2017/11/25(土) - 10:22
2018年モデルでフルモデルチェンジを果たしたトレックのカーボンシクロクロスバイク「Boone(ブーン)」をインプレッション。新たにフロントにもIsoSpeedを搭載するとともに、よりシクロクロスに最適化されたフレーム形状や最新規格を盛り込んで登場している。
ロードバイクやMTBなど、各カテゴリーのレースシーンにおいて、確固たるポジションを築いている北米の総合バイクブランド、トレック。あらゆる分野において、トップレベルのテクノロジーを駆使したレースバイクを送り出すトレックが同社の持つ最高の技術を注ぎ込んだシクロクロスレーシングが今回紹介する「Boone」だ。
アメリカ・ウィスコンシン州ウォータールーにあるトレック本社裏には広大な丘陵地が広がっており、MTBやシクロクロスバイクにてトレイルライドを嗜むのが社員の日課となっているという。オフロードレースへのいれこみようは「TREK CX Cup」と名付けたレースを毎年本社裏にて開催するほど。そして今年は遂にワールドカップまで誘致するに至っている(レース記事はこちら)。
このトレイルは製品開発にも活かされており、すぐに走り出せるアクセスの良いテスト環境として、素早い開発の原動力となっている。加えて、トレックのシクロクロスバイク開発には同競技のレジェンドで昨年現役を引退したスヴェン・ネイスや、女子ワールドカップ覇者のケイティ・コンプトンも関わっており、強力なフィードバックを受けられるのも同社の強みだろう。
他社に対して大きなアドバンテージを持った開発体制の中、トレックブランド初のレーシングCXバイクとして2014年にデビューしたのが「Boone(ブーン)」である。それまではトレック傘下にあったゲイリー・フィッシャーとのコラボで生まれた「Cronus CX」がカーボンCXバイクのラインを担っていたため、Booneの誕生によってレーシングシクロクロスの世界へ本格的な参入を果たしたといえる。
破竹の勢いで勝利を重ねていた当時のスヴェン・ネイスに”完璧”と言わせたBooneが、ついに初のフルモデルチェンジを果たすこととなった。もっとも大きな変更点はトレックの誇るエンデュランスロード「Domane(ドマーネ)」のテクノロジーを引き継ぎ、前モデルではリアのみに搭載されていたマイクロサスペンション機構である「IsoSpeed」をヘッドチューブにも搭載したこと。加えて、フレーム形状は細部にわたってブラッシュアップされ、より速くよりコントローラブルな1台に仕上がっている。
前後方向に柔軟性を持たせる機構を盛り込み、しなりを発生させることで振動吸収性を高めるトレック独自のテクノロジー・IsoSpeed。元々はクラシックレースでのパヴェ区間を速く快適にこなすため開発された技術であるが、シクロクロスでのオフロード走行にも十分に効果を発揮することは前作の残した成績が証明している。路面からの振動をいなすことでバイクが安定し、より操作性の高い走行性能を獲得している。
度重なるテストを経てシクロクロスに最適化された専用のジオメトリーを採用する点も大きな特徴。シクロクロスレースで避けては通れない「担ぎ」区間に配慮し、トップチューブ長やシートチューブ角を細かく調整。フロントトライアングルをやや大きくデザインすることで、肩に乗せやすい設計となっている。もちろんトップチューブ自体も担いだり持ち上げたりを容易にする扁平形状へ最適化されている。
フレーム素材は前作から変更無くトレックオリジナルの600シリーズOCLVカーボンを使用。数あるシクロクロスバイクの中でも最軽量の部類まで軽さを追求しつつ、プロライダーに不満のない剛性も両立されている。フレーム形状は前作を踏襲しつつ、新たにディスクブレーキ台座のフラットマウント化と前後スルーアクスルへと対応している。
泥はけの良い大きなタイヤクリアランスやメンテナンス性に考慮したインターナルケーブルルーティングに加え、油圧ディスクブレーキかつフロントシングルのスラムRival 1コンポーネントがアセンブルされることで、より昨今のトレンドに沿ったレースレディな一台としてまとめられた。チェーンキーパーも標準装備され、激しいレースでもチェーンの脱落やシフティングのトラブルを防いでくれるだろう。
完成車のみのラインアップとなり、グレーに水色の差し色が入ったワンカラーで展開される。今回は茨城県のプロショプ「オンザロード」のマネージャーであり、自身もAJOCCトップカテゴリーのC1を走る影山善明さんにインプレッションをしていただいた。
― インプレッション
