2009/12/24(木) - 00:32
コラテックのハイエンドモデルに位置するR.T.プロ。ハンドメイド&オーダーのマウロ・サニーノモデルを除けば、市販モデルでは最高峰に位置するフルカーボンフレームだ。フレームに大胆に表記されているCCTとはカーボン・コンポジット・テクノロジーの略である。
オーストリアのプロサイクリングチーム「フォアアールベルク・コラテック」チームに供給しており、リサーチ&ディベロップメントが活発に行われている。生ける伝説的なイタリア人フレームビルダー、マウロ・サニーノ氏も共同開発しているというから、その性能は折り紙付きだ。
2010年モデルは全サイズのジオメトリーがスローピングとなった。ヘッドチューブはテーパードし、下側のベアリング径は1・5インチとなる。上下異径ヘッドにアッセンブルされるカーボンフォークはコラテックオリジナルのオフセットバックフォーク「プロコントロールフォーク」だ。
このカーボンフォークはセットバックすることにより、ハンドリング性能が向上し、さらに振動吸収性がよくなるという。その秘密は横方向の剛性の高さと、縦方向のしなやかさにある。
もっとも特徴的なのはロープロファイル・チェーンステーだろう。カーボンモノコック構造のチェーンステーは剛性に優れ、ボトムブラケットへのアプローチは、「パワーボックス」という大口径のモノボックス構造で、ハンガー付近の剛性を高く保つ。そして下方向に湾曲した形状は、チェーンが上下に暴れてもチェーンステーにぶつかりにくいという効果がある。
ひいては、トリプルギヤやコンパクトドライブにも適した形状となっている。物理的な衝撃に弱いカーボンチューブをいたわるデザインなのだ。これらの技術はフォルシアやコルネスといったミドル・エントリーモデルにも受け継がれている。
このブラッシュアップされたハイエンドモデルを、元プロライダーの三船雅彦氏と分析能力に定評のある山本健一氏はどう評価したのだろうか? 早速、両氏によるインプレッションをお届けしよう。
― インプレッション
「R.T.プロ最大の特徴はカーボンフォークにある」 三船 雅彦
コラテック全体に言えることだが、マウロ・サニーノが製作するモデル以外は、あまりにもリーズナブルすぎて、プロスペックのR.T.プロといえども「食わず嫌い」で終わってしまいそうで、本当にもったいない話だということを最初に言っておきたい。
フォーククラウンあたりで逆オフセットされたフロントフォークは、トラディッショナルなフォーク形状に見慣れた人からすると、跨る前に少し抵抗や固定観念を持ってしまうだろう。
しかしコーナーでの切れ込みもほとんどなく、見た目からは想像もできないほどナチュラルなハンドリングだ。それでいて標準的なフォークに比較して、常に路面を手で掴んでいるかのようなグリップ感をもたらし、荒れた路面の峠を下っていても、ラインをトレースしやすくストレスが少ない。
チェーンスティもベントされ、ロングライドの衝撃緩和に一役買っている。だからと言って剛性が失われているわけではなく、加速をしていく瞬間でもスパッ!と切れ味の鋭い刀を振りかざしているかの如く、音もなく前に風を切り裂いていく。
大ボリュームなダウンチューブやトップチューブからは想像もできないぐらい取り扱いは軽く、ダンシング時にあまりにもスムーズに振り続けられるため、まるで大きなこん棒を振り回している力持ちのように、自分がかなり強くなっているかのような錯覚を起こすだろう(笑)。
すべてのシチュエーションにおいて不満があるような走りはなく、むしろ形状に対して抱いていた食わず嫌いを恥じるものだと思うばかりだ。ダンシングで加速したときのバイク全体の一体感、ストレスフリーなフィーリングは、長時間でのライディング、長期間での使用でこそ威力を発揮する。それこそがプロ選手が不平を言わずに使用し、フランドルやパリ~ルーベでも実践投入された理由だろう。
これまでほとんどの選手(フォアルベル・コラテックチーム)はCF-1やスクアドラを使っていたようだが、09年のいろいろな映像を見ていると、RR.T.プロが使われている映像を目にする機会が格段に増えてきた。それだけこのバイクの完成度が高くなったという証明だろう。
大口径でしっかりと作られたフレームの剛性感は”中に入っていく感じ”。パワーを入力すると、フレーム内部に吸い込まれていって、貯めた力を後ろにはき出すことで推進力を得ているようなイメージだ。
