2016/11/24(木) - 10:57
ホビーレーサー王者の座を決めるツール・ド・おきなわ市民210kmで昨年に続く連覇を達成、通算4勝目を挙げた高岡亮寛(イナーメ信濃山形)によるレポート。一年間このレースに焦点を絞り準備し、他を圧倒した走りにつながったものとは?
■事前準備編
1年間の集大成を11月上旬のツール・ド・おきなわに設定して10年ほどが経つ。自分の中でのレース格付けで他とはまったく違う、唯一無比にカテゴライズされる最重要レースだ。毎年、こんなにうまくいく事は二度とないだろう、と思うほど集中してピークを合わせて良い結果を出してきた。
「再現性ないよな」と思いながらもなんだかんだで毎年調整している。
ホビーレーサーなので自転車中心には出来ないので、自転車の計画ありきではなく、仕事と家庭の制約の中で最善を尽くそうと毎年努力している。
例えばプロ選手に負けて2位だった2014年は10月後半から週末にいくつかレースを転戦する事でコンディションを上げられた。2015年は仕事の都合上、10月中旬に1週間でロンドン−NY出張行くことになったが、その前後の練習でうまく調整して優勝できた。で、今年は諸事情でレース参加が極端に少ない。
■ライバル
今年はとにかくライバルが多くて手強いと思っていた。筆頭は森本さん、清宮さん。武井さんもコンディションが上がっていれば手強いし、井上さんもモチベーションと体力レベルが異常に高い。あとマツケン(松木)さんや青木さんなど。なので今までの勝ちパターンの途中逃げからの長めの独走勝利、とはならずに別の展開になるだろうと予想。まぁ色々考えてもロードレースは水物なので、その時々に対応した臨機応変な走りをするだけと、結局いつもと同じ気持ちでスタートを迎える。
■補給食
60kgちょいまで体重落としたけど、木曜くらいからはカーボローディングを意識して炭水化物をたくさん食べるので、レース前は61~61.5kgくらいにはなっているのではないか。なので当日の朝食はそんなにたくさん食べない。その代わりスタートまでとスタート後もちょくちょくと食べ続ける。
補給食はマグオンジェル10個。4つのフレーバーがあるので飽きずに摂れるし、何よりも美味しい。後は固形食として餅・饅頭系の小さいモノを6個。これくらいならジャージの後ろポケット3つにちょうど収まるし、5時間走るには十分過ぎるくらい。実際半分の補給食が余った。
スタート時のボトルはロングボトル✕2本。1本はBCAAとマグオン顆粒を溶かしたもの。これは10月から練習時に常に摂取しているモノで、パフォーマンス低下抑制や疲労回復に効果があるような気がしている。もう1本はポカリスエット。
■バイク&機材
例年になく機材にこだわった。出力同じでいかに進ませるか。または同じレースを走りながらいかに低い出力に抑えるか。まず分かったことは、一般的に使っているオールラウンド型のチューブラータイヤより性能を突き詰めたクリンチャータイヤの方が転がり抵抗が小さい点。
Continental SupersonicタイヤとSOYOラテックスチューブでいくことは決定。カーボンホイールにラテックスチューブは推奨外(もしくは使用禁止に近い警告)なので、リスクを把握して細心の注意での取り扱いが必要だ。
LightweightのクリンチャーホイールかGOKISO GD2 38mmホイールかで最後まで悩んだ。上りを同じ速度で走るにはLightweightの方が小さい出力で走れる。逆に下りはGOKISOの方が速い。前輪+400g/後輪+500gという重量差、ハブ性能の差、リムハイトの差、のそれぞれの寄与度は不明だが、実地テストでそれらしいデータが取れた。
頂上ゴールならおそらくLightweightだったと思うが、沖縄の勝負がかかる区間は実は下り基調でそこをいかに速く(もしくは楽に)走るかがキーだと思い、GOKISOをチョイス。そして限界性能を突き詰めるためミシュランのラテックスチューブからさらに40%ほど軽量化できるSOYOのラテックスチューブに交換。
