少ないですよ、という感じだけではなくって、もっと全体的な剛性感や挙動といった全ての要素が絡み合い、まっすぐ真ん中に収束していくことで、前に引っ張られるような感覚が病みつきになりそうなバイクですね。

速度が上がれば上がるほど、どんどんとソリッドな走行感になっていき、前へ前へと進んでいく。空気のすき間に潜り込んでスルスル走るようなバイクではなくって、もっと力強い推進力を感じます。骨太な走行感は安定感にもつながっています。

ここまでわかりやすく、自転車がどちらに向こうとしているのかがフィードバックされるバイクというのは珍しいですね。急に挙動が乱れてしまうこともないですから、ロングスプリントでも最短距離を突き進むことが出来るはずですし、大きな武器になるでしょうね。特にフロントフォークの出来の良さが、この直進性に大きく貢献していると感じます。このフォークに合わせるように、全体の剛性感が調整されているのではないでしょうか。

「高級スポーツカーのようなオーラを纏ったスペシャルな一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)「高級スポーツカーのようなオーラを纏ったスペシャルな一台」錦織大祐(フォーチュンバイク) フレームのブレが少ないので、とてもバイクが振りやすいのも美点でしょう。フォークがしっかりと踏ん張ってくれている感覚や、ホイールの左右へのしなりを含めて自転車自体の挙動のブレを抑えてくれているのがとてもよく伝わってきます。といっても、エアロロードにありがちな”板感”も少なめですし、フレームを振った時に空気をかき混ぜているような抵抗感もありません。レーシングバイクとして非常に高い完成度を持った一台でした。

ただ、剛性感は非常に高く、かなり硬めのバイクだと言えます。踏んだ分だけ脚に反発が返ってきてしまって、ダメージを負うような硬さの一歩手前で踏みとどまっています。ですので、振動吸収性に長けているとは言い難いですが、ワイドリムとワイドタイヤが主流になってきた現在、その性能は自転車全体として見れば、そこまでネックになる部分でもないとも感じます。太目のタイヤが持つ乗り心地の良さと合わせれば、問題ないレベルに持っていけるでしょう。10年前であれば、このバイクを快適に乗りこなせるようなアセンブルで仕上げることは難しかったでしょう。そういった意味でも、レーシングバイクとしてバランス良く組み上げることが出来る最新のエアロロードとして、極上の部類に入る一台といえるでしょう。

このクラスのバイクだと反応性と快適性を両立させることをコンセプトにしたバイクもありますが、このバイクに関して言えば、潔い硬さがむしろ気持ちいい。ここで、色気を出してシートステーを絞ったり、チェーンステーを薄くしたりすると、このバイクの持ち味であるレーザービームのような進み方をスポイルしてしまう恐れがありますね。この硬さは、バイクの持つアイデンティティーを構成する重要な要素なのだと思います。

スピードマシンとしてのコンセプトが明確に伝わってきて、とても好感の持てる一台ですね。重さもあるので登りは得意分野とはいいがたいですが、高い剛性のおかげで踏んだ力を逃がすことは無いので、決して遅いわけではないですよ。加速の立ち上がりも良好ですし、組み合わせるホイール次第では様々なレースに対応してくれると思います。シートポストも前後を調整できますし、ショートトライアスロンなどにもぴったりでしょう。

こういったスパルタンな性格を前面に押し出してくることが出来るのはオルベアというブランドの強さでしょう。カラーやシルエットを含め、非常にスポーツバイクらしいカッコよさに満ちたアピアランスも魅力的です。インプレッションで乗っていても「かっこいいなこのバイク……」なんて思ってしまうほどですね。いわば高級スポーツカーのようなオーラを纏ったスペシャルな一台ですね。

「マッチョな剛性感が身上のピュアレーサー」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)

一言で言うと「マッチョ」な自転車ですね!とにかく剛性感が際立っていて、踏めば踏むほど推進力へと変換してくれるこの硬さこそが一番の魅力といえるでしょうね。ボリューム感あるダウンチューブからつながるBB周りの太さがダイレクトに身体へと伝わってきます。

とはいっても、意外に反発が身体に伝わってきづらいのが面白いですね。もちろん多少は反発もあるのですが、リアバックに少し逃がしがあって、いなしてくれるようなつくりになっているのか、そこまで変に疲れることは無いですね。トータルでレーシングバイクとして高い実力を秘めた一台です。

