UCIアジアツアー優勝、全日本選手権優勝と、今年ふたつのビッグタイトルを手にしたチーム右京。大きな躍進となった1年の振り返りと今後について、全日本チャンピオンの畑中勇介と片山右京監督に語ってもらった。



畑中勇介「全日本だから、という走りをした結果勝てたんです」

畑中勇介(チーム右京)が31kmに渡る独走で全日本選手権初優勝畑中勇介(チーム右京)が31kmに渡る独走で全日本選手権初優勝 photo:Hideaki TAKAGI
「全日本を取れていないのはそれまでずっと心残りだったんです」「全日本を取れていないのはそれまでずっと心残りだったんです」 photo:Makoto AYANO全日本選手権で勝って、何か変わったことはありますか?

悪い意味での引っかかりが取れたというのが大きいです。それまで全日本選手権を取れていなかった事は心残りでしたし、嬉しいんですけれど、それよりは『苦しいものが取れた』というのが大きいですね。

2年前の全日本で2位になって、当時チームメイトの窪木選手が勝った時に言った「こんなに嬉しくて悔しいことはない」というのは本心で、チームで勝ったことは心底嬉しかったけれど、でも勝ったのは自分じゃなかったのが悔しいと。やっと自分の番が来たという感じです。

全日本では残り3周から逃げ切りました。残り1周あたりから勝ちを確信したとブログにはありましたが?

あの時は頭の中に冷静な自分と、そうじゃない自分とが2人いる感覚がありました。本当に確信したのは残り500mですが、冷静にパワーメーターの数字を見ながら1周のラップを見て、勝てると思ったのはラスト1周くらいの時点でしたね。

13周目残り3km地点で畑中勇介(チーム右京)が5人の先頭集団からアタックする13周目残り3km地点で畑中勇介(チーム右京)が5人の先頭集団からアタックする photo:Hideaki TAKAGIそれにしても逃げたタイミングは早いと思いました

そうですね。大分で新城選手が独走で勝った時はコースが特殊だったし、集団も無くなっていましたが、今回は集団が残っていましたし、あのコースでああいう勝ち方をするとは考えていませんでした。でも、全日本に限らないことですが、走りながら勝てる方法は常に考えていました。

5人で先行した時は、そこから行ける選手と行けない選手に分かれていて、踏んでないのに集団との差が1分弱ついていて、この1分は重要だな、と考えました。ベストな選択だったと思います。

「全日本でなければあの逃げは決まらなかった」という見方もありますが?

確かに全日本は独特なレースですが、僕はそれすらも考えていて、「某チームはまとまりが無い」とか、「某チームはアシストが終わってる」とか、そこまで考えて「全日本だから」という走りをした結果勝てたと思っています。

妻・絹代さんとこの日誕生日を迎えた娘と抱き合って喜ぶ畑中勇介(チーム右京)妻・絹代さんとこの日誕生日を迎えた娘と抱き合って喜ぶ畑中勇介(チーム右京) photo: Yuichiro Hosodaゴール後すぐに家族のもとへ行きましたね

いつもすごく迷惑をかけていますからね。ここまで僕のことを理解してくれているのは珍しいと思うし、ちょうど娘が4歳の誕生日で、4歳なりに「パパが1番になった」ということをわかってくれたみたいで、喜んでました。ベストなタイミングだったし、我ながら持ってるな、と(笑)。

娘は小さいから、保育園で風邪などの菌をもらってくることも多いので、選手としては体調管理がとても重要なので会えなくなることも多いんです。全日本があった6月は、全日本の時とイベント会場で1度会ったくらいでしたね。めっちゃ寂しいですけれど、応援してくれるのでそれに応えなければってのはあります。

4月のツール・ド・ロンボクで、メイン集団の先頭を引く徳田優4月のツール・ド・ロンボクで、メイン集団の先頭を引く徳田優 photo:Satoru Katoチームの中では最年長になりますが、若手選手はどうですか?