ちなみに2016年GOKISOホイールは1位、2位を獲得している。2015年は1位(高岡)、3位(井上)。2014年は2位(高岡)、3位(森本)。速いの一言に尽きる。
ウェアはSUNVOLT製のセパレートワンピース。ワンピースのフィット感・空力性能とセパレート型の利便性を兼ね備えた逸品だ。夏くらいにコレを沖縄でどうしても使いたいと言ってサンボルトさんに間に合わせていただいた。いくつか課題はあるけど、ロードレース用のウェアは今後このカタチになっていくだろうというくらい画期的な作りだと思う。
そしてチェーンは潤滑オイルを塗布するのではなく、チェーンリンクまでワックスを浸透させた”ザイコーチェーン”を採用。MOLTEN SPEED WAXを施工したザイコーチェーンは、今年の全日本選手権TTの優勝者も使用したらしい。表面は全くのドライなので汚れがつかない。事前練習で試用してみたが、300km走っても性能の劣化は感じないほどスムーズだった。そしてレース前にはMolten Speed Wax Race Powderという鉛筆の芯を粉にしたような真っ黒な粉体をチェーンにまぶすという斬新なチューン。
一生懸命練習した成果の出力を少しでも無駄にしたくはないという思いでの少しずつの積み重ねが結果に結びついて本当に良かった。
■レースレポート
いよいよ決戦の日。4:45に起床。かりゆしビーチリゾートの朝食がレース日のみ5時から開けてくれるので助かる。部屋で食べるつもりでいたけど5時に入れば時間的に問題ないので5時前にレストランへ。
家から持ってきたシリアルを持ち込んでヨーグルト・フルーツソースとコーヒーの朝食。ブッフェだけど食べるものは必要なものだけ。いつもと一緒。カーボローディングをしているので朝食は軽めに。予定通り6時には車で宿を出ていつもの駐車場へ。
7:47にレースはスタート。いつも通りに先頭付近で時折先頭交代にも加わりながら走る。本部半島はペースは平和で特に問題なく。
本部半島終わり海岸線を北上。ここでアクシデント発生。緊急車両が道路左端に止まっていたために集団が進路変更して右車線に移った際に森本さんが車線中央のコーンに突っ込んで落車してしまう。私はそれを見ていなかったが、落車の音がしたので集団のペースを緩める。このチャンスにあらかじめ声かけておいた選手たちと一緒にトイレストップ。
今年は10名以上でローテーションできたため何の問題もなく集団復帰。森本さんも怪我をしていながらも一緒の集団で復帰できた。70km地点から1回目の普久川ダムの上り約6km。ここではまだ勝負はかからないので前方でなるべく脚を使わないで上る。篠崎友選手のほぼ一本牽き。
まだ余裕のあるペースだったのでダンシング比率は控えめでクリアできた。まだライバルの調子どうこうわかるほどペース上がっていない。下りは危険回避のため先頭で思いっきりペースを上げて、自分のペースで下る。
奥から辺戸岬の道も淡々と進む。今年は強豪が揃っているため皆が様子見をしている感じ。不気味に静かに進行する。2回目の普久川ダムまでに固形食及びジェルを頻繁に摂取して後半に備える。いつも通りに上り口では2番手で上り始める。少しの省エネの積み重ねが大事だ。
1回目よりは速いと思うけど、2回目のダムの上りもペースは上がりきらない。アタックもない。頂上付近でようやく小さな動きが。井上君が少し抜け出す。頂上付近で私も追いついて西谷さんと3人になるけど、後続もすぐに追ってきて集団一つのまま。せっかく活性化させたので山頂の山岳賞を取ったような。
下りは再び先頭で飛ばす。飛ばすとついてくるのは下りをしっかり曲がれる人たちだけなので危なくない。下りを曲がれない人たちと一緒に走っていて前の人が転んだらどうしようもない。
2回目のダムの上りも終えて補給所過ぎて、まだレースは始まっていない。高江までの長くスピード出る下りも先頭で。井上君も下りが速く、かなり飛ばしている。井上君が下り最後でカッ飛んで、高江の上り口には少し先行して突っ込む。ここで絞り込みたい感じで踏んでいるので、私もその動きを利用してきっちりついていく。アタックって感じではない。このペースで行くぞって走りで、それを利用すればある程度人数絞れるだろうと思うので、ペースメイクは任せる。
