2017/03/20(月) - 10:17
3月11~12日にかけてオーストラリア南東部にある・ヴィクトリア州ベンディゴにて開催されたトラックレースの国際イベント「ベンディゴインターナショナルマディソン」(英名:Bendigo International Madison)。日本からも新村穣(CS Slinger)・橋本英也(JPF・GOKISO)の2名が参戦したレポートが届いている。
毎年3月上旬、メルボルンから車で2時間ほどの地方都市・ベンディゴにて実施される「ベンディゴインターナショナルマディソンカーニバル」(以下、ベンディゴマディソン)。トラック競技の強豪である地元オーストラリアや6日間レースを主戦とする欧州トラックレーサーにとっては、シーズンを締めくくる一大イベントとして大変盛り上がる大会だ。
大会の目玉は男子マディソン。6日間レースのスペシャリストであるクリスチャン・グラスマン(ドイツ)、オランダナショナルチーら欧州勢を、世界選手権6冠のキャメロン・マイヤー、リオ五輪銀メダリスト(チーム・パーシュート)のサム・ウェルスフォードら地元豪州勢が迎え撃つ豪華な顔ぶれとなった。
オーストラリアにおける日本自転車競技界のパイオニア・吉井功治氏による活動のもと、日本の大学生・高校生たちが過去にこのイベントに参加してきた。しかし、メインレースであるマディソンに出場できたのは吉井氏を含めてわずか4名。
2017年は3回目の参加となる新村穣(CS Slinger)と、世界選手権・ポイントレースで5位の実績がある橋本英也(JPF・GOKISO)がペアを組み出場。日本中距離界を代表する2名が満を持して世界の強豪に挑んだ。
今回の豪州遠征は新村・橋本の強化を目的とし、2週間の現地滞在後、仕上げとしてマディソンへ出場するスケジュールを組んだ。現地には過去の遠征で得た情報やコネクションがあり、良いトレーニングとなることが見込めた。
新村は大会前の心境について「本遠征で個人的に決めていたテーマは大きく二つ。1マディソンを無事に走りきること。2選手・主催者とのコュニケーションを、国内へフィードバックすること。1については2015年の同大会(マディソン)でスコット・サンダーランド選手(オーストラリア)と組むも、落車でDNFに終わったことが頭にあった」と語っている。
ホームステイでの現地滞在
滞在期間中は、それぞれ別の家庭へホームステイ。どちらの家庭も、過去に何人もの日本人選手を受け入れており、今の遠征が過去のレガシーから成り立っていることを実感する。各ホストファミリーによるサポートの元、ロード・トラックの各トレーニングと地域レースをこなしながら過ごした。(レース詳細、結果は末尾参照)
「人生で初めてのホームステイ。英語は生きていくために必須となり、日本語は自分だけのモノに。文化も違い毎日が新鮮で日本に帰りたくないとまで思えるほどだった」と橋本はホームステイを振り返った。
トレーニングと地域レース
ベンディゴでは毎週決まった曜日にロード練習会、トラック練習会、トラックレースなどが開かれる。ロード練習会は夜明けとともに20-30人が集まり、郊外を走る。高速でのローテーションで強い人が前に残り続けるような内容だ。また本大会に招待された他の強豪選手とトレーニングに参加する。
招待選手が自転車に乗って出かければ、地元の選手も喜んで一緒に追走する、そんなスタイルが大会と共に昔から定着しているようであった。トラック練習会では、マディソンのトレーニングと事前に告知があり、バイクを利用した周回練習を終えた後、適宜指導を受けながらマディソンの交代を行った。
トラックレースでは、力量によってA~Eまでのクラス分けがされる。当日エントリーで大まかな記録や力量を伝えると、主催者から種目やハンディキャップが割りふられる。70歳を超えた元選手もBグレードで活躍をしていたのがとても印象的だった。
競技以外での活動
大会へ向けたレセプションや地元若手チームのプレゼンテーション、地元紙の取材、サイン会などに海外有名選手たちと共に招待された。選手・運営が一体となった努力の積み重ねで、自転車競技の人気が成り立っていることを体験し、選手・スタッフともに、競技以外での貴重な経験となった。
オーストラリアのトラックレース
競技はグレード毎のスクラッチと全グレード混走のホイールレース(ハンディキャップレース)を中心に、モーターペーサーやイリン、マディソンを組み合わせたプログラム。またベンディゴマディソンでは並行して陸上競技のイベントも行われる。
ハンディキャップレースはオーストラリアで盛んなトラック種目であり、選手は0m(SCR)~300mほどのハンディキャップが与えられる。スタートの合図で一斉にスタートし、決められた同一のフィニッシュを目指す。ダッシュ(スタート)・スピードローテーション・トップスピード(スプリント)といったトラックレースにおける重要な要素が多く求められる。