「全方向に正統進化を遂げたシクロクロスバイクの完成形」影山善明(オンザロード)
Booneは2014年に登場した際に購入し、現在まで約3年間ほどレースやトレーニングの相棒として愛用してきました。今回フルモデルチェンジを果たしましたが、見た目にも重量的にも大きな変化はありません。ですが、実際に乗ってみると挙動の軽さにはびっくりします。見た目以上に中身が全く別物になったかのように進化していると感じます。
今回フロントにもIsoSpeedが搭載されたことで現行のDomaneと同じ構造を有する事となり、バイク全体がマイクロサスペンション効果を持っているかのような印象を受けます。フロントのIsoSpeedは見た目も主張が激しいものではないですし、乗って不安定な感触もないため完成度の高さが窺えます。
リアのIsoSpeedと合わせてフレーム全体でフラットに振動吸収してくれているような印象を受けますし、それに伴いバイクのトラクションの掛かりも良くなっているので反応性も向上しています。まさに正統進化というべきモデルチェンジと言えるでしょう。前作を購入した私からすると、ズルいと感じるほどに性能向上していますね。
ジオメトリーは前作とあまり変化はなく、完成された設計だと感じますね。Booneに慣れてしまうと他社のシクロクロスバイクが扱いづらくなるほどです。例えばシクロクロスレースではかなり追い込んだ状態でタイトターンに突っ込んでいかなければならない状況もありますが、そんな時にブレーキングが遅れて強引にコーナリングする際もスッと曲がってくれる印象です。
タイトターンでもリカバリーし易いですし、コーナーを踏みながら曲がっていくような場面でもバイク側が自然と導いてくれるようなアシスト感があって、まさにシクロクロスに最適化されたバイクだと感じさせてくれます。他社のバイクとジオメトリーだけを比べるとセオリー通りの設計ではないことが分かるのですが、乗ってみると自身の手足のように動いてくれる操作性の良さがこのバイクの持ち味です。
トレックはカーボンレイアップがどう変わったなど、テクニカルな情報をあまり語らないメーカーですので、カタログを眺めただけではどうアップデートされたか把握しづらいですよね。ただこのバイクに関して言えば、実際に乗り比べてみれば誰もが一発でその進化を感じ取れるほど明確な性能向上を果たしています。
また、細かいところまで配慮が行き届いているのもシクロクロスという競技に対してトレックが真摯に向き合っていると感じさせられます。例えば、チェーンキーパーが標準で装備されること。最近はフロントシングルが主流になっていますが、このパーツがあるだけで掃除のときもチェーンが脱落しないですし、車に載せてレースに行くときもチェーンが暴れないので、非常に利便性は高いですね。
この状態でもほぼ完ぺきなレーシングスペックだと思いますが、完成車の状態から交換したいパーツを強いて挙げれば、ホイールでしょうか。もし、ホイールに10万円ほど投資できれば最高のシクロクロスバイクになってくれると思います。好みの問題もありますが、ハンドルもサドルも標準装備のスペックで全く問題ないですね。ホイールをアップグレードするだけで車重も軽くなりますし、よりハイレベルなレースにも対応してくれると思います。
前作のBooneに乗ったときも素晴らしい完成度だと感じましたが、今作はそれをさらに越えてきましたね。ワールドカップでも好成績を収めていますし、あのスヴェン・ネイスがベタ褒めしていることでも間違いは無いでしょう。シクロクロスレーシングバイクとして是非これでレースに出たいと思わせる1台です。
トレック Boone 5 Disc
フレーム素材:600シリーズOCLVカーボン
フォーク素材:フルカーボン
コンポーネント:スラムRival(1×11s)
BB:BB90
サイズ:47、50、52、54、56、58、61
重 量:8.39kg(56サイズ)
カラー:Solid Charcoal/California Sky Blue
価 格:362,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
影山善明(オンザロード)
茨城県に2店舗を展開するトレックコンセプトストア「オンザロード」のマネージャーを務める。「誠実なサービス」がモットー。学生時代にはインカレロードにも出場し、MTBクロスカントリーではエリート選手として長く活動するなど、その自転車経験は幅広い。現在は茨城シクロクロスのオーガナイザーも務め、自転車の普及発展にも取り組んでいる。
CWレコメンドショップページ
