2010/01/16(土) - 07:38
オランダに本拠地を構えるVan Nicholas(ヴァンニコラス)は、チタンバイクを専業とするブランドだ。ラインアップを見ると、ロードバイクのみならずMTB、ツーリングバイク、クロスバイク、トラックバイク、TTバイク、シクロクロスなど実に多彩だ。
フレーム製作には、地元メーカーから仕入れた3/2.5チタンチューブを主に用いている。これは冷間引き抜きで作られているシームレスチューブで、非常に手間の掛かった素材だ。さらにエアロスペースグレードという最上級のお墨付きを得ており、これ以上ないクオリティのチューブと言えよう。
チタンは非常に硬い素材で、無理に力をかけると焼き付きという固着現象を起こしてしまうため加工が難しい。しかしこのゼファーはトップチューブを筆頭に大胆なつぶし加工やテーパー加工が施されている。これだけでもヴァンニコラスというメーカーが優秀なフレームビルダーであることをうかがい知ることができる。
リヤエンドも立体的な造形で機能と美を兼ね備えている。クイックレバーもきちんと納められるよう造作される、作り手の細かい配慮がうれしい。チタンフレーム独自のラグジュアリー性が、こんな所でも発揮されている。
コンパクトな後三角、とくにシートステーをトップチューブから下げた位置で溶接する工作は、かつてのイタリアの名工ロッシンを彷彿とさせる。これは剛性を上げるための仕様だ。
ゼファー(ZEPHYR)は、ヴァンニコラスが「セミコンパクトデザイン」と名付けているトップチューブがスローピングした設計で、トラディショナルな手法に捕らわれない新しい時代のチタンフレームを造り出している。かつてチタンの専業メーカーだった会社がカーボンフレームをフラッグシップに据える現代で、自転車マニアを喜ばせてくれる様々な工作を行っている。
ジオメトリーで全てをはかることはできないが、50~60cmまでのフレームサイズの中に、最近ではほとんどのメーカーがワンサイズで共用しているチェーンステーレングスが、40.5、41、41.2、41.5、41.8という細かさで用意されている。手間を惜しまず、各フレームサイズでしっかりとジオメトリーを最適化している証だろう。
ゼファーの位置づけは、同社の他のモデルと比べると、「レクリエーションやツーリングに適する」とメーカーはしている。確かにジオメトリーを比べてみると、ヘッドチューブは15mm長めで、ホイールベースも12mmほど長い(サイズ52の場合)。傾向として安定志向に振られている。
そしてホームページに記されたスペックが目を見張る。チューブ1本1本の太さ、加工方法が事細かに記されている。メーカーの責任感ゆえかもしれないが、製作者のこだわりがひしひしと伝わる。
あらゆる部分にこだわりを持つヴァンニコラス。本国ではライフタイム・ワランティ(生涯補償)をつけるほどの自信の持ちようだ。このこだわりはこの価格を払うのに値するだろうか?
細部の溶接ビートの美しさからも見て取れる、神経質なまでに丁寧な造りに拘っているこのチタンバイクを、テストライダー両氏はどう評価するのだろうか?早速、インプレッションをお届けしよう。
― インプレッション
「チタンフレームならではの格好良さを体感してほしい」 鈴木祐一(Rise Ride)
代理店の資料と実際の外観から、長距離バイクだと想像していた。代理店も謳っているとおり、細いシートステー(17mm)の外観から、レベルの高いロングライド向けの、乗り心地の良い、上質な、長い間乗っても疲れないバイクというイメージを持って走り出した。
しかしこれがまったく予想と違った。自分の想像よりもずっと硬くて、芯がしっかり残っているフレームだ。たわみなどが無いわけではない。数ある自転車と比べても、ウイップ直前のたわみ感や路面からくる衝撃に対するバネ感などが、全体的にレーシングなジャンルに分類されるほど、このゼファーは硬く芯が通っているフレームだ。
このバイクを買うときに、外観やスペックから乗り味を想像すると思うが、想像するよりもレーシーな味付けであると踏まえてほしい。
バランスはすごくいい。金属フレームにある重量感や、ダッシュをしたときのねじれ剛性などはとても高いレベル。硬さの中にも統一感がある。その部分がすごくいい!。
レイノルズ・OUZOカーボンフォークはかなり剛性の高いフォークなので、フレームとベストマッチと言っていいほどの相性で褒められる部分だ。振動吸収性に関しては、もともと硬いので、フレーム自体が持つ吸収性は低い。
金属のフレームなので加速感などは重量にも左右され、やや鈍いと感じる。レーシング寄りではあるが、バリバリの最新レーサーみたいな加速感はない。レーサーとして突き詰めていくと、他のバイクとはライバルになれない重量感があることは否めない。そこをどうにかして使っていけばいいだろう。
チタンフレームがフォーク込み30万円で買えるという割安感は、他社のチタンフレームと比較すれば大きなアドバンテージになるだろう。そして、乗っている人が少ない自転車なので、所有欲を大いに満たしてくれる点はいいところだ。
試乗前のイメージと乗った後では得られるフィーリングが違ったが、バランスがいいバイクで、一本筋が通っているキャラクターがあったので、これはこれでありかなと思える1台だった。
