北のクラシックを制するために生み出されたトレックのエンデュランスロードバイク「Domane(ドマーネ)」シリーズ。独自開発の振動吸収機構「IsoSpeed」をフロントセクションにも搭載することで、更なる快適性と走破性を手にした、パヴェレーサーの旗艦モデル、Domane SLR 6をインプレッション。



トレック Domane SLR 6トレック Domane SLR 6 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
昨年引退したファビアン・カンチェラーラ。パリ~ルーベやロンド・ファン・フラーンデレンなど、過酷な石畳クラシックを得意とし、多くの勝利を挙げてきた名選手のリクエストに応え、トレックが開発したエンデュランスレーサーが「Domane」シリーズだ。

あくまでレーシングバイクとして開発がスタートしたDomaneは、石畳でのダメージを最小限に抑える快適性と、アタックやスプリントに応えてくれる反応性を同時に満たすという、相反する二つの要素をカンチェラーラから求められることになった。

トップチューブはオーソドックスな形状だトップチューブはオーソドックスな形状だ 一見複雑な機構が内蔵されているとは思えないスマートなヘッドチューブ一見複雑な機構が内蔵されているとは思えないスマートなヘッドチューブ 緩やかにベンドするフロントフォーク緩やかにベンドするフロントフォーク


Domane以前のフレーム設計のセオリーでいえば、快適性を高めるためにはフレームの柔軟性を向上させる必要があるが、それはフレームの剛性を落とすということとほぼ同義であった。しかし、どれだけ快適性を向上させ、過酷な石畳を走り切ることが出来たとしても、ライバルたちのアタックに反応し、更に攻撃を仕掛けることが出来ないバイクでは、北のクラシックの勝利は遠いものとなる。

無理難題ともいえる要求を満たすために、トレックが考え出したのがDomaneのコアテクノロジーである「IsoSpeed」。シートチューブをトップチューブとシートステーから分離したフローティング構造とすることで、前後方向へのしなり量を大幅に増加させた。この構造により、ペダリング効率はそのままに、縦方向への柔軟性を飛躍的に向上することに成功したのだ。いわばマイクロサスペンションともいえるIsoSpeedは、その効果を如何なく発揮し、ロンド・ファン・フラーンデレン2勝にパリ~ルーベ1勝と、カンチェラーラの勝利を支えてきた。

その有用性が認められ、シクロクロスバイクのBooneやXCバイクのProcaliberといった、ハードテールオフロードバイクへも導入されることになったIsoSpeedは、ついにエアロロードである新型Madoneにも搭載されることに。快適性、ひいてはトラクション性能を大幅に引き上げるIsoSpeedはどんなシチュエーションでも効果を発揮する証左であろう。

ブレーキワイヤーはチューブの中央から出てくるブレーキワイヤーはチューブの中央から出てくる このキャップの中にフロントIsoSpeedが内蔵されるこのキャップの中にフロントIsoSpeedが内蔵される

電動コンポのバッテリーを収納できるコントロールセンター電動コンポのバッテリーを収納できるコントロールセンター BB90規格のハンガー部BB90規格のハンガー部


4年目にして初のフルモデルチェンジを果たした元祖IsoSpeedバイクたるDomaneは、誰も予想しえなかった進化を遂げた。そう、フロントセクションにもIsoSpeedを導入するという画期的な機構を手に入れたのだ。フォークのステアリングコラムをヘッドチューブから独立させることで、前後へのしなり量を増加させるという、まさにフロントバージョンのIsoSpeedテクノロジーが搭載されたのだ。

フォークコラムがしなる、というとハンドリングへの影響を懸念する人もいるだろうが、縦方向への柔軟性は向上しつつも、横方向への剛性は損なっていない構造であるため、ハンドルがブレたり共振を起こしたり、というような悪影響はないという。

リアエンドはコンパクトな形状 マッドガード台座も用意されるリアエンドはコンパクトな形状 マッドガード台座も用意される 柔軟性を調整するスライダー柔軟性を調整するスライダー