オンザロード HP
text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
ロードバイクやMTBなど、各カテゴリーのレースシーンにおいて、確固たるポジションを築いている北米の総合バイクブランド、トレック。あらゆる分野において、トップレベルのテクノロジーを駆使したレースバイクを送り出すトレックが同社の持つ最高の技術を注ぎ込んだシクロクロスレーシングが今回紹介する「Boone」だ。
アメリカ・ウィスコンシン州ウォータールーにあるトレック本社裏には広大な丘陵地が広がっており、MTBやシクロクロスバイクにてトレイルライドを嗜むのが社員の日課となっているという。オフロードレースへのいれこみようは「TREK CX Cup」と名付けたレースを毎年本社裏にて開催するほど。そして今年は遂にワールドカップまで誘致するに至っている(レース記事はこちら)。
このトレイルは製品開発にも活かされており、すぐに走り出せるアクセスの良いテスト環境として、素早い開発の原動力となっている。加えて、トレックのシクロクロスバイク開発には同競技のレジェンドで昨年現役を引退したスヴェン・ネイスや、女子ワールドカップ覇者のケイティ・コンプトンも関わっており、強力なフィードバックを受けられるのも同社の強みだろう。
他社に対して大きなアドバンテージを持った開発体制の中、トレックブランド初のレーシングCXバイクとして2014年にデビューしたのが「Boone(ブーン)」である。それまではトレック傘下にあったゲイリー・フィッシャーとのコラボで生まれた「Cronus CX」がカーボンCXバイクのラインを担っていたため、Booneの誕生によってレーシングシクロクロスの世界へ本格的な参入を果たしたといえる。
破竹の勢いで勝利を重ねていた当時のスヴェン・ネイスに”完璧”と言わせたBooneが、ついに初のフルモデルチェンジを果たすこととなった。もっとも大きな変更点はトレックの誇るエンデュランスロード「Domane(ドマーネ)」のテクノロジーを引き継ぎ、前モデルではリアのみに搭載されていたマイクロサスペンション機構である「IsoSpeed」をヘッドチューブにも搭載したこと。加えて、フレーム形状は細部にわたってブラッシュアップされ、より速くよりコントローラブルな1台に仕上がっている。
前後方向に柔軟性を持たせる機構を盛り込み、しなりを発生させることで振動吸収性を高めるトレック独自のテクノロジー・IsoSpeed。元々はクラシックレースでのパヴェ区間を速く快適にこなすため開発された技術であるが、シクロクロスでのオフロード走行にも十分に効果を発揮することは前作の残した成績が証明している。路面からの振動をいなすことでバイクが安定し、より操作性の高い走行性能を獲得している。
度重なるテストを経てシクロクロスに最適化された専用のジオメトリーを採用する点も大きな特徴。シクロクロスレースで避けては通れない「担ぎ」区間に配慮し、トップチューブ長やシートチューブ角を細かく調整。フロントトライアングルをやや大きくデザインすることで、肩に乗せやすい設計となっている。もちろんトップチューブ自体も担いだり持ち上げたりを容易にする扁平形状へ最適化されている。
フレーム素材は前作から変更無くトレックオリジナルの600シリーズOCLVカーボンを使用。数あるシクロクロスバイクの中でも最軽量の部類まで軽さを追求しつつ、プロライダーに不満のない剛性も両立されている。フレーム形状は前作を踏襲しつつ、新たにディスクブレーキ台座のフラットマウント化と前後スルーアクスルへと対応している。
泥はけの良い大きなタイヤクリアランスやメンテナンス性に考慮したインターナルケーブルルーティングに加え、油圧ディスクブレーキかつフロントシングルのスラムRival 1コンポーネントがアセンブルされることで、より昨今のトレンドに沿ったレースレディな一台としてまとめられた。チェーンキーパーも標準装備され、激しいレースでもチェーンの脱落やシフティングのトラブルを防いでくれるだろう。
完成車のみのラインアップとなり、グレーに水色の差し色が入ったワンカラーで展開される。今回は茨城県のプロショプ「オンザロード」のマネージャーであり、自身もAJOCCトップカテゴリーのC1を走る影山善明さんにインプレッションをしていただいた。
― インプレッション
「全方向に正統進化を遂げたシクロクロスバイクの完成形」影山善明(オンザロード)
