2010/01/23(土) - 18:22
ウィランガ・ヒルで飛び出した世界チャンピオンに食らいつき、ステージ優勝を飾ったルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)。2005年大会の総合優勝者が名物ステージで栄光を掴んだ。総合首位はアンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア)が死守している。
名所ウィランガ・ヒルが登場する最終日前日の第5ステージは、総合争いを決定づける正真正銘の最重要ステージ。レース前半は海沿いの大周回を2周、後半に内陸の丘陵地帯を含む小周回を2周する。
小周回に登場するウィランガ・ヒルは登坂距離3km・平均勾配7.5%。毎年アタックが繰り返されるツアー・ダウンアンダー最大の上りであり、KOMが設定された頂上からゴールまでは19kmしか離れていない。
先頭でゴールに飛び込むのは、上りで攻撃を仕掛けたクライマーか、それとも上りを攻略したスプリンターか。総合リーダージャージの行方は、このウィランガ・ヒルに委ねられた。
海沿いのスタート地点スナッパー・ポイントは生憎の曇り空。小雨のパラつく中、2008年TOJ(ツアー・オブ・ジャパン)覇者キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・スリップストリーム)らのアタックでレースは幕開けた。
マイヤーにはヴァレリー・ドミトリエフ(カザフスタン、アスタナ)やエドゥアルト・ヴォルガノフ(ロシア、カチューシャ)、マイケル・マシューズ(オーストラリア、チームUniSA)らが追いついて7名が逃げグループを形成。メイン集団はチームHTC・コロンビアがコントロールし、タイム差を2分台に抑え込んだ。
レースが動いたのは1回目のウィランガ・ヒル。メイン集団から山岳賞ジャージを着るトーマス・ローレッガー(ドイツ、チームミルラム)が飛び出して先頭に合流。ローレッガーはドミトリエフにKOM先頭通過を許してしまうものの、しっかり2番手通過を果たして山岳ポイントを加算した。
結局逃げグループは最終周回突入前に吸収。ここからトマス・クヴィスト(デンマーク、クイックステップ)がアタックを仕掛けて飛び出したが、単独ではリードを築けずに吸収されてしまう。メイン集団はフランセーズデジューとBMCレーシングチームが牽引し、最後のウィランガ・ヒルに突入した。
積極的にペースを上げたミカエル・シュレル(フランス、フランセーズデジュー)に牽かれて集団から飛び出したのは、2008年TOJ奈良ステージ優勝者のウェズリー・サルツバーガー(オーストラリア、フランセーズデジュー)。この動きにカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が反応し、サルツバーガーと2人で観客の詰めかけた上りを進んだ。
やがて先頭からサルツバーガーが脱落し、アルカンシェルの独走にウィランガ・ヒルが沸く。メイン集団ではアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)とペーター・サガン(スロベキア、リクイガス)が飛び出し、遅れてLLサンチェスもこの動きに加わった。
メイン集団を引き離した追走3名(バルベルデ、LLサンチェス、サガン)は頂上手前でエヴァンスに合流。メイン集団とのタイム差は40秒。ここから先頭4名とメイン集団の闘いが始まった。
第4ステージ終了の時点で総合首位グライペルと総合7位エヴァンスの総合タイム差は26秒、総合20位LLサンチェスとの総合タイム差は30秒。メイン集団はリーダージャージを守りたいチームHTC・コロンビアが懸命に牽き、先頭4名のリードを奪って行く。
ラスト4kmでタイム差は31秒。ステージ上位入賞者にはボーナスタイム(1位10秒・2位6秒・3位4秒)が与えられるため、グライペル、エヴァンス、LLサンチェスの3名が総合暫定リーダーの座を奪い合っている状態。
やがてラスト1kmを切ると、牽制状態に入った逃げグループからLLサンチェスがアタック。メイン集団からはアデレード出身のルーク・ロバーツ(オーストラリア、チームミルラム)がアタックを仕掛け、前を走るバルベルデやエヴァンス、サガンを抜いてLLサンチェスを追った。
しかしロバーツの猛追も届かず、後続を振り返って勝利を確信したLLサンチェスがガッツポーズ。LLサンチェスは2006年にバイク事故で亡くなった兄に向け、天を指差してゴールに飛び込んだ。
逃げを捉えきれなかったメイン集団は6秒遅れでゴール。グライペルは9秒遅れの集団内でゴールし、LLサンチェスの総合追い上げを振り切って総合首位を守った。ステージ優勝のLLサンチェスは11秒遅れの総合2位、ステージ2位に入ったロバーツが総合11位から3位までジャンプアップしている。
2005年大会でアルベルト・コンタドール(スペイン、当時リバティーセグロス)と共にウィランガ・ヒルでアタックを仕掛け、ワンツー勝利を飾るとともに総合優勝を飾ったLLサンチェス。「この勝利のおかげで素晴らしい大会になったよ。献身的に動いてくれたバルベルデには、とてもとっても感謝している」。総合首位には手が届かなかったが、ステージ優勝でチームメイトの働きに報いた。
ウィランガ・ヒルでアタックを仕掛けたエヴァンスは敢闘賞を獲得。「アルカンシェルを着てオーストラリアのレースに出場するだけでも特別なのに、今回はツアー・ダウンアンダーの最難関ステージで先頭を独走したんだ。総合争いがかかった展開だっただけにスリリングだった」。沿道に集まった119000人の観客の期待を裏切らない走りで、大いにレースを沸かせた。
