2017/12/26(火) - 16:52
8日間で6レース。過酷なヨーロッパシクロクロス遠征をこなしている、弱虫ペダルサイクリングチームの挑戦記を紹介します。プレイングコーチを務める唐見実世子の手記で、前田公平、U23全日本王者の織田聖の走り、そしてオランダでの生活をレポート。
今年もたくさんのご支援のお蔭で欧州遠征が実現した。今回2度目となる欧州遠征、13日間と昨年に比べ期間こそ短くなるが、短期間でUCI-1クラスを2レース、同じく2クラスを2レース、オランダナショナルクラスを2レース、計6レース分を取り込んだ。
今回の遠征メンバーは、シクロクロス選手である織田聖選手、MTB選手の前田公平選手、そしてロード選手である私、唐見実世子の計3名。3名ともメインの種目、またハイシーズンも異なるため、よりタイトにまたより幅広いレースレベルで内容を濃くしての遠征となる。その分、選手は1戦1戦課題を持って、より集中して過ごす必要がある。年が明けたら、それぞれの種目でそれぞれの目標に切り替えてトレーニングに向かう事になるので、この遠征で経験を積む以外に、各自の新たな課題を見つけて帰ってもらいたい。もちろん狙えるレースで狙ったリザルトが獲れるようにチャレンジする舞台でもある。
12月19日、アムステルダム、スキポール空港に到着。昨年からお世話になっているハリーさんとその友人で3度もオランダチャンピオンに輝いているコールさんが空港まで迎えに来て下さり、懐かしのハリーさんのお宅へ。彼は、1970年代から自転車チームのマネージャーとして競技に携わっているので、何でも知っていてすごく頼りになる存在だ。レースのエントリーから会場でのアドバイス、その他もろもろ、彼なしで私達の遠征は成り立たない。そんなハリーさんのご自宅に今年も2週間弱お世話になる。
オランダに到着して最初の3日間はレースがないので、こちらでの生活を思い出す事と役割分担、練習、時差ボケ解消が主なミッション。レース前日にご厚意でメカニック役を買って出てくださったスネルシクロクロスチームの諏訪監督が到着し、レース準備は整った。
欧州遠征初陣、ワースラントクロス(UCI-2)
そして12月23日、弱虫ペダルサイクリングチーム欧州遠征第1戦目となる、ワースラントクロス(UCI-2)を迎えた。こちらに来てからは霧雨や曇りの日が多く、初戦の日も曇り。今年は日本のシクロクロスシーズンは雨の中のレースが多く、ドライコンディションでのレースをありがたく感じる。
7レースが開催されるシリーズ戦「ソウダルクラシックス」の第5戦であるこのレース。キャンパーや砂セクション、急勾配の登り返しなど難しい部分も多く盛り込まれているが、基本的には高速コースだ。男女世界王者など強豪選手も走ることから1周5分台から6分で周回される事が予想され、とにかく少しでも前で周回を重ねていかないと早々に足切りがやってくる。
午前中にアンダー15やジュニアカテゴリーのレースがあり、13時45分、女子エリートがスタート。約1時間かけて試走をし、最初は出来なかった事少しだけ克服したが、それでも私から見ればコースは難しい。まずはクリートキャッチ。一発ではまらなかったが、キャッチ後は全力でプッシュ。最初のアスファルト区間で多くの選手に割り込まれしまい、思うように走れない。その後の登り返し区間で、完全に渋滞してしまって、足を止める始末。
そこから気を取り直して踏みなおし、いくつかのパックを抜いて前を行く選手を追った。しかし、抜ける場所も少なく、抜いてもちょっとしたコーナーで抜き返されてしまったり、シケインで泥の詰まったクリートがペダルから外れずコケてしまったり、パックの先頭に出るタイミングが非常に難しい。ゴール前の直線は向かい風だったので、あえて後ろにつくなど戦略的に走ることもトライしていく。
結果的にはマイナス2lapでDNF。降ろされた時は何が起こったか分からず、不完全燃焼なままレースを終えてしまい、悔いが残る初戦となった。テクニックの差はもちろんの事、全ての点において劣っていた結果だった。2戦目以降、自分自身の総合的な力をしっかりと等身大で判断して、ベストな走りをしなければならない。女子エリートの優勝はルシンダ・ブランド(オランダ、サンウェブ)。途中から単独で逃げを打ち、最後に4人の集団から飛び出した世界王者サンヌ・カント(ベルギー、ベオバンク・コレンドン)の追い上げを交わして逃げ切るという強いレース運びを見せた。
