序盤から逃げた4名が迫り来る大集団を振り切った。1年2ヶ月前に大腿骨骨折を経験したジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック)がタイム差0秒の劇的な逃げ切り勝利を果たした。



曇りと晴れを交互に繰り返し、ウェールズからイングランドへ曇りと晴れを交互に繰り返し、ウェールズからイングランドへ photo:Kei Tsuji
ヴィクトリア公園の中にチームバスが並ぶヴィクトリア公園の中にチームバスが並ぶ photo:Kei Tsujiチームスカイ入りが決まっているリオ五輪団体追い抜き金メダリストのオーウェン・ドゥール(イギリス、チームウィギンズ)チームスカイ入りが決まっているリオ五輪団体追い抜き金メダリストのオーウェン・ドゥール(イギリス、チームウィギンズ) photo:Kei Tsuji


ツアー・オブ・ブリテン2016第5ステージツアー・オブ・ブリテン2016第5ステージ image:Tour of Britainウェールズのアバーデアからイングランドのバースまで、距離194.5km/獲得標高差3,292mを走るツアー・オブ・ブリテン第5ステージ。フィニッシュ地点のバースは温泉地として古くから栄え、ローマ時代の浴場跡を今に残す人気の観光地だ(名前は浴槽を意味するBathに由来)。

静かに集団内で走るリーダージャージのジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)静かに集団内で走るリーダージャージのジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsuji急に雨が降り始めて肌寒くなったかと思えば、太陽が顔を出し、急に体感気温がぐっと上がって暑さを感じるほど。レインジャケットを着込んだ選手とショートスリーブの選手が入り混じる。幸い天候は回復傾向にあり、スタート後すぐにコースはドライな状態となった。

逃げるアマエル・モワナール(フランス、BMCレーシング)ら5名逃げるアマエル・モワナール(フランス、BMCレーシング)ら5名 photo:Kei Tsuji前日に引き続き断続的なアップダウンが設定されたこの日、40km地点で強力な逃げグループが形成される。アマエル・モワナール(フランス、BMCレーシング)、ジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック)、エリック・ロウセル(イギリス、マディソン・ジェネシス)、ジョナサン・マケヴォイ(イギリス、NFTO)が抜け出し、ここにハビエル・モレーノ(スペイン、モビスター)がジョインした。

平日にもかかわらず多くの観客が集まったコースを逃げる5名に対し、メイン集団はリーダーチームのエティックス・クイックステップが主にコントロールする。最大5分30秒までタイム差が広がると、スプリント狙いのディメンションデータも集団牽引に合流。レース後半にかけてチームスカイやロット・ソウダルもアシストをローテーションに送り込むようになる。

獲得標高差は大きいが、スプリンターが完全に脱落するような大きな山岳は登場しない。しかも大人数の集団に有利な向かい風が吹いたためスプリンターチームがレースを支配すると思われたが、逃げの5名が粘った。集団ペースアップに呼応するようにペースを上げ、逃げ続けた。



平日にもかかわらず沿道には多くの観客が集まる平日にもかかわらず沿道には多くの観客が集まる photo:Kei Tsujiエティックス・クイックステップとディメンションデータがメイン集団をコントロールエティックス・クイックステップとディメンションデータがメイン集団をコントロール photo:Kei Tsuji逃げるアマエル・モワナール(フランス、BMCレーシング)ら5名逃げるアマエル・モワナール(フランス、BMCレーシング)ら5名 photo:Kei Tsuji
チームスカイとディメンションデータを先頭にメイン集団が進むチームスカイとディメンションデータを先頭にメイン集団が進む photo:Kei Tsuji


メイン集団を牽引するイアン・スタナード(イギリス、チームスカイ)メイン集団を牽引するイアン・スタナード(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji残り20kmで2分あったタイム差は残り10kmで1分に。いわゆる「10km=1分」のペースでタイム差は順調に縮まったため、ちょうどフィニッシュ地点で逃げが吸収される計算。何としても集団スプリントに持ち込みたいロット・ソウダル、ロットNLユンボ、ディメンションデータ、そしてチームスカイが猛烈な勢いでメイン集団を牽引したが、タイム差が1分を切ってから短縮ペースが鈍くなる。

逃げる4名でのスプリントで先頭に立つジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック)逃げる4名でのスプリントで先頭に立つジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック) photo:Kei Tsuji先頭ではモワナールがアタックを仕掛けて独走するシーンも見られ、ペースアップに対応できずにマケヴォイが脱落する。生き残ったモワナール、バウアー、モレーノ、ロウセルが45秒リードで残り5km。再度モワナールがアタックを仕掛けたが完全に抜け出すには至らない。

