2010/03/10(水) - 01:04
フォーカスのハイエンドモデルであるイザルコは2010年フルモデルチェンジを行った。このイザルコ・エクストリームはドイツのトップチーム、チームミルラムがメインバイクとして採用するIZALCO MILRAMと同一スペックをもつプロバイクだ。
フレーム形状はまったく新しいデザインとなり、ハイモジュールカーボンを使用している。イザルコシリーズのなかではこのモデルとIZALCO MILRAMにだけ超ハイグレードのカーボンファイバーが用いられる。
大きく変わったのはヘッドチューブがテーパー化されたこと。下側のベアリング径が1・1/4インチと大口径化され、ステアリング性能を高めている。ケーブルは内蔵、つまりインターナルケーブル化されている。
ブレーキ、シフトワイヤー共に内蔵され、リアディレイラー用のケーブルルーティングは、これまでにあまりなかったチェーンステーの上部を経由する方法である。ワイヤートラブルを最小限に留め、ストレスがかからないよう、なるべく緩やかなアールを描くようなルーティングとなっている。
内蔵されるケーブルの収まる部分はチューブの表面上からも確認でき、ワイヤーの軌跡が描かれるその様はまるで鍛え上げられた脚に浮き上がる血管のよう。そのビジュアルは理屈抜きに美しい。
ボリュームあるダウンチューブから、BB30化されたハンガー、そしてチェーンステーに至るまでが大ボリューム化されており、よりパワフルな走りが期待できる。一方でシートステーは横方向に扁平したデザインを用い、振動吸収性を高める意図が読み取れる。剛性を保ちつつ、快適な乗り味を考慮するという最新の流行に乗った設計だ。
タイヤクリアランスは28mmとかなり大きい。コンフォート系の太めのタイヤを装着することもできる設計なので、レースだけでなく幅広い用途に対応することができるだろう。ただしタイヤの太さの解釈は各タイヤメーカーによって異なるため、太目のタイヤで使ってやろうという場合は現物合わせの確認が必要だが。
アッセンブルされるカーボンフォークは人気の3T社製”フンダプロ”である。縦方向にはしなやかに、横方向の剛性を高めたエアロブレード採用の最新フォークだ。
そしてサイズによってチューブ径を最適化するSSPS(STABLE STIFFNESS PER SIZE)コンセプトにより、サイズに関わらず剛性を一定化し、乗り味が変化しないよう調整されているという。
フォーカスはヨーロッパでももっとも革新的な自転車メーカーのひとつだ。最新の材料と製法を用いるが、アッセンブルや製造工程は古典的な方法を好んで行う。すべてはハンドメイドされ、ドイツで生産されるのだ。
この プロスペックにふさわしい研ぎ澄まされた躯体を持つハイエンドモデルを、元プロライダーの三船雅彦氏と分析能力に定評のある山本健一氏はどう評価したのだろうか? 早速、両氏によるインプレッションをお届けしよう。
― インプレッション
「プロツアーで勝利するためのフレーム」 三船雅彦
踏み込んだ瞬間、次元の違う完成度に声が出そうになる。
今年のモデルはシートピラーが従来のサイズ27.2mmに変更になり、そしてシートスティも相当細くなっていたので、体重があり出力の大きい自分が跨っても大丈夫なのか?と、はじめは半信半疑だった。
サイズごとに剛性を適正化することで、どのサイズに跨っても同様の剛性を体感できるSSPSコンセプトを採用している。実際、サイズが大きいからしなやかということはない。
その影響か、今回、560mmというフレームサイズにも関わらず、重いギヤで踏み込んでも、バイクがまったく無駄な動きをすることなく、力を推進力へと変えて前へ進んでいく。