武井さんが待ちきれずにアタックするけど、まだ焦ることはないので放置。武井さんも様子見ながらなので、戻ってくる。この上りは毎年必ずセレクションがかかる勝負どころなので皆そういう気持ちで臨んで頑張ってくる。私はむしろその後を狙っていた。
難所をクリアして一休みしたいところ、がんばった脚を回復させたいところからレースを活性化させようと思っていた。緩い、全体的に下り基調のアップダウンなので人の後ろに付くメリットが大きい。だからこそ誰か追わないか?とお見合いになりがち。
何度かアタックがかかる。主に私か武井さん。その頃にはもう龍太郎も小畑さんも岩島君もいなかったのは意外だった。
武井さんと私ではアタックの仕方が違う。武井さんは瞬発力があるのでキレがある。なので必ず抜け出すことは出来るけど、そのまま一人で行っちゃうよ的な走りではないので放置プレーされると潔く戻って次のチャンスを狙う。呼応する人を誘って一緒に抜け出そうぜ、っていうメッセージを感じるアタックだ。
私はあえて腰上げアタック風にしないでなんとなくペース上げて少し間が空いたらそのままじわーっと踏んでいくアタック。お見合いして間が空いたら一人でも行くつもり。さすがにそう簡単には逃がしてもらえない。
やはり井上君が強くて、ペース上げて人数絞ってガンガン行きたい感じ。そうやってじわじわと攻撃かけて勝負を仕掛けるのと、逃がすまいと追いかける動きが続き、縦(速度変化)と横(様子見・牽制)の動きが活発な中で井上君の前輪が私の脚と接触してしまう。
前輪の回転で私のふくらはぎの皮膚がえぐれる。私は持ちこたえたが、後ろの井上君は前輪を取られたので派手に落車。明らかに一番脚があっただけに大変残念なところでの落車だ。前日かなりの強さを見せつけた森本さんはこの辺りで脚が売り切れになって、もう居なかった。レースは何が起こるかわからない。
先頭集団はSHIDOの中尾君、FORZAの新井さん、マツケンさん、清宮さん、武井さん、青木さん、オッティモの選手(河合さん:全く知りませんでした)、原さん、くらいかな?
緩いアップダウンの中で武井さんがアタック。少し間が空く。データを見るとおそらく残り50kmくらい。牽制もあるけどなんとなく雰囲気的に皆そろそろ脚にキてそうな雰囲気がした。これは完全に空気感というか第六感というか。
今までとは違い、私も下ハンを持って緩い上りでダッシュして武井さんにブリッジ。ものの5秒くらいの差なのですぐに追いついた。けれどそのくらいの差なので後ろも近い。当然一列になって追ってるのが見えた。
一人対集団では厳しいけど、武井さんという地脚のあるアタッカーが一緒なのでここは勝負をかける。ここが本レース一番のターニングポイントだった。緩いアップダウンだけど基本的に下り。GOKISOホイールのチョイスが活きる。武井さんと二人でガンガンに飛ばす。逃げる方も追う方もここは必死だったと思う。
海岸線に出て向かい風がきつい。モトバイクが後続との差を教えてくれる。14秒、、、キツイ。キツイけど一踏みで追いつく差ではない。おそらくここから5秒縮まって一桁になったらダメだろう。ここで踏ん張って30秒まで行けば可能性が出てきて面白い。
TTのつもりで踏む。不思議なことにタイムトライアルは得意じゃないけど、こういうロードレースの勝負所でのハイペース走はそれなりに得意だ。先頭交代の中で武井さんが「少し休ませて」と言う。
二人の力を最大化させなければいけないので、それなら回復してまた牽いてくれるまで私のペースで牽き続ける。海岸線の向かい風がきつい。けど風は後ろの集団も一緒だ。均等に回せば当然人数多い方が楽だけど、キツイ中の向かい風だとローテしたがらない人がいたりしてギクシャクしだすと向かい風だと途端に進まなくなる。
私は自分のペースを守るだけ。武井さんが牽けなくなるけど、あの集団の中では井上君と同じく動けていた武井さんが厳しいというくらいだから、今日の私はかなり調子良いのかもしれない。なんてポジティブに考えて差が縮まるまでは踏み続けるのみ。