すべての選手にチャンスがありゴールは接戦。トレーニングとしても、コンペティションとしてもショーとしても素晴らしい競技だ。
ベンディゴマディソン当日
ベンディゴマディソンの会場となるバンクは独特だ。形状はまんじゅうの断面に近い半円型で、1周は約412m。日本の競輪場のようなコーナーの傾斜がほとんどなく、低速走行の子供には親しみやすい反面、高速走行には経験と技術が必要となる。
そんな中、橋本は持ち前の技術と脚力を披露。集団スプリントとなったスクラッチで、狭いスペースをインから抜け出し1着入選。ブルーバンド走行であったため降格となったが、観客からは大きな拍手と声援が贈られ”Eiya Hashimoto”の存在を印象付けた。
いよいよマディソンへ
メインのマディソンは、1周約412mを200周する82.4kmを16チームで競う。ルールは特別規則で周回獲得(ラップ)が優先される2016年以前のもの。会場には結果を予想するブックメーカーが来ており、1番人気は6度の世界チャンピオンを獲得しているキャメロン・マイヤー(オーストラリア)のペア。五輪メダリストや欧州の強豪がこれに続き、日本チームは7番人気だった。初参戦で勝手が分からない今回は、「メイン集団で無事に完走する」という最低限の目標で臨んだ。
序盤はポイントに絡み、上位陣と互角の走りを披露。しかし、残り170周付近で強力選手たちが形成されたエスケープグループに乗り遅れてしまう。乗り遅れたメンバーは下位チームが多く、差は開く一方。約50周で-1ラップを喫してしまった。後半になるとさらに余力が無くなり、後方での位置取りを強いられる展開に。
サーカスのように選手がめまぐるしく選手たちが絡み合うマディソンでは、後ろに位置することは致命傷となる。展開に乗れないだけでなく集団前方のチームが行った選手交代による速度変化の影響を受けるうえ、バンクの外周を走らされることになり、走行距離が増えて負担が大きくなるためだ。
結果、体力を削られて勝負には絡めず、最終的に優勝チームから-3ラップ+2ポイントの12位に終わった。
橋本はレースについて以下のようにコメントしている。「序盤のエスケープでは1チームにどんどんブリッジがかかり、それがメイン集団に。マディソンは2人ペアだから走っている選手が常にフレッシュ。少人数なエスケープでも主導権を握る場面が多くあり、積極性が上位を狙う必須条件と感じた」
まとめ
ベンディゴマディソンを目標とした約2週間の滞在となった今回の遠征。現地ではマディソンを中心に選手、ファン、地域が盛り上がり、レースが様々な影響を持たしていることを体験できた。
開催中は、地元紙が数日にわたって結果を掲載するなど、マディソンが紙面を賑わし、マディソンをきっかけに若手チームも発足する。マディソンが地域のお祭りとなり、招待選手とともに一般レーサーもトレーニングやレースを満喫する。
夕方から実施される競技は、仕事終わりの人たちビールを片手にレースを楽しむ。地域の文化形成に自転車競技が関わり、根付いていることを実感した。レガシーは物質的なものだけではなく、実はこういったソフトパワーも重要なものだと強く感じた。
今後も多くの人に認知や体験してもらうべく、また競技面においてもさらなる強化を目指し、引き続き活動を続けていく。最後にこの場をお借りして多くの方々に協力いただき、貴重な経験をさせていただきましたことを心より御礼申し上げます。
主なレース結果
3月2日(木):Bendigo Club Track(Tom Flood Sports Center/Bendigo)
The Audi Bendigo 2000m ハンディキャップ 新村 4位
30laps モーターペーサー 新村 2位
3月7日(火):大会名不明(Darebin International Sports Centre/Melbourne)
スクラッチ 新村 2位 / 橋本 3位
エリミネーション 橋本 1位 / 新村 4位
60laps モーターペーサー 新村 1位 / 橋本 2位
3月9日(木):Frank McCaig Memorial Wheel Race(Tom Flood Sports Center/Bendigo)
上位入賞なし
3月10~11日(土~日):Bendigo International Madison Carnival(Tom Flood Sports Center/Bendigo)
ゴールド&オパール ホイールレース(2000m) ともに予選落ち
ゴールデンマイル ホイールレース(1600m) ともに予選落ち