SSBSだけでなく、BB30の採用、そしてボリューム感いっぱいのヘッドまわりなど、たとえプロレベルの選手がトルクフルに踏んだとしても、まったくリミットに到達できるものではなかった。
高剛性の中にも下りのコーナーなどではしっかりとタイヤが地面に接地しているし、フレームの硬さによってバウンドするというシーンも皆無だ。
ハイモジュラスカーボンの特性か、路面からの衝撃を中に包み、隠してしまうような乗り味で、気持ちよくライディングすることができた。アッセンブルされているフロントフォーク、3Tフンダ・プロは、加速する最初のタイミングにすばやく導いてくれている。そのおかげでヒルクライムでのダッシュや、スプリント勝負で位置を上げるとき、そのレスポンスのよさに助けられるだろう。
すべての性能がプロツアーレベルで勝利するために設計されているといえる。価格設定は高いだろうが、その性能を考えると決して高い買い物ではないだろう。
「前モデルとは似て非なる存在の完璧バイク」 山本健一(サイクルジャーナリスト)
マスプロダクツの印象が強かった前作に比べ、細部まで手が込んだ作りとなった新型イザルコは、日本が誇る光岡自動車的な「異端の貴公子」に似た存在感がある。
その躯体に脈打つインターナルケーブルルーティング、剛性を適正化するためにテーパー化・異形断面化された各チューブの理路整然としたデザインは、優れた生命体のようで、自らの意志をもって走り出しそうな雰囲気だ。
豪快な硬さはないが、踏みだしのスッと抜けるような加速感は、心地よくも強い武器となるだろう。トルクに対して素直に反応し、イーブンペースのヒルクライムにも適している。ダンシングでペダルを踏み込むと、適度な反力が脚に返ってくる。さらに踏み込むとリズミカルに反応し、どんなケイデンスでも踏み方でもスムーズに加速していく。
バイク側からの抵抗を感じるようなストレスやクセはほとんどなく、何年もまたがった革サドルのような馴染みがある錯覚まで抱かせる。
十分な剛性レベルをもつフォークとの相性もよく、前輪荷重がかかるような走りでも前につまるようなウィップもなく、バランスがとれている。そしてタイヤの限界値が無限なら、どこまでも攻め込んでしまいたくなるような限界点の高さ。これはまさしくレーシングバイク。いわゆる”ロードレース”に最適なスペックだ。しかし、峠をいくつも越えて100~150kmほど走るようなシチュエーションにも適するはず。
フロント部分のケーブルルーティングは技ありの秀逸デザインだが、チェーンステー上部から顔を出したケーブルには少々違和感を覚えた。リアディレイラーのワイヤーを取り回す際にアールを軽減できるというメリットも感じられるが、ここまでするならディレイラー部付近まで内蔵にして欲しかったところ。もっとも、ブラックボックス化された部分が少ないほどメンテナンス性に優れる面はあるので、好みは分かれるところだろう。
ほかに関してはパーフェクトで文句なし。ノーマルピラーは普通にすぎる感はあるが、私自身はISPの必要性は強く感じていないので、これでよし。
乗ってみたイメージはプロスペックであることは間違いない。しかし同じくプロスペックの前作のイザルコとは、やや異なった趣がある。
前作よりもさらに綿密に体現された運動性能と言いたくなる。さらに煮詰まったイザルコ。真のレースバイク購入を考える人にとっては、選択肢がひとつ追加される。うれしい悩みがまた増えてしまった。
フレーム ニューハイモジュラスカーボンフレーム インターナルケーブルルーティング、テーパードヘッドチューブ、BB30
フロントフォーク 3T フンダプロ
シートサイズ Φ27.2mm
フレーム重量 N.A.
