2010/01/20(水) - 06:44
ワイン畑の広がる丘陵地帯で開幕したツアー・ダウンアンダー。熱い太陽の下、スプリンターたちが熱い闘いを繰り広げた。個人的にはスピード違反で捕まるという運のない一日に・・・。
朝から目の覚める刺激的な出来事
この日のスタート地点はアデレードから133km北上したクレアという田舎町。人口3000人が暮らすこじんまりとした街だ。
スタート時間は11時なので、7時半にアデレードで同乗者2名をピックアップし、約2時間かけてクレアを目指す。アデレードの市街地を抜けると景色も開け、徐々にスピードが上がっていく。延々と地平線の向こうまで続く荒涼とした丘陵地帯を貫くハイウェイ。
プレス関係車の車列の最後尾を運転していると、反対車線をパトカーが通り過ぎた。「コースのチェックかな?」何て思いながらバックミラーで振り返ると、天井に付いた物体をピカピカさせた白黒のクルマがUターンしているのが見える。その10秒後、スピーカーで止められた。スピード違反だ・・・。
レンタルした韓国車に乗った日本人、イタリア人、アメリカ人が必死に警官を説得。しかし「プレス関係車でスタート地点に急いでいたんだ!」「車列に付いていっただけだ!」なんて甘い言い訳は通用せず、スキンヘッドの警官にすんなり違反切符を切られた。
そう言えば前日に「スピード違反には気をつけるように。それに、南オーストラリア州は罰金で成り立っているんじゃないか?と思うぐらい罰金が高いから」とスタッフに言われていたっけ。
最後に警官は「あと3キロ速かったら免許停止だったところだ。命拾いしたな。グッダイ(良い一日を)」と言い残して去って行った。気を取り直して話をレースに戻そう。
車内が重い雰囲気に包まれながらも、何とか時間通りスタート地点に到着。クレアの街はそれ自体に大きな特徴は無いが、ワインの産地である「クレア・バレー」の中心地として世界的に知られている。
ワインと言えば、数年前までツアー・ダウンアンダーのメインスポンサーだったジェイコブス・クリーク社が有名。同社の生産地は少し南に離れたバロッサ・バレーで、今日のゴール地点タヌンダはそんなバロッサ・バレーの中心にある。つまり、この日のステージはさながら二大ワイン産地をつなぐワインステージだ!
ちなみにジェイコブス・クリーク社は現在もレースのスポンサーに名を連ねており、メディアセンターでは赤白問わずワインが飲み放題。さっぱりとしてフルーティーな白ワインが好みです。
相変わらずアームストロングの注目度は凄まじい。レース会場ではインタビューや撮影、サインに大忙し。オーストラリア国内でガンのチャリティー活動も同時進行で行なっている。それでいて「昨年より明らかに調子がいいんだ」と言ってのける。その言葉の裏にはどれだけのトレーニングが隠されているのだろう。
山岳で飛び出したルーキー、ラスト100mを最速で駆け抜けたグライペル
第1ステージはラスト36km地点で一旦ゴール地点を通り過ぎ、ラスト27km地点で「メングラーズ・ヒル」という山岳ポイントを越える。頂上通過後、ぐるっと周回を回ってゴールに戻る。
ゴール写真を確実に撮るためには、早めにゴール地点に着いて通過する選手たちを見送り、次のゴールを待てば良い。でもこの日は何としてもメングラーズ・ヒルで撮影したかった。平均勾配8.16%で登坂距離は1.9km。決して難易度が高い山岳ではないが、景色の良さを小耳に挟んでいたからだ。
時間的にリスキーなので、同乗者2名をゴール地点で降ろし、一人で山岳に向かう。すでにGoogle Mapのストリートビューを駆使して駐車スペースは確認済み。
平野を見下ろすように佇む丘を、地元サイクリストたちが上って行く。撮影場所を決めてすぐ、遠くからヘリコプターが近づいてくるのが聞こえる。続いてパトカーの警告音(少しドキッとする)。
3人の逃げが形成されていたことは予め無線で確認していたが、先頭で上って来たのはティモシー・ロー(オーストラリア、チームUniSA)ただ一人。アメリカのTREKリブストロングU23チームに所属する20歳のルーキーは、そのまま独走で山頂を通過し、山岳賞ジャージを手にした。