ケイリン 橋本 予選 1位・決勝 6位 / 新村 予選 4位
マディソン 新村・橋本 12位 2点 -3Laps
text&photo: CS Slinger
毎年3月上旬、メルボルンから車で2時間ほどの地方都市・ベンディゴにて実施される「ベンディゴインターナショナルマディソンカーニバル」(以下、ベンディゴマディソン)。トラック競技の強豪である地元オーストラリアや6日間レースを主戦とする欧州トラックレーサーにとっては、シーズンを締めくくる一大イベントとして大変盛り上がる大会だ。
大会の目玉は男子マディソン。6日間レースのスペシャリストであるクリスチャン・グラスマン(ドイツ)、オランダナショナルチーら欧州勢を、世界選手権6冠のキャメロン・マイヤー、リオ五輪銀メダリスト(チーム・パーシュート)のサム・ウェルスフォードら地元豪州勢が迎え撃つ豪華な顔ぶれとなった。
オーストラリアにおける日本自転車競技界のパイオニア・吉井功治氏による活動のもと、日本の大学生・高校生たちが過去にこのイベントに参加してきた。しかし、メインレースであるマディソンに出場できたのは吉井氏を含めてわずか4名。
2017年は3回目の参加となる新村穣(CS Slinger)と、世界選手権・ポイントレースで5位の実績がある橋本英也(JPF・GOKISO)がペアを組み出場。日本中距離界を代表する2名が満を持して世界の強豪に挑んだ。
今回の豪州遠征は新村・橋本の強化を目的とし、2週間の現地滞在後、仕上げとしてマディソンへ出場するスケジュールを組んだ。現地には過去の遠征で得た情報やコネクションがあり、良いトレーニングとなることが見込めた。
新村は大会前の心境について「本遠征で個人的に決めていたテーマは大きく二つ。1マディソンを無事に走りきること。2選手・主催者とのコュニケーションを、国内へフィードバックすること。1については2015年の同大会(マディソン)でスコット・サンダーランド選手(オーストラリア)と組むも、落車でDNFに終わったことが頭にあった」と語っている。
ホームステイでの現地滞在
滞在期間中は、それぞれ別の家庭へホームステイ。どちらの家庭も、過去に何人もの日本人選手を受け入れており、今の遠征が過去のレガシーから成り立っていることを実感する。各ホストファミリーによるサポートの元、ロード・トラックの各トレーニングと地域レースをこなしながら過ごした。(レース詳細、結果は末尾参照)
「人生で初めてのホームステイ。英語は生きていくために必須となり、日本語は自分だけのモノに。文化も違い毎日が新鮮で日本に帰りたくないとまで思えるほどだった」と橋本はホームステイを振り返った。
トレーニングと地域レース
ベンディゴでは毎週決まった曜日にロード練習会、トラック練習会、トラックレースなどが開かれる。ロード練習会は夜明けとともに20-30人が集まり、郊外を走る。高速でのローテーションで強い人が前に残り続けるような内容だ。また本大会に招待された他の強豪選手とトレーニングに参加する。
招待選手が自転車に乗って出かければ、地元の選手も喜んで一緒に追走する、そんなスタイルが大会と共に昔から定着しているようであった。トラック練習会では、マディソンのトレーニングと事前に告知があり、バイクを利用した周回練習を終えた後、適宜指導を受けながらマディソンの交代を行った。
トラックレースでは、力量によってA~Eまでのクラス分けがされる。当日エントリーで大まかな記録や力量を伝えると、主催者から種目やハンディキャップが割りふられる。70歳を超えた元選手もBグレードで活躍をしていたのがとても印象的だった。
競技以外での活動
大会へ向けたレセプションや地元若手チームのプレゼンテーション、地元紙の取材、サイン会などに海外有名選手たちと共に招待された。選手・運営が一体となった努力の積み重ねで、自転車競技の人気が成り立っていることを体験し、選手・スタッフともに、競技以外での貴重な経験となった。
オーストラリアのトラックレース
競技はグレード毎のスクラッチと全グレード混走のホイールレース(ハンディキャップレース)を中心に、モーターペーサーやイリン、マディソンを組み合わせたプログラム。またベンディゴマディソンでは並行して陸上競技のイベントも行われる。
ハンディキャップレースはオーストラリアで盛んなトラック種目であり、選手は0m(SCR)~300mほどのハンディキャップが与えられる。スタートの合図で一斉にスタートし、決められた同一のフィニッシュを目指す。ダッシュ(スタート)・スピードローテーション・トップスピード(スプリント)といったトラックレースにおける重要な要素が多く求められる。
すべての選手にチャンスがありゴールは接戦。トレーニングとしても、コンペティションとしてもショーとしても素晴らしい競技だ。