総合首位を守ったグライペルは、翌日のアデレード平坦周回レースでライバルたちの動きに目を光らせながら走ることになる。「明日はボーナスタイムが展開を左右する。でも強靭なチームメイトたちが味方についているので心配はしていない。彼らがいなかったら今頃リーダージャージは他の選手の手に移っていた。本当に彼らの働きには感謝している」。ここまでスプリントで無敵を誇っている27歳は、自身二度目の総合優勝に王手をかけた。
ステージダイジェストムービー
ツアー・ダウンアンダー2010第5ステージ結果
1位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ) 3h29'39"
2位 ルーク・ロバーツ(オーストラリア、チームミルラム) +02"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ) +04"
4位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
5位 ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス) +06"
6位 マルクス・フォーテン(ドイツ、チームミルラム)
7位 セバスティアン・ロセレル(ベルギー、レディオシャック)
8位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・トランジションズ)
9位 グレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、チームスカイ) +09"
10位 ファビオ・サバティーニ(イタリア、リクイガス)
個人総合成績
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア) 16h53'45"
2位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ) +11"
3位 ルーク・ロバーツ(オーストラリア、チームミルラム) +17"
4位 ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ) +20"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) +21"
6位 グレゴリー・ヘンダーソン(イギリス、チームスカイ) +24"
7位 エドゥアルト・ヴォルガノフ(ロシア、カチューシャ) +25"
8位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +26"
9位 マルクス・フォーテン(ドイツ、チームミルラム) +27"
10位 アンドレー・グリブコ(ウクライナ、アスタナ) +29"
スプリント賞
アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア)
山岳賞
トーマス・ローレッガー(ドイツ、チームミルラム)
新人賞
ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
チーム総合成績
アージェードゥーゼル
text:Kei Tsuji
photo:Kei Tsuji, Cor Vos
名所ウィランガ・ヒルが登場する最終日前日の第5ステージは、総合争いを決定づける正真正銘の最重要ステージ。レース前半は海沿いの大周回を2周、後半に内陸の丘陵地帯を含む小周回を2周する。
小周回に登場するウィランガ・ヒルは登坂距離3km・平均勾配7.5%。毎年アタックが繰り返されるツアー・ダウンアンダー最大の上りであり、KOMが設定された頂上からゴールまでは19kmしか離れていない。
先頭でゴールに飛び込むのは、上りで攻撃を仕掛けたクライマーか、それとも上りを攻略したスプリンターか。総合リーダージャージの行方は、このウィランガ・ヒルに委ねられた。
海沿いのスタート地点スナッパー・ポイントは生憎の曇り空。小雨のパラつく中、2008年TOJ(ツアー・オブ・ジャパン)覇者キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・スリップストリーム)らのアタックでレースは幕開けた。
マイヤーにはヴァレリー・ドミトリエフ(カザフスタン、アスタナ)やエドゥアルト・ヴォルガノフ(ロシア、カチューシャ)、マイケル・マシューズ(オーストラリア、チームUniSA)らが追いついて7名が逃げグループを形成。メイン集団はチームHTC・コロンビアがコントロールし、タイム差を2分台に抑え込んだ。
レースが動いたのは1回目のウィランガ・ヒル。メイン集団から山岳賞ジャージを着るトーマス・ローレッガー(ドイツ、チームミルラム)が飛び出して先頭に合流。ローレッガーはドミトリエフにKOM先頭通過を許してしまうものの、しっかり2番手通過を果たして山岳ポイントを加算した。
結局逃げグループは最終周回突入前に吸収。ここからトマス・クヴィスト(デンマーク、クイックステップ)がアタックを仕掛けて飛び出したが、単独ではリードを築けずに吸収されてしまう。メイン集団はフランセーズデジューとBMCレーシングチームが牽引し、最後のウィランガ・ヒルに突入した。
積極的にペースを上げたミカエル・シュレル(フランス、フランセーズデジュー)に牽かれて集団から飛び出したのは、2008年TOJ奈良ステージ優勝者のウェズリー・サルツバーガー(オーストラリア、フランセーズデジュー)。この動きにカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が反応し、サルツバーガーと2人で観客の詰めかけた上りを進んだ。
やがて先頭からサルツバーガーが脱落し、アルカンシェルの独走にウィランガ・ヒルが沸く。メイン集団ではアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)とペーター・サガン(スロベキア、リクイガス)が飛び出し、遅れてLLサンチェスもこの動きに加わった。