少し時間が空き、15時に男子エリートがスタート。スタートから世界王者のワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン)が圧倒的な力でグイグイと周回を重ね、そのまま独走勝利を飾ることとなる。
彼のハイペースにたくさんの選手がラップされてしまい、前田選手、織田選手は共にマイナス4ラップで足切り。チームとしては厳しい初戦を強いられてしまった。
遠征第2戦はオランダのナショナルレース
そんな初戦から一夜明けた12月24日(日)、休む間も無く遠征2戦目がやってきた。オランダで開催されるRABOBANK BOXTELというナショナルレースだが、非UCIにもかかわらずレベルは非常に高い。女子はリオ五輪ロード金メダリストのアンナ・ファンデルブレゲン(オランダ、ブールス・ドルマンス・サイクリングチーム)など、ロードのプロ選手もエントリーしていた。
コースはフラットで、重場場な直線、泥や砂のセクションがあり直線が多い単純なコース。泥区間をこなすテクニックが鍵となった。いくつかのカテゴリーが走った後、12時からエリート女子がスタート。私は最前列からのスタートとなったが、噂では聞いていたが、スタート前から数センチずつ前へ前へと動く、日本では見られない光景に少し驚く。
クリートキャッチは比較的成功したものの、集団の密集度もきつく、前へ入られてばかり、泥の区間で自転車をうまく進ませる事が出来ず、完全に後方へ取り残されてしまった。2周目に入るくらいから走りやすくなり、前を行く選手を少しずつパスしたが、残念な事に13位でのフィニッシュになった。優勝はスタートしてすぐに独走態勢に持ち込んだファンデルブレゲンだった。
14時からは男子エリート。やはりロードプロ選手が強く、カチューシャ・アルペシンに所属するマウリス・ラメルティンク(オランダ)がスタート直後から一人旅に。その強さに前田選手、織田選手共にあと少しのところで完走させてもらえなかった。やはり泥のセクションがネックとなったようだが、良い感触は掴めたようだった。
オランダは自転車競技に取り組む環境が充実しており、子供達が毎週のようにレースを走ったり、自転車に親しむ環境が整っている。プロロード選手も全ての選手という訳ではないが、今回のようにトレーニングの一環としてシクロクロスを取り入れている場合もある。
「初めてのコースや、日本とは全く異なるスピードレンジでのレースに苦戦してますが、新たな発見もあり、刺激的な日々を過ごせている」とは前田選手。織田選手も「毎回のことですが、日本のレースとこっちのレースの違いに戸惑っています。順応出来ていない部分が多くあるので慣れていきたい。次もナショナルレースなので今回は完走したいと思う」と前向きに最初の2連戦を振り返っている。
また、佐藤成彦ゼネラルマネジャーは次のようにコメントしている。「選手全員に言える事ですが、まだまだフィジカル面の強化が必要不可欠で、その点に関しては国内でのトレーニングでも問題なくクリアできると思います。しかしテクニック面の向上については、とにかく本場のレースで場数を踏んでいかないとどうにもならないと強く感じております。海外に通用するシクロクロス選手になる為にはフィジカルを早い段階である程度のレベルまで持って行き、集中的に海外CXレースに参戦していく事が必要でしょう。今まで超ハイレベルのUCIレースと、そこそこ戦えるレベルのオランダナショナルレースを1戦ずつこなせましたので、ここまでで得られた知識と情報をブラッシュアップして残されたレースを有意義な物にしていきたいと思います。」
こちらに来て早6日が過ぎたが、充実したサイクリング道路、たくさんのレースやクラブチーム、自転車選手にとって最高の環境が整っている事を実感している。なかなか体験出来ない事出をさせてもらっているので、一日一日を大切に過ごしたい。