毎度のことだけど、上りをクリアすると差が広がっている。やはり後ろの集団もかなり脚にきているんだろう。そうなると実力差が如実に出る。人数がいても実力差が出て牽けない人が出てくると途端に集団としての威力は半減するのでチャンス。
1分の差までつかないとアドバンテージとは感じられない。差をつけるなら一気につけて後続集団に精神的ダメージを与えたいところ。ここが勝負だと思いエアロを意識して踏み続ける。実際1分差を超えてから2−3分まで広がるのは早かった気がする。
3分以上差がついたところで後続1名との情報。ゼッケン聞くと清宮さんが単独で追走してると。これはラッキー。もう後続集団が協調してペースアップできることはないだろう。もしかしたら3分差を単独で詰めてくるスーパーな走りをしてくるかもしれない。1対1の勝負だと思い気を引き締める。これで清宮さんが集団に戻ればもう追走は完全に機能しない。
序盤に補給をしっかりしていたので、集団から抜け出してからは水以外は一切補給なし。1秒も惜しい。平地踏んでからの上りや、上り終えてからの下りなどリズムが変わるところで脚が攣りそうになる気配は少しあったけど、攣らないような踏み方でペースを維持して走り続ける。
毎回逃げて勝っているけど、下り〜平地をいかに速いペースで走り続けるかがキーだ。だからGOKISOをチョイスした。このホイールよりハイペースの巡行が速いホイールはないと思う。今回も平地でかなり速いペースで踏めていると感じた。
3分以上あったタイム差が一時羽地ダム入り口入る前に2.5分くらいになった。タイム差の推移聞いていると計測誤差な気もしたが、もし本当に30秒短時間で詰まったとしたら、最後の上りで失速したら危ないレベル。気を引き締めて最後のクライムに。
もはや青息吐息だけど脚攣って失速しなければ十分いけるタイム差なので、気合と根性で上る。青息吐息と思ったけど、不思議とここを越えるといつもタイム差はかなり広がっている。今回も後続とのタイム差が大きく広がった。
下ってからゴールまではパンクだけはしませんようにと祈りながら無心で頭を下げて一刻も速くゴールまで、の一心で漕ぎ続ける。ラスト1kmでようやく力抜いて勝利の余韻かみしめつつ、ゴール。データは、5時間20分20秒、 Ave 234W、NP 250W、89.7rpm、140/175bpm
なんと2位は途中落車で遅れて第二集団で諦めずに走り続けた井上君だった。羽地ダムの上りで先頭集団からボロボロと人がこぼれてきて、ゴール前100mで先頭集団の3人に追いつきそのまま気づかれないうちに抜き去って2位になったと。いかにもトライアスリートっぽい、力でねじ伏せる走りだ。
井上君の落車がなければ展開は結構変わっていただろうな。3位の河合さん、全くノーマークでした、すみません。4位の青木さんもまったく事前情報が入っていなかったので分からなかったけど、昨年同様きっちり仕上げていた。マツケンさんは病気で手術してたとか全然知らなかった。これだけ日常生活含め情報すべて赤裸々に公開しているのは私くらいか。また情報全開示で1年後の沖縄に臨みます。
今年も本当に楽しい、最高のレースだった。来年またホビーレーサーの強者達と沖縄で最高の勝負をしたいとさっそく思っている。
10月からこの大会に向けての調整をサポートしてくれた家族、義父母の協力なしでは成し得なかった。本当に感謝です。どうも有難うございました。そしてまた来年もよろしくお願いします。
市民レース210kmリザルト
1位 高岡亮寛(イナーメ信濃山形) 5:20:20.546
2位 井上亮(Magellan Systems Japan) +5:40.578
3位 河合宏樹(オッティモ) +5:41.933
4位 青木峻二(ウォークライド) +5:42.499
5位 松木健治(有限会社村上建具工房ハイランダー) +5:43.537
6位 中尾峻(Team SHIDO) +6:15.326
7位 原純一(KMCycle) +6:19.042
8位 清宮洋幸(竹芝レーシング) +6:32.051
9位 雑賀大輔(湾岸ユナイテッド) +7:04.524