Booneは2014年に登場した際に購入し、現在まで約3年間ほどレースやトレーニングの相棒として愛用してきました。今回フルモデルチェンジを果たしましたが、見た目にも重量的にも大きな変化はありません。ですが、実際に乗ってみると挙動の軽さにはびっくりします。見た目以上に中身が全く別物になったかのように進化していると感じます。
今回フロントにもIsoSpeedが搭載されたことで現行のDomaneと同じ構造を有する事となり、バイク全体がマイクロサスペンション効果を持っているかのような印象を受けます。フロントのIsoSpeedは見た目も主張が激しいものではないですし、乗って不安定な感触もないため完成度の高さが窺えます。
リアのIsoSpeedと合わせてフレーム全体でフラットに振動吸収してくれているような印象を受けますし、それに伴いバイクのトラクションの掛かりも良くなっているので反応性も向上しています。まさに正統進化というべきモデルチェンジと言えるでしょう。前作を購入した私からすると、ズルいと感じるほどに性能向上していますね。
ジオメトリーは前作とあまり変化はなく、完成された設計だと感じますね。Booneに慣れてしまうと他社のシクロクロスバイクが扱いづらくなるほどです。例えばシクロクロスレースではかなり追い込んだ状態でタイトターンに突っ込んでいかなければならない状況もありますが、そんな時にブレーキングが遅れて強引にコーナリングする際もスッと曲がってくれる印象です。
タイトターンでもリカバリーし易いですし、コーナーを踏みながら曲がっていくような場面でもバイク側が自然と導いてくれるようなアシスト感があって、まさにシクロクロスに最適化されたバイクだと感じさせてくれます。他社のバイクとジオメトリーだけを比べるとセオリー通りの設計ではないことが分かるのですが、乗ってみると自身の手足のように動いてくれる操作性の良さがこのバイクの持ち味です。
トレックはカーボンレイアップがどう変わったなど、テクニカルな情報をあまり語らないメーカーですので、カタログを眺めただけではどうアップデートされたか把握しづらいですよね。ただこのバイクに関して言えば、実際に乗り比べてみれば誰もが一発でその進化を感じ取れるほど明確な性能向上を果たしています。
また、細かいところまで配慮が行き届いているのもシクロクロスという競技に対してトレックが真摯に向き合っていると感じさせられます。例えば、チェーンキーパーが標準で装備されること。最近はフロントシングルが主流になっていますが、このパーツがあるだけで掃除のときもチェーンが脱落しないですし、車に載せてレースに行くときもチェーンが暴れないので、非常に利便性は高いですね。
この状態でもほぼ完ぺきなレーシングスペックだと思いますが、完成車の状態から交換したいパーツを強いて挙げれば、ホイールでしょうか。もし、ホイールに10万円ほど投資できれば最高のシクロクロスバイクになってくれると思います。好みの問題もありますが、ハンドルもサドルも標準装備のスペックで全く問題ないですね。ホイールをアップグレードするだけで車重も軽くなりますし、よりハイレベルなレースにも対応してくれると思います。
前作のBooneに乗ったときも素晴らしい完成度だと感じましたが、今作はそれをさらに越えてきましたね。ワールドカップでも好成績を収めていますし、あのスヴェン・ネイスがベタ褒めしていることでも間違いは無いでしょう。シクロクロスレーシングバイクとして是非これでレースに出たいと思わせる1台です。
トレック Boone 5 Disc
フレーム素材:600シリーズOCLVカーボン
フォーク素材:フルカーボン
コンポーネント:スラムRival(1×11s)
BB:BB90
サイズ:47、50、52、54、56、58、61
重 量:8.39kg(56サイズ)
カラー:Solid Charcoal/California Sky Blue
価 格:362,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
影山善明(オンザロード)
茨城県に2店舗を展開するトレックコンセプトストア「オンザロード」のマネージャーを務める。「誠実なサービス」がモットー。学生時代にはインカレロードにも出場し、MTBクロスカントリーではエリート選手として長く活動するなど、その自転車経験は幅広い。現在は茨城シクロクロスのオーガナイザーも務め、自転車の普及発展にも取り組んでいる。
CWレコメンドショップページ
オンザロード HP
text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
リンク
Amazon.co.jp