「チタンとしては剛性レベルが高く、キビキビとした加速感を持つ」 浅見和洋(なるしまフレンド)
チタンフレームでコンフォートジオメトリーということもあって、それを意識して乗ると、予想に反して意外にスパルタンな部分が見受けられる。なぜかというと、チタンフレームとしては剛性が高く、キビキビ加速してくれるからだ。
ヴァンニコラスというメーカーが日本国内ではほとんど認知されていないということもあって、他人とかぶるのは嫌だとか、レアなバイクを探しているとかであれば、選択肢の1つとしてとてもいいのではないかと思う。
チタンフレームとしては他社製品と比べて手ごろな価格に設定されている。極端に安いというワケではないが、良心的だ。
そしてサイズが比較的広く選べるのもいい。特に大型サイズもしっかりラインナップされているので、より幅広い人に受け入れられるのではないだろうか。日本人でも欧米人並みに大柄な人はいるが、そういう人にとって最近は高品質のバイクの選択肢は意外なほど少ないので、選択肢のひとつになるだろう。
チタンと云う素材は殆ど劣化する心配が無いほど、その素材寿命は申し分ない。それだけにチタンフレーム愛好家の選択眼は厳しいのだが、ヴァンニコラスのチタンフレームは、それらの厳しい眼にも十二分に耐えうるだけの素性を持っていると感じた。
ヴァンニコラス ZEPHYR
フレームマテリアル:ヴァンニコラス カスタムドロウン3AL/2.5V コールドワークドチタニウム
フォーク:レイノルズ・オウゾプロ
フレームサイズ:50、52、54、56、58、60、62
カラー:ハンドメイド・ポリッシュ、クリアコート仕上げ
希望小売価格 :フレームセット:¥305,000
カンパニョーロ・アテナ仕様:¥525,000
シマノ・アルテグラ仕様:¥475,000
取り扱いおよび問い合わせはMBK代理店のサイクルラインズへ。
鈴木祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
浅見和洋(なるしまフレンド)
プロショップ「なるしまフレンド原宿店」スタッフ。身長175cm、体重65kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質は厳しい上りがあるコースでの活躍が目立つクライマータイプだ。ダンシングでパワフルに走るのが得意。最近の嗜好は日帰りロングランにあり、例えば東京から伊豆といった、距離にして300kmオーバーをクラブ員らと楽しんでいる。
なるしまフレンド
text:吉本 司
photo&edit:綾野 真
フレーム製作には、地元メーカーから仕入れた3/2.5チタンチューブを主に用いている。これは冷間引き抜きで作られているシームレスチューブで、非常に手間の掛かった素材だ。さらにエアロスペースグレードという最上級のお墨付きを得ており、これ以上ないクオリティのチューブと言えよう。
チタンは非常に硬い素材で、無理に力をかけると焼き付きという固着現象を起こしてしまうため加工が難しい。しかしこのゼファーはトップチューブを筆頭に大胆なつぶし加工やテーパー加工が施されている。これだけでもヴァンニコラスというメーカーが優秀なフレームビルダーであることをうかがい知ることができる。
リヤエンドも立体的な造形で機能と美を兼ね備えている。クイックレバーもきちんと納められるよう造作される、作り手の細かい配慮がうれしい。チタンフレーム独自のラグジュアリー性が、こんな所でも発揮されている。
コンパクトな後三角、とくにシートステーをトップチューブから下げた位置で溶接する工作は、かつてのイタリアの名工ロッシンを彷彿とさせる。これは剛性を上げるための仕様だ。
ゼファー(ZEPHYR)は、ヴァンニコラスが「セミコンパクトデザイン」と名付けているトップチューブがスローピングした設計で、トラディショナルな手法に捕らわれない新しい時代のチタンフレームを造り出している。かつてチタンの専業メーカーだった会社がカーボンフレームをフラッグシップに据える現代で、自転車マニアを喜ばせてくれる様々な工作を行っている。
ジオメトリーで全てをはかることはできないが、50~60cmまでのフレームサイズの中に、最近ではほとんどのメーカーがワンサイズで共用しているチェーンステーレングスが、40.5、41、41.2、41.5、41.8という細かさで用意されている。手間を惜しまず、各フレームサイズでしっかりとジオメトリーを最適化している証だろう。
ゼファーの位置づけは、同社の他のモデルと比べると、「レクリエーションやツーリングに適する」とメーカーはしている。確かにジオメトリーを比べてみると、ヘッドチューブは15mm長めで、ホイールベースも12mmほど長い(サイズ52の場合)。傾向として安定志向に振られている。
そしてホームページに記されたスペックが目を見張る。チューブ1本1本の太さ、加工方法が事細かに記されている。メーカーの責任感ゆえかもしれないが、製作者のこだわりがひしひしと伝わる。
あらゆる部分にこだわりを持つヴァンニコラス。本国ではライフタイム・ワランティ(生涯補償)をつけるほどの自信の持ちようだ。このこだわりはこの価格を払うのに値するだろうか?