最近の主流イタリアンメーカーのバイクなどには過剛性なイメージがあるものが多い気がする。乗り味はじゃじゃ馬で、取り扱いはデリケートで。
けれどもR.T.プロに跨っていると、そういうなことは全くと言っていいほど感じないのだ。下からの突き上げも一切感じない程の高い振動吸収性を持ち合わせている。リアエンドが少しオフセットしているところが効果的なのかもしれない。
コラテックの誇るハイエンドモデルにも関わらず、万能な乗り味で扱いやすすぎる印象を与えてくれるR.T.プロ。
決して乗り手を選ぶこと無く、どんなレベルの人が乗っても違和感を感じず走れることだろう。
「コンフォートバイクな外観とウラハラな万能レースバイク」 山本 健一(サイクルジャーナリスト)
セットバックしたカーボンフォーク、チェーンステーの湾曲など、ユニークなロードバイクとしてのイメージが強いR.T.プロ。ビジュアルだけで想像するならば、良質のカーボンファイバーを用いたコンフォートバイクだろうか。
点と点を最短距離で結ぶことでトラス構造のメリットは発揮される。バック三角に関してはそれらの伝統的な手法へ真っ向から対決するようなフレームだ。踏みだしのペダルひと踏み目からフレームのマイルドさが脚に伝わってくるのだが、加速力を犠牲にしているような素振りはまったくないのだ。踏めばそれに応える、れっきしたレーシングフレームだ。
高級な高弾性カーボンファイバーを用いることでフレームは上質なイメージ。振動吸収性はいうまでもなく高く、ロングライドでもその威力を発揮するはず。日本でも荒れた路面が全くないというわけではない。旧道や峠道などはしばしばハンドルを強く握ってしまうような悪路もある。そんなとき強い味方となりそうだ。
ハンドリングはセットバックカーボンフォークの形状を忘れるくらいナチュラルなコントロール性能だった。安定感も高く、大口径テーパードヘッドが作用しているのだろう。さまざまな構造を取り込み、複合的に性能を高めあっているような雰囲気である。
アッセンブルされたカーボンディープリムとの相性もよく、しなやかなフレームと走破性に長けるディープリムによって、疲労を最小限に留めつつもアベレージスピードを高く維持することができそうだ。クリテリウムや距離が短いロードレースよりも、100kmを越えるようなレースやイベントでその能力が発揮できる”ロードバイク”だ。
サイズ 48cm(スローピングデザイン)
カラー マルチ、ブルー/ホワイト
フレーム コラテックモノコックカーボン
フロントフォーク コラテック・カーボン
ヘッド小物 ケーンクリーク インテグラル
ハンドル D-FITZ SPORT
ステム D-FITZ
タイヤ ヴィットリア ザフィーロ2 700×23C
フレームセット価格 ¥324,450(税抜¥309,000)
デュラエース完成車価格 ¥597,450(税抜¥569,000)
アルテグラ完成車価格 ¥401,100(税抜¥382,000)
アルテグラコンパクト完成車価格 ¥404,250(税抜¥385,000)
105完成車価格 ¥376,950(税抜¥359,000)
― インプレライダーのプロフィール
三船雅彦(みふねまさひこ)
9シーズンをプロとして走り(プロチームとの契約年数は8年)プロで700レース以上、プロアマ通算1,000レース以上を経験した、日本屈指の元プロサイクルロードレーサー。入賞回数は実に200レースほどにのぼる。2003年より国内のチームに移籍し活動中。国内の主要レースを中心に各地を転戦。レース以外の活動も精力的に行い、2003年度よりJスポーツのサイクルロードレースではゲスト解説を。特にベルギーでのレースにおいては、10年間在住していた地理感などを生かした解説に定評がある。2005年より若手育成のためにチームマサヒコミフネドットコムを立ち上げ、オーナーとしてチーム運営も行っている。
過去数多くのバイクに乗り、実戦で闘ってきたばかりでなく、タイヤや各種スポーツバイクエキップメントの開発アドバイザーを担う。その評価の目は厳しく、辛辣だ。選手活動からは2009年を持って引退したが、今シーズンからはスポーツバイク普及のためのさまざまな活動を始めている。ホビー大会のゲスト参加やセミナー開催にも意欲的だ。
マサヒコ・ミフネ・ドットコム
山本健一(バイクジャーナリスト)
身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。
