2017/02/25(土) - 07:12
ライバルたちに「今日は彼が最強だった」と讃えられたカレイブ・ユアン。しかし勝利を確信して両手を挙げるのが早すぎた。フィニッシュラインまで踏み抜いたマルセル・キッテルが圧巻の追い上げスプリントでアブダビツアー第2ステージを制した。
アブダビツアー2日目はUAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビ市を駆け抜ける153km。再びスプリンター向きの平坦コースが用意された。
新都市として開発が進むアルマリヤ島とアルリーム島をスタート後、高層ビルが建ち並ぶアブダビ市内を通過し、巨大なシェイク・ザーイド・モスク、環境都市マスダール、ヤス・マリーナ・サーキットがあるヤス島、サディヤット島を経てマリーナモールがあるペルシャ湾に突き出た半島にフィニッシュする。
この日もスタート直後に飛び出した複数名がそのままリードを広げる展開に。ファーストアタックを成功させたのはアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、BMCレーシング)やクリスティアン・ドゥラセク(クロアチア、UAEチームエミレーツ)、マルコ・カノラ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)を含む6名。
ディメンションデータとロット・ソウダルによる徹底的な集団コントロールによって39km地点で記録した2分20秒が最大のタイム差に。主に道幅のある幹線道路で構成された直線的なコースを、逃げグループは常にメイン集団の足音を聞きながら走り続けた。
クイックステップフロアーズとディメンションデータの集団牽引によって残り50km地点でタイム差は早くも1分を割り込む。BMCレーシングやバーレーン・メリダ、トレック・セガフレードといった総合系チームもエースのポジショニングのため集団先頭へ。残り30km地点でキッテルが前輪パンクに見舞われたが、チームメイトたちのエスコートによって力を使うことなく集団に復帰している。
心配された海風は吹かなかったものの、海上で発生した雨雲が薄っすらとコースを濡らす。残り10km地点で逃げは崩壊し、2つのスプリントポイントを先頭通過したカノラと実質的に最も先頭を長く引いていたデマルキが最後まで抵抗。力強くアブダビの海岸通りを進んだ先頭の2人だったが、残り2km地点で吸収された。
クイックステップフロアーズに代わってディメンションデータが先頭に立って残り1km。前日同様レイナルト・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ)、マーク・レンショー(オーストラリア)、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)の並びでスプリントに備えたが、向い風によって思うようにリードアウトに持ち込めない。
すると落車によって第1ステージのチャンスを逃したオリカ・スコットが主導権を奪う。タイミングよく先頭に立ったロジャー・クルーゲ(ドイツ)がユアンを好位置で発射した。
「前半の100kmは昨日の落車で打った肩が痛んだけど、集中力が増した後半にかけては痛みを感じなくなった」というユアンが独特の前傾ポジションで突き進む。赤いリーダージャージを着るカヴェンディッシュを突き放すスプリントを披露したユアン。しかし勝利を確信して両手を挙げたその横で、キッテルがバイクを投げ込んだ。
写真判定の結果、キッテルに軍配。最後まで踏み続けたキッテルがユアンを差し切った。「ガッツポーズが原因で勝利を逃してしまった。とても恥ずかしく、同時にチームメイトたちに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。トップスプリンター相手に最高のお膳立てをしてくれたのに」と敗れたユアンは語っている。
今シーズン早くも5勝目を飾ったキッテルは僅差のスプリントについて「ドバイツアーの最終ステージと同じように、後ろからポジションを上げてのスプリントだった。最後まで諦めずに踏み続けた結果の勝利はこの上なく嬉しい。左前から風を受けながらのスプリントだったので、うまくポジションを上げることができたんだ。カレイブとの差は僅かだったと思う。彼が勝利を確信してフィニッシュ手前で踏むのを止めたことで自分に勝利が回ってきた。スプリンターなら誰もがやってしまうミスであり、これで彼は同じような過ちを二度と犯さないと思う」とコメント。クイックステップフロアーズは今シーズンすでに12勝(世界最多)を飾っているが、UCIワールドツアーレースでの勝利はこれが初めて。
初日の第1ステージは落車のためキッテルはスプリントに絡めず。さらにキッテルのディスクブレーキがオウェイン・ドゥール(イギリス、チームスカイ)のシューズにダメージを与えた可能性があると報道されたことで、その真偽はともかくネガティブなイメージが残っていた。
この日キッテルはノーマルブレーキ搭載バイクで走り、勝利した。「ディスクブレーキではなくリムブレーキのバイクに乗った理由は、同じプロトン内を走る選手たちをリスペクトしたから。昨日のフィニッシュの後、自分のディスクローターがオウェイン・ドゥールのシューズを切ったというニュースが流れたので、余計な波風を立たせないようにディスクブレーキの使用を控えた。シューズの穴がディスクローターによるものなのか定かではないし、今でもロードレースの未来にディスクブレーキがあると確信している。ローター部分をカバーすることで選手が安心するならそれでいいと思う」とキッテルはコメントしている。
ステージ3位に入ったカヴェンディッシュはリーダージャージをキープ。しかし「今日は正直言ってカレイブが最強だった」と白旗を上げた。カヴェンディッシュは「向かい風の中をカレイブは突き進んでいった。彼の後ろからスプリントするのは初めてだったけど、身体の小さい選手の後ろにつくのは至難の技だと感じたよ。スリップストリームに入っていたものの、まるで集団の先頭で走っているようだった。カレイブに勝負できたのは自分よりもパワーのあるマルセルだけ。彼のほうがスピードにして5km/hほど速かったと思う」とライバルたちを讃えている。
翌日は今大会最初で最後の山頂フィニッシュが登場。標高1,025mジュベルハフィート(10.8km/7%)で実質的に第3回大会の総合優勝者が決まる。
アブダビツアー2017第2ステージ結果
1位 マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) 3h28’11”
2位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)
3位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)
4位 マッテーオ・ペルッキ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)