10位 奈良浩(ウォークライド) +7:04.716
report: 高岡亮寛
■事前準備編
1年間の集大成を11月上旬のツール・ド・おきなわに設定して10年ほどが経つ。自分の中でのレース格付けで他とはまったく違う、唯一無比にカテゴライズされる最重要レースだ。毎年、こんなにうまくいく事は二度とないだろう、と思うほど集中してピークを合わせて良い結果を出してきた。
「再現性ないよな」と思いながらもなんだかんだで毎年調整している。
ホビーレーサーなので自転車中心には出来ないので、自転車の計画ありきではなく、仕事と家庭の制約の中で最善を尽くそうと毎年努力している。
例えばプロ選手に負けて2位だった2014年は10月後半から週末にいくつかレースを転戦する事でコンディションを上げられた。2015年は仕事の都合上、10月中旬に1週間でロンドン−NY出張行くことになったが、その前後の練習でうまく調整して優勝できた。で、今年は諸事情でレース参加が極端に少ない。
■ライバル
今年はとにかくライバルが多くて手強いと思っていた。筆頭は森本さん、清宮さん。武井さんもコンディションが上がっていれば手強いし、井上さんもモチベーションと体力レベルが異常に高い。あとマツケン(松木)さんや青木さんなど。なので今までの勝ちパターンの途中逃げからの長めの独走勝利、とはならずに別の展開になるだろうと予想。まぁ色々考えてもロードレースは水物なので、その時々に対応した臨機応変な走りをするだけと、結局いつもと同じ気持ちでスタートを迎える。
■補給食
60kgちょいまで体重落としたけど、木曜くらいからはカーボローディングを意識して炭水化物をたくさん食べるので、レース前は61~61.5kgくらいにはなっているのではないか。なので当日の朝食はそんなにたくさん食べない。その代わりスタートまでとスタート後もちょくちょくと食べ続ける。
補給食はマグオンジェル10個。4つのフレーバーがあるので飽きずに摂れるし、何よりも美味しい。後は固形食として餅・饅頭系の小さいモノを6個。これくらいならジャージの後ろポケット3つにちょうど収まるし、5時間走るには十分過ぎるくらい。実際半分の補給食が余った。
スタート時のボトルはロングボトル✕2本。1本はBCAAとマグオン顆粒を溶かしたもの。これは10月から練習時に常に摂取しているモノで、パフォーマンス低下抑制や疲労回復に効果があるような気がしている。もう1本はポカリスエット。
■バイク&機材
例年になく機材にこだわった。出力同じでいかに進ませるか。または同じレースを走りながらいかに低い出力に抑えるか。まず分かったことは、一般的に使っているオールラウンド型のチューブラータイヤより性能を突き詰めたクリンチャータイヤの方が転がり抵抗が小さい点。
Continental SupersonicタイヤとSOYOラテックスチューブでいくことは決定。カーボンホイールにラテックスチューブは推奨外(もしくは使用禁止に近い警告)なので、リスクを把握して細心の注意での取り扱いが必要だ。
LightweightのクリンチャーホイールかGOKISO GD2 38mmホイールかで最後まで悩んだ。上りを同じ速度で走るにはLightweightの方が小さい出力で走れる。逆に下りはGOKISOの方が速い。前輪+400g/後輪+500gという重量差、ハブ性能の差、リムハイトの差、のそれぞれの寄与度は不明だが、実地テストでそれらしいデータが取れた。
頂上ゴールならおそらくLightweightだったと思うが、沖縄の勝負がかかる区間は実は下り基調でそこをいかに速く(もしくは楽に)走るかがキーだと思い、GOKISOをチョイス。そして限界性能を突き詰めるためミシュランのラテックスチューブからさらに40%ほど軽量化できるSOYOのラテックスチューブに交換。
ちなみに2016年GOKISOホイールは1位、2位を獲得している。2015年は1位(高岡)、3位(井上)。2014年は2位(高岡)、3位(森本)。速いの一言に尽きる。