とにかく反応性が一番の魅力で、本当にスプリンターのために作ったバイクなのだと感じます。ホイールも硬めのものをチョイスすれば、スプリントを得意とする人にとっては最高の相棒になるでしょうね。特にハンドルからフロント周りのねじれ難さは特筆すべきでしょう。私はかなり体重のある方ですが、全力でもがいてもよれるような感覚は全くなかったですから。

「マッチョな剛性感が身上のピュアレーサー」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)「マッチョな剛性感が身上のピュアレーサー」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)
一方で、低速域では嫌な硬さをほぼ感じさせないのも、ユニークなポイントですね。前に重心を掛けながらわしわしとトルクを掛けて踏んでいくとフロント周りの剛性感が活かされるのですが、ヒルクライムなどで後ろに重心が乗ってくると、バックの部分がうまくいなしてくれるような性格で、スムースに脚が入っていくように感じました。コースに合わせて乗り方を変えることで、性格を切り替えて走ってくれる面白いバイクですね。

ゴールまではシッティングで脚を溜めておいて、フィニッシュで一気にスプリントを掛けて勝利をもぎ取るようなレース運びをついつい妄想してしまうような性格で、ぜひレースで使ってみたいなとか感じました。

エアロダイナミクスについてもしっかりと効果を感じることが出来ました。とにかく、剛性感が先に来てしまうのでその陰に隠れてしまいがちですが、高速域での伸びの良さは空力性能の良さのおかげでしょうね。しっかりとエアロチューブのデザインが効果を発揮していると感じました。

メカニック目線で見ても、非常に好感度が高い造りです。特殊なブレーキを採用しているわけでもないですし、ケーブルルーティングもオーソドックスで組みやすくトラブルも少なそう。シートクランプもエアロ形状ながらもシンプルで良いですね。

剛性の高さが特徴的なバイクなので、ホイールも合わせてかかりの良いものを組み合わせたいですね。リムハイトが高めで剛性の高いホイールをアセンブルしてあげれば、エアロロードとしても最高のマッチングになるのではないでしょうか。逆に35ミリハイト程度のミドルハイトリムと組み合わせると登りもある程度こなすことの出来るオールラウンダーとして走ることができるでしょう。

推奨ハンドルがヴィジョンのエアロハンドル、メトロン5Dというのもいい組み合わせですね。扁平形状のエアロハンドルなので、突き上げをいなす効果も期待できる一方、ステム一体型ハンドルの剛性感を備えているので、非常にバランスの取れた乗り味に仕上げてくれます。個人的な好みでいえば、あえてもっと剛性の高いスプリンター系のハンドルを組み合わせても面白いのではないかと思いますね。セッティングで好みの一台に仕上げる楽しみもしっかりと残されています。

非常にレーシング志向の強いバイクですので、ビギナーの方は持て余してしまうかもしれません。基本的には、エリートレーサー向けですし、なかでもパワー系の選手にぴったりの一台でしょう。とはいえ、基本的な性能は非常に高いレベルでまとまっていますから、このバイクを乗りこなしてやる!という目標を持って投資してみても、決して損することは無いでしょうね。そんなやる気を掻き立ててくれるだけの、魅力を持ったバイクであることは間違いありません。

オルベア ORCA AEROオルベア ORCA AERO (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

オルベア ORCA AERO
カラー:オレンジ-サテングロス、メタル-ブラック-サテングロス
サイズ:47、49、51、53、55、57、60
価 格:
フレームセット 390,000円(税抜)
シマノ105完成車 400,000円(税抜)
シマノ機械式アルテグラ完成車 450,000円(税抜)
シマノ電動式アルテグラ完成車 550,000円(税抜)
シマノ機械式デュラエース完成車 680,000円(税抜)
シマノ電動式デュラエース完成車 1,000,000円(税抜)
スラムRED eTap完成車 1,100,000円(税抜)
※カスタムオーダーのMyO仕様は各モデル+2万円



インプレッションライダーのプロフィール

錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

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フォーチュンバイク HP

飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店) 飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)

高校大学と自転車競技部に所属し、国体に通算4回出場した経歴を持つ競技派。国体ではロードと短距離トラック種目に出場しており、豊かな体格を活かしたスプリントを得意とする。過去にはメッセンジャーやスポーツジムでのパーソナルトレーナーなどの経験も持ち、自転車に対する多方面からの知見をユーザーに還元している。現在はメカニックや接客の他に、クラブチームでの走り方やトレーニング指導も行う。

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バイシクルセオ 新松戸店 HP

ウェア協力:マヴィック(今回着用モデルはこちら

text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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