5位 フィル・バウハウス(ドイツ、サンウェブ)
6位 エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)
7位 アンドレア・グアルディーニ(イタリア、UAEチームエミレーツ)
8位 エドゥアルド・グロス(ルーマニア、NIPPOヴィーニファンティーニ)
9位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)
10位 アレクサンダー・ポルセフ(ロシア、ガスプロム・ルスヴェロ)
個人総合成績
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 8h05’03”
2位 マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) +04”
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) +08”
4位 マルコ・カノラ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)
5位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)
6位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチームエミレーツ)
7位 ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、バーレーン・メリダ) +10”
8位 ファビオ・カラブリア(オーストラリア、ノボノルディスク) +11”
9位 ミルコ・マエストリ(イタリア、バルディアーニCSF) +12”
10位 窪木一茂(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)
ポイント賞
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 32pts
2位 マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) 20pts
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) 18pts
ヤングライダー賞
1位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット) 8h05’11”
2位 ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、バーレーン・メリダ) +02”
3位 エドゥアルド・グロス(ルーマニア、NIPPOヴィーニファンティーニ) +06”
スプリント賞
1位 マルコ・カノラ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ) 16pts
2位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチームエミレーツ) 16pts
3位 ファビオ・カラブリア(オーストラリア、ノボノルディスク) 8pts
チーム総合成績
1位 UAEチームエミレーツ 24h15’51”
2位 ディメンションデータ
3位 NIPPOヴィーニファンティーニ
text&photo:Kei Tsuji in Abu Dhabi, UAE
アブダビツアー2日目はUAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビ市を駆け抜ける153km。再びスプリンター向きの平坦コースが用意された。
新都市として開発が進むアルマリヤ島とアルリーム島をスタート後、高層ビルが建ち並ぶアブダビ市内を通過し、巨大なシェイク・ザーイド・モスク、環境都市マスダール、ヤス・マリーナ・サーキットがあるヤス島、サディヤット島を経てマリーナモールがあるペルシャ湾に突き出た半島にフィニッシュする。
この日もスタート直後に飛び出した複数名がそのままリードを広げる展開に。ファーストアタックを成功させたのはアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、BMCレーシング)やクリスティアン・ドゥラセク(クロアチア、UAEチームエミレーツ)、マルコ・カノラ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)を含む6名。
ディメンションデータとロット・ソウダルによる徹底的な集団コントロールによって39km地点で記録した2分20秒が最大のタイム差に。主に道幅のある幹線道路で構成された直線的なコースを、逃げグループは常にメイン集団の足音を聞きながら走り続けた。
クイックステップフロアーズとディメンションデータの集団牽引によって残り50km地点でタイム差は早くも1分を割り込む。BMCレーシングやバーレーン・メリダ、トレック・セガフレードといった総合系チームもエースのポジショニングのため集団先頭へ。残り30km地点でキッテルが前輪パンクに見舞われたが、チームメイトたちのエスコートによって力を使うことなく集団に復帰している。
心配された海風は吹かなかったものの、海上で発生した雨雲が薄っすらとコースを濡らす。残り10km地点で逃げは崩壊し、2つのスプリントポイントを先頭通過したカノラと実質的に最も先頭を長く引いていたデマルキが最後まで抵抗。力強くアブダビの海岸通りを進んだ先頭の2人だったが、残り2km地点で吸収された。
クイックステップフロアーズに代わってディメンションデータが先頭に立って残り1km。前日同様レイナルト・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ)、マーク・レンショー(オーストラリア)、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)の並びでスプリントに備えたが、向い風によって思うようにリードアウトに持ち込めない。
すると落車によって第1ステージのチャンスを逃したオリカ・スコットが主導権を奪う。タイミングよく先頭に立ったロジャー・クルーゲ(ドイツ)がユアンを好位置で発射した。
「前半の100kmは昨日の落車で打った肩が痛んだけど、集中力が増した後半にかけては痛みを感じなくなった」というユアンが独特の前傾ポジションで突き進む。赤いリーダージャージを着るカヴェンディッシュを突き放すスプリントを披露したユアン。しかし勝利を確信して両手を挙げたその横で、キッテルがバイクを投げ込んだ。