text:Miyoko.Karami
今年もたくさんのご支援のお蔭で欧州遠征が実現した。今回2度目となる欧州遠征、13日間と昨年に比べ期間こそ短くなるが、短期間でUCI-1クラスを2レース、同じく2クラスを2レース、オランダナショナルクラスを2レース、計6レース分を取り込んだ。
今回の遠征メンバーは、シクロクロス選手である織田聖選手、MTB選手の前田公平選手、そしてロード選手である私、唐見実世子の計3名。3名ともメインの種目、またハイシーズンも異なるため、よりタイトにまたより幅広いレースレベルで内容を濃くしての遠征となる。その分、選手は1戦1戦課題を持って、より集中して過ごす必要がある。年が明けたら、それぞれの種目でそれぞれの目標に切り替えてトレーニングに向かう事になるので、この遠征で経験を積む以外に、各自の新たな課題を見つけて帰ってもらいたい。もちろん狙えるレースで狙ったリザルトが獲れるようにチャレンジする舞台でもある。
12月19日、アムステルダム、スキポール空港に到着。昨年からお世話になっているハリーさんとその友人で3度もオランダチャンピオンに輝いているコールさんが空港まで迎えに来て下さり、懐かしのハリーさんのお宅へ。彼は、1970年代から自転車チームのマネージャーとして競技に携わっているので、何でも知っていてすごく頼りになる存在だ。レースのエントリーから会場でのアドバイス、その他もろもろ、彼なしで私達の遠征は成り立たない。そんなハリーさんのご自宅に今年も2週間弱お世話になる。
オランダに到着して最初の3日間はレースがないので、こちらでの生活を思い出す事と役割分担、練習、時差ボケ解消が主なミッション。レース前日にご厚意でメカニック役を買って出てくださったスネルシクロクロスチームの諏訪監督が到着し、レース準備は整った。
欧州遠征初陣、ワースラントクロス(UCI-2)
そして12月23日、弱虫ペダルサイクリングチーム欧州遠征第1戦目となる、ワースラントクロス(UCI-2)を迎えた。こちらに来てからは霧雨や曇りの日が多く、初戦の日も曇り。今年は日本のシクロクロスシーズンは雨の中のレースが多く、ドライコンディションでのレースをありがたく感じる。
7レースが開催されるシリーズ戦「ソウダルクラシックス」の第5戦であるこのレース。キャンパーや砂セクション、急勾配の登り返しなど難しい部分も多く盛り込まれているが、基本的には高速コースだ。男女世界王者など強豪選手も走ることから1周5分台から6分で周回される事が予想され、とにかく少しでも前で周回を重ねていかないと早々に足切りがやってくる。
午前中にアンダー15やジュニアカテゴリーのレースがあり、13時45分、女子エリートがスタート。約1時間かけて試走をし、最初は出来なかった事少しだけ克服したが、それでも私から見ればコースは難しい。まずはクリートキャッチ。一発ではまらなかったが、キャッチ後は全力でプッシュ。最初のアスファルト区間で多くの選手に割り込まれしまい、思うように走れない。その後の登り返し区間で、完全に渋滞してしまって、足を止める始末。
そこから気を取り直して踏みなおし、いくつかのパックを抜いて前を行く選手を追った。しかし、抜ける場所も少なく、抜いてもちょっとしたコーナーで抜き返されてしまったり、シケインで泥の詰まったクリートがペダルから外れずコケてしまったり、パックの先頭に出るタイミングが非常に難しい。ゴール前の直線は向かい風だったので、あえて後ろにつくなど戦略的に走ることもトライしていく。
結果的にはマイナス2lapでDNF。降ろされた時は何が起こったか分からず、不完全燃焼なままレースを終えてしまい、悔いが残る初戦となった。テクニックの差はもちろんの事、全ての点において劣っていた結果だった。2戦目以降、自分自身の総合的な力をしっかりと等身大で判断して、ベストな走りをしなければならない。女子エリートの優勝はルシンダ・ブランド(オランダ、サンウェブ)。途中から単独で逃げを打ち、最後に4人の集団から飛び出した世界王者サンヌ・カント(ベルギー、ベオバンク・コレンドン)の追い上げを交わして逃げ切るという強いレース運びを見せた。