ベンディゴマディソン当日
ベンディゴマディソンの会場となるバンクは独特だ。形状はまんじゅうの断面に近い半円型で、1周は約412m。日本の競輪場のようなコーナーの傾斜がほとんどなく、低速走行の子供には親しみやすい反面、高速走行には経験と技術が必要となる。
そんな中、橋本は持ち前の技術と脚力を披露。集団スプリントとなったスクラッチで、狭いスペースをインから抜け出し1着入選。ブルーバンド走行であったため降格となったが、観客からは大きな拍手と声援が贈られ”Eiya Hashimoto”の存在を印象付けた。
いよいよマディソンへ
メインのマディソンは、1周約412mを200周する82.4kmを16チームで競う。ルールは特別規則で周回獲得(ラップ)が優先される2016年以前のもの。会場には結果を予想するブックメーカーが来ており、1番人気は6度の世界チャンピオンを獲得しているキャメロン・マイヤー(オーストラリア)のペア。五輪メダリストや欧州の強豪がこれに続き、日本チームは7番人気だった。初参戦で勝手が分からない今回は、「メイン集団で無事に完走する」という最低限の目標で臨んだ。
序盤はポイントに絡み、上位陣と互角の走りを披露。しかし、残り170周付近で強力選手たちが形成されたエスケープグループに乗り遅れてしまう。乗り遅れたメンバーは下位チームが多く、差は開く一方。約50周で-1ラップを喫してしまった。後半になるとさらに余力が無くなり、後方での位置取りを強いられる展開に。
サーカスのように選手がめまぐるしく選手たちが絡み合うマディソンでは、後ろに位置することは致命傷となる。展開に乗れないだけでなく集団前方のチームが行った選手交代による速度変化の影響を受けるうえ、バンクの外周を走らされることになり、走行距離が増えて負担が大きくなるためだ。
結果、体力を削られて勝負には絡めず、最終的に優勝チームから-3ラップ+2ポイントの12位に終わった。
橋本はレースについて以下のようにコメントしている。「序盤のエスケープでは1チームにどんどんブリッジがかかり、それがメイン集団に。マディソンは2人ペアだから走っている選手が常にフレッシュ。少人数なエスケープでも主導権を握る場面が多くあり、積極性が上位を狙う必須条件と感じた」
まとめ
ベンディゴマディソンを目標とした約2週間の滞在となった今回の遠征。現地ではマディソンを中心に選手、ファン、地域が盛り上がり、レースが様々な影響を持たしていることを体験できた。
開催中は、地元紙が数日にわたって結果を掲載するなど、マディソンが紙面を賑わし、マディソンをきっかけに若手チームも発足する。マディソンが地域のお祭りとなり、招待選手とともに一般レーサーもトレーニングやレースを満喫する。
夕方から実施される競技は、仕事終わりの人たちビールを片手にレースを楽しむ。地域の文化形成に自転車競技が関わり、根付いていることを実感した。レガシーは物質的なものだけではなく、実はこういったソフトパワーも重要なものだと強く感じた。
今後も多くの人に認知や体験してもらうべく、また競技面においてもさらなる強化を目指し、引き続き活動を続けていく。最後にこの場をお借りして多くの方々に協力いただき、貴重な経験をさせていただきましたことを心より御礼申し上げます。
主なレース結果
3月2日(木):Bendigo Club Track(Tom Flood Sports Center/Bendigo)
The Audi Bendigo 2000m ハンディキャップ 新村 4位
30laps モーターペーサー 新村 2位
3月7日(火):大会名不明(Darebin International Sports Centre/Melbourne)
スクラッチ 新村 2位 / 橋本 3位
エリミネーション 橋本 1位 / 新村 4位
60laps モーターペーサー 新村 1位 / 橋本 2位
3月9日(木):Frank McCaig Memorial Wheel Race(Tom Flood Sports Center/Bendigo)
上位入賞なし
3月10~11日(土~日):Bendigo International Madison Carnival(Tom Flood Sports Center/Bendigo)
ゴールド&オパール ホイールレース(2000m) ともに予選落ち
ゴールデンマイル ホイールレース(1600m) ともに予選落ち
ケイリン 橋本 予選 1位・決勝 6位 / 新村 予選 4位
マディソン 新村・橋本 12位 2点 -3Laps
text&photo: CS Slinger
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