ウェアはSUNVOLT製のセパレートワンピース。ワンピースのフィット感・空力性能とセパレート型の利便性を兼ね備えた逸品だ。夏くらいにコレを沖縄でどうしても使いたいと言ってサンボルトさんに間に合わせていただいた。いくつか課題はあるけど、ロードレース用のウェアは今後このカタチになっていくだろうというくらい画期的な作りだと思う。
そしてチェーンは潤滑オイルを塗布するのではなく、チェーンリンクまでワックスを浸透させた”ザイコーチェーン”を採用。MOLTEN SPEED WAXを施工したザイコーチェーンは、今年の全日本選手権TTの優勝者も使用したらしい。表面は全くのドライなので汚れがつかない。事前練習で試用してみたが、300km走っても性能の劣化は感じないほどスムーズだった。そしてレース前にはMolten Speed Wax Race Powderという鉛筆の芯を粉にしたような真っ黒な粉体をチェーンにまぶすという斬新なチューン。
一生懸命練習した成果の出力を少しでも無駄にしたくはないという思いでの少しずつの積み重ねが結果に結びついて本当に良かった。
■レースレポート
いよいよ決戦の日。4:45に起床。かりゆしビーチリゾートの朝食がレース日のみ5時から開けてくれるので助かる。部屋で食べるつもりでいたけど5時に入れば時間的に問題ないので5時前にレストランへ。
家から持ってきたシリアルを持ち込んでヨーグルト・フルーツソースとコーヒーの朝食。ブッフェだけど食べるものは必要なものだけ。いつもと一緒。カーボローディングをしているので朝食は軽めに。予定通り6時には車で宿を出ていつもの駐車場へ。
7:47にレースはスタート。いつも通りに先頭付近で時折先頭交代にも加わりながら走る。本部半島はペースは平和で特に問題なく。
本部半島終わり海岸線を北上。ここでアクシデント発生。緊急車両が道路左端に止まっていたために集団が進路変更して右車線に移った際に森本さんが車線中央のコーンに突っ込んで落車してしまう。私はそれを見ていなかったが、落車の音がしたので集団のペースを緩める。このチャンスにあらかじめ声かけておいた選手たちと一緒にトイレストップ。
今年は10名以上でローテーションできたため何の問題もなく集団復帰。森本さんも怪我をしていながらも一緒の集団で復帰できた。70km地点から1回目の普久川ダムの上り約6km。ここではまだ勝負はかからないので前方でなるべく脚を使わないで上る。篠崎友選手のほぼ一本牽き。
まだ余裕のあるペースだったのでダンシング比率は控えめでクリアできた。まだライバルの調子どうこうわかるほどペース上がっていない。下りは危険回避のため先頭で思いっきりペースを上げて、自分のペースで下る。
奥から辺戸岬の道も淡々と進む。今年は強豪が揃っているため皆が様子見をしている感じ。不気味に静かに進行する。2回目の普久川ダムまでに固形食及びジェルを頻繁に摂取して後半に備える。いつも通りに上り口では2番手で上り始める。少しの省エネの積み重ねが大事だ。
1回目よりは速いと思うけど、2回目のダムの上りもペースは上がりきらない。アタックもない。頂上付近でようやく小さな動きが。井上君が少し抜け出す。頂上付近で私も追いついて西谷さんと3人になるけど、後続もすぐに追ってきて集団一つのまま。せっかく活性化させたので山頂の山岳賞を取ったような。
下りは再び先頭で飛ばす。飛ばすとついてくるのは下りをしっかり曲がれる人たちだけなので危なくない。下りを曲がれない人たちと一緒に走っていて前の人が転んだらどうしようもない。
2回目のダムの上りも終えて補給所過ぎて、まだレースは始まっていない。高江までの長くスピード出る下りも先頭で。井上君も下りが速く、かなり飛ばしている。井上君が下り最後でカッ飛んで、高江の上り口には少し先行して突っ込む。ここで絞り込みたい感じで踏んでいるので、私もその動きを利用してきっちりついていく。アタックって感じではない。このペースで行くぞって走りで、それを利用すればある程度人数絞れるだろうと思うので、ペースメイクは任せる。
武井さんが待ちきれずにアタックするけど、まだ焦ることはないので放置。武井さんも様子見ながらなので、戻ってくる。この上りは毎年必ずセレクションがかかる勝負どころなので皆そういう気持ちで臨んで頑張ってくる。私はむしろその後を狙っていた。