大卒の選手はプロから見れば知識と経験が足りていないけれど、でも走れるんですよね。レースの常識から外れたことをやったりしますが、そこを修正していけばもっと強くなれると感じてますし、それを教えるのは好きでやってます。

今年は海外レースがメインでしたが、思ったこと、感じたことは?

チームとしてはスペイン人が強かったというのはあるけれど、彼等だけでは出来なかったレースもあって、ラインレースでは日本人がけっこう活躍してるんです。優勝した選手ばかりが目立ちますが、徳田優とか、若いなりに頑張ってますし、バランスは良いと思います。

全日本チャンプジャージの畑中勇介(チーム右京)のアタック全日本チャンプジャージの畑中勇介(チーム右京)のアタック photo:Makoto.AYANOシマノレーシング時代はオランダとベルギーのレースを走りましたが、それらに比べてスペインのレースは日本人でもチャレンジ出来る、強くなれるチャンスがあると感じました。ブエルタは別ですけれど、スペインの1、2カテゴリーのレースって逃げが決まって、トイレ休憩があって、追いかけて、って古いやり方だと思うんです。今はトイレ休憩で一斉に停まることは少ないし、ハイスピードになって逃げ切りが少ないと言われているので、スペインのレースは勉強するには良いレースだな、というイメージがあります。

アジアとヨーロッパなど、国や地域による得意・不得意はありますか?

アジアツアーのレースは体調を崩すことが多いのでダメですね。身体が弱いので、自分のペースをつかめないと狂ってしまうんです。でも今年はツアー・オブ・チャイナとか、アジアツアーで2回くらい逃げ切りのチャンスがあったので、行けると思っています。

「32歳でもまだ行けると思っています」「32歳でもまだ行けると思っています」 photo:Makoto AYANO
年齢的に工夫している事はありますか?

知識と経験が増えたので、いろんなことが楽に出来るようになっている気がします。スペインに行った時も街のマッサージ屋を見つけに行ったり、練習コースを知っているので悩まずに集中出来るとか。スペインのバルに寄ったり、フランスのパン屋に寄ったり、そういうのにも慣れて、ハンガーノックにならずに練習出来る。細かいことだけれど、積み重なると大きいですからね。

32歳でもまだ行けると思っています。むしろ2つ年上に強い先輩たちがいますから、あの人達がやってるなら自分なんて全然問題無いです。まだまだ進化できると思っています。

来年の目標は?

まずは全日本選手権です。UCIレースなら何でも、全部狙っていきたい。もちろん、その時の調子もあるので落とさなければいけないレースも出てくるだろうけれど、ポイントを取っていきたいと思っています。



片山右京監督「ユーロスポーツの中継でチーム名を連呼されたのは快挙」

片山右京監督片山右京監督 photo:Makoto AYANO
2017年チーム右京の戦績の一部2017年チーム右京の戦績の一部 photo:Makoto AYANO2017年は成果が大きい年でしたね

そうですね。UCIアジアツアーはチームランキング1位で、個人でもベンジャミ(プラデス)が1位になって、畑中が全日本で優勝して、チーム右京としてはモータースポーツのGTでも優勝して、最高の1年でした。アジアツアーの目標は3位以内でしたがトップになれたし、畑中が全日本で優勝したのは泣けましたね。最後に逃げてる時は「おい、やめとけ!早いぞ!!」って(笑)。でもあの勝ち方はカッコ良かったですね。

今年は海外レースをメインに活動されましたが、得られたことはありますか?