少し時間が空き、15時に男子エリートがスタート。スタートから世界王者のワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン)が圧倒的な力でグイグイと周回を重ね、そのまま独走勝利を飾ることとなる。
彼のハイペースにたくさんの選手がラップされてしまい、前田選手、織田選手は共にマイナス4ラップで足切り。チームとしては厳しい初戦を強いられてしまった。
遠征第2戦はオランダのナショナルレース
そんな初戦から一夜明けた12月24日(日)、休む間も無く遠征2戦目がやってきた。オランダで開催されるRABOBANK BOXTELというナショナルレースだが、非UCIにもかかわらずレベルは非常に高い。女子はリオ五輪ロード金メダリストのアンナ・ファンデルブレゲン(オランダ、ブールス・ドルマンス・サイクリングチーム)など、ロードのプロ選手もエントリーしていた。
コースはフラットで、重場場な直線、泥や砂のセクションがあり直線が多い単純なコース。泥区間をこなすテクニックが鍵となった。いくつかのカテゴリーが走った後、12時からエリート女子がスタート。私は最前列からのスタートとなったが、噂では聞いていたが、スタート前から数センチずつ前へ前へと動く、日本では見られない光景に少し驚く。
クリートキャッチは比較的成功したものの、集団の密集度もきつく、前へ入られてばかり、泥の区間で自転車をうまく進ませる事が出来ず、完全に後方へ取り残されてしまった。2周目に入るくらいから走りやすくなり、前を行く選手を少しずつパスしたが、残念な事に13位でのフィニッシュになった。優勝はスタートしてすぐに独走態勢に持ち込んだファンデルブレゲンだった。
14時からは男子エリート。やはりロードプロ選手が強く、カチューシャ・アルペシンに所属するマウリス・ラメルティンク(オランダ)がスタート直後から一人旅に。その強さに前田選手、織田選手共にあと少しのところで完走させてもらえなかった。やはり泥のセクションがネックとなったようだが、良い感触は掴めたようだった。
オランダは自転車競技に取り組む環境が充実しており、子供達が毎週のようにレースを走ったり、自転車に親しむ環境が整っている。プロロード選手も全ての選手という訳ではないが、今回のようにトレーニングの一環としてシクロクロスを取り入れている場合もある。
「初めてのコースや、日本とは全く異なるスピードレンジでのレースに苦戦してますが、新たな発見もあり、刺激的な日々を過ごせている」とは前田選手。織田選手も「毎回のことですが、日本のレースとこっちのレースの違いに戸惑っています。順応出来ていない部分が多くあるので慣れていきたい。次もナショナルレースなので今回は完走したいと思う」と前向きに最初の2連戦を振り返っている。
また、佐藤成彦ゼネラルマネジャーは次のようにコメントしている。「選手全員に言える事ですが、まだまだフィジカル面の強化が必要不可欠で、その点に関しては国内でのトレーニングでも問題なくクリアできると思います。しかしテクニック面の向上については、とにかく本場のレースで場数を踏んでいかないとどうにもならないと強く感じております。海外に通用するシクロクロス選手になる為にはフィジカルを早い段階である程度のレベルまで持って行き、集中的に海外CXレースに参戦していく事が必要でしょう。今まで超ハイレベルのUCIレースと、そこそこ戦えるレベルのオランダナショナルレースを1戦ずつこなせましたので、ここまでで得られた知識と情報をブラッシュアップして残されたレースを有意義な物にしていきたいと思います。」
こちらに来て早6日が過ぎたが、充実したサイクリング道路、たくさんのレースやクラブチーム、自転車選手にとって最高の環境が整っている事を実感している。なかなか体験出来ない事出をさせてもらっているので、一日一日を大切に過ごしたい。
text:Miyoko.Karami
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