細部の溶接ビートの美しさからも見て取れる、神経質なまでに丁寧な造りに拘っているこのチタンバイクを、テストライダー両氏はどう評価するのだろうか?早速、インプレッションをお届けしよう。
― インプレッション
「チタンフレームならではの格好良さを体感してほしい」 鈴木祐一(Rise Ride)
代理店の資料と実際の外観から、長距離バイクだと想像していた。代理店も謳っているとおり、細いシートステー(17mm)の外観から、レベルの高いロングライド向けの、乗り心地の良い、上質な、長い間乗っても疲れないバイクというイメージを持って走り出した。
しかしこれがまったく予想と違った。自分の想像よりもずっと硬くて、芯がしっかり残っているフレームだ。たわみなどが無いわけではない。数ある自転車と比べても、ウイップ直前のたわみ感や路面からくる衝撃に対するバネ感などが、全体的にレーシングなジャンルに分類されるほど、このゼファーは硬く芯が通っているフレームだ。
このバイクを買うときに、外観やスペックから乗り味を想像すると思うが、想像するよりもレーシーな味付けであると踏まえてほしい。
バランスはすごくいい。金属フレームにある重量感や、ダッシュをしたときのねじれ剛性などはとても高いレベル。硬さの中にも統一感がある。その部分がすごくいい!。
レイノルズ・OUZOカーボンフォークはかなり剛性の高いフォークなので、フレームとベストマッチと言っていいほどの相性で褒められる部分だ。振動吸収性に関しては、もともと硬いので、フレーム自体が持つ吸収性は低い。
金属のフレームなので加速感などは重量にも左右され、やや鈍いと感じる。レーシング寄りではあるが、バリバリの最新レーサーみたいな加速感はない。レーサーとして突き詰めていくと、他のバイクとはライバルになれない重量感があることは否めない。そこをどうにかして使っていけばいいだろう。
チタンフレームがフォーク込み30万円で買えるという割安感は、他社のチタンフレームと比較すれば大きなアドバンテージになるだろう。そして、乗っている人が少ない自転車なので、所有欲を大いに満たしてくれる点はいいところだ。
試乗前のイメージと乗った後では得られるフィーリングが違ったが、バランスがいいバイクで、一本筋が通っているキャラクターがあったので、これはこれでありかなと思える1台だった。
「チタンとしては剛性レベルが高く、キビキビとした加速感を持つ」 浅見和洋(なるしまフレンド)
チタンフレームでコンフォートジオメトリーということもあって、それを意識して乗ると、予想に反して意外にスパルタンな部分が見受けられる。なぜかというと、チタンフレームとしては剛性が高く、キビキビ加速してくれるからだ。
ヴァンニコラスというメーカーが日本国内ではほとんど認知されていないということもあって、他人とかぶるのは嫌だとか、レアなバイクを探しているとかであれば、選択肢の1つとしてとてもいいのではないかと思う。
チタンフレームとしては他社製品と比べて手ごろな価格に設定されている。極端に安いというワケではないが、良心的だ。
そしてサイズが比較的広く選べるのもいい。特に大型サイズもしっかりラインナップされているので、より幅広い人に受け入れられるのではないだろうか。日本人でも欧米人並みに大柄な人はいるが、そういう人にとって最近は高品質のバイクの選択肢は意外なほど少ないので、選択肢のひとつになるだろう。
チタンと云う素材は殆ど劣化する心配が無いほど、その素材寿命は申し分ない。それだけにチタンフレーム愛好家の選択眼は厳しいのだが、ヴァンニコラスのチタンフレームは、それらの厳しい眼にも十二分に耐えうるだけの素性を持っていると感じた。
ヴァンニコラス ZEPHYR
フレームマテリアル:ヴァンニコラス カスタムドロウン3AL/2.5V コールドワークドチタニウム
フォーク:レイノルズ・オウゾプロ
フレームサイズ:50、52、54、56、58、60、62
カラー:ハンドメイド・ポリッシュ、クリアコート仕上げ
希望小売価格 :フレームセット:¥305,000
カンパニョーロ・アテナ仕様:¥525,000
シマノ・アルテグラ仕様:¥475,000
取り扱いおよび問い合わせはMBK代理店のサイクルラインズへ。
インプレライダーのプロフィール
鈴木祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
浅見和洋(なるしまフレンド)
プロショップ「なるしまフレンド原宿店」スタッフ。身長175cm、体重65kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質は厳しい上りがあるコースでの活躍が目立つクライマータイプだ。ダンシングでパワフルに走るのが得意。最近の嗜好は日帰りロングランにあり、例えば東京から伊豆といった、距離にして300kmオーバーをクラブ員らと楽しんでいる。
なるしまフレンド
text:吉本 司
photo&edit:綾野 真
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