写真判定の結果、キッテルに軍配。最後まで踏み続けたキッテルがユアンを差し切った。「ガッツポーズが原因で勝利を逃してしまった。とても恥ずかしく、同時にチームメイトたちに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。トップスプリンター相手に最高のお膳立てをしてくれたのに」と敗れたユアンは語っている。
今シーズン早くも5勝目を飾ったキッテルは僅差のスプリントについて「ドバイツアーの最終ステージと同じように、後ろからポジションを上げてのスプリントだった。最後まで諦めずに踏み続けた結果の勝利はこの上なく嬉しい。左前から風を受けながらのスプリントだったので、うまくポジションを上げることができたんだ。カレイブとの差は僅かだったと思う。彼が勝利を確信してフィニッシュ手前で踏むのを止めたことで自分に勝利が回ってきた。スプリンターなら誰もがやってしまうミスであり、これで彼は同じような過ちを二度と犯さないと思う」とコメント。クイックステップフロアーズは今シーズンすでに12勝(世界最多)を飾っているが、UCIワールドツアーレースでの勝利はこれが初めて。
初日の第1ステージは落車のためキッテルはスプリントに絡めず。さらにキッテルのディスクブレーキがオウェイン・ドゥール(イギリス、チームスカイ)のシューズにダメージを与えた可能性があると報道されたことで、その真偽はともかくネガティブなイメージが残っていた。
この日キッテルはノーマルブレーキ搭載バイクで走り、勝利した。「ディスクブレーキではなくリムブレーキのバイクに乗った理由は、同じプロトン内を走る選手たちをリスペクトしたから。昨日のフィニッシュの後、自分のディスクローターがオウェイン・ドゥールのシューズを切ったというニュースが流れたので、余計な波風を立たせないようにディスクブレーキの使用を控えた。シューズの穴がディスクローターによるものなのか定かではないし、今でもロードレースの未来にディスクブレーキがあると確信している。ローター部分をカバーすることで選手が安心するならそれでいいと思う」とキッテルはコメントしている。
ステージ3位に入ったカヴェンディッシュはリーダージャージをキープ。しかし「今日は正直言ってカレイブが最強だった」と白旗を上げた。カヴェンディッシュは「向かい風の中をカレイブは突き進んでいった。彼の後ろからスプリントするのは初めてだったけど、身体の小さい選手の後ろにつくのは至難の技だと感じたよ。スリップストリームに入っていたものの、まるで集団の先頭で走っているようだった。カレイブに勝負できたのは自分よりもパワーのあるマルセルだけ。彼のほうがスピードにして5km/hほど速かったと思う」とライバルたちを讃えている。
翌日は今大会最初で最後の山頂フィニッシュが登場。標高1,025mジュベルハフィート(10.8km/7%)で実質的に第3回大会の総合優勝者が決まる。
アブダビツアー2017第2ステージ結果
1位 マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) 3h28’11”
2位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)
3位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)
4位 マッテーオ・ペルッキ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)
5位 フィル・バウハウス(ドイツ、サンウェブ)
6位 エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)
7位 アンドレア・グアルディーニ(イタリア、UAEチームエミレーツ)
8位 エドゥアルド・グロス(ルーマニア、NIPPOヴィーニファンティーニ)
9位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)
10位 アレクサンダー・ポルセフ(ロシア、ガスプロム・ルスヴェロ)
個人総合成績
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 8h05’03”
2位 マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) +04”
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) +08”
4位 マルコ・カノラ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)
5位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)
6位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチームエミレーツ)
7位 ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、バーレーン・メリダ) +10”
8位 ファビオ・カラブリア(オーストラリア、ノボノルディスク) +11”
9位 ミルコ・マエストリ(イタリア、バルディアーニCSF) +12”
10位 窪木一茂(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)
ポイント賞
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 32pts
2位 マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) 20pts
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) 18pts
ヤングライダー賞
1位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット) 8h05’11”
2位 ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、バーレーン・メリダ) +02”
3位 エドゥアルド・グロス(ルーマニア、NIPPOヴィーニファンティーニ) +06”
スプリント賞
1位 マルコ・カノラ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ) 16pts
2位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチームエミレーツ) 16pts
3位 ファビオ・カラブリア(オーストラリア、ノボノルディスク) 8pts
チーム総合成績
1位 UAEチームエミレーツ 24h15’51”
2位 ディメンションデータ
3位 NIPPOヴィーニファンティーニ
text&photo:Kei Tsuji in Abu Dhabi, UAE
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