税込価格 ¥523,950 (本体価格¥499,00)
― インプレライダーのプロフィール
三船雅彦(みふねまさひこ)
9シーズンをプロとして走り(プロチームとの契約年数は8年)プロで700レース以上、プロアマ通算1,000レース以上を経験した、日本屈指の元プロサイクルロードレーサー。入賞回数は実に200レースほどにのぼる。2003年より国内のチームに移籍し活動中。国内の主要レースを中心に各地を転戦。レース以外の活動も精力的に行い、2003年度よりJスポーツのサイクルロードレースではゲスト解説を。特にベルギーでのレースにおいては、10年間在住していた地理感などを生かした解説に定評がある。2005年より若手育成のためにチームマサヒコミフネドットコムを立ち上げ、オーナーとしてチーム運営も行っている。
過去数多くのバイクに乗り、実戦で闘ってきたばかりでなく、タイヤや各種スポーツバイクエキップメントの開発アドバイザーを担う。その評価の目は厳しく、辛辣だ。選手活動からは2009年を持って引退したが、今シーズンからはスポーツバイク普及のためのさまざまな活動を始めている。ホビー大会のゲスト参加やセミナー開催にも意欲的だ。
マサヒコ・ミフネ・ドットコム
山本健一(バイクジャーナリスト)
身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。
text:山本 健一
photo&edit:綾野 真
フレーム形状はまったく新しいデザインとなり、ハイモジュールカーボンを使用している。イザルコシリーズのなかではこのモデルとIZALCO MILRAMにだけ超ハイグレードのカーボンファイバーが用いられる。
大きく変わったのはヘッドチューブがテーパー化されたこと。下側のベアリング径が1・1/4インチと大口径化され、ステアリング性能を高めている。ケーブルは内蔵、つまりインターナルケーブル化されている。
ブレーキ、シフトワイヤー共に内蔵され、リアディレイラー用のケーブルルーティングは、これまでにあまりなかったチェーンステーの上部を経由する方法である。ワイヤートラブルを最小限に留め、ストレスがかからないよう、なるべく緩やかなアールを描くようなルーティングとなっている。
内蔵されるケーブルの収まる部分はチューブの表面上からも確認でき、ワイヤーの軌跡が描かれるその様はまるで鍛え上げられた脚に浮き上がる血管のよう。そのビジュアルは理屈抜きに美しい。
ボリュームあるダウンチューブから、BB30化されたハンガー、そしてチェーンステーに至るまでが大ボリューム化されており、よりパワフルな走りが期待できる。一方でシートステーは横方向に扁平したデザインを用い、振動吸収性を高める意図が読み取れる。剛性を保ちつつ、快適な乗り味を考慮するという最新の流行に乗った設計だ。
タイヤクリアランスは28mmとかなり大きい。コンフォート系の太めのタイヤを装着することもできる設計なので、レースだけでなく幅広い用途に対応することができるだろう。ただしタイヤの太さの解釈は各タイヤメーカーによって異なるため、太目のタイヤで使ってやろうという場合は現物合わせの確認が必要だが。
アッセンブルされるカーボンフォークは人気の3T社製”フンダプロ”である。縦方向にはしなやかに、横方向の剛性を高めたエアロブレード採用の最新フォークだ。
そしてサイズによってチューブ径を最適化するSSPS(STABLE STIFFNESS PER SIZE)コンセプトにより、サイズに関わらず剛性を一定化し、乗り味が変化しないよう調整されているという。
フォーカスはヨーロッパでももっとも革新的な自転車メーカーのひとつだ。最新の材料と製法を用いるが、アッセンブルや製造工程は古典的な方法を好んで行う。すべてはハンドメイドされ、ドイツで生産されるのだ。
この プロスペックにふさわしい研ぎ澄まされた躯体を持つハイエンドモデルを、元プロライダーの三船雅彦氏と分析能力に定評のある山本健一氏はどう評価したのだろうか? 早速、両氏によるインプレッションをお届けしよう。
― インプレッション
「プロツアーで勝利するためのフレーム」 三船雅彦
踏み込んだ瞬間、次元の違う完成度に声が出そうになる。
今年のモデルはシートピラーが従来のサイズ27.2mmに変更になり、そしてシートスティも相当細くなっていたので、体重があり出力の大きい自分が跨っても大丈夫なのか?と、はじめは半信半疑だった。
サイズごとに剛性を適正化することで、どのサイズに跨っても同様の剛性を体感できるSSPSコンセプトを採用している。実際、サイズが大きいからしなやかということはない。
その影響か、今回、560mmというフレームサイズにも関わらず、重いギヤで踏み込んでも、バイクがまったく無駄な動きをすることなく、力を推進力へと変えて前へ進んでいく。
SSBSだけでなく、BB30の採用、そしてボリューム感いっぱいのヘッドまわりなど、たとえプロレベルの選手がトルクフルに踏んだとしても、まったくリミットに到達できるものではなかった。