難所をクリアして一休みしたいところ、がんばった脚を回復させたいところからレースを活性化させようと思っていた。緩い、全体的に下り基調のアップダウンなので人の後ろに付くメリットが大きい。だからこそ誰か追わないか?とお見合いになりがち。
何度かアタックがかかる。主に私か武井さん。その頃にはもう龍太郎も小畑さんも岩島君もいなかったのは意外だった。
武井さんと私ではアタックの仕方が違う。武井さんは瞬発力があるのでキレがある。なので必ず抜け出すことは出来るけど、そのまま一人で行っちゃうよ的な走りではないので放置プレーされると潔く戻って次のチャンスを狙う。呼応する人を誘って一緒に抜け出そうぜ、っていうメッセージを感じるアタックだ。
私はあえて腰上げアタック風にしないでなんとなくペース上げて少し間が空いたらそのままじわーっと踏んでいくアタック。お見合いして間が空いたら一人でも行くつもり。さすがにそう簡単には逃がしてもらえない。
やはり井上君が強くて、ペース上げて人数絞ってガンガン行きたい感じ。そうやってじわじわと攻撃かけて勝負を仕掛けるのと、逃がすまいと追いかける動きが続き、縦(速度変化)と横(様子見・牽制)の動きが活発な中で井上君の前輪が私の脚と接触してしまう。
前輪の回転で私のふくらはぎの皮膚がえぐれる。私は持ちこたえたが、後ろの井上君は前輪を取られたので派手に落車。明らかに一番脚があっただけに大変残念なところでの落車だ。前日かなりの強さを見せつけた森本さんはこの辺りで脚が売り切れになって、もう居なかった。レースは何が起こるかわからない。
先頭集団はSHIDOの中尾君、FORZAの新井さん、マツケンさん、清宮さん、武井さん、青木さん、オッティモの選手(河合さん:全く知りませんでした)、原さん、くらいかな?
緩いアップダウンの中で武井さんがアタック。少し間が空く。データを見るとおそらく残り50kmくらい。牽制もあるけどなんとなく雰囲気的に皆そろそろ脚にキてそうな雰囲気がした。これは完全に空気感というか第六感というか。
今までとは違い、私も下ハンを持って緩い上りでダッシュして武井さんにブリッジ。ものの5秒くらいの差なのですぐに追いついた。けれどそのくらいの差なので後ろも近い。当然一列になって追ってるのが見えた。
一人対集団では厳しいけど、武井さんという地脚のあるアタッカーが一緒なのでここは勝負をかける。ここが本レース一番のターニングポイントだった。緩いアップダウンだけど基本的に下り。GOKISOホイールのチョイスが活きる。武井さんと二人でガンガンに飛ばす。逃げる方も追う方もここは必死だったと思う。
海岸線に出て向かい風がきつい。モトバイクが後続との差を教えてくれる。14秒、、、キツイ。キツイけど一踏みで追いつく差ではない。おそらくここから5秒縮まって一桁になったらダメだろう。ここで踏ん張って30秒まで行けば可能性が出てきて面白い。
TTのつもりで踏む。不思議なことにタイムトライアルは得意じゃないけど、こういうロードレースの勝負所でのハイペース走はそれなりに得意だ。先頭交代の中で武井さんが「少し休ませて」と言う。
二人の力を最大化させなければいけないので、それなら回復してまた牽いてくれるまで私のペースで牽き続ける。海岸線の向かい風がきつい。けど風は後ろの集団も一緒だ。均等に回せば当然人数多い方が楽だけど、キツイ中の向かい風だとローテしたがらない人がいたりしてギクシャクしだすと向かい風だと途端に進まなくなる。
私は自分のペースを守るだけ。武井さんが牽けなくなるけど、あの集団の中では井上君と同じく動けていた武井さんが厳しいというくらいだから、今日の私はかなり調子良いのかもしれない。なんてポジティブに考えて差が縮まるまでは踏み続けるのみ。
毎度のことだけど、上りをクリアすると差が広がっている。やはり後ろの集団もかなり脚にきているんだろう。そうなると実力差が如実に出る。人数がいても実力差が出て牽けない人が出てくると途端に集団としての威力は半減するのでチャンス。