メイン集団はヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック)を先頭に、2分遅れでやってきた。上りに自信を見せるエーススプリンターのヘルト・ステーグマン(ベルギー)は、チームメイトに「上りでペースを上げるよう」指示していたと言う。
選手たちとチームカーの隊列が通過すると、大急ぎでゴール地点に戻り、人ごみをかき分けてゴール地点へ。「さあ!残り2km!チームHTC・コロンビアとチームスカイの闘いだ!」とアナウンスが聞こえて来たので、慌ててカメラの露出を合わせてファインダーを覗く。アスファルトが放つ陽炎の向こうから、スプリンターの姿が浮かび上がって来た。
大柄なグライペルのスプリントは実に迫力がある。ごっつい上腕でハンドルをがっつり掴み、規則正しくペダルを踏み降ろす。斜行することなくズンズン前に突き進む。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)のような「急加速型スプリント」では無いが、トップスピードに乗ってからの伸びは凄まじい。さすがは昨シーズン20勝を飾っている男だ。
ゴール後すぐに報道陣に囲まれたグライペルは、一通りチームメイトと喜びを分かり合った後、一息ついてから言葉を選んで話し始めた。どのコメントにもチームを賞賛する言葉が散りばめられていた。
これでチームスカイとチームHTC・コロンビアの対決は1勝1敗。早くチームに1勝目をもたらしたいステーグマンもコンディションの良さを示しており、グライペル、ヘンダーソン、ステーグマンが総合争いにおける有力候補といったところ。
この日、連係ミスで後退してしまったアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)は「無線が壊れていたので為す術が無かった。(デーヴィスが遅れているのにチームメイトが集団を牽いたことについて)あの状況では仕方が無い」と肩を落とす。しかし「気を取り直して明日のステージだ」と、士気は落ちていない。
第2ステージのゴール地点は、ドイツ移民の街ハンドルフ。ドイツ出身のグライペルにとって何とか取りたいステージだ。
text&photo:Kei Tsuji
朝から目の覚める刺激的な出来事
この日のスタート地点はアデレードから133km北上したクレアという田舎町。人口3000人が暮らすこじんまりとした街だ。
スタート時間は11時なので、7時半にアデレードで同乗者2名をピックアップし、約2時間かけてクレアを目指す。アデレードの市街地を抜けると景色も開け、徐々にスピードが上がっていく。延々と地平線の向こうまで続く荒涼とした丘陵地帯を貫くハイウェイ。
プレス関係車の車列の最後尾を運転していると、反対車線をパトカーが通り過ぎた。「コースのチェックかな?」何て思いながらバックミラーで振り返ると、天井に付いた物体をピカピカさせた白黒のクルマがUターンしているのが見える。その10秒後、スピーカーで止められた。スピード違反だ・・・。
レンタルした韓国車に乗った日本人、イタリア人、アメリカ人が必死に警官を説得。しかし「プレス関係車でスタート地点に急いでいたんだ!」「車列に付いていっただけだ!」なんて甘い言い訳は通用せず、スキンヘッドの警官にすんなり違反切符を切られた。
そう言えば前日に「スピード違反には気をつけるように。それに、南オーストラリア州は罰金で成り立っているんじゃないか?と思うぐらい罰金が高いから」とスタッフに言われていたっけ。
最後に警官は「あと3キロ速かったら免許停止だったところだ。命拾いしたな。グッダイ(良い一日を)」と言い残して去って行った。気を取り直して話をレースに戻そう。
車内が重い雰囲気に包まれながらも、何とか時間通りスタート地点に到着。クレアの街はそれ自体に大きな特徴は無いが、ワインの産地である「クレア・バレー」の中心地として世界的に知られている。
ワインと言えば、数年前までツアー・ダウンアンダーのメインスポンサーだったジェイコブス・クリーク社が有名。同社の生産地は少し南に離れたバロッサ・バレーで、今日のゴール地点タヌンダはそんなバロッサ・バレーの中心にある。つまり、この日のステージはさながら二大ワイン産地をつなぐワインステージだ!