高剛性の中にも下りのコーナーなどではしっかりとタイヤが地面に接地しているし、フレームの硬さによってバウンドするというシーンも皆無だ。
ハイモジュラスカーボンの特性か、路面からの衝撃を中に包み、隠してしまうような乗り味で、気持ちよくライディングすることができた。アッセンブルされているフロントフォーク、3Tフンダ・プロは、加速する最初のタイミングにすばやく導いてくれている。そのおかげでヒルクライムでのダッシュや、スプリント勝負で位置を上げるとき、そのレスポンスのよさに助けられるだろう。
すべての性能がプロツアーレベルで勝利するために設計されているといえる。価格設定は高いだろうが、その性能を考えると決して高い買い物ではないだろう。
「前モデルとは似て非なる存在の完璧バイク」 山本健一(サイクルジャーナリスト)
マスプロダクツの印象が強かった前作に比べ、細部まで手が込んだ作りとなった新型イザルコは、日本が誇る光岡自動車的な「異端の貴公子」に似た存在感がある。
その躯体に脈打つインターナルケーブルルーティング、剛性を適正化するためにテーパー化・異形断面化された各チューブの理路整然としたデザインは、優れた生命体のようで、自らの意志をもって走り出しそうな雰囲気だ。
豪快な硬さはないが、踏みだしのスッと抜けるような加速感は、心地よくも強い武器となるだろう。トルクに対して素直に反応し、イーブンペースのヒルクライムにも適している。ダンシングでペダルを踏み込むと、適度な反力が脚に返ってくる。さらに踏み込むとリズミカルに反応し、どんなケイデンスでも踏み方でもスムーズに加速していく。
バイク側からの抵抗を感じるようなストレスやクセはほとんどなく、何年もまたがった革サドルのような馴染みがある錯覚まで抱かせる。
十分な剛性レベルをもつフォークとの相性もよく、前輪荷重がかかるような走りでも前につまるようなウィップもなく、バランスがとれている。そしてタイヤの限界値が無限なら、どこまでも攻め込んでしまいたくなるような限界点の高さ。これはまさしくレーシングバイク。いわゆる”ロードレース”に最適なスペックだ。しかし、峠をいくつも越えて100~150kmほど走るようなシチュエーションにも適するはず。
フロント部分のケーブルルーティングは技ありの秀逸デザインだが、チェーンステー上部から顔を出したケーブルには少々違和感を覚えた。リアディレイラーのワイヤーを取り回す際にアールを軽減できるというメリットも感じられるが、ここまでするならディレイラー部付近まで内蔵にして欲しかったところ。もっとも、ブラックボックス化された部分が少ないほどメンテナンス性に優れる面はあるので、好みは分かれるところだろう。
ほかに関してはパーフェクトで文句なし。ノーマルピラーは普通にすぎる感はあるが、私自身はISPの必要性は強く感じていないので、これでよし。
乗ってみたイメージはプロスペックであることは間違いない。しかし同じくプロスペックの前作のイザルコとは、やや異なった趣がある。
前作よりもさらに綿密に体現された運動性能と言いたくなる。さらに煮詰まったイザルコ。真のレースバイク購入を考える人にとっては、選択肢がひとつ追加される。うれしい悩みがまた増えてしまった。
フォーカス イザルコエクストリーム
フレーム ニューハイモジュラスカーボンフレーム インターナルケーブルルーティング、テーパードヘッドチューブ、BB30
フロントフォーク 3T フンダプロ
シートサイズ Φ27.2mm
フレーム重量 N.A.
税込価格 ¥523,950 (本体価格¥499,00)
― インプレライダーのプロフィール
三船雅彦(みふねまさひこ)
9シーズンをプロとして走り(プロチームとの契約年数は8年)プロで700レース以上、プロアマ通算1,000レース以上を経験した、日本屈指の元プロサイクルロードレーサー。入賞回数は実に200レースほどにのぼる。2003年より国内のチームに移籍し活動中。国内の主要レースを中心に各地を転戦。レース以外の活動も精力的に行い、2003年度よりJスポーツのサイクルロードレースではゲスト解説を。特にベルギーでのレースにおいては、10年間在住していた地理感などを生かした解説に定評がある。2005年より若手育成のためにチームマサヒコミフネドットコムを立ち上げ、オーナーとしてチーム運営も行っている。
過去数多くのバイクに乗り、実戦で闘ってきたばかりでなく、タイヤや各種スポーツバイクエキップメントの開発アドバイザーを担う。その評価の目は厳しく、辛辣だ。選手活動からは2009年を持って引退したが、今シーズンからはスポーツバイク普及のためのさまざまな活動を始めている。ホビー大会のゲスト参加やセミナー開催にも意欲的だ。
マサヒコ・ミフネ・ドットコム
山本健一(バイクジャーナリスト)
身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。
text:山本 健一
photo&edit:綾野 真
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