リアのIsoSpeedにも手が加えられ、更なる進化を遂げている。シートチューブを縦に2分割し、スライダーを挟み込むことでしなり量を調整することができる新構造を採用。シートチューブの前半分はトップチューブと接続され、フレームの剛性を担保する構造体となる一方、後ろ半分は独立した構造となっている。

スライダーを上下させることで、シートチューブのしなる量を変更することができる新型IsoSpeedは、最大で前作比17%増の振動吸収率を実現している。スライダーで変形量をコントロールすることができるため、路面状況やライダーの体重などに合わせてベストなセッティングを行えることも強みだろう。

シートステーも細身で振動吸収性に寄与するシートステーも細身で振動吸収性に寄与する タイヤクリアランスも広くとられており、グラベルライドにも適応するタイヤクリアランスも広くとられており、グラベルライドにも適応する DomaneのアイコンであるIsoSpeedが内蔵されたシート集合部DomaneのアイコンであるIsoSpeedが内蔵されたシート集合部


前後デュアルIsoSpeed、そして可変セッティング機構という新たな武器を得た新型Domane。今回インプレッションするDomane SLRは、その全ての機能を搭載したフラッグシップモデルである。素材にはトレックが誇るOCLV600カーボンを使用し、軽く切れのある走りを実現した。

テストしたバイクは、コンポーネントに機械式アルテグラを採用したDomane SLRシリーズの末弟モデルであるDomane SLR 6。ホイールにはボントレガーのParadigm Comp TLR、タイヤには同じくボントレガーのR3を組み合わせている。エンデュランスバイクの最先端ともいえる新型Domaneをテストライダーたちはどう評価するのか、インプレッションに移ろう。



ー インプレッション

「高い走破性を備えたエンデュランスバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

このバイクは前後に設けられたIsoSpeedによって様々なシュチュエ―ションに対応できるオールラウンダーといった性格に仕上げられています。特に荒れた路面を走ってもサスペンション効果のおかげで、スイスイ走れる性能を持っています。路面状況を問わない走破性の高さを感じます。

「高い走破性を備えたエンデュランスバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング )「高い走破性を備えたエンデュランスバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング )
フレームはペダルを踏み込んだ力をダイレクトに推進力に変えてくれる剛性を持っていますが、脚への反発やダメージを上手くいなしているように感じます。レーシングバイクらしい硬さは感じません。機械で計測した剛性値は高い値だと思いますが、フレーム剛性が人間のペダリングと同調するように味付けされているのでしょう。そこに快適なのに推進力に優れる最新のバイクらしさを感じるところです。

更に荒れた路面でパワーをかけていくとバイク自体が前に前に進もうと加速していきます。ヘッド周りのIsoSpeedが衝撃をただ吸収するというサスペンション機能だけでなく、速く走らせるためにも働いてくれるようでした。まさにパリ・ルーベやロンド・ファン・フラーンデレンを走るためのバイクですね。

もちろんこのIsoSpeedは振動吸収性も抜群で、舗装の荒れた部分やグレーチング・マンホールをわざと踏むように走ってみましたところ、フロント部分がサスペンション付きのバイクのように振動を吸収してくれる感覚を大いに受けました。普通のロードバイクであれば足元をすくわれるような段差でも、問題なく走れる性能を持っています。

エンデュランスバイクというと直進安定性が強いものが多いですが、このバイクのハンドリングはナチュラルで、アンダーステアや突然切りこむということがありません。操作しやすい味付けですので、想像よりも角度がきついコーナーで、ラインを修正するとしても慌てることなく曲がることができると思います。

今回のインプレバイクは廉価版のアルミホイールを履いていましたが、問題なく走ることができました。最近のハイエンドバイクは良いカーボンホイールを付けないとしっくりこないものが多いですが、練習用のホイールを装着していても気持ちよく走ることができるのは、良い自転車の特長だと思います。

このDomane SLRはレーシングバイクですが、前後に配置されたIsoSpeedが疲労の軽減につながるのでロングライドを楽しむ方にもマッチしています。肩周りや肩甲骨が硬く疲れやすい方にとっても、走りを自然とアシストしてくれるような頼もしい味方になってくれるバイクだと思います。今まで以上にライドを楽しませてくれるでしょう。