僕がF1を目指した時も同じでしたが、グランツールを目指すからには本場に行かないとダメだと思うので、それならアジアでは勝てるようにならないといけない。日本人の若手にも経験してもらいたいというのもあって海外レースをメインに活動しました。

ジャパンカップではベンジャミン・プラデスが2位に入ったジャパンカップではベンジャミン・プラデスが2位に入った photo:Kei Tsujiでも案の定と言うか、ヨーロッパのレースではジョン(アベラストゥリ)が1勝しましたけれど、根本的なところではまったく歯が立たない。オスカル(プジョル)も台湾KOMチャレンジみたいに「本物」が来ちゃうとついて行けない(笑)。グランツールに出てるような人達が相手だから当たり前ですけれど、それを見て力の差をはっきり認識できたので、「よし、わかった!」というのはあります。

ネイサン(アール)や、ジョンがプロコンチームに引き抜かれてしまったけれど、業界的には良かったと思っているし、彼らのお陰でチャンネルが広がったし、それは国内レースだけでは出来なかったと思っています。

個人的には、ユーロスポーツ(ヨーロッパのスポーツ専門チャンネル)の中継でチーム名を連呼してもらえたことは快挙だと思っています。

ツール・ド・フィリピン、ツール・ド・台湾のトロフィーツール・ド・フィリピン、ツール・ド・台湾のトロフィー photo:Makoto AYANO来年も海外レースメインの活動方針ですか?

海外レースメインでやります。アジアツアーはインビテーション(前年の上位3チームがレース主催者から受けることが出来る招待枠)を受けられる順位を維持できれば良いのですが、やはりヨーロッパで勝てないといけないので、今年以上に力をいれていきたいと考えてます。ここからが大変だし、先を想像した時にもっと大変だと感じています。

ツール・ド・フランス出場という目標に向けては?

もう再来年の準備に入っていて、2019年にプロコンチネンタルチーム昇格、2020年にはグランツールに出られるものを作っていきたい。何を言ってるんだと思われて恐縮ですけれど、自分の中ではプランは完璧に出来ています。

でもここから先は個人とか単独では出来ないところもあって、日本国籍のワールドツアーチームを作ろうとするとそれなりの予算とか企業体とか必要になってきます。

オーバーな話になりますが、日本ではまだヨーロッパのように地に足をつけた自転車文化と歴史があるわけではないし、むしろ自転車が悪者にされてしまう側面もある。プロ野球やサッカーと同じような土俵に上がって初めて自転車がビジネスツールとして活用できると説得出来る材料になる。そのためにも自転車の地位を高めていかなければならないんです。それを僕ひとりが思っているだけではしょうがないから、公の場に出て声を大にして言っていかないといけないと思っているし、水面下でも色々と準備は進めています。

2017シーズン報告会で選手とともに立つ片山右京監督2017シーズン報告会で選手とともに立つ片山右京監督 photo:Makoto AYANO今、足りないと感じている点はどんなことですか?

まずお金ですね。変な話ですが、仮に予算があってヨーロッパに行ってボロ負けしてくるよりは、チームランキング35位前後の今ぐらいの位置にいてHCクラスのレースやジャパンカップのようなレースで格上のチームをやっつけて、「何だあのチームは?」って言われる状態でいる方がお金はかからないし、いろんな意味でハードルは低いんです。でも上を目指すならそうも言ってられないから、HCやジャパンカップでも絶対勝てるように、全力で気合いを入れ直さないといけないと思っています。

来年は横塚浩平ら若手3選手が加入する来年は横塚浩平ら若手3選手が加入する photo:Satoru Kato若手選手の育成についてはいかがですか?

来季は横塚君、吉岡君、小石君らが入って日本人は9人になります。アジアツアーの2クラスのレースなどは、勝っても負けても良いから若手が場慣れするために走ってもらおうと考えています。オリンピックも控えてますし、若手を育てて根幹を厚くしないといけないのは日本全体の緊急の課題でもありますが、そこはウチだけじゃなくて「みんな一つになりましょう」と思っている部分です。

来年の目標は?

ヨーロッパのHCとか1クラスとか、国営放送の中継があるようなちゃんとしたレースでテレビに映してもらえるような活躍をして、勝てるようになること。そしてジャパンカップなどで安定して良いところを見せられるようにする土台を作ることです。

interview: Satoru Kato

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