ちなみにジェイコブス・クリーク社は現在もレースのスポンサーに名を連ねており、メディアセンターでは赤白問わずワインが飲み放題。さっぱりとしてフルーティーな白ワインが好みです。
相変わらずアームストロングの注目度は凄まじい。レース会場ではインタビューや撮影、サインに大忙し。オーストラリア国内でガンのチャリティー活動も同時進行で行なっている。それでいて「昨年より明らかに調子がいいんだ」と言ってのける。その言葉の裏にはどれだけのトレーニングが隠されているのだろう。
山岳で飛び出したルーキー、ラスト100mを最速で駆け抜けたグライペル
第1ステージはラスト36km地点で一旦ゴール地点を通り過ぎ、ラスト27km地点で「メングラーズ・ヒル」という山岳ポイントを越える。頂上通過後、ぐるっと周回を回ってゴールに戻る。
ゴール写真を確実に撮るためには、早めにゴール地点に着いて通過する選手たちを見送り、次のゴールを待てば良い。でもこの日は何としてもメングラーズ・ヒルで撮影したかった。平均勾配8.16%で登坂距離は1.9km。決して難易度が高い山岳ではないが、景色の良さを小耳に挟んでいたからだ。
時間的にリスキーなので、同乗者2名をゴール地点で降ろし、一人で山岳に向かう。すでにGoogle Mapのストリートビューを駆使して駐車スペースは確認済み。
平野を見下ろすように佇む丘を、地元サイクリストたちが上って行く。撮影場所を決めてすぐ、遠くからヘリコプターが近づいてくるのが聞こえる。続いてパトカーの警告音(少しドキッとする)。
3人の逃げが形成されていたことは予め無線で確認していたが、先頭で上って来たのはティモシー・ロー(オーストラリア、チームUniSA)ただ一人。アメリカのTREKリブストロングU23チームに所属する20歳のルーキーは、そのまま独走で山頂を通過し、山岳賞ジャージを手にした。
メイン集団はヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック)を先頭に、2分遅れでやってきた。上りに自信を見せるエーススプリンターのヘルト・ステーグマン(ベルギー)は、チームメイトに「上りでペースを上げるよう」指示していたと言う。
選手たちとチームカーの隊列が通過すると、大急ぎでゴール地点に戻り、人ごみをかき分けてゴール地点へ。「さあ!残り2km!チームHTC・コロンビアとチームスカイの闘いだ!」とアナウンスが聞こえて来たので、慌ててカメラの露出を合わせてファインダーを覗く。アスファルトが放つ陽炎の向こうから、スプリンターの姿が浮かび上がって来た。
大柄なグライペルのスプリントは実に迫力がある。ごっつい上腕でハンドルをがっつり掴み、規則正しくペダルを踏み降ろす。斜行することなくズンズン前に突き進む。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)のような「急加速型スプリント」では無いが、トップスピードに乗ってからの伸びは凄まじい。さすがは昨シーズン20勝を飾っている男だ。
ゴール後すぐに報道陣に囲まれたグライペルは、一通りチームメイトと喜びを分かり合った後、一息ついてから言葉を選んで話し始めた。どのコメントにもチームを賞賛する言葉が散りばめられていた。
これでチームスカイとチームHTC・コロンビアの対決は1勝1敗。早くチームに1勝目をもたらしたいステーグマンもコンディションの良さを示しており、グライペル、ヘンダーソン、ステーグマンが総合争いにおける有力候補といったところ。
この日、連係ミスで後退してしまったアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)は「無線が壊れていたので為す術が無かった。(デーヴィスが遅れているのにチームメイトが集団を牽いたことについて)あの状況では仕方が無い」と肩を落とす。しかし「気を取り直して明日のステージだ」と、士気は落ちていない。
第2ステージのゴール地点は、ドイツ移民の街ハンドルフ。ドイツ出身のグライペルにとって何とか取りたいステージだ。
text&photo:Kei Tsuji
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