text:山本 健一
photo&edit:綾野 真
オーストリアのプロサイクリングチーム「フォアアールベルク・コラテック」チームに供給しており、リサーチ&ディベロップメントが活発に行われている。生ける伝説的なイタリア人フレームビルダー、マウロ・サニーノ氏も共同開発しているというから、その性能は折り紙付きだ。
2010年モデルは全サイズのジオメトリーがスローピングとなった。ヘッドチューブはテーパードし、下側のベアリング径は1・5インチとなる。上下異径ヘッドにアッセンブルされるカーボンフォークはコラテックオリジナルのオフセットバックフォーク「プロコントロールフォーク」だ。
このカーボンフォークはセットバックすることにより、ハンドリング性能が向上し、さらに振動吸収性がよくなるという。その秘密は横方向の剛性の高さと、縦方向のしなやかさにある。
もっとも特徴的なのはロープロファイル・チェーンステーだろう。カーボンモノコック構造のチェーンステーは剛性に優れ、ボトムブラケットへのアプローチは、「パワーボックス」という大口径のモノボックス構造で、ハンガー付近の剛性を高く保つ。そして下方向に湾曲した形状は、チェーンが上下に暴れてもチェーンステーにぶつかりにくいという効果がある。
ひいては、トリプルギヤやコンパクトドライブにも適した形状となっている。物理的な衝撃に弱いカーボンチューブをいたわるデザインなのだ。これらの技術はフォルシアやコルネスといったミドル・エントリーモデルにも受け継がれている。
このブラッシュアップされたハイエンドモデルを、元プロライダーの三船雅彦氏と分析能力に定評のある山本健一氏はどう評価したのだろうか? 早速、両氏によるインプレッションをお届けしよう。
― インプレッション
「R.T.プロ最大の特徴はカーボンフォークにある」 三船 雅彦
コラテック全体に言えることだが、マウロ・サニーノが製作するモデル以外は、あまりにもリーズナブルすぎて、プロスペックのR.T.プロといえども「食わず嫌い」で終わってしまいそうで、本当にもったいない話だということを最初に言っておきたい。
フォーククラウンあたりで逆オフセットされたフロントフォークは、トラディッショナルなフォーク形状に見慣れた人からすると、跨る前に少し抵抗や固定観念を持ってしまうだろう。
しかしコーナーでの切れ込みもほとんどなく、見た目からは想像もできないほどナチュラルなハンドリングだ。それでいて標準的なフォークに比較して、常に路面を手で掴んでいるかのようなグリップ感をもたらし、荒れた路面の峠を下っていても、ラインをトレースしやすくストレスが少ない。
チェーンスティもベントされ、ロングライドの衝撃緩和に一役買っている。だからと言って剛性が失われているわけではなく、加速をしていく瞬間でもスパッ!と切れ味の鋭い刀を振りかざしているかの如く、音もなく前に風を切り裂いていく。
大ボリュームなダウンチューブやトップチューブからは想像もできないぐらい取り扱いは軽く、ダンシング時にあまりにもスムーズに振り続けられるため、まるで大きなこん棒を振り回している力持ちのように、自分がかなり強くなっているかのような錯覚を起こすだろう(笑)。
すべてのシチュエーションにおいて不満があるような走りはなく、むしろ形状に対して抱いていた食わず嫌いを恥じるものだと思うばかりだ。ダンシングで加速したときのバイク全体の一体感、ストレスフリーなフィーリングは、長時間でのライディング、長期間での使用でこそ威力を発揮する。それこそがプロ選手が不平を言わずに使用し、フランドルやパリ~ルーベでも実践投入された理由だろう。
これまでほとんどの選手(フォアルベル・コラテックチーム)はCF-1やスクアドラを使っていたようだが、09年のいろいろな映像を見ていると、RR.T.プロが使われている映像を目にする機会が格段に増えてきた。それだけこのバイクの完成度が高くなったという証明だろう。
大口径でしっかりと作られたフレームの剛性感は”中に入っていく感じ”。パワーを入力すると、フレーム内部に吸い込まれていって、貯めた力を後ろにはき出すことで推進力を得ているようなイメージだ。
最近の主流イタリアンメーカーのバイクなどには過剛性なイメージがあるものが多い気がする。乗り味はじゃじゃ馬で、取り扱いはデリケートで。