1分の差までつかないとアドバンテージとは感じられない。差をつけるなら一気につけて後続集団に精神的ダメージを与えたいところ。ここが勝負だと思いエアロを意識して踏み続ける。実際1分差を超えてから2−3分まで広がるのは早かった気がする。
3分以上差がついたところで後続1名との情報。ゼッケン聞くと清宮さんが単独で追走してると。これはラッキー。もう後続集団が協調してペースアップできることはないだろう。もしかしたら3分差を単独で詰めてくるスーパーな走りをしてくるかもしれない。1対1の勝負だと思い気を引き締める。これで清宮さんが集団に戻ればもう追走は完全に機能しない。
序盤に補給をしっかりしていたので、集団から抜け出してからは水以外は一切補給なし。1秒も惜しい。平地踏んでからの上りや、上り終えてからの下りなどリズムが変わるところで脚が攣りそうになる気配は少しあったけど、攣らないような踏み方でペースを維持して走り続ける。
毎回逃げて勝っているけど、下り〜平地をいかに速いペースで走り続けるかがキーだ。だからGOKISOをチョイスした。このホイールよりハイペースの巡行が速いホイールはないと思う。今回も平地でかなり速いペースで踏めていると感じた。
3分以上あったタイム差が一時羽地ダム入り口入る前に2.5分くらいになった。タイム差の推移聞いていると計測誤差な気もしたが、もし本当に30秒短時間で詰まったとしたら、最後の上りで失速したら危ないレベル。気を引き締めて最後のクライムに。
もはや青息吐息だけど脚攣って失速しなければ十分いけるタイム差なので、気合と根性で上る。青息吐息と思ったけど、不思議とここを越えるといつもタイム差はかなり広がっている。今回も後続とのタイム差が大きく広がった。
下ってからゴールまではパンクだけはしませんようにと祈りながら無心で頭を下げて一刻も速くゴールまで、の一心で漕ぎ続ける。ラスト1kmでようやく力抜いて勝利の余韻かみしめつつ、ゴール。データは、5時間20分20秒、 Ave 234W、NP 250W、89.7rpm、140/175bpm
なんと2位は途中落車で遅れて第二集団で諦めずに走り続けた井上君だった。羽地ダムの上りで先頭集団からボロボロと人がこぼれてきて、ゴール前100mで先頭集団の3人に追いつきそのまま気づかれないうちに抜き去って2位になったと。いかにもトライアスリートっぽい、力でねじ伏せる走りだ。
井上君の落車がなければ展開は結構変わっていただろうな。3位の河合さん、全くノーマークでした、すみません。4位の青木さんもまったく事前情報が入っていなかったので分からなかったけど、昨年同様きっちり仕上げていた。マツケンさんは病気で手術してたとか全然知らなかった。これだけ日常生活含め情報すべて赤裸々に公開しているのは私くらいか。また情報全開示で1年後の沖縄に臨みます。
今年も本当に楽しい、最高のレースだった。来年またホビーレーサーの強者達と沖縄で最高の勝負をしたいとさっそく思っている。
10月からこの大会に向けての調整をサポートしてくれた家族、義父母の協力なしでは成し得なかった。本当に感謝です。どうも有難うございました。そしてまた来年もよろしくお願いします。
市民レース210kmリザルト
1位 高岡亮寛(イナーメ信濃山形) 5:20:20.546
2位 井上亮(Magellan Systems Japan) +5:40.578
3位 河合宏樹(オッティモ) +5:41.933
4位 青木峻二(ウォークライド) +5:42.499
5位 松木健治(有限会社村上建具工房ハイランダー) +5:43.537
6位 中尾峻(Team SHIDO) +6:15.326
7位 原純一(KMCycle) +6:19.042
8位 清宮洋幸(竹芝レーシング) +6:32.051
9位 雑賀大輔(湾岸ユナイテッド) +7:04.524
10位 奈良浩(ウォークライド) +7:04.716
report: 高岡亮寛
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