後ろを振り返って確認するジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック)後ろを振り返って確認するジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック) photo:Kei Tsujiイアン・スタナード(イギリス、チームスカイ)やトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)に率いられたメイン集団は、逃げる4名を視界にとらえながら残り1kmアーチを通過する。勾配4%ほどの登りでタイム差は縮まり、わずか数秒差で残り300mの最終コーナーを抜けた。

劇的な逃げ切り勝利を飾ったジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック)劇的な逃げ切り勝利を飾ったジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック) photo:Kei Tsuji結果的に、メイン集団は逃げに追いついた。しかし逃げを追い抜けなかった。

リーダージャージを着てクイーンステージに挑むジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)リーダージャージを着てクイーンステージに挑むジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsujiロングスパートを仕掛けたモレーノの後ろからバウアーとモワナールが加速する。カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)やディラン・フルーネヴェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)が弾丸のように集団先頭を突き進んだものの、先頭で競り合うバウアー、モワナール、ロウセルには届かない。フィニッシュラインまで踏み抜いたバウアーが大きく両手を広げた。

「残り7km地点の登りでまずモワナールが最初のカードを切ってきた。彼のアタックを見送って、取り返しのつかないほどタイム差が広がらないように気をつけながら、他の2人の力もしっかり使って追走し、捕まえた。メイン集団が後ろから迫っていることは分かっていたものの、残り3kmを切ってからはステージ優勝のことだけに神経を集中した。『仮に集団に捕まってもいいから、一緒に逃げている3人だけには負けない』という気持ちで走った」というバウアーが逃げ切り勝利。メイン集団とのタイム差は0秒だった。

バウアーは2015年のツール・ド・フランス第5ステージで大腿骨を骨折し、手術とリハビリを経て2016年2月にレース復帰。骨折から1年と2ヶ月を経て、復帰後初となる勝利をつかんだ。「骨折後に始めて自転車にまたがった日のことを覚えている。2015年9月31日、雨降りの1日だった。片方の脚は太く、もう片方の脚が細かった。ペダリングなんてほとんどできなかったし、また落車するんじゃないかと不安になって、ロータリーに入るのも怖かった。身体的にこのレベルまで戻ってきたことを本当に嬉しく思う。この勝利が復活を証明している。自分を信じて支え続けてくれた婚約者のサラと家族に感謝している」。また、バウアーはレース後の会見でキャノンデール・ドラパックを離脱することを明らかにしている。

総合上位陣の成績に動きはなく、ジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)がスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)から6秒リードで翌日のクイーンステージに挑むことに。1級山岳ダートムーア(5.9km/平均5.9%)の山頂フィニッシュでオールラウンダーたちの脚が試される。



ステージ優勝を飾ったジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック)ステージ優勝を飾ったジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック) photo:Kei Tsuji


ツアー・オブ・ブリテン2016第5ステージ結果
1位 ジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ドラパック)   4h45’25”
2位 アマエル・モワナール(フランス、BMCレーシング)
3位 エリック・ロウセル(イギリス、マディソン・ジェネシス)
4位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
5位 ディラン・フルーネヴェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)
6位 ボーイ・ファンポッペル(オランダ、トレック・セガフレード)
7位 イェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)
8位 ダニエル・マクレー(イギリス、イギリスナショナルチーム)
9位 ニコラ・ルッフォニ(イタリア、バルディアーニCSF)
10位 ドミンゴス・ゴンサルベス(ポルトガル、カハルーラル)

個人総合成績
1位 ジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)   23h07’29”
2位 スティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)          +06”
3位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)                +1’03”
4位 トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ソウダル)
5位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)   +1’04”
6位 シャンドロ・ムーリセ(ベルギー、ワンティ・グループグベルト)       +1’08”
7位 ディラン・ファンバールレ(オランダ、キャノンデール・ドラパック)     +1’12”
8位 トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)
9位 ジャコポ・モスカ(イタリア、トレック・セガフレード)           +1’16”
10位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、チームスカイ)

ポイント賞
1位 ダニエル・マクレー(イギリス、イギリスナショナルチーム)         29pts
2位 ニコラ・ルッフォニ(イタリア、バルディアーニCSF)            29pts
3位 ジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)    26pts

山岳賞
1位 シャンドロ・ムーリセ(ベルギー、ワンティ・グループグベルト)       42pts
2位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、チームスカイ)             37pts
3位 クリスティアン・ハウス(イギリス、ワンプロサイクリング)         26pts

スプリント賞
1位 ヤスパー・ボーフンハス(オランダ、アンポスト・チェーンリアクション)   12pts
2位 ジョナサン・マケヴォイ(イギリス、NFTO)                 10pts
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)             9pts

チーム総合成績
1位 エティックス・クイックステップ                   69h29’28”
2位 ワンティ・グループグベルト                        +41”
3位 チームスカイ                              +3’00”

text&photo:Kei Tsuji in Bath, United Kingdom

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