けれどもR.T.プロに跨っていると、そういうなことは全くと言っていいほど感じないのだ。下からの突き上げも一切感じない程の高い振動吸収性を持ち合わせている。リアエンドが少しオフセットしているところが効果的なのかもしれない。
コラテックの誇るハイエンドモデルにも関わらず、万能な乗り味で扱いやすすぎる印象を与えてくれるR.T.プロ。
決して乗り手を選ぶこと無く、どんなレベルの人が乗っても違和感を感じず走れることだろう。
「コンフォートバイクな外観とウラハラな万能レースバイク」 山本 健一(サイクルジャーナリスト)
セットバックしたカーボンフォーク、チェーンステーの湾曲など、ユニークなロードバイクとしてのイメージが強いR.T.プロ。ビジュアルだけで想像するならば、良質のカーボンファイバーを用いたコンフォートバイクだろうか。
点と点を最短距離で結ぶことでトラス構造のメリットは発揮される。バック三角に関してはそれらの伝統的な手法へ真っ向から対決するようなフレームだ。踏みだしのペダルひと踏み目からフレームのマイルドさが脚に伝わってくるのだが、加速力を犠牲にしているような素振りはまったくないのだ。踏めばそれに応える、れっきしたレーシングフレームだ。
高級な高弾性カーボンファイバーを用いることでフレームは上質なイメージ。振動吸収性はいうまでもなく高く、ロングライドでもその威力を発揮するはず。日本でも荒れた路面が全くないというわけではない。旧道や峠道などはしばしばハンドルを強く握ってしまうような悪路もある。そんなとき強い味方となりそうだ。
ハンドリングはセットバックカーボンフォークの形状を忘れるくらいナチュラルなコントロール性能だった。安定感も高く、大口径テーパードヘッドが作用しているのだろう。さまざまな構造を取り込み、複合的に性能を高めあっているような雰囲気である。
アッセンブルされたカーボンディープリムとの相性もよく、しなやかなフレームと走破性に長けるディープリムによって、疲労を最小限に留めつつもアベレージスピードを高く維持することができそうだ。クリテリウムや距離が短いロードレースよりも、100kmを越えるようなレースやイベントでその能力が発揮できる”ロードバイク”だ。
コラテック R.T.プロ
サイズ 48cm(スローピングデザイン)
カラー マルチ、ブルー/ホワイト
フレーム コラテックモノコックカーボン
フロントフォーク コラテック・カーボン
ヘッド小物 ケーンクリーク インテグラル
ハンドル D-FITZ SPORT
ステム D-FITZ
タイヤ ヴィットリア ザフィーロ2 700×23C
フレームセット価格 ¥324,450(税抜¥309,000)
デュラエース完成車価格 ¥597,450(税抜¥569,000)
アルテグラ完成車価格 ¥401,100(税抜¥382,000)
アルテグラコンパクト完成車価格 ¥404,250(税抜¥385,000)
105完成車価格 ¥376,950(税抜¥359,000)
― インプレライダーのプロフィール
三船雅彦(みふねまさひこ)
9シーズンをプロとして走り(プロチームとの契約年数は8年)プロで700レース以上、プロアマ通算1,000レース以上を経験した、日本屈指の元プロサイクルロードレーサー。入賞回数は実に200レースほどにのぼる。2003年より国内のチームに移籍し活動中。国内の主要レースを中心に各地を転戦。レース以外の活動も精力的に行い、2003年度よりJスポーツのサイクルロードレースではゲスト解説を。特にベルギーでのレースにおいては、10年間在住していた地理感などを生かした解説に定評がある。2005年より若手育成のためにチームマサヒコミフネドットコムを立ち上げ、オーナーとしてチーム運営も行っている。
過去数多くのバイクに乗り、実戦で闘ってきたばかりでなく、タイヤや各種スポーツバイクエキップメントの開発アドバイザーを担う。その評価の目は厳しく、辛辣だ。選手活動からは2009年を持って引退したが、今シーズンからはスポーツバイク普及のためのさまざまな活動を始めている。ホビー大会のゲスト参加やセミナー開催にも意欲的だ。
マサヒコ・ミフネ・ドットコム
山本健一(バイクジャーナリスト)
身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。
text:山本 健一
photo&edit:綾野 真
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