「快適性と反応性とを上手く両立させたレーシングバイク」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

ロングライド向けエンデュランスモデルという触れ込みですが、レースでも使える剛性を確保しているバイクです。IsoSpeedによる衝撃吸収性とレーシングエンデュランスバイクとしての反応性のバランスは、カンチェラーラが開発に参加しているという事もあってか、非常に高いレベルにあると思います。

「快適性と反応性とを上手く両立させたレーシングバイク」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)「快適性と反応性とを上手く両立させたレーシングバイク」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) ヘッド部分のIsoSpeedは程よい硬さで、ダンシングでアタックするような時でもハンドル周りに確かな剛性を感じる事が出来ます。あわせて路面からの微振動を確実に和らげてくれる感覚があるので、腕への負担は確実に軽減していると思います。ゆっくりロングライドする方には強い味方になってくれますし、レースにおいてもスプリントするための腕の力を残しておいてくれるでしょう。

リアからの衝撃は、シートチューブのIsoSpeedのしなりによってしっかり軽減されています。28mmタイヤも快適性の向上に貢献していると思います。フレームがワイドタイヤに対応するクリアランスを持っているので、使用用途に応じてタイヤ幅を変えると良いでしょう。レースで使うのであれば23mmから25mm、ロングライドやグラベルであれば28mmが良いと思います。

ただ、グラベルを走るとなるとリムブレーキだとストッピングパワーが足りないと感じる節がありました。リムブレーキモデルはあくまでオンロードの使用状況に対応したフレームだと感じますので、グラベルも走りたいと考えるならばディスクブレーキモデルの選択も視野に入れると良いかもしれません。

レースで使用するのであれば50kmほどの短距離レースよりも、ツール・ド・おきなわや、ニセコクラシックのようなロングレースでその真価を発揮すると思います。エンデュランスロングライド向けバイクのような第一印象ですが、ファンライドだけではなく、レースという実戦でも使えるポテンシャルを持っています。

ヒルクライムに関してもバイク重量自体が軽量に仕上がっているため、鈍重な動きを感じることはありません。ですがそれに特化しているバイクでもありませんので、登りの勾配や距離によっては苦手なコースプロフィールも出てくると思います。そういった場合はホイールを軽量なものに変更すると、軽快さが増すでしょう。

総合的に快適性と反応性という相反する要素を上手く両立させたバイクだと感じました。ロングライドでもロードレースでも十分活躍してくれるポテンシャルを秘めており、万能に使えるバイクですね。

トレック Domane SLR 6トレック Domane SLR 6 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
トレック Domane SLR 6
フレーム素材:600Series OCLV Carbon
BB:BB90
メインコンポーネント:シマノ ULTEGRA
ブレーキ:ボントレガー Speed Stop(ダイレクトマウント)
ホイール:ボントレガー Paradigm Comp Tubeless Ready
サイズ:50、52、54、56、58、60cm
完成車重量(サイズ56):7.46kg
カラー:Matte/Gloss Trek Black、Black/Charcoal/Yellow-P1、Matte Waterloo Blue/Black/Blue-P1、Quicksilver/Viper Red/Black-P1
価格:590,000円-650,000円



インプレッションライダーのプロフィール

山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にあるブレアサイクリング店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

CWレコメンドショップページ
ブレアサイクリングHP

遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) 遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

新潟県長岡市に店舗を構えるサイクルワークス Fin’sの店長。学生時代にBMXから始まり、MTBやロードバイクまで幅広く自転車を楽しむ、バリバリの走れる系店長。スポーツバイク歴は18年にもなり、2012年には全日本選手権ロードに出場した経験も。お店は完璧なメカニックサービスを提供するべく、クオリティの高い整備が評判だ。ショップ主催のサイクリングやレース活動に積極的で、初めての人から実業団レースで活躍したい人まで手厚いサポートを心がける。

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サイクルワークス Fin’s HP

ウェア協力:rh+

text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANO
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