メイン集団を引き離した追走3名(バルベルデ、LLサンチェス、サガン)は頂上手前でエヴァンスに合流。メイン集団とのタイム差は40秒。ここから先頭4名とメイン集団の闘いが始まった。
第4ステージ終了の時点で総合首位グライペルと総合7位エヴァンスの総合タイム差は26秒、総合20位LLサンチェスとの総合タイム差は30秒。メイン集団はリーダージャージを守りたいチームHTC・コロンビアが懸命に牽き、先頭4名のリードを奪って行く。
ラスト4kmでタイム差は31秒。ステージ上位入賞者にはボーナスタイム(1位10秒・2位6秒・3位4秒)が与えられるため、グライペル、エヴァンス、LLサンチェスの3名が総合暫定リーダーの座を奪い合っている状態。
やがてラスト1kmを切ると、牽制状態に入った逃げグループからLLサンチェスがアタック。メイン集団からはアデレード出身のルーク・ロバーツ(オーストラリア、チームミルラム)がアタックを仕掛け、前を走るバルベルデやエヴァンス、サガンを抜いてLLサンチェスを追った。
しかしロバーツの猛追も届かず、後続を振り返って勝利を確信したLLサンチェスがガッツポーズ。LLサンチェスは2006年にバイク事故で亡くなった兄に向け、天を指差してゴールに飛び込んだ。
逃げを捉えきれなかったメイン集団は6秒遅れでゴール。グライペルは9秒遅れの集団内でゴールし、LLサンチェスの総合追い上げを振り切って総合首位を守った。ステージ優勝のLLサンチェスは11秒遅れの総合2位、ステージ2位に入ったロバーツが総合11位から3位までジャンプアップしている。
2005年大会でアルベルト・コンタドール(スペイン、当時リバティーセグロス)と共にウィランガ・ヒルでアタックを仕掛け、ワンツー勝利を飾るとともに総合優勝を飾ったLLサンチェス。「この勝利のおかげで素晴らしい大会になったよ。献身的に動いてくれたバルベルデには、とてもとっても感謝している」。総合首位には手が届かなかったが、ステージ優勝でチームメイトの働きに報いた。
ウィランガ・ヒルでアタックを仕掛けたエヴァンスは敢闘賞を獲得。「アルカンシェルを着てオーストラリアのレースに出場するだけでも特別なのに、今回はツアー・ダウンアンダーの最難関ステージで先頭を独走したんだ。総合争いがかかった展開だっただけにスリリングだった」。沿道に集まった119000人の観客の期待を裏切らない走りで、大いにレースを沸かせた。
総合首位を守ったグライペルは、翌日のアデレード平坦周回レースでライバルたちの動きに目を光らせながら走ることになる。「明日はボーナスタイムが展開を左右する。でも強靭なチームメイトたちが味方についているので心配はしていない。彼らがいなかったら今頃リーダージャージは他の選手の手に移っていた。本当に彼らの働きには感謝している」。ここまでスプリントで無敵を誇っている27歳は、自身二度目の総合優勝に王手をかけた。
ステージダイジェストムービー
ツアー・ダウンアンダー2010第5ステージ結果
1位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ) 3h29'39"
2位 ルーク・ロバーツ(オーストラリア、チームミルラム) +02"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ) +04"
4位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
5位 ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス) +06"
6位 マルクス・フォーテン(ドイツ、チームミルラム)
7位 セバスティアン・ロセレル(ベルギー、レディオシャック)
8位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・トランジションズ)
9位 グレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、チームスカイ) +09"
10位 ファビオ・サバティーニ(イタリア、リクイガス)
個人総合成績
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア) 16h53'45"
2位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ) +11"
3位 ルーク・ロバーツ(オーストラリア、チームミルラム) +17"
4位 ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ) +20"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) +21"
6位 グレゴリー・ヘンダーソン(イギリス、チームスカイ) +24"
7位 エドゥアルト・ヴォルガノフ(ロシア、カチューシャ) +25"
8位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +26"
9位 マルクス・フォーテン(ドイツ、チームミルラム) +27"
10位 アンドレー・グリブコ(ウクライナ、アスタナ) +29"
スプリント賞
アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア)
山岳賞
トーマス・ローレッガー(ドイツ、チームミルラム)
新人賞
ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
チーム総合成績
アージェードゥーゼル
text:Kei Tsuji
photo:Kei Tsuji, Cor Vos
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